□寒冷蕁麻疹(かんれいじんましん)~どうして治るのか?漢方治療の実際・前編~

2019年12月12日

漢方坂本コラム

□寒冷蕁麻疹(かんれいじんましん)
~どうして治るのか?漢方治療の実際・前編~

<目次>

■特殊な蕁麻疹・寒冷蕁麻疹(かんれいじんましん)について
■漢方では寒冷蕁麻疹をどう解釈しているのか
 1.蕁麻疹は「生体の防御反応」
 2.寒冷蕁麻疹と血流
■血流を促すとは? ~寒冷蕁麻疹に対応するための原則~
 1.身体の血行促進活動に同調する
 2.水の犯溢(はんいつ)と身体への同調
■「発表法」とは?その重要性と「発表剤」

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■特殊な蕁麻疹・寒冷蕁麻疹(かんれいじんましん)について

冷たい外気を受ける、冷えた物に触る、こういった寒冷刺激を受けることで発生する蕁麻疹を寒冷蕁麻疹(かんれいじんましん)といいます。機械性蕁麻疹(皮膚に物理的な刺激を加えることによって発生する蕁麻疹)に属し、低温の外気や物体の刺激を受けることで発症する、というのがこの病の定義です。

病院では主に抗ヒスタミン薬(抗アレルギー薬)が処方されます。この薬によって確かに症状を軽減させることが可能です。しかし繰り返すとなるとなかなか根治が難しいという印象があります。蕁麻疹の中でも特に寒冷蕁麻疹では繰り返してしまう傾向が強く、冬になると決まって蕁麻疹が起こり抗アレルギー薬を手放せなくなるというお話を良く伺います。そういった中、根治を目指される患者さまの多くが漢方治療をお求めになりご来局されています。

寒冷蕁麻疹では漢方治療を第一選択にするべきである、私見ではそういっても過言ではないほど漢方治療が効を奏します。即効性をもって改善することも多く、さらに抗ヒスタミン薬では難しい蕁麻疹の根治を目指すことが可能です。そのため寒冷蕁麻疹にお悩みの方には、専門的な漢方治療を受けて頂くことを強くお勧めいたします。実際に治療を行っていて、その効果に驚かれる方の多い疾患だと感じます。

臨床において確認できるこの改善傾向は、寒冷蕁麻疹に対する東洋医学的な考え方を知ることで納得することができます。実は漢方では西洋医学にはないアプローチの手法があり、それによって症状を抑えるだけでなく、根治にまで行きつくことが可能になるのです。この手法を知って頂くためには、まずは寒冷蕁麻疹とは何か?という根本的な所をご説明しなければなりません。やや遠回りにはなりますが、今回は寒冷蕁麻疹に対する漢方治療を出来るだけ詳しく解説していきたいと思います。

■漢方では寒冷蕁麻疹をどう解釈しているのか

まず最初に、蕁麻疹とは何か?そして、東洋医学では蕁麻疹という病態をどのように捉えているかという点について、簡単にご説明いたします。

※以前のコラム「□蕁麻疹(じんましん)~なぜ繰り返すのか?漢方から紐解くその理由~」にてご説明している内容になりますので、詳しくお知りになりたい方はそちらも合わせてご覧ください。

1.蕁麻疹は「生体の防御反応」

東洋医学的に見ると、蕁麻疹とは「生体の防御反応」として解釈することができます。体にとって必要のないもの、害を及ぼすものを、体外に出そうとする生体の自己治癒力によって起こると考えれています。

そして蕁麻疹を繰り返してしまう理由、つまりこの防御反応をいつまでも継続してしまう理由には2つあります。一つは必要のないものが蓄積していて、一度の反応では完全に取り切れていないから、そしてもう一つの理由は、生体に過敏さが備わっているために、刺激に対して敏感に反応してしまうからです。

このうち最初の理由、すなわち体にとって必要のないもの・悪いものが蓄積しているために繰り返してしまうという理由は分かりやすい所だと思います。しかし、もう一方の理由である「身体の過敏さ」とはいったいどのような状態を言っているのでしょうか。

