「未病」。
この言葉、効いたことある人も多いと思います。
東洋医学の言葉です。
そして最近ではより広く使われています。
未病とは、「病気にはなっていないが、健康から離れつつある状態」という意味です。
これから病もうとしているが、まだ顕在化はしていないという状態です。
未病の段階で対処し、いかに「病に成ること」を防ぐか。
超高齢化社会が進む昨今、予防医療の観点からしきりに使われるようになりました。
そして「未病を治す」には、
もともと東洋医学の言葉であることからも、東洋医学で対応するべきですよと。
「漢方薬で未病を治そう」という標語。
これをしばしば目にすることがあります。
ただし私はこの標語、賛成することが出来ません。
大切な概念ですので、だからこそちょっと考えてみたい。
もう一度未病とは何かを伝える意味でも、私の考えを述べてみようと思います。
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未病という言葉が初めて世に出たのは、
約2000年前の中国の書物である東洋医学の聖典『黄帝内経素問』です。
その本の中にある「四気調神大論」の一節に、
「聖人は已病を治さずして未病を治す」と記載されています。
聖人はすでに病になってからではなく、なる前に治療を行うという意味。
ただしここで知っておいて欲しいのは、
黄帝内経には一言も、「薬で治す」とは書いていません。
『黄帝内経』では未病の一節の前に、以下のような文章が記されています。
「夫れ四時陰陽なる者は、万物の根本なり。万物の終始なり。死生の本なり。これに逆らえば則ち災害生じ、これに従えば則ち苛疾起こらず。是、道を得るというなり。」
簡単に言うと、季節や昼夜というものは万物の根本であり、死と生との本質であると。
そしてそれに逆らえば病み、従えば問題は行らないと。
つまり災害・病の本質は「逆」にある。
四季・昼夜という自然の流れ、そこに逆らってしまう生活が病を生むのだというのです。
日本では江戸時代に、名医・貝原益軒が未病の考え方を世に広めました。
そして益軒が書いた本の名前は『養生訓』です。
良く分かっています。貝原益軒は未病の本質を捉えています。
つまり未病とは人の生活習慣の中で生じ、人の生活の中で治りもするということです。
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未病という便利な言葉を用いて、
やれあれを飲めとか、漢方薬で未病を治そうとか、
これは全くの誤解です。未病とはそういうものではありません。
あくまで未病を作るのは「生活」。
生活習慣こそが、未病の要です。
東洋医学(古典)から見た未病の治し方、
それを要約すると以下のようになります。
〇天候気候を感知予測してそれに合わせた生活習慣を行う
〇食生活を改める
〇怠けた生活をしない
〇食欲性欲などの欲を制御して生活する
全てお金がかかりません。
ただし、全て努力が必要です。
言われてみれば、どれも当たり前のことですが、
これが出来ている人は、かなり少ないと思います。
「未病を治す」とはお金をかけて行うことではなく、
生活を見直し、知り、気付くことで行うものです。
だから未病という言葉を営利目的に使用することはあまり賛成できないし、
少なくとも漢方薬で対応することではありません。
そして未病を治すためにこれを食べると良いですよとか、これを飲むと良いですよという意見もありますが、
それもどうだろう。。。そういうことではない気がするのです。
なぜなら、それを食べていれば健康が保証されるようなスーパーフードがあるはずがない。
あれば世紀の大発見です。
あくまで食事はバランス良く。全ての人に共通する真理を突くような食べ物など、
そうたやすくあってたまるものか、と思うのです。
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人は個人差の塊です。
養生は基本を守りつつ、その他の派生は自分で見つけていくことが大切です。
よくよく注意していると、自分の体が教えてくれます。
細かな体調不良を、症状として自分自身に教えてくれているのです。
だから、本当に自分に有益な情報をもたらしてくれるものは、
本でもなく、テレビでもなく、SNSでもなく、自分自身です。
そしてそれが(自分で良いと感じたものが)、他の人にも良いという保証は全くない、
ということも、知っておく必要があります。
昔の人はきっと今の人よりも、自分に目を向けていたんだと思います。
ああなりたいとか、こうしたいとか、周りに目を向けるよりも、
もっと自分の体に目を向けていた。そんな気がするのです。
今は自分の体をおろそかにして、
他の人の事ばかり目についてしまう時代だからこそ、
「未病」という概念が現代人に、反省することの大切さを教えてくれているようにも思います。
あらためて言います。
未病とは、健康な状態から病へと向かうその過渡期を示しています。
そして同時に、病のベクトルが生み出されていく様子を示すものでもあります。
『黄帝内経』や『養生訓』が示すように、人が病むのはその生活の不養生から。
その考えこそが、未病という概念の根底に流れています。
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