漢方 case study ~ホルモンバランスか自律神経か?動悸や息苦しさを伴う月経前症候群~

2026年04月23日

漢方坂本/坂本壮一郎|note(有料記事)

漢方 case study

 

~ホルモンバランスか自律神経か?動悸や息苦しさを伴う月経前症候群~

 

<はじめに>

漢方 case studyでは当薬局での症例を通して得られた漢方治療の考え方(仮説)をご紹介していきます。病とは様々なことが複雑に絡み合っていることが普通です。故に基礎学習だけでは対応仕切れません。そこで基礎的な考え方をどう実際に応用していくのか、その実例をご紹介していきます。基本とは異なる漢方治療の応用を示していきますので、ご参考にしていただければ幸いです。

ホルモンバランスか自律神経か?動悸や息苦しさを伴う月経前症候群(PMS)

月経前に起こる肉体的・精神的な不調である月経前症候群(PMS)は、その程度の幅こそあれ大変多くの女性を悩ませている病です。またそれ故に治療を行うことなく、当たり前のこととして放置されることの多い疾患でもあります。

さらに多彩な症状が表れるため、他の病と併存することも少なくありません。例えば今回ご紹介するような動悸や息苦しさが月経前に起こりやすいという場合、病院によっては月経前症候群というよりは不安神経症パニック障害と診断されたとしても不思議ではありません。

そうなると婦人科ではホルモン剤による治療、心療内科では向精神薬といった具合に、徐々に薬が増えて追加されていく傾向があります。それで症状が安定すれば問題はありません。

しかし効果として不十分と感じられる方や、薬が増えていくことに不安を覚える方も少なからずいらっしゃいます。他病が併存する月経前症候群では治療が多領域にわたるため、薬剤も治療方針もやや煩雑になってしまう傾向があります。

その点、漢方には一日の長があります。月経前症候群においては、たとえ他病が介在していようともその治療方法が複雑になることはめったりありません。

そもそも月経前症候群の原因を単なるホルモンバランスの異常と解釈しているわけではないからです。自律神経を含めたよりからだ全体の不調として認識し、そこに治療を施すという手段を用います。

すなわちたとえ月経前症候群に動悸や息苦しさなどのパニック障害が併存していたとしても、同一線上の病態として認識が可能です。したがって両者の病を一つの薬で治療できる可能性があります。具体例を見ていきましょう。

■症例

28歳・女性。
昔から月経前になると体が重くなり、強烈なだるさ強い眠気がくる。同時に体が浮腫んで頭もぼーっとし、何もやる気が起きなくなる
さらに何かの拍子に動悸や息切れが起こり、酷くなると息が吸えなくなり恐怖感が起こる。昨年一度過呼吸にて救急車で運ばれた。その時は過換気症候群と診断された。息苦しさは特に外出した時や人混みなどで起こりやすい。そして月経前になると特に顕著になる。月経前のだるさと、酷くなる動悸と息苦しさを何とかしてほしいと言うご相談である。
普段から食欲はあり、無くなることはほとんどない。過食もしないように気を付けてはいるが、月経前になると食欲が増えて食べ過ぎてしまうことがある。大便は正常、小便はやや少ないかもしれない。日常的に胃もたれしやすいがそこまで強くは感じない。眠りが浅い時があり、月経前は特に寝つきが悪くなる。そのため夜更かししてしまい、朝も起きにくくなる。

月経前に起こる重だるさと、月経前にひどくなる動悸と息苦しさ。病院ではおそらく婦人科・心療内科にまたがる状態ではあるが、現在病院にはかかっていないという。まずは漢方薬で治療してみたいというのがご本人の希望であり、お体の状態を確認して後、私もそれをお勧めした。というのも月経前のだるさも息苦しさも、東洋医学的に見ると共に同じ病態であり一つの薬で解決できる可能性が高かったからである。

まずは14日分にてお薬をお出しし、かつ生活で気を付けるべき養生をお伝えした。二週間で如実に感じたのは眠りが深くなったことだった。そのまま同処方を続けて頂くと、月経前の息苦しさが消失。かつ体のだるさが軽くなったという。

