真冬のひとり言

2023年01月19日

漢方坂本コラム

みるみると良くなっている方、

良い状態で維持できている方、

未だ症状の波が強い方、

そして、治療が難航している方。

毎日さまざまな患者さまからご連絡を頂く中、

十人十色の治療状況があって、

そのお一人お一人に、最適な解を見つけるべく、

日々、頭を悩ませ続けています。

漢方治療において、いつも難しいと思うのは、

相反する二つの思考、そのバランスをうまくとらなければならないということです。

自分の経験を拠り所にする。

そして同時に、決してそれに依存しないようにする。

これだと思っても、違う可能性があるということを常に考え続け、

そうでありつつ、自分の経験にもちゃんと自信を持つこと。

変化させる時は、繊細かつ大胆に。

変化させない時は、何事にも惑わされず腰を重く据える。

治療の最適解を突き進むというのは、とても難しいことだと感じます。

ある程度の経験を積んできた現在、

どの処方を選ぶのかというよりも、

どう治療を進めていくのか・・・・・・・・・・・・ということの方が、ずっと難しいと感じています。

父が昔、臨床を始めたばかりの私に言った言葉があります。

初めて患者さんをみた、その初診の時点で、

絶対に処方を一つに絞るなと。

治療は道のりである、ということです。

どんなに優れた漢方家でも、

最初の処方だけで改善するとは思っていません。

もちろん改善するための最適解たる処方を出すのですが、

名医であればあるほど、

その薬が効かなかった時のこと・・・・・・・・・・・・・・を、常に考え続けています。

そして二診目の時点で、

その処方を変えるのか、変えないのか。

思い通りのリアクションがなければ変化させる必要があるし、

その一方で、改善が見えなかったとしても変えてはならない時もあります。

処方を変えるというのは、

その処方を続けていけば治るであろう可能性を捨てる、ということでもあります。

だから、薬を変化させてはいけない時もある。

治っていく可能性を捨てない治療。

同時に薬を変えなければならないという時期の見極め。

治療者に求められることは、基本、胆力です。

父の言葉が、ある時から理解できるようになりました。

早く治したいと思う気持ち。

当然、どのような患者さまであれ、治したいという大小の焦りがあります。

そしてそれは、治療者も同じです。

早く良くなっていることを実感して欲しいという、強い焦りがあります。

しかし、この焦りを腹に仕舞う。

焦りと、胆力との勝負です。

焦りを我慢する忍耐と、その上に成り立つ迅速な決断力。

治療得手の先生には、必ずこの能力が備わっていています。

おそらく父にもありました。

患者さまとのやり取りを見ていて、そう感じます。

そして師匠のその能力はずば抜けているでしょう。

時に柔らかく、時に正直に、その焦りをコントロールされているはずです。

きっとそこに長けた人たちのことを、名医というのでしょう。

私自身にも、

まだまだ先があると感じる。

寒さが極まりつつある、真冬のひとり言です。



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※コラムの内容は著者の経験や多くの先生方から知り得た知識を基にしております。医学として高いエビデンスが保証されているわけではございませんので、あくまで一つの見解としてお役立てください。

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