■症例:パニック障害・自律神経失調症

2020年05月14日

漢方坂本コラム

・気を使う
・真面目
・内向的

自律神経を乱しやすい人が持つ、性格的特徴なのだという。

言わんとしていることは、分かる気がする。
しかし、だったらどうだと言うのだろうか。

これらの性格を変えれば、病は治るのか。
このような性格だから、自律神経が乱れるのだろうか。

性格は決して「病の原因」ではない。

東洋医学では昔から言われていること。
性格や感情の一部は、体の悲鳴として発現することがある。

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36歳。
恰幅良く、背の高い男性である。

お話してすぐ感じたのは、腰の低さと真面目さだった。

「多分、パニック障害、だと思うのですが・・・」

そう語り出した患者さまの声は、非常にか細い。

申し訳なさそうに体調を打ち明ける。
そんな口調でお悩みの症状を静かに語られた。

仕事で車の運転をしている最中に、急に「恐怖感」に襲われる。
煽られたとか、追突されたとか、そういうことではなかった。

何もないのに突然恐怖感に襲われ、
心臓が口から出るのではないかと思うような鼓動が、強く胸を打ちつけるのだという。

そして恐ろしいことに、急に足が硬直していう事をきかなくなる。
運転中である。死ぬ思いで走行し、慌てて路肩に車を止めなければならなかった。

ハンドルを握る手には多量の汗が滴り、
我を忘れる恐怖感で、首の上にもびっしりと汗をかく。

気持ちが落ち着くまでは動けず、車の中でとにかくじっとしている。
しばらくそうしているうちに、運転を再開できるまでには回復してくるようだった。

数年前から生じ始めたこの傾向は、
ここ最近、一週間に2.3回は起こるようになってしまった。

そして当HPのパニック障害の記事を見て、
漢方で治るならばと、藁をもすがる想いでご来局されたという経緯だった。

恐怖感。

よくよく体調を伺うと、その傾向は運転時以外でも継続していた。

恐怖というよりも、むしろ緊張という形。
例えば眠りが浅く、いやな夢ばかりを見て、日頃からストレスに弱く、緊張すると胃もたれを感じるようだった。

さらにイライラや不安感・焦りなど、気持ちの不安定さも自覚されている。
特に小さな音に対して敏感で、気になるといつまでも耳にこびり付いて不快なのだという。

そして疲れは無いとは言えず、昼食後に吸い込まれるように眠くなることが多い。

「気を使う性分で・・・」

チラッとつぶやかれたその言葉が、患者さまの性格を如実に表わしている気がした。

これらの症状をお聞きして、
私は「なるほどな・・」と思った。

真面目で内向的な性格。
周りに気を使い過ぎる方ならば、このような緊張が日常的に継続することは確かに理解できる。

ただし私が納得したのは、そういうことではなかった。

あくまで患者さまに巣食う「体の緊張」。
それが問診を通して明確に表れていたからだった。

真面目であることは、美徳以外の何物でもない。
内向的な傾向は、思慮深いことと表・裏であろう。

治すべきは、絶対に性格ではなかった。
この患者さまにおいて治すべきは、あくまで体。このような性格を、スムーズに体現できる体へと導くことである。

まずは体の緊張を取る。その後、必要であれば疲労を回復する。

今までの経験上、そういう治療によって回復されるであろうと、
そう感じたからこそ、私は「なるほどな」と感じたのだった。

古人が「癇症(かんしょう)」と呼んだ病。
その治法の中に、この状態を回復させ得る薬方が存在する。

私は二週間分のお薬を出した。

じっくりと治す。腰を落ち着けた治療が必要となるケースだった。

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良く眠れるようになった。

二週間後にご来局された患者さまは、そう言って微笑まれた。

味は初め、マズい、と感じられたようである。
しかし今となっては問題なく飲めている。味に慣れ、今ではマズいとも感じなくなっていた。

私は胸をなでおろした。
薬が抵抗なくお体に入っている。それを確認できたからだ。

この段階ではまだ敏感さは変わっていない。
しかし飲み始めてから精神的には落ち着いているかも知れないと、そうおっしゃられていた。

その後、二週間ずつ薬の調節を続けながら治療を進めた。

なるべく丁寧な治療を心がけた。
患者さまにとって、この手の治療は焦りとの勝負になる。

しかし、患者さまはその焦りに負けない強さを見せてくれた。
真面目さが頼もしかった。この方なら、ちゃんと治療を継続出来ると思った。

一カ月経ったころ、患者さまは明らかに調子の良さを実感されていた。
疲労感がない。そして、朝すっきりと起きられるようになっていた。

そしてまだ不安にはなるものの、実際に運転してみると恐怖感があまり出ない。

自信がつき始めてからは、治療のスピードがどんどんと増していき、
二カ月経ち、三カ月が経ち、不安な気持ちは薄紙を剥ぐように無くなっていった。

四カ月経った頃は、もう運転していても恐怖心が芽生えることは無かった。

「薬を減らしていけそうですか?」と聞くと、
「はい。もう大丈夫です。」と控えめに答えて頂けた。

最後に14日分の薬をお出しした。
治療を終了とし、後はまた不安になったら来てくださいと申し伝えて患者さまの背を見送った。

か細い口調は、最後まで変わらなかった。印象も同じ。やはり控え目で内向きである。

でも、だからこそ治療は成功した。
やり遂げることができたのは、患者さまの性格があったからこそである。

・気を使う
・真面目
・内向的

変えるべきではない。すべて患者さまの美徳だった。



■病名別解説:「パニック障害・不安障害
■病名別解説:「自律神経失調症
■病名別解説:「心臓病・動悸・息切れ・胸痛・不整脈

〇その他の参考症例:参考症例

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