月経前症候群(PMS) ~詳細症状別・漢方治療解説~ 後編
<目次>
【前編】
イライラ・情緒不安定
浮腫み
だるさ・疲労倦怠感
肌荒れ・ニキビ
不眠(寝つきが悪い・眠りが浅い)
眠気(すぐ眠くなる)
食欲増加
頭痛
※前編はこちら→□月経前症候群(PMS) ~詳細症状別・漢方治療解説~ 前編
【後編】
■便秘
■下痢
■下腹部痛(生理痛)
■胃痛・吐き気
■乳房痛
■動悸・息苦しさ
■のぼせ
■微熱・発熱
■四肢関節の痛み
月経前症候群(PMS) ~詳細症状別・漢方治療解説~ 後編
■便秘
月経前にしばしば見受けられる便秘は軽いものから強いものまで様々ある。食事や睡眠や運動などの養生を基本とし、排便の手助けとして漢方薬を利用することが理想。一週間以上出ないような強度な便秘は医療機関へ。
・大柴胡湯
軽い便秘であれば大黄甘草湯で良い。もし月経前に過食しみぞおちが詰まるという症状があれば大柴胡湯が効きやすい。
・桃核承気湯
便秘とともに月経前にのぼせて頭痛するという者。経血に血の塊が混ざることが一つの目標になる。
・麻子仁丸
大黄甘草湯を用いて効かなければ本方を考える。便が硬く出にくいという人。平素から良く食べる者に適応することが多い。
・桂枝加芍薬大黄湯
便秘と下痢とを繰り返す者。過敏性腸症候群が併存している気配の者。目標は腹痛。
・小建中湯
便通の遠い者が服用して便が排出しやすいくなる傾向あり。特に小児の便秘に著効することが多い。補中益気湯も便秘に良い。
・平胃散
便意を感じて排便するも細い軟便が少ししか出ず残便感があり苦しいという者。水分摂取で便秘が悪化するという者。半夏厚朴湯でも同じような効き方をする場合あり。厚朴で改善する排便異常がある。
■下痢
月経直前に下痢する者は多い。一時的なものならば問題ないが月経前や月経中に長く続く場合は放っておかない方が良い。
・半夏瀉心湯
月経前に過食して下痢する者。食後に胃もたれを感じやすい者。同時に不眠やイライラや不安を起こす者もいる。便臭がキツイ傾向あり。
・参苓白朮散
漢方における一般的な下痢止め。そもそも胃腸が疲れやすいという者に穏やかに効く。口回りの乾燥が目標になることあり。
・平胃散
軟便下痢するも残便感がありいつまでもすっきりしないという者。腹痛を伴うならば人参湯を合わせて良い場合あり。
・逍遥散
月経前のイライラや抑うつなどのメンタルに効く本方はそもそも胃腸薬を骨格とする。過敏性腸症候群の傾向あり月経前に悪化するようでれば本方を念頭に置く。
・真武湯
朝方下痢して排便後に力が抜けるという者。本方は虚弱さや強い冷え性などの新陳代謝低下に使う薬として有名だがその実は水を逐う薬である。浮腫みというよりは重さを目標にする。五苓散と表・裏の関係あり。
■下腹部痛(生理痛)
いわるゆ月経痛。生活に支障が出るような月経痛を起こすならばホルモン治療も有意義だが、是非漢方治療も検討して欲しい。東洋医学を学ばれている先生であれば治療経験も多いはず。月経痛のみならず同時に他の症状(皮膚やメンタルやだるさや浮腫みなど)も改善できる可能性がある。
・当帰芍薬散
婦人の聖薬として有名な本方は本来腹の痛み止めである。血の気が引くような痛みを生じるという者に川芎剤が著効する場合あり。
・逍遥散
芍薬・甘草を内包する薬でれば月経痛に効果を発揮する可能性あり。本方はある独特な体質に用いる処方。
・温経湯
文字通り下腹部を温めて痛みを取る薬。食欲旺盛・月経前のガス腹・口唇乾燥が運用の決め手になる場合が多い。
・芎帰膠艾湯
不正出血などの止血剤として有名だが、本方も芍薬・甘草・川芎・当帰を内包し優秀な痛み止めでもあり頓服でも効果を発揮する。
・桂枝茯苓丸
瘀血を去り痛みを止める。月経痛にしばしば運用されるものの、芍薬甘草湯もしくは桂枝加芍薬湯を合わせた方が痛み止めとしての効果は高い。
・当帰四逆加呉茱萸生姜湯
厥寒と呼ばれる特殊な冷え方に対して用いると著効する。月経直前に急激に下腹部が冷えて激痛が起こり血の気が引いて吐き気がするという者。足首の冷えが目標になる。
※参考コラム【漢方処方解説】加味逍遙散・逍遥散(かみしょうようさん・しょうようさん)
■胃痛・吐き気
月経前に胃の痛みや吐き気を起こす方は少なくない。特に平素より胃腸に申し分があり、ストレスや疲労が胃にきやすいという方。
・茯苓飲
本方が内包する枳実は胃腸薬において要の生薬と成り得る。逆食の傾向ありみぞおちが硬く詰まりを感じるという者。同じ方意で大柴胡湯も使える。
・逍遥散
より柔らかく消化管の緊張を取るならば逍遥散を基本とする。総じて胃腸に効かせるためには丁度良い刺激を作れるかどうかが決めてになる。
・六君子湯
通常胃腸の機能減弱に使う薬であるが、胃の痛み止めとしてもしばしば改良しながら運用されてきた。柴芍六君子湯や香砂六君子湯がその類。平素より胃腸が弱くやや胃下垂の傾向のあるものの胃痛止めとして応用する。
・安中散
胃が冷えて痛いという者に著効する。ただし冷えていなくても動きが悪いなと思う時に頓服として服用して効くときあり。ちなみに月経痛に効くときもある。
・半夏瀉心湯
