天が大海原のように荒れた三月を経て、
四月に入り、症状が安定し始める方が増えてきました。
今年は桜が長く咲き続けたそうです。
それだけ一定の気温が続いてくれたということなのでしょう。
令和7年は年明けから年末まで、激しい天候の波がずっと続くのではないかと危惧していました。
だから少し安心しました。こうやって安定してくれる時もある。
ただし油断はできません。未だに大きな寒暖差は続いています。
中には4月に入ってからのほうが調子悪いという方もいます。
雨も降ったり止んだりしていますし。
気温と気圧は決して凪とは言えない波を未だに打ち続けています。
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気象病という言葉を最近よく耳にするようになりました。
確かに近年の天候はその波が非常に激しく、
夏から急に冬になったり、早すぎる梅雨が来てみたりと、安定した良い時期が大変少なくなりました。
それを受けて、明らかに天候の波によって体調を崩す方が増えてきた。
そして同時に、そこに漢方薬で対応していくこともまた、近年増えてきています。
その中で、一時的に波を打ったとしても、天気が安定すればすぐに良くなる人がいます。
しかし逆に、天気が安定したとしても、そのまま体調不良が続いてしまう人もいます。
この差が如実に現れます。経験とともにそれが分かってきました。
そして患者さまから「天気で悪化している」と聞いた時に私がまず考えるのは、
とにかく後者の状態には陥らないように配慮していくことです。
天候の波を受け体調が悪くなった後、天候が安定してもずっと体調不良が続いてしまう状態。
私はこれが最も怖い。避けなければなりません。
なぜならば治療を道のりと考えた場合に、これが起こってしまうと立て直しにかなりの時間を要することがあるからです。
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天候が安定しても体調不良が続いてしまうケース。
これに陥ってしまうケースには、典型的なパターンがあります。
こうなってしまうと、体調が戻ってこないよというパターン。
少し説明していきましょう。
まず、天候の波を受けて起こる激しい症状、そこに対応するべく薬をどんどん変える。
そうやって出てくる症状一つ一つに対応していくこと。
これをやることで、私は今までたくさんの失敗を重ねてきました。
治療が空回りしてしまうパターンです。
天候の波を受けて症状が出る場合、自律神経の乱れをが強い人であれば特に、
どうにかすぐ治してほしいと、お気持ちに余裕がなくなります。
そしてさまざまな症状が出たり消えたりを繰りかえします。
私も当然すぐに症状を取りたい。だから症状に合わせて薬を変えます。
すると新しい薬を飲み始める頃には、また違う症状が出てきます。
そしてまた次の症状に合わせて、薬を繰り返し変えていきます。
これです。これをやると、治療は必ず後手に回ります。
結局何をしているんだか分からない、そういう治療になってしまいます。
さらに治療が症状に振り回されている間、今まで治療していた本質への配慮が欠け、そこが悪化します。
そしてやっと天候が安定しても、根元まで乱れてしまっているために体調不良が戻らなくなってしまいます。
結局、薬を変えずにずっと同じ薬を飲んでいた方が早く治っていたね、という状態になる。
私はこの失敗を何度も何度も繰り返してきました。
だから私は、天候の波によって症状が悪化している場合、
薬を変えることには、かなり慎重になります。
治療には右往左往せず忍ぶべき時がある。
どんなにその症状を早く取ってあげたいと私が感じたとしても、
本質を見失わない治療、つまり「ゆくゆくは天候に左右されない体を作っていくための治療」を芯に捉えておく。
症状が波打つ時ほど慎重に。
それを肝に銘じながら、対応するよう心がけています。
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天候の波が起こった場合に、
最も配慮しなければいけないことは、本質への治療をおろそかにしないことです。
なぜならば、本来治療するべき本質まで乱れてしまった時に、症状が戻らなくなるからです。
その本質とは何かというと、
天候に左右されやすい体の原因であり、
自律神経が乱れやすい体の原因であり、
事あるごとに様々な症状が出てしまう体の原因です。
東洋医学的に見た場合に把握できるそれらの本質が根元であり、最も回復させなければいけない部分です。
そして天候の波によってこの根元まで乱れてしまうと、天気が安定してもその乱れが戻るまでは症状が続いてしまいます。
根元がしっかりしている木であれば、強風を受けて葉は揺れますが幹は揺れません。
一方強風によって根元まで曲がってしまうと、風が無くなっても葉が揺れ続ける。そういうイメージです。
例えば胃腸の弱さが根元である患者さまがいたとします。
そして天候の波によって頭痛や耳鳴り、動悸やめまいや不安感が出てきたとします。
ただし食欲はあり、胃もたれもなく、便通も調子よい、そうであれば、天候の波が落ち着けばこれらの症状はおのずと消失していくものです。
しかし胃の張りが強まり、便通も乱れ、食欲もわかない、というように胃腸まで悪化してしまう場合は、波が落ち着いても体調不良が継続してしまう可能性が高い。
故にこういう場合は、根元の乱れに配慮し続けることが必要です。
つまり波によって生じた症状に惑わされることなく、本質への治療を続けていった方が良い場合があるということです。
さらに胃腸に乱れが起こっていなかったとしても、軽々しく薬を変えるべきでもありません。
理由は先ほど説明した通りです。症状に振り回されてしまい本質への配慮が欠けると、今まで良くなっていた根元が徐々に乱れ始めてしまうということが良くあるからです。
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気象病治療において、解決しなければいけない命題は2つあります。
一つは、天候の波による一時的な悪化にどう対応するか。
そしてもう一つは、天候に左右されない体をどう作っていくのか、です。
年々天候の波が明らかに激しくなってきている、そんな時だからこそ、
これらの命題をどう解決していくのかを、より深く考えていかなければなりません。
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