漢方 case study
~なぜ生理前に微熱や咽痛が?月経前と風邪様症状との関係と対策~
<はじめに>
漢方 case studyでは当薬局での症例を通して得られた漢方治療の考え方(仮説)をご紹介していきます。病とは様々なことが複雑に絡み合っていることが普通です。故に基礎学習だけでは対応仕切れません。そこで基礎的な考え方をどう実際に応用していくのか、その実例をご紹介していきます。基本とは異なる漢方治療の応用を示していきますので、ご参考にしていただければ幸いです。
なぜ生理前に微熱や咽痛が?月経前と風邪様症状との関係と対策
漢方治療を行っていてしばしば頂くご相談の中に、「月経前になると風邪を引きやすくなる」というものがあります。
一カ月に一回風邪を引く。例えば鼻水が出て、咽が痛くなり、咳が出てそのうち発熱し、体の節々が痛くなる。よくよく考えるとそれが月経前に起こる傾向がある。そのようなご相談を受けることがあります。その数も決して少なくはありません。
始めは風邪だろうということで、その都度内科にて抗生剤をもらい治療するもまた繰り返してしまう。ホルモンバランスとの関連を知るために婦人科にかかるも、特に検査上は問題ないとしてやはり良い治療方法が見つからない。
病院では治療に決め手がなく、それ故漢方治療をお求めになる方が多いのでしょう。そしてこの時、漢方治療をお求めになることは正解です。なぜならばこの手の月経前に起こる風邪症状は、漢方治療によって改善しやすい症状だからです。
・
総じて月経前に起こる様々な不調・月経前症候(PMS)は漢方治療の得意とする分野です。そして実際に多くの患者さまが改善していく病でもあります。
これは当薬局に限ったことではないと思います。婦人科の病に使われる漢方薬はその数もかなり多く、また漢方治療を受けられる患者さまは女性の方が多い傾向にあります。
したがって漢方専門の医療機関であれば、どこであっても月経前症候群の治療経験は豊富なはずです。ただし月経前に発生する風邪様症状に関しては、その中でも少々治療にコツが必要です。
典型的な症例をご紹介しますので、生理前の風邪症状がどのように回復していくのかをまず見ていきましょう。そして解説にて月経前と風邪症状との関係とその対策とをご説明していきます。
・
■症例
40代、女性。
4年前に二人目を出産して後、月に一回体調を崩すようになった。咽が痛くなり鼻水が出て寒気がしてくる。そして熱が出て関節の節々が痛くなり体がだるくなって風邪を引いたようになってしまう。今まではその都度近くの内科にかかって抗生剤を飲んだり、ドラックストアで市販の総合感冒薬を飲んで対応していたが、これらの症状が月経前に起こることが分かったため婦人科に受診。検査では問題なく、月経前症候群の一種として漢方薬をもらったが効いている感じがしない。
肢体細く長身の女性。もともと便秘の傾向あるが、お腹を冷やすと腹痛下痢しやすい。月経前は風邪症状のみならず、イライラや落ち込みが強い時もある。食欲が増して甘いものが食べたくなる。そして月経が来て出血が始まると、徐々にこれらの症状が緩和され、出血が止まる頃には完全に消失する。二人の子供を育てつつ自身もパートで働いている。疲労感はありますかと聞くと、午後になるとドッと疲れるが仕事が出来ないほどではないとおっしゃられた。
本人の口調はあくまで丁寧で落ち着いているものの、そこはかとなく緊張の糸が常に張っている気配あり。それを解除する手法が漢方にはある。まずは14日分の漢方薬をお出しし様子を見る。そして二週間後来局された際、開口一番に患者さまは良く眠れるようになったとおっしゃられた。
服用後体が温まる感覚があり体から力が抜けた。その一時間後、いつも以上にだるさや疲れを感じて起きていられなくなり熟睡。その寝起きが大変良く、頭がすっきりしたと。身体の緊張が解除された反応であり、そのだるさも必ず取れてくるので心配はないと説明し、同処方を継続。そして迎えた月経前、知らないうちに月経が来て月経前を意識することがなかったと。
その後も月経前に風邪症状は起こることなく、半年を経過した時点で完治とみて廃薬。現在はお子様の鼻炎のご相談にて定期的にご来局されているがご本人はいたって元気そうである。
・
■解説
なぜ月経前に風邪症状が発現するのか。その理由は未だに解明されていません。
咽の痛みや咳などの呼吸器症状はPMSの典型例として報告されてもいません。したがって通常であれば風邪のような症状が出現した場合、まずは感染症の合併を疑うことが普通です。
月経前のホルモンバランスの変化にともない体調が不安定になり、免疫力が下がることで感染症にかかりやすくなるというのが良く言われていることではあります。しかしこれに関しても確たる証拠はありません。あくまで想像の範疇といったところです。
未だに理由が分からない現象であるものの、東洋医学では昔から指摘されてきた状況ではあります。つまりその点に対する治療方法がすでに昔から用意されていました。どういうことかというと、月経前症候群(PMS)に用いる薬の多くが、感染症にも使われてきたのです。
・
正確に言うと、本来は感染症のために作られた薬だったものが、今現在月経前症候群にも応用されるようになっています。そういう薬が沢山あるのです。つまり感染症治療と月経前症候群治療とは、東洋医学的に見ると重なる部分が多いということです。
例えば月経前症候群に使う薬として有名な加味逍遙散は、本来は逍遥散という薬を原型としています。そしてこの逍遥散の出典である『太平恵民和剤局方』を見ると、本方は婦人の薬として紹介されている一方で、発熱や寒気、寝汗などを伴いつつ身体が消耗していく、まるで結核のような感染症を思わせる状態に使う薬としても示唆されています。
つまり始めから月経前の不調と同時に、感染症のような状態を解除させる薬能を備えて作られていたということです。その理由はおそらく、月経前症候群も感染症も、身体に生じている緊張・興奮状態を解除するという点において共通の治療を必要とするからです。
すなわち月経前に風邪症状が発生するという場合の漢方治療においては、通常の月経前症候群の治療を的確に行うことを主眼とするのが最善の策です。つまりイライラなどと同様に、風邪症状であろうとも月経前に起こる興奮状態の一種とみなして治療する。すると風邪症状も一般的な月経前症状と同時に、自然と解決する。そういうケースが非常に多いのです。
ただしその場合、月経前症候群を的確に治療できるかどうかが全てになります。そして月経前症候群は様々な症状が出現する病であると同時に、関連している東洋医学的病態も多く、その見極めは簡単というわけにはいきません。
おそらく月経前に風邪症状が併発していくる場合、さらに見極めるべき病態は複雑化している可能性が高いと思います。すなわち、月経前症候群でしばしば使われる加味逍遙散や帰脾湯などを運用していただけでは難しいでしょう。時に月経前症候群という固定観念を捨てて、東洋医学的に広く人を診る必要があります。それを出来るかどうかが勝負となるはずです。
・
・
・
■病名別解説:「月経前緊張症(PMS)」
〇参考症例:■症例:PMS(月経前緊張症)・発熱と悪寒
・
【さらに詳しい解説はこちら】
今回ご紹介した症例について、医療関係者向けにさらに詳しく解説していきます。
使用した方剤や選択のポイント、さらに考え方などを記載していますのでご参照ください。
【医療者向け解説】漢方 case study ~なぜ生理前に微熱や咽痛が?月経前と風邪様症状との関係と対策~

・

漢方坂本/坂本壮一郎|note