2.寒冷蕁麻疹と血流

生体が過敏であるという状態は、見方によっては血流が不安定であるということと同義です。やや東洋医学的な考え方とは離れてしまいますが、この点を詳しく解説してみます。

蕁麻疹は炎症つまり血管拡張により血液が充血し、血管透過性の亢進によって血管内の血漿成分が漏出する状態を形成します。血管に血液が溜まって中の水が染み出し、それによって皮膚に浮腫(膨疹)が発生するということです。そのため、もし血流状態が刺激に対して不安定に変化してしまうような状態が体に備わっていれば、通常では変化しにくい刺激であったとしても容易に血管拡張を生じて水を染み出させてしまいます。つまり血流の不安定さは、そのまま炎症を生じやすい生体の過敏さとなって蕁麻疹を慢性化させてしまうのです。寒冷蕁麻疹では体調が悪い時にのみ発症するということがありますが、それはまさに体調が悪くなると伴に血流が不安定になることで、身体が過敏になってしまっているからです。

寒冷蕁麻疹の場合、慢性化するものの多くは生体の過敏さに起因しています。通常であれば寒冷刺激を受けても皮膚炎は起きません。それが起こってしまう理由は、少しの寒冷刺激でさえも過剰に変化してしまう血流の不安定さがあるからです。そして血流の不安定さとは、血流の弱さに起因しています。充実した血流状態を維持できていないからこそ、血流が不安定になってしまうのです。実際に、漢方における寒冷蕁麻疹治療では血流を促すという手法を頻繁に用います。そして血行状態が良くなると血流の不安定さが無くなり、膨疹が消失するとともに蕁麻疹が起こりにくい状態へと向かっていきます。

■血流を促すとは? ~寒冷蕁麻疹に対応するための原則~

では、漢方治療ではどのように血流を促していくのでしょうか?

さて、ここからが今回のコラムの本題です。実は血流の促し方には厳密な原則があります。そして血流を促すということと同時に、皮膚の腫れ、すなわち真皮上層の浮腫を水の氾溢(はんいつ:あふれこぼれること)と解釈し、身体の水の流れをコントロールする治療も必要になります。つまり単に血流を促すといっても、状況に応じて様々な配慮を行いながら配剤しなければ、血流は実際に良くなってはいきません。そこで簡単にではありますが、漢方薬をもって血流を促す時のポイントを解説してみたいと思います。漢方家は以下のような点を見極めることで、身体の血流状態をコントロールしています

1.身体の血行促進活動に同調する

身体にはもともと、血行を良くしようとする力が備わっています。漢方薬にて血行を促すと聞くと、あたかも漢方薬の力だけで血行を促進しているように感じますがそれは違います。漢方の薬能はあくまで身体の活動を助けているに過ぎません。すなわち、身体が発動している力に同調することではじめて、漢方薬による血行促進作用が発現されるのです。

そして身体が起こそうとしている血行促進活動には緩急があります。強く血行を促そうとしている状態もあれば、穏やかに血行を巡らせている状態もあります。漢方治療においては、この生体が起こそうとしている血行促進活動の緩急に合わせて薬方を選択します。つまり急激に血行を良くしようと体が頑張っている時にはそれに同調し得る薬方を、そして体が穏やかに血流を促そうとしている時にはそれに同調し得る薬方を、各々選択していくことが求めらます。そしてそれに同調し得る薬方を用いることで、初めて血行をスムーズに促すことが出来るのです。

例えば身体が穏やかな血流状態へと向かおうとしているもののその力が充分に発揮できていない場合は、緩やかに血行を促す薬方をもってこれに対応します。逆に身体が血行を急激に強めて体表に向かって血流を集中させている場合は、急峻に効果を発揮する薬方をもってこれに対応していきます。血流を促す場合には、身体が起こそうとしている状態に同調するということが絶対条件です。すなわち、先ずは生体が今どのような状態に向かおうとしているかを鑑別することが必須になるのです。

2.水の犯溢(はんいつ)と身体への同調

このように身体は血行促進活動を緩急をもって行っていますが、この緩急によって水の漏れ方も異なってきます。勢い強く血行促進活動を行っている時は、水の漏れ方も勢いが強くなります。急激かつ迅速に水が漏れ、さらにどちらかと言えば体表部や胸・首・顔面といった上部に水がせり出してくる傾向があります。一方で、緩やかな血流状態に向かう時にはせり出す水にも勢いがありません。じわーっと染み出すように時間をかけて漏れ、脛(すね)や足首などの下半身に出やすい傾向があります。

