■症例:自律神経失調症

2019年11月23日

漢方坂本コラム

どうしたら良いのか。

そんな不安を湛えた眼をしながらのご来局だった。

62歳、男性。

五・六年前から血圧が高くなり、そこから急激なのぼせや火照りが顔面を襲うようになった。

のぼせと同時にバクバクと心臓が鼓動し、不安で居ても立ってもいられなくなる。
内科にて血圧の薬をもらった。服用するとむしろ動悸が激しくなった。
そんな副作用はありませんよと説明を受けた。しかし実際に起こるのだからと、不安で飲めなくなった。

心療内科を紹介された。

自律神経失調と診断を受けた。特に心の方に問題があるようですと言われ、それから抗不安薬や抗うつ薬を服用するようになった。

今ではそれらの薬が効いているのかどうかさえ、自分では分からないという。

様々な症状に苦しまれていた。
のぼせや火照り以外にも、動悸や耳鳴り・不眠。
さらに足が冷えるとのぼせが強くなり、小さな物音が気になり眠れないという。

患者さんの症状を伺った後、私はこう説明した。

心の病かどうかを、確かめましょう、と。

心の病というものは実際にある。
しかし私には、この患者さまの症状はカラダの悲鳴に聞こえた。

心と体とは繋がっている。
そして病とは得てして両方を同時に乱すものである。
体の乱れが心に波及する、精神的な病の中にはそういうものが実際にある。
したがって、たとえ心の症状が全面に出ていたとしても、カラダの不調を取ることで、心も安定することがある。

不定の陽火。
漢方にはそんなカラダの極端な緊張状態を緩和させる薬がある。

患者さまは自分でグラフを作り、症状の増減を記入していった。

まず一週間で動悸の回数がへった。次の2週間で良く眠れるようになった。
しかし途中でいくつかの症状が波をうった。そんな時は心の乱れも強くなった。

しかし患者さまは頑張ってくれた。
一か月経ち、三カ月経ちと時間を経るごとに、グラフ上の数値は明らかな改善を見せていった。

四か月め、患者さまの眼は落ち着いていた。
その後一か月の服用で自信を取り戻した患者さまは、症状の消失とともに治療を完了した。

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心の病。

東洋医学は歴史的に、心の症状を体の不調として捉えてきた。
体の調節を行うことで心を安定させる。そんな手法を鍛え、積み重ねてきた。

そして今回のように、心の病と診断されていながらも、
体へのアプローチが心に届く、そんな症例が少なからずある。

たとえ精神的な不安定さで悩まれていたとしても、それだけで心の病と断定することは非常に難しい。
不安・焦り・イライラ・抑うつ感など、心の症状にお悩みの方には是非知っておいて欲しいことである。

ただし、心の病というものは、実際にある。
漢方薬でいくらカラダの調節を続けても、変化を見せない精神症状というものが、現実にあることもまた確かである。

このような心の病に対して、東洋医学でどのようにアプローチしていくのか、
それは漢方家にとって、今度の課題だと思う。

心と体。その関連と構造。
東洋医学の限界を底上げしていく試みを、続けていかなければならない。



■病名別解説:「自律神経失調症
■病名別解説:「パニック障害・不安障害
■病名別解説:「心臓病・動悸・息切れ・胸痛・不整脈
■病名別解説:「酒さ・赤ら顔

〇その他の参考症例:参考症例

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※コラムの内容は著者の経験や多くの先生方から知り得た知識を基にしております。医学として高いエビデンスが保証されているわけではございませんので、あくまで一つの見解としてお役立てください。また当店は漢方相談を専門とした薬局であり、病院・診療所とは異なりますことを補足させていただきます。