お世話になっていた生薬メーカーの方々が、続々と定年を迎えつつある。
ちょっと寂しい。
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先日お世話になっているメーカーの方が、新入社員を一人連れて来られました。
そろそろ定年なのだそうで、次代を担う新人さんと挨拶回りをされているのだそうです。
昨今の60代はお若い。だから定年退職するといっても、まだお元気なのにとも思う。
きっとお暇になっちゃいますよと伝えたら、奥様とゆっくりされるのだと。
うらやましいなぁ。私はきっと死ぬまで仕事を続けますが、穏やかでゆっくりな生活というのも大変憧れるところです。
今までたくさんの生薬メーカーの方々にお会いしてきました。
そしてもし皆さまがいらっしゃらなかったら、私はきっと今の仕事が出来ていなかったと思います。
昔まだ駆け出しのころ、メーカーの方々にたくさん生薬の知識を教えていただきました。
講師としてお呼びして勉強会を開いたり、一緒に食事をしながら普段聞けないようなお話を聞いたり。
農家に出向き、製品化に立ち会い、医師や薬剤師に生薬を提供つつ患者さんの声を知る。
生薬のメーカーの方々にはたくさんの現場があります。
患者さまをずっと見続けている私たちでは知り得ない、「生きた知識」を持っていらっしゃいます。
そして当時お会いしていたメーカーの方々からは、そういう生きた知識をたくさん教えてもらいました。
「オタク」というレベルで、非常にマニアックなことをたくさん知っていらっしゃった。
そこで勉強させていただいたことが、今の私の血肉になっています。
生薬を見てその質を判断することも、正しい使い方を実感することができることも、
たくさんの生薬に触れたことと、たくさんのメーカーの方々にお会いしてきたこと無くしては、きっと叶わなかったでしょう。
定年と聞いて寂しく思うのは、
きっと今までの感謝する思いが、感慨をひときわ深めているのだと思います。
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知識には生きたものと、そうでないものとがあります。
そうでないものであっても知識は知識。
知識であるならば、決して無駄になるわけではありません。知っていた方が良いと思います。
しかし、生きた知識は質が違います。
物事を解答まで導く、その力が違うのです。
例えるならば空で輝く無数の星たちの中で、
一つ大きく光る月があるのと同じ。
目的地を指し示す光量が、全く違うのです。
例えば各生薬にはそれぞれ採取時期があります。
植物のどの部分を使うのか、どういう学名なのか、そしてどういう成分が入っているのかなど、一つ一つの情報が無数に備わっています。
生薬を知る上で、それは知識として知っておくべきです。
しかし持つべき本当の知識は、生薬を物として考えた時には得ることはできません。
生薬にはそれぞれ好き嫌いがあります。好きな場所や好きな温度、好きな土と好きな風があります。
なぜならば生薬は生きているからです。人間と同じ。各生薬は、それぞれ好むものが違います。
湿気の強い環境が好きなものもいる。逆に砂漠のように乾燥していないとすぐに元気がなくなるやつもいます。
はたまた冷たく寒い山の中の小川でわざわざ生きようとするものもいるし、中には普通枯れてしまうような水辺を好んで大きく成長するやつもいます。
そういう知識はあまり本には載っていません。
乾燥を好むと書いてあったとしても、どの程度の乾燥なのか、どういう土の感触なのか、
そういう体感を含んだ知識というものは、なかなか本では載せることができません。
生きた知識。
物ではなく、生き物を知るために必要な知識。
生薬の生きた知識を知っていらっしゃった。私はそういうメーカーの方々にたくさんお会いしてきました。
それが今、私の治療に生きています。
生薬を使い方を知る時に、これほど的確に解答を指し示してくれる知識はありません。
生きた知識は、驚きと納得とに満ちています。そしてそういう知識は本ではなく、人からでなければ知ることができません。
新人さんが最後、私に質問してくれました。
まだ始めて間もない私は、どういう勉強をしていけば良いですかと。
私が答えたのは、今必要かどうかは分からないけれども、
本当の生薬の専門家、「あなたがいないと困る」と言われる専門家になるならば、
どうか「生きた知識」を持って欲しいと。
今のお話を伝えました。
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どこであっても起こる世代交代。
失われていく知識と、新たに生まれてくる知識とがあります。
その中でも是非、生きた知識は継承し続けて欲しい。
人は生きているからこそ、生きた知識を生むことができるはずです。
最後に新人さんに伝えました。
たとえベテラン社員の方々が定年で辞めたとしても、
連絡して家から引っ張り出して、これからも色々教えてもらってくださいね、と。
笑った新人さんの目はキラキラに輝いていて、
これからまた新しい時代が始まるのだなぁと、希望に満ちた予感をひしひしと感じました。
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漢方坂本/坂本壮一郎|note