関節リウマチ

関節リウマチについて

リウマチと聞くと、お年寄りの方に多い病という印象があるかも知れませんが、そんなことはありません。当薬局でも30代の比較的若い方から、60代70代まで、様々な年代の方が来局されます。35歳から50歳の女性で最も多く発症しますが、年齢を問わず起こる可能性があり、小児(この場合は若年性突発性関節炎という)でも高齢者でも発症することがあります。

関節リウマチとは

関節リウマチ(RA)は関節に炎症が起こる疾患の中でも特殊な臨床像を示します。滑膜という関節の運動をなめらかにする層に炎症が生じます。炎症によって関節腔に滲出液が溜まるとともに、滑膜が増殖し、それによって軟骨や骨を破壊していきます。そして炎症が長引くとこれらの破壊が進み、同時に関節周囲の筋肉が萎縮してきます。最終的には関節自体が変形し、手足がいびつな形になっていきます。一旦治癒しても再発を起こしたり、慢性経過することが多い疾患です。若い方でも長期的な治療を余儀なくされますので、働き盛りの世代にとっては生活の負担が非常に大きい疾患であると言えます。

初期では朝起きた時に手を握りにくいとか、手に力が入らないといった「朝のこわばり」という症状が出現しはじめ、進行するにしたがって関節部に痛みや腫れを生じるようになります。そして、はじめは手足の指関節に起こっていた炎症が、そのうち手首・肘・膝などのより大きな関節にも発生するようになります。これらの炎症は、左右対称的に起こります。またこういった関節痛の他にも、体がだるく、疲れやすくなったり、時に微熱を生じることもあります。その他にも、手先の虚血症状による痛みやしびれ(レイノー現象)、涙腺や唾液腺の分泌が低下してドライアイやドライマウスを生じるシェーグレン症候群を合併したりします。関節リウマチは単なる整形外科的な疾患ではなく、自己の免疫が自分自身を攻撃して全身症状を伴う自己免疫疾患と位置付けられています。

●関節リウマチ治療の進歩と問題点
関節リウマチは、その根本的な原因は未だ明らかになっていません。しかし近年では多くの研究が進み、有意義な治療方法が確立されてきています。今までは炎症に対する対症療法(NSAIDやステロイド)が基本でしたが、疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARDs)の導入により関節リウマチの進行自体を遅らせることが可能になってきました。ただし、根治が難しい疾患であることや、DMARDsの副作用による連用の問題など、未だに治療上の問題点が多く残されています。

関節リウマチと漢方

漢方家にとって、関節リウマチを実際に改善へと導いていけるがどうかは、その腕前を測る一つの目安になると思います。私が修行していた中で、このような西洋医学的治療の難しい病を漢方薬で実際に快癒されている先生方は、他の疾患に対しても一様に腕の良さを発揮されていました。関節リウマチなどの自己免疫疾患は、西洋医学的な病態が難解である分、東洋医学的な見識を純粋に求められます。漢方薬の本当の使い方を知っていないと、このような難しい病には対応することができません。

関節部の腫れと痛みが甚だしく、西洋医学的治療によって止まらない炎症であっても、漢方薬を併用すると立ちどころに引き始めるということが多々あります。また副作用のよって西洋薬が服用できないという方であっても、漢方治療によって炎症を引かせ、病状をコントロールしていくことも可能です。さらに西洋薬で良くはなっているが、朝のこわばりや力の入らなさがいつまでたっても取れないという方では、こういった今一歩の症状を完全に取り去っていく時にも効果を発揮します。関節リウマチは漢方薬を併用した方が良い疾患の一つだと、経験的に実感しています。

ただし、これらは的確な処方決定がなされて初めて効果を発揮することができます。先述した通り、関節リウマチは他の整形外科疾患とはその臨床像が大きく異なります。したがって関節リウマチには関節リウマチの治療の仕方が漢方にはあります。それを理解し、薬方の運用方法を熟知している専門の医療機関にかかることが必須であると思います。

参考コラム

「関節リウマチ」に対する漢方治療を解説するにあたって、参考にしていただきたいコラムをご紹介いたします。本項の解説と合わせてお読み頂くと、漢方治療がさらにイメージしやすくなると思います。

