□蓄膿症・後鼻漏・慢性副鼻腔炎 ~漢方治療による治り方・後編~

2020年03月18日

漢方坂本コラム

□蓄膿症・後鼻漏・慢性副鼻腔炎
~漢方治療による治り方・後編~

<目次>

■副鼻腔炎・蓄膿症・後鼻漏の治り方の実際
■治り方のパターン2つ:「排膿のされ方」の違い
 1.急性副鼻腔炎など強く炎症を生じている病態の「排膿反応」
 2.慢性副鼻腔炎など弱い炎症が継続している病態の「排膿反応」

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■副鼻腔炎・蓄膿症・後鼻漏の治り方の実際

前回のコラム(※)にて、副鼻腔炎・蓄膿症・後鼻漏治療では「完治までの過程の中で一時的に症状が増悪することがある」ということを解説いたしました。

漢方薬による排膿作用がピタリとはまり、副鼻腔洞の痰や膿が迅速に排出されてくる反応(「排膿反応」)の結果としてこのような現象が起こります。したがってこのまま悪化が続くということはなく、ある時から急に症状が改善し始めるといった、むしろ迅速な回復が予見される現象です。

※→□蓄膿症・後鼻漏・慢性副鼻腔炎 ~漢方治療による治り方・前編~

ただし、いくら完治に向かう可能性の高い現象だとしても、症状が一時的に増悪すれば不安になって当然だと思います。

しかもこの増悪現象はその強さも継続期間もまちまちで、どこに溜まってたんだと思うくらいの痰や膿が大量に出始める時もあれば、なんか最近痰の量が増えているなと感じる程度の時もあります。また短い場合は数日で終了し急速に改善へと向かう方もいますし、長い人では数週間から数か月と続くこともあります。

この「完治までの過程の中で一時的に起こる症状の増悪」が発生した場合、最も重要なことは「もともとの病が悪化しているわけではないという状況の見極め」です。短期間で終息するならば問題はありませんが、比較的長期的に生じる方では、常にその見極めを行い続ける必要があります。

そこで、今回はこのような一時的な悪化現象がどのように起こりやすいのか、その具体例を示していきたいと思います。

■治り方のパターン2つ:「排膿のされ方」の違い

この現象はある程度、副鼻腔炎の各病態においてパターン化されている傾向があります。そこでここではその傾向を各病態に従って解説してみたいと思います。

悪化が起こるにしてもどのような反応が起こり得るのか、そのことを治療の前に知ってくことは非常に重要なことです。安心して漢方治療を続けていくためにも、完治への道筋を是非イメージしておいて頂ければと思います。

ただし一点注意を促しておきます。以下に示すものは、あくまで「その傾向がある」というものに過ぎません。実際に一時的な悪化が起こった場合には、必ずその漢方薬を出してくれた医療機関にお問合せの上、服用継続の是非をご確認頂くことをお勧め致します。

1.急性副鼻腔炎など強く炎症を生じている病態の「排膿反応」

副鼻腔炎治療は、継続する炎症と、副鼻腔洞に溜まる痰や膿というのが、その病態の核たるところです。そしてこの両者は互いに助長し合い、慢性化のスパイラルを発生させると前回のコラムにてご説明しました。

急性副鼻腔炎は、どちらかと言えばこの両者の中でも「炎症」が主となる病態を形成しています。微熱が継続している・鼻の奥が乾燥して熱い・痰が黄色または緑色で固くまとまっているといった症状、つまり東洋医学でいう所の「熱証」を呈しやすい病態です。

炎症の勢いが強いこのような「熱証」では、痰や膿の発生が急速に進んでいきます。したがって顔面部の痛みや、人によっては歯茎が痛いといった、痰が満杯に膨れ上がってくるというような症状を発生させてくる傾向があります。

このような強く不快な症状を起こしやすい急性副鼻腔炎ではありますが、実は治療においては強力に「排膿」を行うチャンスでもあるのです。

<急性期ほど漢方薬への反応性が良く治りが早い>

炎症とはそもそも、身体が菌を死滅させ、痰や膿を外に出そうと頑張っている状態であるほど強く発生します。つまり急性副鼻腔炎は身体が自分の体を治そうと普段よりも頑張っている状態で、だからこそ炎症も強くなりますが、体が本質的に備えている「悪い物を外に出そうとする力」が強力に発動されている状態でもあるのです。

したがって、急性炎症期では漢方薬による「排膿反応」が強く起こりやすい傾向があります。炎症を抑えつつも、排膿をしっかりと行う処方を服用すると、一時的に多量の痰が鼻水や後鼻漏としてボコッと排出されるということが良く起こります。

一時的に多量の痰が強く排出されますが、基本的にはそれが長期に継続することはほとんどありません。あくまで数日間そういう反応が起き、その後すぐに鼻が楽になり、一気に回復するということがしばしば起こります。

