□月経前症候群(PMS) ~詳細症状別・漢方治療解説~ 前編

2026年05月19日

漢方坂本コラム

 

月経前症候群(PMS) ~詳細症状別・漢方治療解説~ 前編

 

多くの女性にとって悩みの種となっている月経前症候群(premenstrual syndrome:PMS)。

この月経前に起こる精神的・肉体的不調は、当たり前のこととして治療自体を諦めている人が多い疾患でもあります。

しかし昨今では漢方薬の認知度が高まることで治療に前向きになる方も増えてきました。漢方薬は市販薬でも手に入りますし、ホルモン剤などに比べて試しやすいという意識もあるのでしょう。治療へのハードルが下がることは大変良いことだと思います。

PMSは漢方治療において十八番と言っても良いでしょう。それほど多くの薬が用意されていますし、即効性をもって効く場合も少なくありません。

ただしそれは的確に薬を選ぶことが出来た場合の話です。漢方薬の使用が広まるにしたがって、その選択の大切さも同時に認知されるようになってきました。

そこで今回は月経前症候群において現れる不快な症状、その症状別にどのような漢方薬が適応しやすいのかを解説していきたいと思います。あくまでおおよその概要として解説しますので、ちゃんと知りたいという方は是非漢方専門の医療機関におかかりください。

<目次>

【前編】

■イライラ・情緒不安定
■浮腫み
■だるさ・疲労倦怠感
■肌荒れ・ニキビ
■不眠(寝つきが悪い・眠りが浅い)
■眠気(すぐ眠くなる)
■食欲増加
■頭痛

【後編】
便秘
下痢
下腹部痛(生理痛)
胃痛・吐き気
乳房痛
動悸・息苦しさ
のぼせ
微熱・発熱
四肢関節の痛み

 

月経前症候群(PMS) ~詳細症状別・漢方治療解説~ 前編

 

■イライラ・情緒不安定

大変良く見られる症状。月経が来るとスカッと治るという方もいれば、出血中も続くという方もいる。この手のメンタル面の不調は漢方でも特に沢山の薬が用意されている。症状から凡その使い分けを示すと以下の通り。

・加味逍遙散
鉄板処方。顔を赤くして怒るタイプ
・抑肝散・抑肝散加陳腐半夏
自分でもどうしてしまったんだろうと思うような我慢できないイライラ。癇癪に近い。
・大柴胡湯
月経前に食欲が増えて便秘してイライラする。
・半夏瀉心湯
食欲増加とともに食べて胃もたれ。不安感が併存しやすい。

■浮腫み

多くの方は月経前に浮腫む傾向がある。一番多いのはお腹周りの浮腫み。その次に多いのが顔の浮腫み。睡眠不足・運動不足が介在していればそれを改善する必要あり。

・当帰芍薬散
鉄板処方。下半身、特にひざから下の浮腫み。
・温経湯
下腹部・お腹周りの浮腫み。月経前にガスが溜まりやすくなりウエストが大きくなる方。
・苓姜朮甘湯
腰回りから下半身全体が冷えて浮腫む方。同時に「五千銭を帯びるが如し」というほどに下半身が重くだるい者に良い。
・五苓散
寝る前に飲酒(水分摂取)して浮腫む人。
・苓桂朮甘湯
有酸素運動ですぐ息苦しくなる人。顔と下半身の浮腫み。
・大柴胡湯
月経前に食べて便秘して浮腫む人。特に顔・顎周りの浮腫み。

■だるさ・疲労倦怠感

月経前にだるさや疲労感が強くなるという場合、基本的な目の付け所は三つ。貧血の傾向、浮腫み、そして眠りである。

・帰耆建中湯
小建中湯に黄耆と当帰とを加えたもの。平素より疲れやすく月経前にそれが強くなるという者。貧血の傾向や胃腸の弱さ、食欲のムラなどが目標になる。
・当帰芍薬散
浮腫みを取り体が軽くなるだけでもだるさは取れる。補が効かなければ利水を考える。上記「浮腫み」への対応処方を参照。
・半夏瀉心湯
本方は胃腸薬であると同時に身体の興奮をおちつかせて眠りを良くする薬でもある。眠りが良くなることで疲労も取れる。下記「不眠・寝つきが悪い」および「強い眠気」の項を参照。

■肌荒れ・ニキビ

月経前におこる皮膚症状としてはニキビ(尋常性座瘡)が一般的。ただし人によってはもとあるアトピーの悪化や蕁麻疹の発生などさまざまある。基本的には各皮膚治療を主とする。故に各皮膚疾患別に治療を参照して欲しい。

ちなみに月経前の肌荒れであれば十味敗毒湯はほぼ効かない桂枝茯苓丸・加味逍遙散・当帰芍薬散あたりを飲んで効かなければ皮膚科領域の漢方治療を知っておく必要があるので専門の医療機関へ。これらでもし効いたのであればそれは幸運だともいえる。黄連解毒湯を上手に使えるかどうかが治療の一歩目。

