思い出話です。
漢方の修業時代、私がお会いしてきた漢方の先生方は、ことごとく意地悪でした。
質問をしても、いつも何となくズレた答えしかくれない。
あしらわれるような、それでいて何か大切なことを言っているような。
そんなフワッとした解答しか返ってこないのです。
さらに、「これはどうしてだと思う?」なんて問題を出してくるくせに、
その答えを、教えてくれないのです。
考えさせるだけ考えさせておいて、
「考えることが大切だから」なんて言って、答えをくれない。
悔しかったなぁ・・・。ぜんぜん腑に落ちません。
その質問や問題を頭に残したまま、私はずっと悶々としていました。
そしてそういう意地悪な先生方に、
私は今、深く感謝しています。
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漢方の臨床を始めてから気が付いたこと。
それは、解答はそれほど重要ではないという事実です。
患者さまに合った処方をお出しすることが解答だとするならば、
極論を言えば解答など何でも良い。
その解答へと至る道筋にこそ、症状を改善させるための薬能が宿っています。
患者さまのお体にとって最も核となる問題点は何なのか。
それさえ正しく掴めていれば、その後の手法は枝葉のようなもの。
つまり解答を見つける能力よりもずっと、
問題を見つけ、作り出す能力の方が臨床では求められています。
質問に答えてくれないのは、私の質問の質が低いからでした。
問題の答えを教えてくれないのは、なぜそのような問題を出しているのかということこそが、本当の問題だったらです。
どうやって辿り着くのか。それこそが重要。
エレガントな解答は、結論がエレガントなのではない。
そこへと至る思考こそが、エレガントなのです。