漢方治療の経験談「花粉症治療」を通して

2025年01月28日

漢方坂本コラム

今年は花粉が早そうです。

1月の中旬、急に暖かくなった時期、

一時期的に鼻炎を訴える患者さまが増えました。

そのほとんどが毎年3.4月に花粉症を起こす方々です。

湿気を含んで生暖かいような、少し気持ちの悪い暖かさでしたので、

まるで春のような気候に体が反応したのでしょう。

花粉症は花粉により起こるアレルギー性鼻炎ですが、

私の感覚では花粉だけで起こっているわけではないと思います。

急激な気温や気圧の変化。

すなわち気候・天候も少なからず影響しています。

血管運動性鼻炎という鼻炎があります。

別名、非アレルギー性鼻炎とも呼ばれます。

寒い外から暖かい部屋に入ったり、またその逆であったり、

天候が悪い時など、急に気温や気圧が変わる時にあらわれる鼻炎です。

このような気候に影響される鼻炎が現実に存在するのであれば、

春は花粉だけで鼻炎が起こると考える方が不自然です。

花粉によるアレルギー反応だけでなく、

気圧や気温差に伴う血管運動の乱れが同時に関与しているはずです。

なぜならば、春は気温や気圧が不安定になるから。

例えば急に暖かくなった日に、また急に寒くなった日に、花粉症を悪化させる方が多くなります。

また雨雲や雪雲が近づいてくるような、気圧が急に低くなる時に悪化させる方もいます。

そして春は気温も気圧も大きく変化を繰り返す季節です。

だからこそ春に花粉症が起こりやすくなるのでしょう。

したがってもし、気候の乱れに左右されにくい体が形成されていれば、

花粉に反応しにくくなる、つまり花粉が舞っていたとしても鼻炎が起こりにくくなるはずです。

そういう想定をベースに置いて治療するのが漢方です。

漢方による花粉症治療は、花粉に対して極端に反応してしまうような体の矯正を目指します。

実際のところ、花粉が舞っていれば体は反応します。鼻炎をゼロにすることは難しいでしょう。

ただし、今までまったく効かなかった抗アレルギー薬が効くようになったとか、

いつもより抗アレルギー薬を飲む量が減らせた、点鼻薬を使う頻度が減ったなど、

漢方薬は「花粉症をコントロールしやすくなる」という効き方をしてきます。

では具体的にそれをどう行うかというと、

結局のところ、漢方は身体の血流状態に良い影響を与えているのではないかと感じています。

もともと血流が弱く不安定な方では、外気による刺激ですぐに血流が乱れてしまいます。

それを漢方薬で安定させる。外からどのような刺激が起ころうとも、乱れにくい、強く安定した血流を体に作り出す。

その手助けをしているのではないかと。

数多ある漢方薬ですが、結局やっていることはそこに帰結するのではないかと思うのです。

ただし、誰一人として同じ血流状態の人はいない、その考え方が漢方の前提になっています。

そのため花粉症を治療する場合でも、その方の血流状態に合わせて漢方薬を選択しなければなりません。

例えば筋肉ムキムキのスポーツマンと、体が細く運動より読書が好きというような人とでは、同じ血流状態であるはずがありません。

そういうところを漢方では陰陽や虚実・寒熱という概念をもって尺度として測り、

そしてその人の血流に適した薬を選択することが漢方の基本になっています。

なのですが、難しいのは一概にこれらの尺度だけでは人を測ることが出来ないという事実。

例えば虚実の定義はおそらく先生によって違うと思います。あくまで概念だからです。

人を測るための尺度であるにもかかわらず、考え方次第で変化してしまうという曖昧さ。

この曖昧さとどう向き合うのか。この向き合い方こそが、先生方の腕の違いとして表れるのが漢方治療です。

実際私も、虚実や寒熱という概念を考え続けています。

そして結局あまり使わなくなりました。臨床ではもっと大切な視点があるからです。

ただそういうことを言うと、基本を大切にしていた昭和の大家たちには怒られてしまうでしょう。

でも思うのです。私たちに漢方の基礎を伝えるべく本を残してくれた昭和の先生方も、

結局は自分の本当のやり方は、そこに書いていませんよね?と。

でなければ、人を治せていたはずがないのです。



■病名別解説:「花粉症

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※コラムの内容は著者の経験や多くの先生方から知り得た知識を基にしております。医学として高いエビデンスが保証されているわけではございませんので、あくまで一つの見解としてお役立てください。また当店は漢方相談を専門とした薬局であり、病院・診療所とは異なりますことを補足させていただきます。