※参考コラム:ニキビ・尋常性ざ瘡

■不眠(寝つきが悪い・眠りが浅い)

月経前は生理的に興奮しやすくなる。それが強まることで寝られなくなる人は多い。

・加味逍遙散
イライラやほてり、肌荒れ(ニキビ)で身体上部の興奮状態を確認。効く場合、不眠もあれば同時に治る。
・大柴胡湯
夕食にお腹いっぱいになり吸い込まれるように寝るが、その後目を覚ましてなかなか眠れないという人。大食を止める必要あり。
・温胆湯
大柴胡湯使いたいが便秘はない人。
・半夏瀉心湯
寝つきが悪く眠りが浅い。夜間の過食と朝の胃もたれがあるという人。大柴胡湯と合わせて使う場合あり。月経前に便臭がキツイ傾向あり。
・桂枝加竜骨牡蛎湯
体が温まり疲労が取ることで眠れるタイプ。帰脾湯・補中益気湯などもその延長線上で使用する方剤。
・酸棗仁湯
不眠の特効薬のように言われているが使い方が難しい。ある種の疲労からくる不眠。

■眠気(すぐ眠くなる)

月経前に不眠とは逆、つまり強い眠気に襲われて生活が難しいという人もいる。印象としては不眠よりも多いかもしれない。その多くは強いだるさを伴う。

・補中益気湯
睡眠を十分にとっても朝から疲れが取れていない場合。寝起きが良くなるとともに日中の眠気が少なくなる。
・桂枝加竜骨牡蛎湯
不眠を解消することで日中の眠気を改善する。身体を温め疲労を去り気持ちを落ち着ける。
・加味逍遙散
月経前になると不眠になりそのため日中眠いという人。イライラ・のぼせが目標になりやすい。
・五苓散・苓桂朮甘湯
強いだるさや体の重さを伴う眠気に人参剤を用いて効かない場合は水を動かす。
・呉茱萸湯
食後に強烈に眠くなるという人。補中益気湯でも良いが呉茱萸湯にて改善する場合がある。血糖値スパイクを思わせるケース。

■食欲増加

月経前は生理現象として食欲が増加する。しかしそれが過剰に起こるという場合はそれを興奮状態の過剰として治療して落ち着く場合あり。

・大柴胡湯
月経前に過食してみぞおちが硬く苦しくなるというタイプ。例え細い人でもみぞおちが硬く実していれば本方を適応あり。
・桂枝茯苓丸
骨盤内の充血は月経前の興奮を招く。過食に使うのであれば単独で用いるよりも各種胃薬と併用して良い場合が多い。
・加味逍遙散
イライラとともに過食が止まらないという人。本方を使ってダメならば大柴胡湯に黄連剤を合わせて効くことあり。
・桂枝加竜骨牡蛎湯
疲れると甘いものを欲して止まないタイプ。不眠を解消し熟睡させることで落ち着く食欲あり。
・補中益気湯
睡眠時間が足りていても寝起きが悪く疲れが取れない場合に本方を持って眠りが深くなると食欲が落ち着く。

■頭痛

頭痛は月経前に起こるものであろうとも、総合的な頭痛治療の大綱を持って臨む必要あり。ここでは特に月経前に適応しやすい頭痛治療薬を上げるがそれだけに偏っていては対応仕切れない場合が多い。

・当帰芍薬散
浮腫みを取ることで治る頭痛があり、かつ川芎剤で著効する頭痛がある。そういう意味で当帰芍薬散は優秀な頭痛治療薬。浮腫みが強ければ沢瀉末もしくは五苓散を合わせる。
・大柴胡湯
頭痛治療において心下(みぞおち)は着眼点の一つ。胃活動を疎通させることで取れる頭痛あり。同様の理由で半夏瀉心湯で取れる頭痛もある。
・逍遥散
頭痛治療において芍薬甘草剤も無くてはならない存在。その意味で逍遥散も使いやすい。ただし本方は明確に適応する体質がある。
・桃核承気湯
月経前にのぼせて便秘し、頭痛するという者。経血に血の塊が混ざるという人に用いて良い場合が多い。
・呉茱萸湯
頭痛治療薬として有名だが本方で取れる頭痛の頻度はそれほど多くはない。ただし本方でなければ取れない頭痛あり。

※参考コラム:
【漢方処方解説】加味逍遙散・逍遥散(かみしょうようさん・しょうようさん)
【漢方処方解説】呉茱萸湯(ごしゅゆとう)



後編へ続く・・・

■病名別解説:「月経前緊張症(PMS)

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※コラムの内容は著者の経験や多くの先生方から知り得た知識を基にしております。医学として高いエビデンスが保証されているわけではございませんので、あくまで一つの見解としてお役立てください。また当店は漢方相談を専門とした薬局であり、病院・診療所とは異なりますことを補足させていただきます。