みるみると良くなっている方、
良い状態で維持できている方、
未だ症状の波が強い方、
そして、治療が難航している方。
毎日さまざまな患者さまからご連絡を頂く中、
十人十色の治療状況があって、
そのお一人お一人に、最適な解を見つけるべく、
日々、頭を悩ませ続けています。
・
漢方治療において、いつも難しいと思うのは、
相反する二つの思考、そのバランスをうまくとらなければならないということです。
自分の経験を拠り所にする。
そして同時に、決してそれに依存しないようにする。
これだと思っても、違う可能性があるということを常に考え続け、
そうでありつつ、自分の経験にもちゃんと自信を持つこと。
変化させる時は、繊細かつ大胆に。
変化させない時は、何事にも惑わされず腰を重く据える。
治療の最適解を突き進むというのは、とても難しいことだと感じます。
ある程度の経験を積んできた現在、
どの処方を選ぶのかというよりも、
どう治療を進めていくのかということの方が、ずっと難しいと感じています。
・
父が昔、臨床を始めたばかりの私に言った言葉があります。
初めて患者さんをみた、その初診の時点で、
絶対に処方を一つに絞るなと。
治療は道のりである、ということです。
どんなに優れた漢方家でも、
最初の処方だけで改善するとは思っていません。
もちろん改善するための最適解たる処方を出すのですが、
名医であればあるほど、
その薬が効かなかった時のことを、常に考え続けています。
そして二診目の時点で、
その処方を変えるのか、変えないのか。
思い通りのリアクションがなければ変化させる必要があるし、
その一方で、改善が見えなかったとしても変えてはならない時もあります。
処方を変えるというのは、
その処方を続けていけば治るであろう可能性を捨てる、ということでもあります。
だから、薬を変化させてはいけない時もある。
治っていく可能性を捨てない治療。
同時に薬を変えなければならないという時期の見極め。
治療者に求められることは、基本、胆力です。
父の言葉が、ある時から理解できるようになりました。
・
早く治したいと思う気持ち。
当然、どのような患者さまであれ、治したいという大小の焦りがあります。
そしてそれは、治療者も同じです。
早く良くなっていることを実感して欲しいという、強い焦りがあります。
しかし、この焦りを腹に仕舞う。
焦りと、胆力との勝負です。
焦りを我慢する忍耐と、その上に成り立つ迅速な決断力。
治療得手の先生には、必ずこの能力が備わっていています。
おそらく父にもありました。
患者さまとのやり取りを見ていて、そう感じます。
そして師匠のその能力はずば抜けているでしょう。
時に柔らかく、時に正直に、その焦りをコントロールされているはずです。
きっとそこに長けた人たちのことを、名医というのでしょう。
私自身にも、
まだまだ先があると感じる。
寒さが極まりつつある、真冬のひとり言です。
・
・
・