漢方 case study
~朝起こる腹痛下痢・起立性調節障害と過敏性腸症候群の関係と対応~
<はじめに>
漢方 case studyでは当薬局での症例を通して得られた漢方治療の考え方(仮説)をご紹介していきます。病とは様々なことが複雑に絡み合っていることが普通です。故に基礎学習だけでは対応仕切れません。そこで基礎的な考え方をどう実際に応用していくのか、その実例をご紹介していきます。基本とは異なる漢方治療の応用を示していきますので、ご参考にしていただければ幸いです。
朝起こる腹痛下痢・起立性調節障害と過敏性腸症候群の関係と対応
最近とみにご相談の増えてきている起立性調節障害(OD)や体位性頻脈症候群。体調不良のため朝起きることができず、日常生活が乱れてしまう大変な苦痛を伴う病です。
成長期のお子様で見受けられるこの病ははっきりとした原因が分かっていません。そのため治療も昇圧剤や吐き気止めなどの対症療法に止まるのが現状です。なかなか良くならなければストレスやメンタルの問題として取り上げられることも多く、根本的な解決が難しい病という印象が持たれています。
成長期ではそもそも体が発達段階にあるため、身体の活動や機能が未だ安定していません。ODとはその弱さや不安定さが形となって表れている病という印象があります。そして体の不安定さ故に、OD以外の他の病も併存しているケースが少なくありません。特に私の印象として多いのが、お腹の不調である過敏性腸症候群(IBS)が同時に起こっているケースです。
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朝起きると腹痛が起こり、切迫した便意で下痢をする。または腹痛するも便がなかなか出ず、トイレから出られないため学校に行けない。さらに腹痛・下痢だけでなく、めまいや吐き気、強いだるさや頭痛などを伴い昼まで活動することができない。そして病院にて過敏性腸症候群と起立性調節障害両方の薬を出されて飲むものの、効果が表れずなかなか良くならない。当薬局でもこういった方々からのご相談がかなり多く寄せらます。
確かに二つの病が絡む複雑な状況です。ただし実際に治療に当たる中でしばしば感じるのは、これらが全く別の病として起こっている感じがしない、そういうケースが多いのです。というのも実際にしかるべき治療を行うことができれば、同時に改善することが多いからです。
先に申し上げたように、ポイントは成長期における根本的な弱さ・不安定さを回復することにあります。そしてそれは人それぞれ違う弱さです。そこを見極めて的確に治療することで、起立性調節障害であっても過敏性腸症候群であっても、その弱さから発せられている病ならば同治するという印象があります。
実際に当薬局で経験した典型的な症例を二つご紹介します。
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■症例1
12歳の男の子。
昨年の夏まで元気にサッカーをしていたが、9月ごろから急に体調不良に。朝体がだるくて起きられなくなり、無理に起きようとすると頭痛がして酷いと吐き気を催すようになった。小児科にて検査の後、起立性調節障害と診断。昇圧剤などの内服治療を行うも回復せず、学校には午後から登校する状態が数週間続いた。
そして約一か月後の10月の下旬から、朝起きがけに下痢をするようになった。切迫する便意があり、やや腹痛を伴う。そして気を抜くと便が出てしまう。水下痢でジャーっと勢いよく出る。出るとある程度お腹はすっきりするが、下痢は日に数度ある。いつ下痢が起こるのか分からないので外出することができない。学校も休むことが多くなり、数か月後の現在、未だに学校に行けないでいる。
朝のだるさと頭痛、そして突然起こる水下痢。起立性調節障害に加えて、病院では過敏性腸症候群と診断。西洋薬や桂枝加芍薬湯や五苓散などの過敏性腸症候群の薬を飲むも改善せず、かつ病院ではストレスの問題があるだろうと。お母さま曰く、本人はケロッとしているのでそういう感じがしないと。当薬局HPを見て漢方治療を希望。
ゆっくりお話を伺い状況から判断すると、この子の体調不良は体力の弱さによるものではなさそうだった。朝は確かに体調が悪い。しかし午後になると比較的元気である。学校に行かないまでも昼以降は外でサッカーの練習をし、友達と遊びに行くことも多い。元気に走って汗も沢山かくという。また病院で指示されたこともあり、本人も喜んで水を2リットル飲んでいる。一日を通してなぜが朝だけ体調が悪い。もしかしらたそういう点を見て、病院では学校に行きたくないというストレスの問題だと判断されたのかもしれない。
