漢方 case study
~生理で下痢が悪化する?子宮筋腫やPMSを伴う潰瘍性大腸炎~
<はじめに>
漢方 case studyでは当薬局での症例を通して得られた漢方治療の考え方(仮説)をご紹介していきます。病とは様々なことが複雑に絡み合っていることが普通です。故に基礎学習だけでは対応仕切れません。そこで基礎的な考え方をどう実際に応用していくのか、その実例をご紹介していきます。基本とは異なる漢方治療の応用を示していきますので、ご参考にしていただければ幸いです。
生理で下痢が悪化する?子宮筋腫やPMSを伴う潰瘍性大腸炎
消化器疾患の難病として代表的な潰瘍性大腸炎(UC)は当薬局でもご相談の多い病の一つです。
粘血便や腹痛・下痢を起こし、一度寛解してもその後再発しやすい。日常的にも不快感が強く、かつ長期的な管理が必要になる病です。
病院の治療にて回復される方も多い中、西洋薬にて治りきらず漢方治療をお求めになる方も少なくはありません。そしてそういう方であればあるほど、病態としてはやや複雑に絡み合っているケースが散見されます。
例えば患っている病が潰瘍性大腸炎だけでない場合があります。同時に他の病を介在させているケースです。
決して珍しいことではなく、実際に当薬局にご相談に来られる方の中にも大変良く見受けられます。そして特に多いのが婦人科系の病。すなわち潰瘍性大腸炎に子宮筋腫や子宮内膜症、さらにイライラやだるさなどの月経前症候群(PMS)を併存させている患者さまです。
私見では月経、すなわち子宮の活動と潰瘍性大腸炎には関連があると感じています。月経に伴って下痢が悪化したり、産後に潰瘍性大腸炎を発症・再燃させることが実際の臨床を通して確認できるからです。
そこで今回その例として二つ、できるだけ典型例に近いものを抜粋してご紹介いたします。月経の問題と潰瘍性大腸炎とにどのように対応していくのか、その具体例を示してみたいと思います。
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■症例1
40歳・女性。
20代後半に初めて血便が起こり潰瘍性大腸炎と診断。その後悪化して30歳で入院。退院後体調が戻るも寛解と再燃を繰り返し、去年の冬にまた入院しそこから西洋薬を飲み始めている。
現在排便は一日2回と少ないが血便が続き軟便下痢傾向あり。排便時に腹痛を伴い切迫感がある。西洋薬を飲んでもはっきりと治りきらない印象。検査でも患部に炎症は続いていると。まずは寛解状態を目指すとともに再燃を予防したく漢方治療をご希望。
さらにもう一点、昔から月経前のイライラが強くて困っている。自分でもコントロールできない怒りで毎月苦しい。また月経前に胸の張りが強く肌荒れも起こる。月経痛や出血の量・質に問題はない。ただしイライラと同時に腹痛下痢も増える気がする。
本人としては出来れば潰瘍性大腸炎だけでなく月経前のイライラも漢方薬で改善したいという。現在の潰瘍性大腸炎の状況から考えると不可能ではなく、おそらく一つの処方で同治できる可能性があるとご説明した。
お出ししたお薬14日分にてまず血便の量が減る。さらに月経を経るため一カ月服用を続けていただく。その結果、月経前のイライラが消失。月経前を感じずに急に月経が来たと。そういえばイライラしなかったと後から気付いて驚いたという。肌荒れは不変。しかしこのまま同処方を続けることで肌荒れも緩解するだろうとご説明した。
同処方を継続。血便に関しては前ほどではないにしても波がある。ただし何をすると悪化するのかが良く分かるようになったと。夜遅くの食事と寝不足で悪化する。故に養生を徹底していただいたところ、現在ほぼ血便は出なくなっている。
月経前のイライラに関してもほとんど気にならない状態で維持。肌荒れに関しては月経前の過食に気を付けながら小康状態を維持している。
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■症例2
35歳・女性。
20代のころに子宮筋腫を指摘され、出血量がひどく子宮筋腫核出術にて摘出し子宮は温存している。20代後半に血便が起こり検査にて潰瘍性大腸炎と診断。なるべく薬は服用したくなかったが排便回数・血便ともに増えてきたため西洋薬服用。その後もなかなか緩解せず現在に至る。良い時と悪い時との波が激しい。
現在排便は1日3回からひどいと6回。軟便で済む時と粘血便の下痢を起こす時あり。ただし下痢をすると比較的お腹はすっきりする。食欲はありむしろ過食傾向。食後にやや胃もたれしやすい。月経周期正常、月経前はややイライラして食欲が増える傾向あり。かつ術後に落ち着いていた経血量がまた最近増え始めていると。ただし出血中にだるさや貧血様症状は無く、さらに月経と排便状況に相関は見当たらない。
そして現在妊娠を希望している。ただし去年の検査にて子宮筋腫の再発を指摘された。できれば漢方薬でそこも含めて治療できたら嬉しいと。すなわち潰瘍性大腸炎の改善と子宮筋腫の再発予防、さらに妊娠しやすい体作りをご希望されている。