痛みというよりは、もたれや胃の重さ・詰まり感を目標として使う。
■乳房痛
月経前に胸が張るというのは生理現象の一つではあるが、それがあまりにも強く痛みがきつい(気になる)という場合に漢方薬を検討してみると良い。
・加味逍遙散
月経前にイライラして火照り、かつ胸が強く張って痛いという方。柴胡剤は胸の張りや痛みに適応しやすい。
・抑肝散(加陳皮半夏)
同じくイライラといった月経前の緊張・興奮症状を治めつつ胸の痛みを解除する。加味逍遙散は火照り。抑肝散は癇癪で突発的な怒気が目標になることが多い。
・柴胡疎肝湯
胸脇の痛みに効く薬として有名。月経前にイライラしやすいという方。加味逍遙散と抑肝散との間にあるような処方だがその主眼は消化管にあり。
・当帰四逆加呉茱萸生姜湯
呉茱萸で取れる胸の痛みがある。左脇腹から左胸の痛みが背中や肩に抜ける者。本方でなくとも各種方剤に呉茱萸を加えて用いる。
■動悸・息苦しさ
普段より動悸したり息苦しくなりやすいという方が月経前にそれらを悪化させるパターンがある。動悸治療を主眼に置きながら対応する。
※具体例はこちら→漢方 case study ~ホルモンバランスか自律神経か?動悸や息苦しさを伴う月経前症候群~
・苓桂朮甘湯
階段の昇降などですぐに息切れして動悸が続くという方。さらに浮腫みやすく緊張して動悸するという方。そういう体質的傾向がありそれが月経前に悪化するという方。四物湯を合わせた処方を連珠飲といい使うべき場がある。
・大柴胡湯
月経前に便秘するという方の中に、便秘を解消させると動悸が止まるケースがある。
・半夏厚朴湯
繊細で気の張りが強い方に動悸止めとして有効。本方は各種柴胡剤と相性が良い。月経前の不調を総じて解決するべく抑肝散や逍遥散と合方する。
・炙甘草湯
動悸の治療薬として有名だが、本方はあくまで「血痺虚労」すなわちある種の疲労状態を解除しながら動悸を鎮める。
■のぼせ
月経前は心身が自然と興奮状態へと向かう。その表れとして不快なほどのぼせて辛いという方。更年期のホットフラッシュ治療に通じる。
・加味逍遙散
イライラ・火照り・ニキビが月経前に起こるという方。効かない時は虚実を間違えている場合が多い。
・大柴胡湯
月経前にのぼせる場合に便秘があれば、そこを解消することで治まるほてりがある。必要に応じて黄連剤を合わせる。
・桃核承気湯
同じく月経前に便秘傾向のある方。桃核承気湯が効くほてりは、基本的にのぼせっぱなしである。
・女神散
イライラや不安を伴う興奮を解除してのぼせを鎮める方剤。目の付け所は浮腫みとめまい。
・桂枝加竜骨牡蛎湯
ある種の疲労は興奮を継続させる。イライラや気の張りよりも不安や疲労が目立つ者。
■微熱・発熱
月経前になるとまるで風邪を引いたようになるという方がいる。発熱や体のだるさ、咽痛や鼻水・鼻づまりなど。月経前に生じる興奮状態の過剰とみて治療する。風邪治療に囚われない運用が肝要である。
・逍遥散
PMS治療に頻用される逍遥散はもともと感染症が慢性化して微熱が長引く場合にしばしば用いられていた。本方のみならず多くの柴胡剤は微熱に用いて良い場合が多い。
・四逆散
四逆散の方意を持つ処方(大柴胡湯や柴胡桂枝湯)も微熱に用いて効果的である場合が多い。
・柴胡桂枝乾姜湯
微熱・口の乾き・不眠・動悸を目標に本方を用いる。本方には適合する体質がある。肢体細く皮膚乾燥しまるで枯れ木のような萎えのある者。気の張りの強いものが多い。
・補中益気湯
疲労を回復する薬によって治まる微熱がある。特に寝ても疲れが取れないというには本方が良い。
・帰耆建中湯
疲れやすく貧血の傾向があり食欲にムラがあって寒暖差で頬が赤くなる傾向のある者。本方にて身体が温まると眠りが深くなるとともに微熱が解除される。
■四肢関節の痛み
月経前になると背中・肩・肘や手首・手指の関節などの上半身が痛くなるという者、また腰・股関節・膝や足首などの下半身が痛くなるなるという者、またその両方が痛くなるという者。痛みの部位や痛む時間帯が選択処方の見極めになる場合がある。
・桂枝加苓朮附湯
月経前の上半身の痛みに使って良い。月経前や雨の前に痛みが来るという方。
・五積散
桂枝加苓朮附湯と同様、月経前や雨天の前に痛むという者に使う。冷えると痛みが増し温めると楽という者。月経前に限らず長服した方が良い。
・桂枝茯苓丸
各種駆瘀血剤は骨盤内の血流を促すことで下半身の動きを改善し、特に腰と股関節、さらに膝関節や足首などの負担を軽減する効果あり。
・芎帰調血飲第一加減
駆瘀血剤の一つとしてしばしば婦人科疾患に応用される。月経前に腰回りが冷えて腰痛や股関節痛を起こす者。
・当帰芍薬散
下半身の浮腫みを取ることで改善する関節痛あり。本方は特に下半身に効いてくる印象あり。
・二朮湯
五十肩の薬として上半身の痛みに用いられるが一律的に使っても効かない。半夏の証を見極められるかどうかがポイント。
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■病名別解説:「月経前緊張症(PMS)」

漢方坂本/坂本壮一郎|note