漢方治療の心得 7 

「薬だけで治そうと思うな。そんなやつは半人前だ」

父に言われた言葉の中で、これほど脳天に突き刺さった言葉はありません。

臨床を始めたばかりの頃、私は「如何にして効く薬を出すか」だけを考えていました。

患者さまの病態に対して薬方という解答を出す、そういう勉強しかしてこなかったからです。

どの本もこういう場合にはこういう薬を使えとか、この処方はこういう時に使えとか、そういうことしか書いてありませんでした。

そんな自分にとって「正しい薬を出すだけでは半人前」という言葉は痛撃でした。

座学と臨床との差を象徴する言葉として、今でも鮮明に覚えています。

薬だけで治そうと思うな。そう言われた時、

私は悔しくて悔しくて憤懣やるかたない思いをしました。

しかし同時に、フッと肩の力も抜けました。

そうか、自分の使える道具は薬だけではないのだ、と思ったからです。

それからの方が、患者さまへの説明が丁寧かつ的確になったと、自分では思っています。

生活の中で気をつけること、それを何故気をつけなければいけないのか、気をつけないでいるとどうなるのか、

より具体的に、ポイントを絞って、説明できるようになったと思います。

薬方は私たちにとって大切な道具です。

ただし私たちの本当の力は「的確な想像力」です。そしてその力により生み出した東洋医学的解釈にあります。

正しい解釈を導き、それに基づくならば、なにも患者さまを治すものは薬でなくたっていい。

薬方使いとしての誇りを持ちながらも、薬方に寄りかかってはいけない。

「薬だけで治そうとするのは半人前」

先代との臍(ほぞ)を噛む思い出とともに、私が大切にしている言葉です。




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