コラム|自己免疫疾患・アレルギー性疾患 ~原因不明の炎症・その漢方治療~

現代では原因不明の炎症を生じる病が数多く存在しています。アトピー性皮膚炎などのアレルギー性疾患や、関節リウマチなどの自己免疫疾患、また潰瘍性大腸炎やクローン病などがこれに属しています。日本でもこれらの疾患に対して、昭和時代の漢方家が多くの治験を残してきました。ただし今まで繰り返し行われてきた手法では、その治療成績に限界があると感じています。そこで、今まで漢方はどのように対応してきたのか、そして今後どのように対応するべきなのかということを、一つの見解として解説していきたいと思います。

□自己免疫疾患・アレルギー性疾患 ~原因不明の炎症・その漢方治療~

使用されやすい漢方処方

①桂枝加苓朮附湯(けいしかりょうじゅつぶとう)
②桂枝二越婢一湯(けいしにえっぴいちとう)
③麻杏薏甘湯(まきょうよくかんとう)
④越婢加朮湯(えっぴかじゅつとう)
⑤白虎湯(びゃっことう)
⑥続命湯(ぞくめいとう)
⑦桂枝芍薬知母湯(けいししゃくやくちもとう)
⑧薏苡仁湯(よくいにんとう)
⑨当帰拈痛湯(とうきねんつうとう)
⑩舒筋立安湯(じょきんりつあんとう)
⑪駆瘀血剤(くおけつざい)
※薬局製剤以外の処方も含む

①桂枝加苓朮附湯(方機)

 江戸時代の名医・吉益東洞によって作られた名方。吉益東堂は梅毒治療を行う際に、本方を基本に処方を組み立てることが多かった。梅毒では第二期に関節炎を発生させることがあるが、それへの対応も含まれていたと思われる。現在では関節リウマチに本方を第一選択的に使用することが多い。
戸田一成先生は「桂枝附子湯ではなく桂枝加附子湯に苓朮を加えたところに東洞の眼目がある。沈瀝する難病痼疾の炎症には芍薬一味の存在が非常に大きい。」という意味の見解を述べられている。関節リウマチは温薬にて熱を助長するとすぐに増悪するため、芍薬をもって陽を制する必要がある。故に制陽性の弱い桂枝附子湯は関節リウマチには適応しにくい。同じ意味で甘草附子湯や白朮附子湯もやはり使いにくい。故に本方が第一選択的に用いれやすいのである。
 ただし使用にあたっては注意が必要で、使用頻度が高い分、悪化させる機会の多い薬方でもある。芍薬があるといっても全体として温性が強いのは変わらない。関節リウマチの炎症はおさまっているように見えても、奥底でグツグツと煮えていることが多い。温薬に反応して炎症が増悪することがある。したがって炎症の活動期には使用を避けなければならない。また炎症が鎮まっているようでも、温薬の使用分量には注意するべきである。
桂枝加苓朮附湯:「構成」
桂枝(けいし):芍薬(しゃくやく):甘草(かんぞう):大棗(たいそう):生姜(しょうきょう):茯苓(ぶくりょう):蒼朮(そうじゅつ):附子(ぶし):

②桂枝二越婢一湯(傷寒論)

 血行を促す桂枝湯と炎症を抑える越婢湯との合方。桂枝加苓朮附子の適応と同じ段階の関節リウマチに用いる機会がある。本方はより清熱性が高く、関節部の腫れがやや目立つ場合に適応する。関節部の炎症に広く用いられ、関節リウマチの他にも痛風や変形性膝関節症に運用する。
桂枝二越婢一湯:「構成」
麻黄(まおう):石膏(きょうにん):桂枝(けいし):芍薬(しゃくやく):甘草(かんぞう):生姜(しょうきょう):大棗(たいそう):

③麻杏薏甘湯(金匱要略)

 関節部の炎症に頻用される名方。出典では「風湿(ふうしつ)」と呼ばれる病態に適応すると記載されている。「風湿」とは外的な湿気や気圧変化により痛みを助長させる病態。雨の日に膝が痛くなったり、雨が降る前に痛みが起こるといった気候との兼ね合いの中で増悪する関節部の炎症に用いられることが多い。関節リウマチの前駆期や寛解期においても、腫れや痛みが天候に左右されるということは多い。指関節よりは、手首・肘・膝などの比較的大きな関節の腫れに適応させることが多い。
麻杏薏甘湯:「構成」
麻黄(まおう):杏仁(きょうにん):薏苡仁(よくいにん):甘草(かんぞう):

④越婢加朮湯(金匱要略)

