昔聞いた話です。
昭和の時代に、漢方家たちのある集まりがあったそうです。
大きな集まりだったのだと思います。全国から人が集まっていたそうです。
関東の古方派たちの先生が中心となって、ある話題で盛り上がっていました。
古方派が良く使う八味丸(はちみがん)の話題です。八味丸は良く効く。八味丸は良い薬だ。そんな話で盛り上がっていたそうです。
そこにポツンと、ある関西の先生がいらっしゃいました。
先生は一貫堂といわれる、どちらかと言えば後世方派の先生です。
一人の古方派の先生が、その先生に質問しました。
「先生は八味丸をあまり使いませんよね。あんなに良い薬なのに、なぜ使わないんですか?」
他流派に対するちょっとした皮肉があったのかも知れません。
関西の先生はこう答えました。
「うちには竜胆瀉肝湯(りゅうたんしゃかんとう)がありますから・・・」と。
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八味丸と竜胆瀉肝湯、両者は全く異なる薬です。
八味丸には温める作用があります。そして腎虚(じんきょ)と呼ばれる下半身の力不足に用いる薬です。
一方、竜胆瀉肝湯は冷やす薬です。下焦の湿熱と呼ばれる膀胱炎や尿道炎などの強い炎症症状に用います。
一般的にそう解釈されていますので「竜胆瀉肝湯がありますから・・・」と言われたところで、普通は何をいっているのかさっぱり理解することができません。
多分質問した古方派の先生も、頭の中は「?」でいっぱいだったのではないでしょうか。
しかし、ある臨床上の視点から見ると、
確かに竜胆瀉肝湯があれば八味丸はいらないのです。
同じ言葉でも、聞き方よって解釈は異なります。
同じ処方でも、見方によって使い方が異なります。
新しい見方が出来るようになること、常に視点を変化させること、
それこそが臨床家としての上達につながるのだと、私は思います。
「竜胆瀉肝湯がありますから・・・」
中島随象(なかじまずいしょう)先生の名言です。
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