漢方治療の心得 41 ~処方の原型~

2026年09月26日

漢方坂本コラム

漢方処方を勉強する時に覚えておいて欲しいことがあります。

それを意識しているかどうかで、使い方の的確さが大きく変わるからです。

とても大切なことですが、言ってしまえば簡単なことです。

処方の原型(プロトタイプ)を知ること。

ただ、それをどのように知れば良いのか、

その点を理解している人は少ないと思います。

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各処方には必ず原型たるプロトタイプがあります。

例えば半夏厚朴湯のプロトタイプは小半夏加茯苓湯、

小建中湯のプロトタイプは桂枝湯です。

これらの処方であれば簡単です。

ただし防風通聖散や芎帰調血飲第一加減といった構成生薬の多い処方になるほど、そのプロトタイプが分かりにくくなります。

しかしこれら多味構成処方であったとしても必ず原型があります。

そしてそれを捉えることが出来れば、使い方は自ずと見えてきます。

さらにそれを意識することで、大枠を外さない使い方が出来るようになります。

つまりちゃんと効かせることが可能になる。むしろ多味構成処方であればあるほど、その処方を理解する上で大切な考え方になります。

ただ、このプロトタイプを理解するということは言うほど簡単ではありません。

構成生薬だけを並べて、パズルのように見い出せるものではないからです。

そこで今回、処方の原型を知るためのコツを示してみたいと思います。

ちょうど良い教材があります。コタローさんの芎帰調血飲第一加減の解説をもとに説明したいと思います。

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コタローさんは各処方解説のパンフレットを販売店に配布しています。

イラスト付きで分かりやすい解説です。先日、芎帰調血飲第一加減のパンフレットを見たら、以下のように書かれていました。

「(芎帰調血飲第一加減は)当帰芍薬散、桂枝茯苓丸、折衝飲、苓桂朮甘湯、苓姜朮甘湯、連珠飲、香蘇散などを合方したような処方である」と。

確かに芎帰調血飲第一加減はこれらを合わせたような生薬構成を持ちます。

しかしこれらを合方した処方と言われて、その使い方を具体的に理解することができるでしょうか。

当帰芍薬散と桂枝茯苓丸と折衝飲、さらに苓桂朮甘湯と苓姜朮甘湯、加えて連珠飲と香蘇散。

これらをすべて包括していますよ、これらの薬能を備えていますよ、と言われても、

はっきり言って意味不明です。私にはその効能を想像することさえできません。

したがって使い方も全く頭に入ってきません。ここがポイントです。漢方処方というものは、内包する構成生薬を並べただけでは決して的確な使い方にたどり着くことができません。

すなわち、その処方の原型を知る時も同じです。構成する生薬からパズルのように紐解けるものではありません。

処方全体の効能は、構成生薬の足し算や引き算だけで理解することができない。

故に原型を知るためのポイントはこうです。

処方創設の意図を知る。

その処方が作られた意図、それを知ることが各処方の原型を知るということです。

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例えば芎帰調血飲第一加減には確かに苓桂朮甘湯の意味合いが内包されています。

しかし苓桂朮甘湯が必要ならば、芎帰調血飲第一加減を使う必要はありません。苓桂朮甘湯を使えば良いだけの話です。

折衝飲も同じです。折衝飲の意味合いも内包されてはいますが、

もし折衝飲が必要であれば折衝飲を使えば良いだけのこと。芎帰調血飲第一加減を使う必要はありません。

つまり芎帰調血飲第一加減にとって、苓桂朮甘湯や折衝飲は原型たる処方にはなり得ません。

伝わるでしょうか。今私が言っていることの意味が。

その処方にとっての原型とは、単なる構成生薬により決められるものでは無いということです。

そして単に原型たる処方のデコレートによって芎帰調血飲第一加減が形成されているわけでもない。

例えば折衝飲にいくつかの生薬を足したら芎帰調血飲第一加減になるからといっても、それだけで折衝飲が原型だと言うことはできないのです。

ならば原型とは何か。

それはある処方にとって、それを原(もと)に作ったもの。それを原型という。まずはこれが基本です。

すなわち芎帰調血飲第一加減を作った作者がいて、その人はその他何の処方も知らずに芎帰調血飲第一加減を作り上げたわけではなく、必ず何らかの処方を基盤としてこれを作った。その基盤が原型です。

ということは、作者はその原型たる処方だけでは不足を感じたから芎帰調血飲第一加減(芎帰調血飲)を作ったのです。

患者さんを見た時に、ある処方が使えると感じた。しかしそれだけでは不十分だと感じた。だからその処方から芎帰調血飲を作り出し、またその流れで一貫堂が芎帰調血飲第一加減を作った。この理解が大切です。

例えば、苓桂朮甘湯が使えると感じた時点で、つまり苓桂朮甘湯の使いどころにおいて、いくらそこに不足を感じたとしても芎帰調血飲第一加減には派生しません。両者は使うべき状況が全く違うからです。

折衝飲も同じです。折衝飲が使えそうだと感じた時点で、いくらそこに不足を感じたとしても芎帰調血飲第一加減に手は伸びません。両者の使うべき人や状況が全く違うからです。

各処方は無闇矢鱈に作られたわけではありません。その処方を創る意味があるから作っています。

すなわち芎帰調血飲第一加減はその原型となる処方の使い方の延長線上にあるということ。

だから原型を把握し、その処方が効く病態を掴み、使い方を知ることができれば、芎帰調血飲第一加減も同様にその使い方が明らかになり、かつ的確になります。

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例えば五積散。この処方の原型は小青竜湯です。

創作者は必ず小青竜湯を見ている。しかし小青竜湯を使う場において、不足、もしくは配慮の必要性を感じて五積散を作った。

臨床上そう考えることが自然です。そしてその配慮とは明らかに消化管へのもの。

例えば食後に鼻炎が起こるとか。冷飲食で腹痛下痢を起こして喘息を発するとか。

小青竜湯で治りそうな鼻炎や喘息だが、それだけでは胃腸に触る。

だから胃腸への配慮を同時に行う必要性を感じ、五積散を創設した。

そう考えると、自ずと五積散の使い方が見えてきます。

そして小青竜湯との使い分け、使いどころの差も明確になります。

これが原型を知ることの意味です。そして原型を紐解くためのコツは、創作者の意図を知ることです。

後世方で特に多い多味構成処方では、このような原型からの理解を行うことが大切です。

さらに原型となる処方は、その多くが経方。すなわち『傷寒・金匱』の処方群です。

すなわち、経方こそが全ての処方理解の礎になります。

経方を知れば自ずと他処方を理解することが出来る。ただしその逆はありません。

故に折衷派と呼ばれる浅田宗伯も、一貫堂を基にした中島随象や山本巌も、

たとえ経方を用いなかったとしても『傷寒・金匱』に精通していました。

まず経方の使い方を知ること。

そして実際の臨床にて足りない部分が出てくれば、その流れの中で然るべき後世方を使う、という手順。

理を経方に求め、不足を後世方にて補う。

そういう視点を持つことが、処方理解を深めるための一つの手段になります。

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※コラムの内容は著者の経験や多くの先生方から知り得た知識を基にしております。医学として高いエビデンスが保証されているわけではございませんので、あくまで一つの見解としてお役立てください。また当店は漢方相談を専門とした薬局であり、病院・診療所とは異なりますことを補足させていただきます。