最初の月経では顕著な効果を感じたが、その後の月経前では息苦しくなる日が何日かあった。ただし何をすると悪くなるのかが分かりやすくなった。外出や人混み以前の問題として大食した時と睡眠不足により悪化する。生活の養生を再度徹底していただくと、月経前のだるさと息苦しさ・動悸はほぼ消失。そのまま数カ月し、体調に安心感が持てた時点で廃薬。現在は養生にて体調をコントロールし、良い状態を保っておられている。

■解説

月経前緊張症もパニック障害も、同じく自律神経の乱れが関与しています。そして通常それらが同時に起きている場合、東洋医学ではその原因が別々に起きていると考えることの方が不自然です。

すなわち今回の症例のように両者ともに同一の流れで起こっていることがほとんどです。故に一つの処方で同治できることは決して珍しいことではありません

漢方では自律神経が乱れている理由、その要所を解除する手法が複数用意されています。したがってその要所を的確に突くことでパニック障害と月経前緊張症は同治します。大切なのはその要所の見極めで、それが的確でなければなりません。

ちなみにその要所というのは「肝」とか「脾・胃」といった中医学的臓腑解釈では認識できません。『傷寒論』に基づいたより根本的な病位解釈が必要です。そして『傷寒論』に基づく理論体系は未だ明確な指針を示す書籍が存在しないため、医療者各個人の経験と見解とに委ねられています。

今回の症例のようなケースでは、先生によっては動悸・息切れにはこの漢方薬、月経前緊張症にはこの漢方薬と分けれ治療されることがあるかもしれません。例えば動悸には半夏厚朴湯、月経前緊張症には加味帰脾湯といったやり方です。

漢方の治療の仕方はどうしても各先生の経験に依存しますので安易にそれを否定することはできませんが、PMSと伴に起こる動悸息切れにおいて、私はそのような方法は取りません。おそらくほとんどのケースで単一処方による同治が可能です。

動悸・息切れと婦人科疾患とを別の病態として捉えるやり方は、おそらく先に申し上げた中医学的臓腑解釈によるものではないかと想像します。『傷寒論』では病態に対してより本質的な理解を示しています。故にその方法論に従うと同一病態として理解することが可能になります。

この辺りはやり方の違いのようなものです。したがって回復すればどちらでも良いのかもしれません。しかしながら治療はなるべくシンプルにまとめた方が良いと思います。一つの処方で同治した方が効果においても効きやすく、かつ費用面でも負担を軽減することが可能です。

ちなみにほとんどのケースで同治が可能と申し上げましたが、その際一つの薬で同治しながらも動悸・息切れを主とするのか、その他の月経前症候群の症状を主とするのかで処方に若干の差がでます。選択するべき漢方薬に、ある程度の幅、つまりグラデーションがあるという印象です。

すなわち漢方治療では自分に合った薬を選ぼうとされている方が多いのですが、そうではなく自分にどのような治療方針が必要なのかをまずは知らなければなりません。

つまり経験豊富な漢方の先生におかかりになる必要があります。特に複数の病が関わっていそうな場合には、自己判断にて薬を選ぶだけではおそらく治りきらないと思います。



■病名別解説:「パニック障害・不安障害
■病名別解説:「月経前緊張症(PMS)
■病名別解説:「自律神経失調症

【さらに詳しい解説はこちら】

今回ご紹介した症例について、医療関係者向けにさらに詳しく解説していきます。
使用した方剤や選択のポイント、さらに考え方などを記載していますのでご参照ください。

【医療者向け解説】漢方 case study ~ホルモンバランスか自律神経か?動悸や息苦しさを伴う月経前症候群~

漢方 case study ~ホルモンバランスか自律神経か?動悸や息苦しさを伴う月経前症候群(PMS)~|漢方坂本/坂本壮一郎
当薬局HPにて下記のコラムを投稿しました。 その中でご紹介した症例について、医療関係者向けに使用方剤などを示しながらさら...

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※コラムの内容は著者の経験や多くの先生方から知り得た知識を基にしております。医学として高いエビデンスが保証されているわけではございませんので、あくまで一つの見解としてお役立てください。また当店は漢方相談を専門とした薬局であり、病院・診療所とは異なりますことを補足させていただきます。