桃核承気湯(とうかくじょうきとう)
<目次>
■出典から紐解く桃核承気湯の性質
■どう使えば良いのか・本来の使い方とその応用
■合方による運用について
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月経前にのぼせて便秘し生理痛がひどい。そんな時に使う薬を一つ挙げろと言われたら。
漢方を知る人ならば、その選択肢の一つに桃核承気湯が入るでしょう。婦人科で使われる漢方薬の中では多少マニアックな薬かも知れません。
しかし大変由緒正しい漢方薬で、人類の永い歴史の中で生き残り続けている薬です。時代が変わっても薬としての意義が失われていないという意味でも、押しも押されぬ名方の一つだと言えるでしょう。
漢方を勉強している方ならばほとんどの人が知っています。しかし運用の機会はそれほど多くは無いかもしれません。
下剤として有名なので、婦人科にて便秘を起こしている人に使われる機会があるくらいでしょうか。おそらく当帰芍薬散や加味逍遙散といった処方のほうがずっと沢山使われていると思います。
そしてそうであればあるほど、私は勿体ないと感じます。
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婦人三大処方といえば当帰芍薬散・加味逍遙散・桂枝茯苓丸ですが、桃核承気湯はこのうちの桂枝茯苓丸に近い薬です。
両者ともに「瘀血」を解除する「駆瘀血剤」です。瘀血とはうっ血のようなある種の血流障害を指していると言われています。
すなわち婦人科に見られる月経血の乱れ、例えば経血に血の塊が混ざるなどの症状を目標に出されます。そして桃核承気湯も桂枝茯苓丸も、子宮筋腫や子宮内膜症、また不整出血や月経困難症などに使われる機会が多くあります。
ただしそこで疑問が出てきます。桃核承気湯と桂枝茯苓丸、両者はいったいどのように使い分けたら良いのでしょうか。
下剤としての効果の有無と答える人は多いと思います。では桂枝茯苓丸加大黄と、桃核承気湯とではどうでしょう。
共に下剤としての効果があったとしても当然違う薬です。その違いを明確に理解していなければ、どちらを使って良いのか分かりません。
知名度としては明らかに桂枝茯苓丸の方が上でしょう。すなわち明確にその使い分けが出来なければ、桃核承気湯が使われることはありません。
すなわち本方があまり使われていない理由、それはおそらくこの方剤が理解しにくく、使い方が難しいからです。
しかし桂枝茯苓丸と似た処方ですので、桂枝茯苓丸と同じように本来はもっと頻用されていても良いはずです。
そこで今回のコラムでは本方の特徴を明確にした上で、使い方のポイントとその応用を示してみたいと思います。
便秘に下剤として使うだけでは勿体ない。どのような場で使えるのかも含めて解説していきます。
出典から紐解く桃核承気湯の性質
【出典】『傷寒論(辨太陽病脈証幷治中第六)』
「太陽病不解、熱結膀胱、其人如狂、血自下、下者癒。其外不解者、尚未可攻、當先解外。外解已但少腹急結者、乃可攻之、宜桃核承気湯方」
太陽病解せず、熱膀胱に結び、其の人狂の如く。血自ずから下り、下る者は癒ゆ。其の外解せざる者は、なお未だ攻むべからず、まさに先ず外を解すべし。外を解し已りて但だ少腹急結する者は、乃ち之を攻むべし。桃核承気湯方に宜し。
【意訳】
感染症にかかった後になかなか治らず、熱が膀胱に結んでまるで狂ったように騒いだとしても、血(経血)が自然と下れば癒えるものである。だから薬で血を下そうと思っても、まだ寒気などがあって外の症状が解除されていなければ下そうとしてはいけない。まず外の症状を解除しなさい。外の症状が取れ終わった後に、それでも但だ下腹部が急結していれば、その時点で薬で下しなさい。桃核承気湯が良いでしょう。
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感染症にかかったのち、熱が膀胱に結んでいると、狂人のように発狂すると。そして血が下って自然と治る現象があることを示唆しています。不思議な条文に感じるかもしれません。
この時起こっていることを詳細に突き止めることは難しいものの、ここではこのような現象があると仮定しましょう。そして条文で言う「膀胱」ですが、これは文脈から推測するに膀胱単独ではなく「下腹部(少腹)」と広く捉えて良いと思います。そして桃核承気湯は、下腹部の「結(詰まり)」を取る薬として紹介されています。