ただし急性副鼻腔炎では改善する際に必ずこのような反応が起こる、ということではありません。このような反応が無く、自然と炎症が鎮まり、痰の排出が少なくなってくるという治り方も当然します。

しかし私見では、そもそも副鼻腔洞に痰や膿が多く詰まっている方の急性副鼻腔炎において、このような一時的な増悪が散見されています。つまり、蓄膿症や慢性副鼻腔炎さらに後鼻漏を続けている方が、一時的に風邪などを引いて急性副鼻腔炎を発症した、というような場合にこのような反応が表れやすいと思います。

つまり、慢性的な副鼻腔洞の疾患を患っている方ほど、急性副鼻腔炎が発生した際は病根を取り切るチャンスでもあります。

一般的に炎症反応が弱い状況である方が排膿し切るまでに時間がかかります。したがって身体が強力に排膿へと向かう状況が発生したら、ここぞとばかりに的確な漢方治療を行うべきだと思います。抗菌剤にて治療するだけではなく、時に抗菌剤を使用しなくても、必ず漢方治療を行って排膿を促し、いつもなら出し切れていない痰を強く排出させるよう漢方薬をもって身体に働きかけるべきだと思います。

2.慢性副鼻腔炎など弱い炎症が継続している病態の「排膿反応」

一方、炎症がそれほど発生していない状況、つまり発熱なく、鼻の奥の熱感もなく、ただ鼻や顔面が重く、後鼻漏が継続し、痰にもそれほど色がついておらず、黄色い痰がたまに出る程度という状況においては、漢方薬による排膿反応はそれほど強く出ません。

これらの状況は、身体が排膿を起そうとする力が充分に発現し切れていない状態です。したがって、身体の自然治癒力に同調し強める漢方薬を服用したとしても、急性炎症期に比べれば、それほど強い排膿が起こらなくなってくることが普通であり自然です。

したがって漢方薬による排膿反応は、「若干後鼻漏が増えたな」とか「最近片方の鼻が詰まりやすくなってきている」など、奥に溜まっていた痰が下に降りてき始めているという程度の現象として表れてきます。

このようなケースでは勢いよく痰が排出されにくくなっているため、この一時的な悪化つまり排膿反応も長期的に生じる傾向があります。早くて数週間、長くて数か月続くこともあります。症状の増悪の状態が長く続く傾向があるため、患者さまにとっては治療が果たして本当に上手くいっているのかどうか、心配になることの多い状況だと思います。

多くのケースである一定の期間を経て、ある日から急に症状が消失し始めます。したがってこのような一時的な悪化は副鼻腔洞に溜まっていた痰や膿が出始めた証拠として理解して頂くことが大切です。もし不安に思う所があれば、必ず漢方薬を出してもらっている医療機関に直接お問合せください。先に述べた通り、その悪化が実際に快癒に向かう証であるかどうかを見極めながら治療を進めていくことが重要です。

<慢性期にどうやって排膿を強めていくのか>

改善へと向かっている傾向ではあるものの、もしあまりに長くこの状態が続く場合においては、次の一手を考案するべき時もあります。漢方治療においてこの時用いられる手法が、「陰疽(いんそ)」と呼ばれる固着した膿を強力に動かすという手法です。

この手法はやや強引な治療方法に属し、間違えると逆に悪化させてしまうことがあります。またこのような手法を用いなくても、時間さえかければ完治へと向かうということも多いため、このあたりの手法を行うかどうかは、治療者の見極めによる所が大きいと思います。

また現実的には、ある程度漢方薬をもって膿を排出しやすい状況を作った後に、病院にて機械を用いた膿の吸引を行うというのも良いと思います。

実際に良くあることなのですが、漢方治療を行う前はいくら耳鼻科にて吸引を行っても出切らなかった膿が、漢方治療を行った後に再度試してみたら、どんどん吸引することが出来て驚いたとおっしゃられる患者さまが多数いらっしゃいます。したがって、ある程度の頃合いを見て、以前試して改善しなかった物理的な手法であっても再度試してもらうことは有意義だと感じています。

どちらにしても、正しく漢方治療が行われている場合に見られる一時的な悪化・排膿反応は、素早く改善へと向かおうとしている証拠であることは確かです。不快な症状が強まり、心配になることも多いと思います。ただしそこを抜けるとある日を境に急激に改善へと向かうということがしばしば起こり、そして結局のところ、治療期間が短縮されることに繋がっていきます。



■病名別解説:「副鼻腔炎・蓄膿症・後鼻漏
■コラム:「□蓄膿症・後鼻漏・慢性副鼻腔炎 ~漢方治療による治り方・前編~
■コラム:「□蓄膿症・後鼻漏・慢性副鼻腔炎 ~漢方薬で治る?その実際のところ~

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