健康とは何か

2025年04月17日

漢方坂本コラム

医療に携わる仕事をしている中で、

大切なことなのに、普段は当たり前すぎて気にも留めていない、

そういう疑問がいくつかあります。

例えば「健康」とは何か、とか。

健康になるために、患者さまの私たちも日々奮闘しています。

健康こそが目標で、ゴールであるはずなのに、

いざ健康とは何か、と考えるとこれがまたとても深い。

ちなみにWHO(世界保健機関)に言わせると、

健康とは「肉体的、精神的及び社会的に完全に良好な状態であり、単に疾病又は病弱の存在しないことではない」

とのこと。

良好な状態、、、とは?

言いたいことは分かるけど、分かるようでいて分からない。

そこで私見ではありますが、

自分なりに考える「健康」というものについて、

ちょっと話をしてみようかなと。この前、ある患者さんとお話していてそう思ったんです。

膵臓の機能を改善するべく、当薬局におかかりになっているある患者さま。

漢方薬と養生とで症状は消失。調子の良い状態をずっと保ちながら、漢方の服用を続けておられます。

しかし先日病院にて定期検査をしたところ、膵石が以前よりも少しだけ大きくなっていると言われたそうです。

それを聞いてご心配になられた。努力を続け、症状が良くなっているのにもかかわらず、膵石が大きくなっていたからです。

本人とご家族の不安をよそに、病院の先生はそれほど大したことではないというリアクションです。

膵石の大きさも含め、今すぐ何かをしなければいけないという状況ではないからです。

また養生や漢方薬による配慮を行っていなければ、もっと大きくなっていた可能性もあります。

つまり少しばかりの拡大は、これくらいで済んでいたと考えることもできる。

しかし体調がすこぶる良くなっているのにも関わらず、検査で悪くなっていると聞かされたら、

それはショックでしょう。患者さまの不安も、当然の心情として理解できます。

病の原因をずっと抱えているようなお気持ちでしょう。できることなら、縮小もしくは消失させたいと。

ただし、そうであったとしても、

私はこの方の状態は決して不健康ではないと思うのです。

むしろ、この状態で維持できていることこそが「健康」だと、私は感じるのです。

私は数年に一回のペースで人間ドックを受けていますが、

毎回血小板の値が低く出ます。基準値よりも必ず少なめに出ます。

また甲状腺に嚢胞があります。毎年出ますが、年とともに若干拡大してきています。

ただし、だからといって問題ではありません。今すぐ何かの治療が必要という状態ではないからです。

血小板が低いのは、もしかしたら遺伝かもしれません。親戚にもそういう人がいます。

甲状腺の嚢胞自体も悪いものではありません。機能を果たしていない部分がある、という意味で極端な拡大を予防していけば少々は問題ありません。

でももしかしたら、人によっては病を抱えているように見えてしまうかも知れません。

しかし断言できます。これは不健康ではありません。

むしろ「今後の自分に予測される病」が見えている状態、つまり「そこに配慮すること」のできるとても良い状態です。

この世の中に、一切病気にならずに死を迎える人は果たして何人いるでしょう。

そういう統計を見たことがないので分かりませんが、おそらくかなり少数だと思います。

人は年を取れば、ほぼ確実に何らかの病に罹患します。

人の死亡率は100%、それと同じくらい、年を取って病にかかることはごく当たり前のことです。

であるならば、健康とは「病にならない状態」のことではありません。

病にかからない人など、ほとんどいないからです。

では健康とは何か、

健康とは「今後の自分にどんな病が起きやすいのか、その予測が出来ていること」、

そして「現在そこに対して的確な配慮ができていること」、これこそが健康な状態だと私は思うのです。

今の世の中には、病にかかることが不幸だ、悪だという風潮が多く見受けられます。

そして何らかの持病がある方は、その時点で健康ではない、と思われてしまう方も多いと思います。

しかしこれから先もずっと病にかからない人など、ほとんどいないのです。

確かに悪いところが見つかっていることは不安ですが、現在として不快な症状なく生活を送ることが出来ているのであれば、

それは先手を打てるということです。これから先、明らかに健康を害している状態にならないよう、気を付けることが可能だということです。

そしてそれは、自分が今後どんな病にかかるのかが分かっていない人よりも、ずっと健康的な状態だと私には見えるのです。

病まない人はいません。病は必ず来ると分かっているならば、

どこに、どんな病が起こりやすいのかを知っていることこそが、

健康な状態でいるために必要なことだと、私は思うのです。

先ほどの患者さまのお話に戻りますが、

この患者さまは、病が見つかるまでは、みぞおちの激痛に耐えながら生活されていました。

定期的に襲ってくる激痛。病院では、胃潰瘍・十二指腸潰瘍だろうと予測されるも検査上問題なし。

そのうち耐え難い激痛から救急車を呼び、そこで初めて膵炎と診断されました。

退院後、漢方治療をはじめ、今ではもうほとんど痛みは起こらなくなっています。

食事の養生もきちんと守られています。ここ数年ないくらいに、体調の良さを自覚されてもいます。

ただし、もしかしたら膵石自体は数年前の方が小さかったかもしれません。

それでもあきらかに、今の方が体調が良いと自覚されています。

さて、今と昔と、どちらの方が健康的だと言えるでしょうか。

私は「自分のウィークポイントを理解し、そこに向けて配慮ができている状態」こそが健康だと思っています。

すなわち「今後自分に起こるであろう病が見えているかどうか」が重要だと感じるのです。

病を一度経た人は、そこにちゃんと向き合うことさえできていれば、

病を経たからこそ健康になれるはず。

もし健康の定義が、

病など全く意識しないまま生活していること、なのだとしたら、

それほど怖いことはない。と、言えるかもしれません。

なぜならば、医療も医学も健康も、

すべて自分(人間)のことを知る、という姿勢の上に成り立っているからです。



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※コラムの内容は著者の経験や多くの先生方から知り得た知識を基にしております。医学として高いエビデンスが保証されているわけではございませんので、あくまで一つの見解としてお役立てください。また当店は漢方相談を専門とした薬局であり、病院・診療所とは異なりますことを補足させていただきます。