 麻黄・甘草の炎症による腫れの治療薬に清熱薬である石膏を配している点が最大の特徴である本方は、関節部の炎症甚だしく、腫れの勢いが強い関節炎に広く用いられる。関節リウマチの活動期、自発痛や圧迫痛を呈する段階に適応する。石膏の薬能は用量依存的だと言われている。炎症の程度に合わせて石膏の量を増量する必要がある。もしこの方剤をもってしても腫れが引かないのであれば、それは経方の範疇ではない。「温病」の方剤をもって対応する必要がある。
越婢加朮湯:「構成」
麻黄(まおう):甘草(かんぞう):石膏(せっこう):蒼朮(そうじゅつ):生姜(しょうきょう):大棗(たいそう):

⑤白虎湯(傷寒論)

 関節リウマチの活動期、石膏によって強力な清熱を必要とする段階で使用されることが多い。清熱に滋潤を兼ねることが本方の最大の特徴。身体熱く、口が渇き、小便の量が少なく色が黄色い者。活動期に頭痛・発熱などの全身症状を発生させている場合は桂枝を加えて白虎加桂枝湯とすることが多い。山本巌先生は、関節の腫脹が水腫を主とした滲出性炎症であれば越婢加朮湯を、関節の腫大が滑膜の肥厚を主とする細胞浸潤や増殖性の炎症には白虎加桂枝湯を用いると説明している。
白虎湯:「構成」
石膏(せっこう):知母(ちも):粳米(こうべい):甘草(かんぞう):

⑥続命湯(金匱要略)

 麻黄・石膏剤にて炎症を抑えながら、血液循環を改善する薬能を兼ねた処方。関節リウマチの活動期から寛解期にかけて、継続する関節部の炎症を抑えて関節部周囲の筋肉の拘縮や萎縮を改善・予防していく。関節リウマチには芍薬を加えた方が良い。状況に応じて加減や分量の調節を行うことが必須で、固定された処方と考えるとその運用は非常に狭くなる。どちらかと言えば関節の腫脹が滲出性の炎症、つまり水をためて腫れる状態に属する者。平素より四肢に浮腫みの強い者に適応することが多い。
続命湯:「構成」
石膏(せっこう):麻黄(まおう):杏仁(きょうにん):桂枝(けいし):当帰(とうき):川芎(せんきゅう):人参(にんじん):甘草(かんぞう):乾姜(かんきょう):

⑦桂枝芍薬知母湯(金匱要略)

 関節リウマチにて活動期以降、寛解期にかけて、関節部の炎症が残存して引かないものに用いる。炎症を抑える薬能と血行循環を促す薬能とを併せ持つ点では続命湯に似るが、麻黄・石膏ではなく知母にて清熱する点が大きく異なる。麻黄は水を除くが、知母は脱水を予防する。したがって本方の適応となるリウマチでは四肢羸痩(ししるいそう:痩せ細る)する気配あり、関節部だけ木のコブのように腫大している者に適応する。しかし実際にはこのような状態にまで羸痩してしまうと、完治がなかなか難しい。こうなる手前からこの傾向を見極め、服用を始めておくことが肝要である。続命湯は越婢加朮湯の派生で、関節の腫脹が関節腔の滲出液貯留を主とするもの。本方は白虎湯の派生で、関節の腫大が滑膜の肥厚によるもの。
桂枝芍薬知母湯:「構成」
桂枝(けいし):芍薬(しゃくやく):知母(ちも):防風(ぼうふう):麻黄(まおう):甘草(かんぞう):蒼朮(そうじゅつ):生姜(しょうきょう):附子(ぶし):

⑧薏苡仁湯(明医指掌)

 関節リウマチにて患部が腫れて痛むと同時に、血行障害を起こして痛みや腫れが長引くもの。「湿病(しつびょう:湿気によって痛みを発生させる病)」に用いる麻杏薏甘湯の方意を内包し、曇天による湿気や急激な気圧の変化によって痛みが助長する、という場合に良い。肘や膝など比較的大関節に生じた炎症に対して適応しやすい。
薏苡仁湯:「構成」
薏苡仁(よくいにん):麻黄(まおう):桂枝(けいし):芍薬(しゃくやく):甘草(かんぞう):当帰(とうき):蒼朮(そうじゅつ):

⑨当帰拈痛湯(蘭室秘蔵)