寒冷蕁麻疹治療では身体が行おうとしている血流状態に同調させた薬物を用いることが原則であり、かつ最大のポイントになります。特に寒冷蕁麻疹においては体表部に発現しやすく、かつ急激・迅速に水が溢れやすいという傾向があります。したがって「身体が急激に血流状態を促そうとしている状態に同調させる薬物」をもって対応するというケースが一般的になってきます。

この体表部にて急激に血流を促そうとしている状態に同調し、さらにそれを安定感をもって完全に発揮し切らせるという手法を、漢方では「発表法(はっぴょうほう)」と呼びます。

■「発表法」とは?その重要性と「発表剤」

寒冷蕁麻疹において核となる治療方法、それがこの「発表法」です。寒冷蕁麻疹を改善するために、そして再発させない状態を形成さえていくためには、この「発表法」を上手く使えるかどうかが鍵になってきます。生体の急激な血行促進活動に同調し得るこの手法は、効くときには非常に迅速な効果を発揮します。そしてそれを適切に行うことが出来れば、血行を安定させて身体の過敏さを解除していくための最短のルートを導くことが出来ます。

「発表」を上手に行うことが出来るかどうかが漢方家の腕を決めると言っても良いほど、漢方においては重要かつ基本的な手法です。そして非常に奥が深く、漢方に精通した先生の行う「発表」は目を見張るほどの効果をしばしば発現します。この「発表法」は単一の処方によって行われるわけではありません。「発表剤」と呼ばれる複数の処方の中から、適切に発表することのできる処方を選ぶ必要があります。また様々な加減を施して使用されることが一般的で、そのあたりの運用の妙が「発表」の出来を左右します。

「発表剤」というと、多くの解説書では風邪の初期に用いられる葛根湯(かっこんとう)や麻黄湯(まおうとう)が真っ先に挙げられます。しかし寒冷蕁麻疹において最も基本となる処方は「甘草麻黄湯(かんぞうまおうとう)」です。この方剤は甘草と麻黄という二味の生薬で構成された非常にシンプルな薬方であり、さらに「水気(すいき)」と呼ばれる水の氾溢に用いる基本処方でもあります。そして単方では発表剤としては不適ですが、様々な薬方に組み込まれることで発表の基本骨格を形成します。そのため寒冷蕁麻疹に発表剤を用いる場合、まずはこの処方の理解が必須になります。そしてこの方剤を基本として、以下のような処方の中から選用される傾向があります。

・桂枝麻黄各半湯(けいしまおうかくはんとう)
・麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)
・桂姜棗草黄辛附湯(けいきょうそうそうおうしんぶとう)

さらに小青竜湯(しょうせいりゅうとう)というアレルギー性鼻炎治療にて有名な方剤も用いられます。また後世方派と呼ばれる流派では五積散(ごしゃくさん)と呼ばれる方剤が用いられたりもします。

これらの方剤には明確な違いがあります。そしてその違いを理解した上で、適切な発表法を選ばなければなりません。その選択において最もポイントになるのは、身体が起こそうとしている急激な血行促進活動に同調させるということです。人によってどの程度血行促進活動を起こせているかが違ってきます。そのため同調のさせ方もそれに合わせて調節しなければなりません。その見極めを的確に行うからこそ、適切な「発表」を発動させることが出来るのです。



後編へ・・・
寒冷蕁麻疹において迅速な効果を発揮する「発表法」。ただしこの手法には即効性と同時に弱点や落とし穴もあります。後編ではさらに「発表法」について詳しく解説していくと伴に、寒冷蕁麻疹治療の全容をお話していきたいと思います。
□寒冷蕁麻疹(かんれいじんましん)~どうして治るのか?漢方治療の実際・後編~



※蕁麻疹・寒冷蕁麻疹治療については以下の解説もご参照ください。
■病名別解説:「蕁麻疹・寒冷蕁麻疹

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