ただしこの状況は明らかに体の問題。東洋医学的に判断するとそうなる。まずは下痢を止める。そしてそもそも体力が無いという子ではないので、おそらくだるさや頭痛もそれと同時に治る可能性が高い。
しかるべき薬を二週間お出しし、さらに生活上気を付けるべきことを守っていただいた。結果、二週間の短期ではあったが著効。まず下痢が消失した。さらに頭痛やだるさも軽くなった。しかし日によっては朝、だるさが強くなる日もまだあり学校へは行けないでいる。
同処方を継続。三か月後、下痢はすでに完全になくなり、かつだるさも頭痛もほぼ無くなり学校も毎日いけるようになった。今後も生活の養生を守って頂くことをお願いして廃薬。現在も風邪を引いた時にたまにご来局されるが、元気で学校に行けている。
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■解説
成長期という体が大きく変化する不安定な時期、その期間に起こる起立性調節障害は治療も長くかかることが普通です。そして成長期に起こる過敏性腸症候群でもその傾向はあります。
ただしこの症例では比較的迅速に改善しています。その理由は体調不良の原因が患者さまの弱さというよりも、日々の良かれと思ってやっていた生活習慣の中にあったからです。
水の飲みすぎ。体にとってまかない切れないほどの水分が入ってきていたから。起立性調節障害において水分をちゃんと取ることは大切ですが、すべての患者さまが一律的に沢山飲まなければいけないというのは間違いです。
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そもそも必要な水分摂取量は個人差がかなり大きいはずです。各個人で運動量も違いますし、水分を吸収できる胃腸の力も違います。すなわち水分摂取についてはその量を一律的に決定するのではなく、あくまで個々で自分に合った量や飲み方を見極めていかなければなりません。
そしてひとたび過剰な水分摂取によって胃腸機能が乱れると、その乱れが自力で解除できなくなることも成長期では良く起こることです。そして胃腸活動の乱れが原因で、だるさや頭痛といった全身症状を起こすこともまた珍しいことではありません。
つまり今回の起立性調節障害と過敏性腸症候群とは、胃腸の乱れを中心に病態が繋がってました。そこを突けば治る病、であるが故に一つの処方でいけたわけです。
ちなみに、良かれと思ってやっていた生活習慣が病気を悪化させている例は少なくありません。症例1はその典型例としてご紹介しました。成長期は体の機能が未だに安定していません。そして不安定であるが故に、その強さ・弱さもかなり個人差が大きいということを覚えておいてください。
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■症例2
17歳の女の子。
もとお腹が弱く、小学生のころからお腹を冷やしたり緊張する場面で腹痛下痢を起こしやすかった。病院で過敏性腸症候群と診断され、大建中湯や桂枝加芍薬湯にて調子を整えていたが完治はしていない。
そして高校に入ってから、朝体調不良が起こるようになった。目を覚ますことが出来ず、9時にやっと目を開け、その後も夕方までだるさが続き、夜は逆に寝つきが悪い。少食で食べると胃もたれしやすく、ストレスで胃が痛くなることもある。月経前になるとメンタルが不安定になりイライラしたり落ち込みやすく、朝も特に起きにくくなる。病院では起立性調節障害と診断。昇圧剤服用するも効かず。
さらに数週間前から下痢が起こるようになった。午前中に便意を催しトイレに行くもなかなか出ない。そして出ると軟便だがすっきり出ない。まだ出そうなのでトイレから出られない。一時間ほどトイレにこもりそのため学校に完全に行けなくなってしまった。病院では過敏性腸症候群の悪化とみて漢方薬を出されたが効かず、薬を変えて試すもあまり芳しくない。
お話を伺ってまず感じたのは、そもそもお腹が弱いというベースがあり、そこから様々な状況が重なっていること。年齢を重ねながら症状が良くなったり悪くなったりと波を打っている。
漢方では治療方針を定める場合に「先急後緩」という考え方がある。これは急に起こっている症状を先に治し、緩く続いている症状は後にまわすという考え方。今までの併存している過敏性腸症候群と起立性調節障害の波打ち方を鑑みると、今回は先急後緩により治療に優先順位を設けることが必要。すなわち数週間前から悪化している過敏性腸症候群をまず治療する。病態として重なりはあるものの対応処方が別である点と、現在一番つらい症状が排便異常である点からそう判断した。