すなわち桃核承気湯は、大腸や子宮・膀胱などの骨盤内臓器の血流を総じて促すことで、これらの機能障害や血流障害に使う薬だということが分かります。
ちなみに桂枝茯苓丸も桃核承気湯も創作者は同じだと言われています。『傷寒論』と『金匱要略』の著者・張仲景です。そして桂枝茯苓丸と桃核承気湯、その両者の違いを、張仲景は上記の出典にてすでに明確に示しています。
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桂枝茯苓丸と桃核承気湯、両者の方剤で最も大きな違いとは何か。まずは大黄・芒硝の有無。それが一つです。
しかしより明確にこの方剤の性質を決定する要因があります。それは芍薬の有無です。
桂枝茯苓丸には有る芍薬が、桃核承気湯には無い。それが最大のポイントです。芍薬は以前のコラムでお話したように、『傷寒論』では身体の興奮状態を落ち着かせる生薬として用いられています。
つまり桃核承気湯に芍薬が無いと言うことは、興奮に対するブレーキがないということです。下腹部の充血を迅速に消し去るために敢えて芍薬(ブレーキ)を入れなかった、それが桃核承気湯における創作者の明確な意図です。
すなわち即効性を持って効かせようとする意図。浅田宗伯が本方を評して「思いのほか揮発する」とはその点を指しています。
つまりこの条文の中で張仲景が最も方剤の性質を集約させた文言は「少腹急結」。「急に結ばれた障害を解除する」という点にこそ、本方最大の性質が示されています。
どう使えば良いのか・本来の使い方とその応用
桃核承気湯は便秘や婦人科系の病だけでなく、総じてさまざまな疾患に応用することができます。
ただし本来この方剤は「急」の性質を帯びた病に対応するために作られました。そこを理解しておくことが大切です。
そして部位としては「少腹」。すなわち先ずは骨盤周りに起こる症状を目の付け所にします。これらの点を踏まえながら、具体的な使用方法を示してみます。総じて下腹部に対して素早い効果を発揮させる、というのが本来の使い方です。
■便秘
下す薬として作られた本方は、本来は便を下すのが目的ではなく、あくまで便を出させることで下腹部に詰まる血を疎通するというのが本旨です。そのため単なる下剤として使うだけでは勿体ないと思います。
例えば私にこのような経験があります。
壮年の女性の患者さまで、突然便秘が起こり、かつ便があまりにも出なくて下腹部が苦しく、便を出そうと思っても石のように硬くて出ず、いきむほど気が狂いそうになって辛いという方に本方を飲ませたところ、次の日の朝には気持ちよく通じがつくと同時に、顔まで昇っていた火照りがスーッと引いて、同時に気持ちが大変楽になって、ご家族の方から「まるで憑りついていたものが落ちたようだ」と言われた。
おそらくこのような病態が「熱膀胱に結んで其の人狂の如く」と張仲景が呼んでいた状態ではないかと想像します。
ちなみにこの時大便が排出されるだけでなく、経血が出て月経が始まったとしても私は驚かなかったと思います。あくまで下腹部全体に効果を及ぼす薬だからです。
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単なる便秘にも使えない薬ではありませんが、本方の主眼は「急結」にあります。すなわち結ばれた結果波及していくる「急」の性質を帯びた火照りや頭痛、首コリや精神不安などに効果を発揮するイメージです。
ちなみに、ここでいう「急」とは急性症状という意味(発症してからの期間が短い)とはやや異なります。あくまで「急」という性質を帯びた症状を指していて、勢いよく、時に激しく起きている症状を指しています。
すなわち慢性の病であろうともこの「急」の性質を帯びた症状があれば桃核承気湯の出番だと言えます。例えば慢性的に生じている便秘であってもどこか日常的に「急」の性質を帯びる症状が発生している場合、例えば顔の火照りが継続しながらも何かをきっかけにそれが激しくなるとか、時に頭痛が激しく起こるとか、気持ちが急に乱れてくるとか。あくまで症状に「急」という性質が垣間見えるところに目の付け所があります。
■腰痛・下腹部痛(生理痛・陰部痛・排尿痛)・股関節痛・坐骨神経痛
桃核承気湯は優秀な痛み止めです。血流を促して充血・うっ血を解除することで痛みを止めます。
しかも急峻にその効果を発揮することから、多くの痛みにその痛み止めとして頓用されてきました。打撲の晴れや痛みを迅速に解消する「血打撲一方」という薬がありますが、浅田が提示したその薬の原型は明らかにこの桃核承気湯です。
