◇養生の実際・梅雨から夏
~起こりやすい症状とその対策~
<目次>
1、下痢・便秘・胃もたれ・食欲不振
2、だるさ・疲労倦怠感
3、湿疹・皮膚炎
4、風邪・感染症
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猛暑。
いよいよ夏が牙をむきました。
急激にやってきた梅雨といい、今年の夏も油断の出来ない気候になりそうです。
夏は暑いというだけでなく、湿気が絡むという点がポイントです。
暑さと湿気による体調不良。湿気が体に与える影響は一種独特です。
毎年、今まで何度もコラムで記載してきた内容ではありますが、ここでやはりご説明しておきたいと思います。
夏の影響、湿気による体調不良についてです。
下痢・便秘・胃もたれ・食欲不振
湿気の季節、まず下痢をしやすくなります。
特に潰瘍性大腸炎やクローン病、過敏性腸症候群は、この時期再燃・悪化する方が多くなります。
湿気が強くなると、自然発汗が停滞するため身体の水のめぐりが悪くなります。
そして水が消化管に溜まります。消化管内の水分代謝が悪くなることで、下痢が起こりやすくなります。
下痢と言ってもこの時期の下痢には特徴があります。
軟便で、すっきり出なくなる。びびびと細い便が出たり、バッと出ても出きらなかったり。
そのため何度もトイレに行ったり、トイレからなかなか出れなくなったりします。
感覚的には便秘だと感じるかも知れません。すっきり出きらないので便秘だと表現される方もいます。
一時的かつ軽いものであれば「平胃散(へいいさん)」で良くなることが多いものです。以前のコラムでも解説しました。こちらのコラムを参照してください。
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重ねて言いますが、潰瘍性大腸炎や過敏性腸症候群の方や、もともと胃腸が弱い方は特に注意してください。
湿気が胃腸を敏感にさせる。いつもなら大丈夫な水分量でも、水に対して敏感になるためすぐに胃腸にとっての飲み過ぎを起こします。
また咽が乾いて水をガブガブ飲むことで、食事を摂る余力がなくなり、食事量が減ってくる。そうすると胃腸はどんどん弱って、食欲がなくなる。そして夏バテへと急速に進んでいきます。
さらに冷たい水や果物の摂り過ぎにも注意してください。夏は内臓が特に冷えやすくなります。胃腸が冷えるとやはり夏バテを起こします。
飲みやすい水分や食べやすい果物でお腹いっぱいになり、食事をちゃんと摂らなくなるというのが、夏バテの原因の最たるものです。
暑くなるこの時期、水分補給を促すアナウンスが日に日に多くなります。しかし胃腸が弱い方は気を付けてください。
湿気の時期は水で体調を崩します。水を飲む場合は、温かいものをちびちびが基本です。
だるさ・疲労倦怠感
身体の70%近くは水で出来ています。
そのため水分代謝は人体に多大な影響を与えています。
それが乱れやすいこの時期、胃腸の弱りとともに起こりやすいのが「だるさ」です。
何とも形容しがたい疲労倦怠感で、だるく、煩わしく、少し動いただけでへばってしまうような、体の重さを感じやすくなります。
この症状が出やすいのは、体が細い人や運動不足の人です。
日頃から運動不足だったり、筋肉に疲労が蓄積している方は、湿気に当てられてすぐに体がだるくなります。
ポイントは適度な運動ですが、これがなかなかに難しいものです。
この時期運動をすればすぐにだるさが取れるというものでもないからです。筋肉はすぐにつきません。湿気に当てられないようにするためには、日々の適度な運動と十分な睡眠が大切になります。
また胃腸が弱く、食欲が落ちやすい人も、この時期だるさを生じやすくなります。
この時疲労回復薬の「補中益気湯(ほちゅうえっきとう)」などを飲んで回復する方もいますが、あまり適切ではないという印象があります。
「藿香正気散(かっこうしょうきさん)」か「清暑益気湯(せいしょえっきとう)」の類。「五苓散(ごれいさん)と平胃散とを混ぜて飲む」と良い場合もあります。
湿疹・皮膚炎
湿気は皮膚に影響を与えます。自然発汗を停滞させるだけでなく、皮膚血流を悪くさせるために各種皮膚炎が悪化しやすくなります。
