ちょっとショックを受けるくらいです。
近頃の天候の波。本当にどうかしています。
治療を始めて間もない方は言わずもがな、
安定されていた患者さまたちでさえ、ぞくぞくと体調を崩されています。
まず安心していただきたいのは、必ず体調は回復へ向かうということ。
今の状態が続くことはありません。
天候は、良くも悪くも必ず変化します。
したがって、この波もしばらくすれば落ち着きます。苦しいお顔をされている方も、おそらくGWが明けた頃には、体調の乱れが整って穏やかな表情に戻ってくるはずです。
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今回の天候の悪化は、急激な寒暖差と、急激な気圧差がダブルパンチで降りかかってきています。
そのため乱れる症状も多岐にわたっています。
頭痛や耳鳴りやめまい、痰や咳などの呼吸器、動悸や息苦しさなどの循環器、吐き気や胃痛・胃もたれなどの消化器。
さらに膀胱炎や夜間尿などの泌尿器、不安感やイライラ・パニックといった精神症状、また全身倦怠感やほてり・酒さ、朝の起きにくさや不眠など。
もう本当に多くの症状が発生しています。
今年に入って一番の乱れといっても良いかもしれません。
しかも、近頃いきなりグッと冷えてきましたが、週末は急激に暑くなるそうです。
もう、、、やめてほしい。
どうしてもっとゆっくり変化してくれないのかな。最近はもう、日々の変化にびくびくしている自分がいます。
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急激な天候の変化と、それによる体調の乱れ。
春の特徴となぜ体調が悪化するのかを、今までは「気温と気圧との急激な変化に伴う、自律神経の乱れと血流障害」という形で説明してきました。
今回はちょっと違った視点で説明してみようと思います。
もっと東洋医学的な視点。東洋医学が永年培ってきた感覚的なイメージで説明してみます。
もともと東洋医学には、自然と人体とが強力に繋がっているという解釈が根本にあります。
それをちょっとご紹介しようかなと。
ポイントは、自然循環とその加速。
なにやら難しそうですが、そうでもありませんので小耳に挟んでおいていただけると幸いです。
■自然循環とその加速
東洋医学は循環の医学です。
東洋思想が、そもそもそうだからです。
生命と自然とはすべて循環という形で、ぐるぐるぐるぐる変化し続けている。
この循環を知ることで、自然現象を把握しよう、体を整えようというのが東洋思想の根本になっています。
例えば干支ってありますよね。
子・丑・寅・卯・辰・巳・午・未・申・酉・戌・亥のいわゆる十二の動物たちです。
これ、もともとは動物ではないというのを知っていますか。
植物なんです。植物の生長循環を示しているらしいのです。
子は種子の子です。つまりタネです。まずタネから始まります。
そしてそれが成長していくごとに、丑・寅・卯・辰・巳・・・と形態を変えていく。そして最後は枯れて滅んで土に返って亥(骸)となり、また種子に戻ることを示しています。
中国で生まれたのですが、途中で分かりやすくするために動物に変えたそうです。
つまり十二支はもともと生命循環を表したもので、中国では方位(位置のこと。例えば東西南北もぐるっと回れば循環する。)の尺後としても使われていました。
そして季節もそうですね。時間です。時間も当然循環します。
未来は一方通行で過去には戻れませんが、季節は循環します。
春・夏・秋・冬、一年を通してぐるぐるぐるぐる回るわけです。
そして、それに合わせて人間もぐるぐると体を変えていく。これが東洋医学の根幹です。
ここまでは、いろいろな所で解説されています。
ただ、なぜか他であまり言われていないのですが、ここで重要なことがあります。
ぐるぐるぐるぐる、季節も人も循環を起こすわけですが、
このスピードは等速ではない。一定ではありません。
循環には「加速度」があります。
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循環の速さは、一定ではありません。
加速度がある。ぐるぐるではなく、ぐわぁん、、ぐわぁん、、という加速度を持っています。
これ、文章で伝えるのがなかなか難しいのですが、
一番近いのが、Windowsの待機中に表れる点の円運動です。
