■症例:不眠

2019年09月14日

漢方坂本コラム

快食・快眠・快便。

健康体であることを表すこれらの状態は、確かに臨床的にも大切な指標となる。

体力とは、単に疲れにくいとか、体格が良いとかだけでは判断することができない。
これら3つが正常である状態をもって、初めて体力があると言う。

食欲が湧いてお腹がへるかどうか。
定期的に形の整ったお通じがあるかどうか。

そして、日中の活動量だけでなく、夜間に寝る力があるのかどうか。

睡眠とは、その人が持つ力である。
そしてそれは、時に動くこと以上に重要な体力である。

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36歳、女性。

華奢な体を、文字通り引きずるような来局であった。

介護職に従事し、同時に小さなお子様を持つ母。とにかく最近体がしんどくて何もやる気が起きないという。

肩が凝って頭痛し、体が冷えるのに顔が火照る。
風邪をひきやすく、病院で麻黄湯(まおうとう)を出されて飲んだ時は、動悸がして手足がしびれたことがある。

睡眠の状態を伺って驚いた。
なんと約3年間、熟睡したことがないのだという。

東北大震災がきっかけだった。ここ山梨も強く揺れ、それから不安で眠れなくなった。

そのため睡眠導入薬を毎日服用している。
それでウトウトとはするが、常に頭は覚醒していて少しの物音で起きてしまう。

食欲を聞くと、案の定ない。
食べてはいるが、決して食べたいとは思わない。

また通じとお小水も乱れていた。
お小水は我慢できずに漏れそうになり、さらに食後にすぐ活動しようとすると下痢するという。

食欲も、便通も、睡眠も、すべて乱れていた。

そしてこれらの原因は、実はすべて同じである。

体力の不足。
人間が本質的に持つはずの力の弱り。完全に「虚」に属する病態であった。

この場合、やらなければいけないことは、むしろ分かりやすい。
胃腸機能を高め、下から脱け出る便を止める。そして自然な睡眠へと向かわせ、熟睡へと導く。

原因が同じである以上、一つの薬で足りる。
体力を回復させることで、快食・快眠・快便へと向かわせるのである。

まず7日間、漢方薬を服用してもらった。
最初に感じたのは、熟睡感だった。
服用後に気持ちよく体があたたまる。そして睡眠薬を飲まなくても何年かぶりに眠ることができたのだという。

その後、脱けるような下痢とお小水の漏れが無くなる。
さらに気持ちが落ち着くようになり、ソワソワするような不安感が無くなってきた。

私は同処方を出し続けた。しつこいくらいに同じ処方である。

そして数か月後、安定して食欲が湧き、疲れが無くなってきた。
その後、育児と仕事とを不快感なくこなせるようになったのを確認し、治療を終了した。

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食欲・睡眠・便通。これらは、すべて繋がっている。

太陽が東から出て西へと沈むように、すべて循環という形でつながっているのである。

漢方家が見ているものは、実はこの循環であり、
便秘だから下剤を出し、眠れないから睡眠薬を出すというやり方とは、このあたりが根本的に異なってくる。

ただし誰だって眠れない時はある。寝ている場合ではない、という時だって当然あるだろう。
そういう時、一時的に眠りたいのであれば、睡眠薬は特に危険性の少ない良い薬である。

しかし、もし身体の循環が乱れていることで不眠が起きているなら、
それは単に睡眠だけ改善しようとしても決して良くはならない。

不眠とともに、胃腸に何らかの問題があったり、便通が乱れている場合には、
ぜひとも一度、漢方専門の医療機関におかかりになることをお勧めします。



■病名別解説:「不眠症・睡眠障害

〇その他の参考症例:参考症例

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