漢方とアート 6

2021年01月19日

漢方坂本コラム

真に独創的な画家にとって、

バラを描くことより難しいことはないものだ。

なぜならそのためには、

まずこれまでに描いたすべてのバラを忘れる必要があるからだ。

-アンリ・マティス-

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広く医療全体の俯瞰して見つめてみると、漢方治療には明らかな弱点があります。

「ガイドライン」が無い、ということです。

「ガイドライン」とは各疾患ごとに定められた治療方針のことです。

西洋医学ではこれがちゃんと定められています。

だから基本的にはどこのお医者さんにかかっても、ガイドラインに則った、ある程度質の高い医療を受けることが出来ます。

しかし、漢方にはこれがない。

だからどうしてもその治療効果が、個人の力量に依存してしまいます。

正確に言うと、ガイドラインに近いようなものが有るには有ります。

漢方専門の書籍に載っています。ネットに書いていることもあります。

しかし西洋医学と比べて、その質の低さは否めません。

それに則って治療したところで、満足のいく治療効果があらわれないからです。

これは漢方治療の宿命みたいなものです。

治療手法自体を、「自身の経験」により培わなければなりません。

このような性質は医療全体から見れば明らかに欠点です。

しかし、このような性質があるからこそ、どこにいっても治らなかった病が改善へと向かう、

そういう事実があることもまた、現実なのです。

実は漢方治療では「ガイドライン」を作った時点で、治療が上手くいかなくなるものです。

融通無碍(ゆうずうむげ)。

漢方の世界では、治療に長けた先生方の処方運用をしばしばこう表現します。

一つの見方・考え方にとらわれるのではなく、自由自在にものを見、考え方を変え、よりよく対処していくということ。

どんな病であっても個人差があり、その差を見決めるためには疾患というカテゴリーから時に思考を外さなければなりません。

しかし、何でもかんでも自由にやればいい、ということでもないのです。

やはり各々の病には明らかな特徴があります。その軸は、必ず理解し把握していなければなりません。

その先にこそ自由があります。

軸があるからこそ、融けあって通い合い、障碍を受けずに流れることが出来るのです。

執着することなく物事を見つめる目。

経験を拠り所にしつつも、それに依存しない心。

そのな姿勢が必要なのです。だから、漢方治療にガイドラインを作ることが難しいのです。

色彩の魔術師、アンリ・マティス。

彼が言うように、バラという固定観念を捨てなければ、本質を描くことは出来ません。

しかし、バラを知らなければ、バラを描くことさえも出来ない。

物事を見るということの苦悩を、感じずにはいられない名言です。

漢方の世界も、全く同じように私にはうつります。

どんなに治療に慣れても、初めて見るかのように。

誰一人として同じ人間はいない。しかし、人間であることに変わりはない。

そういう心持ちが、漢方治療には必要なのです。



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