桃核承気湯も打撲に使えますが、この薬の本旨は「下腹部」に効かせる点にあります。『類聚方広義』には肛門と陰部の間の打撲である「会陰打撲(昔は馬を使っていたためしばしば起こった)」には本方をできるだけ迅速に使えという有名な解説が載っています。
そして打撲のみならず骨盤内・骨盤周りを主としてその血流を促す効果を発揮します。月経痛はその最たる例です。さらに膀胱炎に伴う排尿痛。そして陰唇などの陰部に起こる腫れや痛み。例え原因不明と呼ばれるものであったとしても、使って効果を発揮することがままあります。
また骨盤内の血流障害は骨盤内だけに止まらず、より広い範囲へと波及していきます。故に本方にて股関節が取れることがあり、また腰痛も同じように解消されることがあります。さらに腰から両下肢へと延びる坐骨神経痛も本方にて回復することがあります。
ちなみに浅田宗伯は「瘀血の目的は必ず昼軽くして夜重きものなり」と言っています。私はこの口訣をヒントに、夜間寝床につくと陰部が焼けるように痛くなり寝ていられないという女性に本方を使ったところ著効を得たことがあります。
■おできやニキビ跡の赤み
桃核承気湯の本旨は「少腹(下腹部)」への効果にあります。しかし本方はそれだけにとどまらず、その派生として皮膚や鼻腔などのうっ血・充血を去る薬として頻用されてきました。
まずは止まない鼻血に使われます。頓服薬として使っても効果的です。またおできやニキビ後に残る皮膚の赤み、すなわち毛細血管が拡張することするによって生じる炎症後紅斑や肥厚性瘢痕(いわゆるニキビ跡)に伴う赤みに対しても古くから使われてきました。浅田は「此方にて快下する時は思ひの外揮発するものなり」と本方の効能を評しています。
皮膚科ではニキビ跡に桂枝茯苓丸や桂枝茯苓丸加薏苡仁がしばしば出されますが、浅田の言うところの「揮発の効」を求めるのであれば桃核承気湯を運用するべきかもしれません。先で述べた通り、桂枝茯苓丸加大黄にすれば同じだろうと思っていてはいけません。求める効果と使いどころとを明確に分けて考える必要があります。
合方による運用について
一つの方剤を他の方剤と合わせて使うことを「合方」といいます。桃核承気湯は大変シンプルな処方であることから、他剤と合方しやすい薬でもあります。
例えば当帰四逆加呉茱萸生姜湯との併用は有名です。しもやけ(凍瘡)にて手や足の指が腫れて充血が取れないと言う場合にしばしば運用されます。また便秘のみならず胃の詰まりを感じやすいという場合であれば、大柴胡湯や柴胡桂枝湯と合わせる方法も効果的です。
ただし、他剤と併用するとその多くは芍薬が入ります。桃核承気湯の良さ、つまり「急」に対応し得る薬能にブレーキがかかることになります。
そのため合方ではそれを調節するようにして使うことが大切です。すなわち充血を去る効果などの即効性を求めるならば桃核承気湯を重くし(分量を多くし)て芍薬剤を軽くする。逆に着実かつ長期的に治してい際に効き目を良くするスパイスとして使う場合には、芍薬剤に軽く桃核承気湯を合わせるようにします。
虚実や寒熱、表裏や陰陽はよくよく論じられるところです。しかし「急・緩」はなぜかほとんど論じられません。しかしこれを意識するかどうかで処方運用とその効果はだいぶ変わります。桃核承気湯を合方として使う場合は、ぜひ芍薬に注目しながら運用してみてください。
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最後に一つだけ。
桂枝茯苓丸と桃核承気湯の違い、そこには急・緩の違いがあります。
ただしこの急・緩の違い、私の【漢方処方解説】を読んで頂いてる方であれば他でも目にしたことがあるような気がしませんか。
そうです、葛根湯と麻黄湯です。この両者も急・緩の違いで論じることができます。
すなわち急・緩という尺度が『傷寒論』に何らかの軸を持たせている。そういう可能性を一つ一つ紐解くことで、漢方への理解が一歩一歩と、その深みを増していきます。
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〇参考コラム
【漢方処方解説】葛根湯・葛根湯加川芎辛夷(かっこんとう・かっこんとうかせんきゅうしんい)
■病名別解説:「便秘」
■病名別解説:「不正性器出血」
■病名別解説:「月経不順(生理不順)」
■病名別解説:「更年期障害」
■病名別解説:「月経痛(生理痛)・月経困難症」
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漢方坂本/坂本壮一郎|note