天気と抑うつ状態

2022年09月01日

漢方坂本コラム

最近、また天候が不安定になっています。

体調を悪くさせている方が多く、

心身の不調によるお問い合わせが増えてきています。

湿気を帯びた大気。晴れたと思ったらすぐに曇る空。

雨が降ったり止んだりを繰り返す、気圧および気温の波。

さらに、巨大で猛烈な勢いのある台風11号が、南に発生しています。

その影響を受けて、自律神経が乱れてることが大きな要因として考えられますが、

ただし今回の体調悪化は、7月や8月に起こっていた天候不良とは少々違い、

やや独特な様相を、帯びています。

まず、患者さまが訴えられている症状として、強い倦怠感があります。

頭痛や息苦しさ、胸の詰まりや耳鳴り、不眠といったいつもの症状を伴いつつも、

体がとにかくだるい・やる気がおきない、といった「だるさ」が全面に出ている印象があります。

そして、それに伴って起きている症状がもう一つ。

それが、今回の体調不良の最大の特徴です。

「抑うつ状態」を併発しているということ。

ここ数週間の間に、非常に多くの患者さまに、うつ・抑うつ症状の傾向が表れています。

抑うつ状態とは、うつ病とは異なります。

病気というよりは、一時的な気分の落ち込みを指しています。

やる気がおきない、興味がわかないという意欲の低下、

さらに自分を責めたくなる、人に過剰に申し訳ないと思うなどの、

気分の落ち込みが一定期間続く状態を指しています。

この抑うつ状態は、誰であっても一時的に起こることがあります。

しかし天候によって自律神経が乱れた結果、それが長期に及ぶこともままあります。

それが、今回の不調の多くに介在しています。

さらに、この抑うつ状態が関与しているか、していないかによって、

治療の難易度が格段に変わってくるのです。

抑うつ状態は、単にやる気が起きないというだけでは言い表せません。

意欲というものは何においても必要です。特に治療という困難さに立ち向かおうとする場合には、その基盤となるべき力だと言っても過言ではありません。

抑うつ状態は、気分の落ち込みというだけでなく、

このままずっと治らないのではないか、

このまま今の治療を継続していても意味がないのではないか、

そういう治療に対して前向きになれない感情を生み出します。

さらに、その気持ちにあらがおうとして、

どうにか解決するよう、心を奮起させたとしても、

不安で落ち着かず、何をどうしたら良いのか分からないという焦りを生じる。

治療を諦めてしまう感情が、どうしても芽生えてきてしまうのです。

治療というのは、「道のり」です。

今現在行われている治療が、自分にとってどういう意味があるのかを理解することが非常に重要です。

それは、何の漢方薬を飲んでいるのかということ以上に大切で、

今現在の治療が、どのように改善へと向かうのか、

その改善へ向けてのイメージを持つことが、非常に大切になってくるのです。

たとえまだ症状があったとしても、このイメージがぼんやりとでも出来ていれば、

治療という道のりを歩いていくことが出来るものです。

しかし抑うつ状態は、このあゆみを一時的に止めてしまいます。

改善へ向けてのイメージを持てなくなる。そして今、何が行われているのかを、考えることが出来なくなってしまうのです。

何をやってもダメなのではないかという徒労感。

そういう心情は、治療への思いを失わさせます。

したがってさまざまな精神的症状の中でも、

抑うつ状態は、治療に臨む気持ちを失わせる、非常にやっかいな症状なのです。

ただし、毎年そうなのですが、

この症状は、ある時にパッと消え去ることが多いのものです。

台風が過ぎて、大気の湿気がはらわれる。

そして高気圧とともに、上空にスカッと済んだ空気が澄み渡れば、

自然と、気が晴れてくるものです。

この誰しもが感じたことのある感覚こそが、抑うつ状態を消失させるための本質的なメカニズムです。

気が晴れて、上を向く。

常に変化を繰り返しながら生きている人間だからこそ、必ずこの変化が訪れます。

今まで観させて頂いた患者さまを通して、

私はこの時期の抑うつ状態が嘘のように晴れ渡る瞬間を、しばしば目の当たりにしてきました。

ポイントは運動だと思います。

気持ちを変えるならば、気持ちだけを変えようとしてはいけない、ということです。

まずは体を動かしてみる。全身の筋肉を活動させて、血液が体の皮膚へと到達していくイメージを持つ。

血液がちゃんと体に流れれば、それだけでも体が軽くなるものです。

気持ちを変えるならば、まず体から。

それが、基本中の基本だと思います。

人体最大の筋肉は消化管ですから、胃腸に負担をかけない食生活も、ぜひ気を付けてください。

特にこの時期、果物で胃腸を壊す方が多くなります。

体がやられると、心も引っ張られる。

だからこそ、まずは体から。心と体とがつながっているという人体の絶対基盤を、ぜひ上手に利用してください。

私は雨の音が好きです。

そして台風の風も、嫌いではありません。

夏場にたまった大地の濁気を、振り払ってくれているような気さえします。

曇ることで日照時間が減り、どうしても心身に光が入り込みにくくなるこの時期、

しかし、それでさえも、地球のダイナミズムの一つ。

我々はどうしたって、地球の息吹によって生かされているのです。



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