 名医・李東垣の命を受け、その弟子がまとめたとされる『蘭室秘蔵』中の腰痛門に記載されている方剤。生薬構成から見ると湿熱による身体の痛みに適応すると考えられる。浅田宗伯曰く「此方は湿熱血分に沈淪して、肢節疼痛する者に用ふ」と。また麻黄加朮湯や麻杏薏甘湯を使って疼痛止まず、かえって発熱或いは浮腫したり、附子剤を用いて帰って劇痛する者に用いると指摘している。このようなことは関節リウマチでもよく見られる反応であることから、宗伯はこの時すでに、この処方を関節リウマチに運用していたのではないかと推測する。またこの処方の適応する湿熱であれば、皮膚がやつれて黄色みを帯びて黒く、膀胱炎になりやすかったり、陰部掻痒症などが必ずあるものだと指摘している。着眼するべき指摘である。
当帰拈痛湯:「構成」
当帰(とうき):羌活(きょうかつ):葛根(かっこん):防風(ぼうふう):蒼朮(そうじゅつ):人参(にんじん):白朮(びゃくじゅつ):猪苓(ちょれい):沢瀉(たくしゃ):知母(ちも):黄芩(おうごん):茵蔯蒿(いんちんこう):甘草(かんぞう):苦参(くじん):升麻(しょうま):

⑩舒筋立安湯(万病回春)

 山本巌先生は関節リウマチ寛解期の代表方剤としてこの処方を上げている。万病回春にて「痛風(今でいう所の尿酸が関節に溜まって生じる痛風とは異なり、四肢関節のあちこちが痛むという病)」の治剤として紹介されている。25品目と多種の生薬により構成されているが、総じて湿熱を去って炎症を抑え、血行を促して瘀血を去るとともに、筋肉を滋養するという薬能を持つ。確かに総合的に配慮された処方であるが、固定された処方と見なすのではなく、あくまで加減を以て対応することが求められる。
舒筋立安湯:「構成」
防風(ぼうふう):白芷(びゃくし):独活(どっかつ):羌活(きょうかつ):茯苓(ぶくりょう):蒼朮(そうじゅつ):木通(もくつう):木瓜(もっか):川芎(せんきゅう):地黄(じおう):芍薬(しゃくやく):紅花(こうか):桃仁(とうにん):天南星(てんなんしょう):半夏(はんげ):陳皮(ちんぴ):威霊仙(いれいせん):附子(ぶし):牛膝(ごしつ):防已(ぼうい):黄芩(おうごん):竜胆(りゅうたん):連翹(れんぎょう):甘草(かんぞう):

⑪駆瘀血剤

 関節リウマチの根本治療に駆瘀血剤を適応させる考え方がある。関節リウマチは病理学的に言えば滑膜の慢性増殖性炎症であり、増殖性の炎症に対しては、生地黄・牡丹皮・玄参などの血熱を冷ます薬物に、桃仁・紅花・蘇木などの駆瘀血薬を加えて処方することで、これに対応するという考え方である。したがって桂枝茯苓丸や大黄牡丹皮湯・桃核承気湯・通導散を基本として本治を図る。また中国では自己免疫疾患に全蠍(サソリ)・白花蛇(マムシ)・水蛭(ヒル)・虻虫(アブ)・地竜(ミミズ)などの虫類薬が近年注目されている。

臨床の実際

●関節リウマチは「痺証」ではない
通常、四肢の痛み治療には「痺証(ひしょう:血行障害によって四肢の痺れや痛みを生じる病)」という病態に用いる方剤が頻用されます。しかし山本先生は自著『東医雑録』の中で、「関節リウマチは「痺証」として対応されているが、それは誤りである。関節リウマチは炎症である。あくまで熱と捉えるべきで、「湿熱」が主である。」という見解を示しておられます。

これは臨床的に、つまり実際の治療において、まさしく正鵠を得ています。血行を促す治療を乱用すると、関節リウマチは効かないばかりか悪化することさえあります。滑膜に生じている炎症をいかに鎮めながら腫れと痛みを取っていくか。それが漢方における関節リウマチ治療の基本です。