潰瘍性大腸炎・子宮筋腫・妊娠希望とお求めが多岐に渡るものの、お体を拝見させていただいた印象としてこれらは深く関連しているように思われた。いずれにおいても治療方針は同一。故に同じ処方で改善できる可能性あり。ただし治療に優先順位を設けた方が治療期間を短くできるかもしれない。故にまずは潰瘍性大腸炎症状の改善を主とし、そのままの薬で子宮筋腫の予防・妊娠が成功すれば御の字。もしくは潰瘍性大腸炎が回復した後、必要であれば子宮筋腫悪化予防および妊娠を主として薬に変更すると説明。まずは前者のお薬をお出しした。
服用して二カ月目、その時点で排便の状況がだいぶ安定する。回数は一日2回程度でおさまり粘血便はほぼなくなった。同時に月経時の出血量が減り、血の塊が出なくなった。子宮筋腫の検査をその数か月後に行うと若干の拡大が見て取れた。しかし何かの治療を必要とするレベルではなく経過観察と。
さらに数か月後、排便の状況はさらに安定して普通便が出るようになる。病院でも潰瘍性大腸炎の寛解状態を確認。故に消化器から子宮に重点を置くよう漢方薬に若干の改良を施す。新しい処方を服用後、体が今までよりも温まるようになったと。
そのまま数カ月継続。そして嬉しいご報告をいただく。妊娠が確認されたと。母子ともに健康状態を維持し潰瘍性大腸炎を悪化させないためにも出産まで同処方を改良したものを継続。産後調子が安定していることを確認して廃薬した。
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■解説
私の経験上、潰瘍性大腸炎と婦人科系の病とは関連が深いように感じます。先で述べたように、両者の病を併存させている方が大変多いからです。
また産後に潰瘍性大腸炎を発症もしくは悪化させることは臨床上しばしば確認されるところです。ご紹介した2つめの症例でも産後の悪化を予防するべく漢方薬の服用を続けていただきました。
潰瘍性大腸炎と婦人科疾患がなぜ関連するのか。未だ予測の範疇にはなりますが、私見では大腸と子宮とが骨盤内の臓器としてその筋肉活動と血流を通して互いの機能・活動に影響を与え合っているからではないかと考えています。
潰瘍性大腸炎の治療中に大腸活動が安定してくると、同時に子宮の負担が減り血流が安定する結果、内分泌の輸送系が整う可能性がある。症例1のように月経前緊張症(PMS)が軽減したのもその働きによるものだと考えると辻褄が合います。
漢方では昔から便通を促す薬で子宮の病を改善するという方法が用いてきました。そのことから考えても、潰瘍性大腸炎と婦人科系疾患とが関連し合うこともそれほど不思議には感じられません。
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ただし婦人科疾患と潰瘍性大腸炎とが、すべて同一の処方で解決できるかというと決してそういうわけではありません。異なる処方を用いなければならないことも多々あります。
潰瘍性大腸炎治療ではフェーズによって使う薬を変える必要がります。炎症が強い時では清熱を、炎症が治まり再発を予防する段階では血流を促したり体力を回復させる治療を行います。
おのおのフェーズを間違えて治療を行うと悪化させてしまうことがあるため、これはハッキリと区別する必要があります。そして婦人科疾患と同治が可能なのは、後者である再発予防の段階に用いる治療方法、つまり血流を促したり体力を回復させる薬を用いる場合です。
また症例2のように、血流を促す段階においても消化器を主とするのか、子宮を主とするのかで治療薬は変わってきます。どちらを主にするかで薬にグラデーションがあるという印象です。
すなわち治療においては潰瘍性大腸炎におけるフェーズの見極め、また消化器・子宮の主従の判断を行わなければなりません。その辺りの判断は経験が大きくものを言います。その中でなるべく沢山の漢方薬を使わず、一つの処方で同治を狙うとなるといくつかの可能性の中から最適な方法を選ぶ能力も必要になります。潰瘍性大腸炎だからこの薬を飲めばよいというような安易な治療方法は決して通用しません。
つまり総じて複数の病が併存する場合の治療は決して簡単というわけにはいきませんが、ご紹介したように的確に行うことが出来れば大変有意義な効果をもたらします。
だからこそ、病が複雑に絡み合っている患者さまにこそ、漢方治療をお勧めしたいと思っています。お悩みの方にとってのご参考にしていただければ幸いです。
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■病名別解説:「潰瘍性大腸炎」
■病名別解説:「月経前緊張症(PMS)」
■病名別解説:「子宮筋腫」
■病名別解説:「子宮内膜症」
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【医療者向け解説】漢方 case study ~生理で下痢が悪化する?子宮筋腫やPMSを伴う潰瘍性大腸炎~ その➀・その➁
今回ご紹介した症例について、医療関係者向けにさらに詳しく解説していきます。
使用した方剤や選択のポイント、さらに考え方などを記載していますのでご参照ください。
その➀ 症例1の解説↓

その➁ 症例2の解説↓

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漢方坂本/坂本壮一郎|note