しがたってまずは胃腸の薬を出す。繊細な治療を必要とする今回のケース、二週間で著効を見たのは僥倖であった。下痢が軽くなり排便もしやすくなった。完全ではないが学校には数日行けるようになったと。
さらに数週間、同処方にて完全に排便が安定した時点で薬を変方。そもそもの弱さや自律神経の安定、さらに月経前症状はおそらく全て同治できる。すなわちそもそものお体の不安定さを安定させる治療。味が問題ない時点でこれを長服していただいた。
それからも下痢は起こらず、ただしその他の症状は一進一退を繰り返しながら、全部で約一年服用を続けた時は薬が必要ないというところまで改善。大学受験が無事に終了した時点で廃薬。現在は東京にて大学生活を楽しんでおられる。
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■解説
起立性調節障害と過敏性腸症候群、これらは併存しやすい病であり、かつ症例1のように同治できることも少なくありません。
しかし別々に治療することが必要な場合もあります。また今回の症例のように、同じタイミングでそれを行うのではなく、治療に優先順位を設けてどちらかを先に治療することが必要になる場合もあります。
病が併存する場合「どの薬で治すか」ということ以上に大切なのが、「どうやって治すのか」、つまり治し方の道筋を見極めることです。
なぜならばそれが出来ていなければ最短の治療を行うことが出来ないからです。起立性調節障害も過敏性腸症候群も治療に時間のかかる病ではあるものの、だからこそなるべく早く症状が緩和するよう心がける必要があります。一日でも早く学校にいけるお体を作ること。そうするためには単に体に合った薬を選ぶだけでは不十分です。
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一つの処方で同治するのか、別々の処方で同治するのか、優先順位をもって順番に治すのか。病が併存する場合大きく分けてこの3つの治し方があります。そして患者さまの状態によってどの方法が最も効きやすいのかが異なります。
つまりできるだけ早く効かせるためには、これら3つの中から最短の治し方を見極めなければなりません。この考え方があるかないかで症状緩和までの時間が大きく変わってきます。それを示す例として今回の症例を上げました。
今回のケースではまず排便の不快感が本人にとって最も辛い症状でした。それ故もしめまいや頭痛やだるさが治ったとしても、排便状況が改善しなければ学校に行くことはできなかったでしょう。
そしてこの胃腸症状は東洋医学でいうところの「湿」という病態が絡んでおり、それ相応の胃腸に特化した薬にて対応する必要がありました。故に総じて判断するとまずは過敏性腸症候群から治療する必要がある。めまいやだるさや頭痛は胃腸がある程度回復してから考える、そういう手順を踏んだ治療を行う必要がありました。
そして結果的に上手くいきましたが、今回上手くいったその理由の一つは、この治療方針を患者さまとご家族との納得の上で進めていけたことにあります。
先に申し上げた通り、成長期に伴う病は時間をかけながら安定させていくという治療になることが多く、それ故に時間がかかります。その中でもなるべく早く改善し得る治療を選んでいくという主旨を理解していただき、その方法論を患者さまと一緒に検討できたからこそ、治療に対してゆっくり構えていただくことができました。
自分に合った薬だけではなく、治療に対する理解と納得があるのかどうか。複雑に絡みあった病であればあるほど、それが大切になります。
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■病名別解説:「起立性調節障害」
■病名別解説:「過敏性腸症候群」
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【医療者向け解説】漢方 case study ~朝起こる腹痛下痢・起立性調節障害と過敏性腸症候群の関係と対応~ その➀・その➁
今回ご紹介した症例について、医療関係者向けにさらに詳しく解説していきます。
使用した方剤や選択のポイント、さらに考え方などを記載していますのでご参照ください。
その➀ 症例1の解説↓

その➁ 症例2の解説↓

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漢方坂本/坂本壮一郎|note