時に急激に、時に慢性的に、いつまでも炎症を継続させる関節リウマチのような病態は「痺証」とは異なります。体中のあちこちが痛む病を漢方では「痛風(今でいう所の尿酸が関節に溜まって生じる痛風とは異なる)」といいますが、その中で痛みが関節から関節へと歴(めぐ)っていく病を「歴節風(れきせつふう)」といいます。また特に痛みが強いものを「白虎歴節風」といいます。山本先生が指摘する通り、関節リウマチは「痺証」というよりはむしろ「歴節風」に属しています。またこのような関節部に慢性的な炎症を生じ続ける病に対して、次第に「熱痺」とか「湿熱痺」という呼び方がされるようになりましたが、これらは本来の「痺証」(『黄帝内経素問』にて提示されている痺証)とは異なります。どちらにしても、通常の痛み治療・しびれ治療を行っていても、関節リウマチは改善することができません。これから以下、山本巌先生の関節リウマチに対する漢方治療を基本に、実際の運用方法を簡単に示していきたいと思います。

<漢方による関節リウマチ治療の基本>

1.前駆期

関節に未だ固定した強い炎症を生じていない時期です。朝のこわばりや、手に力が入らない、疲労倦怠感といった症状が基本にあり、時に発熱・頭痛・微熱などの症状を生じることもあります。朝のこわばりは動かしているうちに良くなり、温めると早くよくなります。この場合は炎症を助長させないように血行循環を促す治療を行います。桂枝加苓朮附湯や桂枝二越婢一湯、麻杏薏甘湯などが使用されます。桂枝加苓朮湯は関節リウマチに頻用されている傾向がありますが、この方剤には温性があり、炎症があって痛む場合には症状を悪化させることがあるため注意が必要です。痛みの程度が弱くても、炎症は必ず介在しているため、「炎症を助長させないように血行を促す」ということが大切です。もし発熱や頭痛・微熱などの症状がある場合には麻黄加朮湯や桂枝加苓朮附湯などで発汗療法を行います。微熱はまさに炎症がこれから強まる予兆のようなものですが、発汗を的確に行うと、炎症がスッと引いて体が楽になります。

2.活動期

関節部が強く腫れて、自発痛や圧痛があり、痛みが甚だしい場合。このように炎症が急激に強まる活動期では、とにかく炎症を抑えるという治療を行う必要があります。関節リウマチの炎症は、関節に炎症を生じる他の疾患と比べて、非常に鎮まりにくい傾向があります。処方選択ならびに使用生薬の分量が適切でなければ、関節リウマチの炎症はおさまりません。

●「石膏剤」の運用
関節部の強い痛みと腫れの他にも、高熱が出たり、あついと感じたり、口渇が起きたり、尿量が少なく色が濃いなどの症状が表れます。漢方では熱盛の状態に属しますので、石膏剤をもって対応する必要があります。越婢湯加減・白虎湯加減がその基本です。また続命湯の加減を用いる場合もあります。関節部の炎症のみならず、全身に熱が蔓延して水分を消耗し、口渇が甚だしいといったような脱水の気配のあるものには白虎湯が基本となります。関節周囲の筋肉が萎縮しているような場合では続命湯の加減を用います。さらに炎症を抑えるには、これらの方中の石膏を大量に増量していく必要があります。また痛みを止めるために附子を使用することが良く行われます。

●「温病」の手法
活動期の炎症では、これらの手法をいくら使っても炎症をコントロールすることができない時があります。つまり石膏による消炎作用では、これをどれだけ増量しても効果が間に合わないというケースです。その場合に必要なのは「温病(うんびょう)」による湿熱解除の手法です。「温病」とは熱(炎症)が継続し、人体の陰分(体液)を灼焼し尽くすまで燃え続けるという病です。この病態の概念は清代・中国にて呉鞠通(ごきくつう)という人物によって大成されました。そして呉鞠通は自著『温病条弁(うんびょうじょうべん)』の中で病態解釈の理論とその治療方法を示しています。

関節リウマチの活動期は、この「温病」の範疇に属します。本来、白虎湯や越婢湯などの石膏剤による清熱は、関節リウマチにおいては遠からずも近からずで、やや無理やりな感があります。石膏剤によって炎症を引かせることもできますので、すべて否定することはできませんが、それでも炎症がおさまらない場合は、『温病条弁』の手法に切り替えると迅速に炎症が鎮まることが多々あります。もともと日本では「温病」の研究があまり進んできませんでした。その影響もあって、湿熱の熱盛病態に白虎湯や越婢湯を適応せざるを得ませんでした。一日分の石膏を20g、30g、時には100g以上と大量投与することで対応していたのは、この手法しかないためにそうせざるを得なかったからです。関節リウマチなどの原因不明の炎症を生じる疾患に対して、「温病」の手法は非常に即効性の高い効果を上げます。リウマチ治療を行う上で、必ず知っておかなければいけない手法だと言えます。