汗疹(あせも)は当然のこと、ニキビやおできなどの化膿性炎症を始め、アトピー性皮膚炎や蕁麻疹などのアレルギー性炎症も悪くなる方が多いものです。
特に「体に熱がこもる」と言われる方が多い印象です。この場合、皮膚の代表的な清熱薬である黄連解毒湯などが効きにくくなります。
いくら飲んでも熱のこもりは取れず、炎症を引かせることができないケースを散見します。
漢方では「湿」という病態を、他の病態とは区別して考察してきた歴史があります。例えば風邪をひく場合でも湿が絡めば処方を変えるし、疲労も皮膚炎も湿が絡めば、他とは違う一種独特の治療方法を提示してきました。
実際にこの時期の皮膚炎を治療するためにはこの辺りの考察がとても大切だと思います。程度が軽いのであればまだしも、急激に悪化する場合では特にその必要性を感じます。
風邪・感染症
今時期は、風邪をひく方が多くなります。今年もすでに多くの方が風邪をひいています。
その特徴は咽の痛みから始まって、鼻炎や副鼻腔炎、上咽頭炎や気管支炎など、上気道症状へと移行していきます。
そして何よりも長引きやすいという特徴があります。身体のだるさや微熱、時に気持ちの落ち込みやイライラなどを伴って、長く続くというのがこの時期の風邪の特徴です。
風邪の引き始めの最たる例としては、夜間にクーラーなどで体を冷やし、朝に体のだるさと咽の痛みとを発生させるケースです。
寝る際の寝室が暑くなるこの時期、どうしても室温管理が難しくなります。寝ている間に体を冷やし続けると容易に芯まで冷えます。
寒いと思って目を覚まし布団をかけなおすことは誰しもが経験する所ですが、寒くて目を覚ました時点で体は相当冷え切っています。そして咽風邪から全身症状へと波及するというのが、この時期の風邪の典型的なパターンです。
ポイントは寝ている間に室温を下げ続けないことです。窓を開けっぱなしにしたり、クーラーをかけっぱなしにするならばむしろ、寝る前までに寝室を冷房でしっかりと冷やし、布団をちゃんとかけて寝る。そして寝ている間は窓を閉めて、クーラーを止めて寝た方が良いと思います。
寝室の温度が寝ている間に下がり続けることが危険です。それならばいっその事、寝る時に寝室の温度を下げておき、冷えにくい恰好で寝る方が良いと思います。
もし朝に咽痛を感じたら、頓服的に「桔梗湯(ききょうとう)」を飲むことをお勧めします。「葛根湯(かっこんとう)」でも良いかもしれません。両者ともに熱い湯で溶かして咽を温めるようにして服用してください。
それでも咽の痛みが止まらず、一日続いてしまうようであれば「銀翹散(ぎんんぎょうさん)」などの領域になります。その後治らず、体のだるさが主であれば「藿香正気散」。もし気管支炎に移行してしまったら、その際は麻杏甘石湯(まきょうかんせきとう)や麦門冬湯(ばくもんどうとう)では効きにくい。この時期特有の痰切り・咳止めが必要になりますので、漢方専門の医療機関にご相談いただくことをお勧めいたします。
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湿気を強くまとう梅雨から、急に暑くなる初夏。
この時期の体調不良は決して油断ができません。長引くと今後の本格的な夏のバテにも繋がるため注意が必要です。
毎年耳タコというくらいに注意喚起をするのですが、やはり難しい季節、どうしても湿気と熱とにやられてしまう方が出てきます。
現在行っている治療から方向転換せざるを得ないケースも多く、治療が一時頓挫する場合もあり。。。
やっかいな季節になってきました。以下のコラムも是非参考にしてください。養生をもう一度、徹底していきましょう。
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◇養生の実際・梅雨 ~梅雨の体調不良と守るべき養生~
◇養生の実際・夏バテ対策編1 ~はじめに~
◇養生の実際・夏バテ対策編2 ~なぜ夏にバテるのか?胃腸の温存と水分摂取~
◇養生の実際・夏バテ対策編3 ~夏バテは胃腸に始まり胃腸に帰結する~
◇養生の実際・夏バテ対策編4 ~寝ることの意味・睡眠と夏バテ~