漢方治療の心得 3 〜我慢と焦り〜

2019年11月07日

漢方坂本コラム

患者さまにとって、治療は大なり小なり必ず辛さを伴います。

治るのか、治らないのか。

まだ見えない先のことをどうしても心配せざるを得ません。

そして本当に辛いのは、この先の見えなさに対して「我慢」を強いられることです。

治療はやってみなければ分からない。それはそう。そうと分かってはいても、だからこそ先の見えない状態をずっと我慢し続けなければなりません。

そんな患者さまのお気持ちに対して、治療者が絶対にしてはならないこと。

それは「焦る」ことです。

治療者の焦りは、患者さまにうつります。

そしてその焦りは、患者さまの我慢を逆なでします。

たとえ患者さま自身が治療に焦っていたとしても、治療者は絶対に焦ってはいけません。

病であるならば、患者さまは必ず「我慢」されています。だからこそ治療者も同じように「我慢」しなければいけません。

早く治してあげたい、一日でも早く症状を楽にさせてあげたい、そう願い努力しながらも、焦らず我慢すること。

その姿勢こそが、結局は最短ルートでの治療を可能にします。

昔ある患者さまの症状が良くならず、行き詰まった時に、先代である父に相談しました。

「治療を初めて、まだ〇〇日だろ?」
「それはそうだけれども・・・」
「いいか。良く話せ。その患者さんと。」

釈然としませんでした。でも言いたいことは分かりました。「焦るな」ということです。

それから私はその患者さまとたくさんの話をしました。

ご家庭のこと、患者さまの学生時代のこと、体調には関係のないことまで、たくさんのお話をしました。

ある時、そういえばという感じで、患者さまが生活の中で気になっていることをポッとお話されました。

何気ない感じで言われた一言です。結局はそれが最大のヒントになって、治癒へと導くことが出来ました。

多分私が焦り続けていれば、ずっとお体の状態を聞き続けていたでしょう。

きっと患者さまもそれに応えて、ご自身の体の説明をずっとし続けてくれたと思います。

しかし、そういう会話の中では絶対に引き出せないようなヒントでした。

「焦り」を一旦横に置いといて、フラットな気持ちで会話が出来ていた。

そういう心持ちこそが、最大のヒントを導いたのです。



漢方治療の心得

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