3.寛解期

活動期を過ぎ、炎症は落ち着いたが、残存する炎症がいつまでも継続している場合。動かした時に痛んだり、痛む時にやや腫れを起こしたりします。また慢性化すると関節回りの筋肉の拘縮し、それによって痛みを発生させるようにもなります。関節リウマチが長期に及ぶと、関節全体の破壊を起こして変形がおこり、骨と骨とが直接接して強直という状態になります。こうなると関節を動かすことができなくなる一方で、滑膜自体が破壊されているため炎症も終息し痛みも感じなくなります。この状態にまでいってしまった変形を、もとの状態に戻すことは恐らく困難です。なるべくこうなる前に炎症を終息させることが望まれます。

●残存する炎症を助長しないことが大切
基本的には炎症の程度と、関節周囲の筋肉の拘縮と萎縮、さらには全身の体力などを勘案しながら薬方を選択していきます。先述のように関節リウマチの炎症はかなりしつこく残存します。一定期間炎症がおさまっていても、すぐに再燃ということがあり得ますので、炎症を抑えることのできている薬方を根気よく継続することが重要です。

よく使用される処方は桂枝芍薬知母湯です。関節に持続した炎症があり、さらに関節回りの筋肉の拘縮があって痛むものに適応します。足が細く痩せて筋張った筋肉に腫脹した関節がついているような状態、まるで関節が木のコブのように腫れている状態に適応すると言われています。ただしそのような状態にまでなってないうちから使用する方が良いと思います。続命湯は活動期だけでなく寛解期にわたって長期的に服用することの多い方剤です。筋肉の拘縮・萎縮を改善しながら関節部のしつこい炎症を鎮火していきます。その他にも当帰拈痛湯、薏苡仁湯(明医指掌)、舒筋立安湯などが使用されます。どの処方も関節部の炎症を冷ますことを主とし、そこに痛みを抑えて筋肉の拘縮を和らげ、血行を促して萎縮を予防していく薬能が備わっています。

●関節リウマチ治療の難しさ「清熱と血行循環促進」
関節リウマチの寛解期では、炎症を抑えつつも、血行を促す治療を同時に行っていく必要があります。長期的な炎症によって関節回りの血行循環が悪くなり、筋肉の拘縮・萎縮が生じてくるからです。したがって上にあげた処方群には当帰や桂枝・川芎など、血行循環を促進する生薬が配合されています。しかし活動期に比べて炎症の勢いがおさまっているとはいえ、関節リウマチの炎症は非常にしつこく、寛解期においてもマグマのように奥底でグツグツと煮えている場合があります。この時に当帰・桂枝・川芎といった温性を持つ薬物によって血行を促そうとすると、このマグマが爆発し活動期に移行してしまう場合があります。これが関節リウマチの治療の難しさで、寛解と再燃を繰り替えしやすい理由でもあります。

●自己免疫疾患と「温病」
この場合でもやはり「温病」の手法が役にたちます。「温病」の治療方針は、とにかく炎症を抑えるということにあり、炎症を助長させる薬物の使用は厳しく制限しています。また炎症で失った陰分(身体の水分・筋肉の潤い)の回復は、陰分を灼焼し続ける炎症をとことん鎮めることと、身体の水分の偏在を是正することで行います。つまり滋潤はしても温補はせず、炎症を助長してしまう心配をせずに、寛解期の治療を継続していくことができます。実際に『温病条弁』の手法を使用した方が再燃が起きにくく、安定した治療結果を残していける印象があります。

自己免疫疾患における炎症は、膠原病全体を見ても再燃を起こしやすいものばかりです。それだけしつこく体に残る炎症だということです。炎症を抑えるために寒薬を使いたい、血行を促すために温薬も使いたい、でも寒薬を使い続けると血行が悪くなり、温薬を使いすぎると炎症を助長してしまう。自己免疫疾患は多くのケースでこういった寒熱錯雑(かんねつさくざつ)の問題をはらんでいます。この病態に対して、『温病条弁』は一つの回答を示唆しています。関節リウマチのみならず、自己免疫疾患全体における治療を得意としている先生方は、この手法に必ず着目しています。

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