もっと分かりませんよね。ごめんなさい、、、そうですね、こう言うと分かるかも知れない。
円を指で描く時、その指は同じ速度で動いていないということです。
指が下から上にあがる時、この時に指は加速して動くのです。
ぐわぁんと、勢い良く上に向かう。そして上に達するとゆっくりになる。
そしてそのままゆっくり落ちてくる。そして一番下に戻ってくると、その時、スピードが一番ゆっくりになります。
何となくイメージできたでしょうか。つまり、指が一番下にある、一番ゆっくりした動きの状態から、まるでエンジンを急激に吹かした車のように、加速しながら上に向かっていくのです。
この循環が、正しい形です。多分そうです。そう考えないと、いろいろと辻褄が合わないのです。
つまり、自然は一番寒い冬から春に向かって加速していきます。
春は加速の時期。暖かくなったと思えばまた冷える、こういう一見乱れとも思える気候の不安定さ(暴れ)を通して、そのエネルギーを増幅させながら一番気温の高い夏に向かっていくのです。
そしてこれと同じことが、人体にも起こります。
人間の寿命が100歳だとして、体が最も大きく成長するのは10代までです。
等速で大きくなるなら、50歳までゆっくり身長が伸びても良いはずです。
しかしそうではなく、なぜか10代までのうちに、ものすごい勢いで体を大きくさせ切ってしまいます。
そして成長だけではありません。実は四季における人体の活動もそうなのです。
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人体は冬に活動を固め、ゆっくりとした生活を余儀なくされます。しかしそこから春に向かうにつれて、急激に活動しやすい状態へと向かっていきます。
春になるといきなり暖かい日が出てきます。そして暖かいなと思っていたら、今度は逆に急激に冷え込む日も出てきます。
この自然界の加速度的変化を身に受けることで、人体の活動も急激に変化していきます。
そこに同調することで、これから向かう夏の体へと向かっていくのです。
考えてみれば、夏と冬とでは相当世界が変わります。
この大きな環境の変化の中で、同じように生命を維持出来ていることはすごいことです。
これをなし得るために、春による爆発的な変化・加速度的な変化が必要なのです。自然の加速度を受けて、人間も自分を大きく変えて、環境に合わせることができるようになるのです。
ただ、この爆発的な変化は、当然人を乱すこともあります。
環境変化の中で生きていくために必要な刺激である一方で、同時に人の体を蝕み、悪影響を与えてしまう刺激でもあります。
特に何らかの不調を抱えている方、そういう方であれば、この加速に耐えきれなくなってしまいます。
暖かくなったらまた急激に寒くなり、そしてまたいきなり暑くなるという変化がどんどん降りかかってくる。
すると、体の弱い方はそうでない方に比べて、対応するために必死にならなければなりません。
強い方ならばジョギング程度の頑張りでこなせるでしょう。
しかし、体の弱い方ならば、まるで全力疾走で走り続けるような状態を強いられてしまいます。
すると体は極端な緊張・興奮状態に陥ります。
顔がほてり、息が上がって、動悸が起こり、夜も眠れなくなり、体が疲れてしんどくなってきます。
耳鳴りもするでしょうし、めまいだって起こるでしょう。胃腸が弱ければ下痢もしますし、気持ちだって乱れてイライラしたり不安になったりします。
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自然は強力なエネルギーを秘めています。
その循環は、人を生かしもすれば、同時に人を病ませもします。
自然と繋がることの大切さ。自然と共にあることの大切さ。
環境変化を「恵み」として人体に滲み込ませるためには、
自然に共存しえる体が必要です。漢方は、そういう体作りを目指している医学です。
昨今の環境変化は、殺人的です。
年々季節の「間」が無くなり、循環の加速が乱れ、激しくなっています。
人を生かすはずの自然が、どんどん人を生かそうとしなくなってきているような。
繋がりを無視した自分勝手な振る舞い。「自然」がそんな顔付をし始めているような気がするのは、私だけでしょうか。
これから先、漢方においても今まで以上に、自然に負けない体を作るための手法が求められてくると感じています。
漢方は時代と共に変わり続けてきました。きっと今後のトレンドの一つは、「自然循環に対する体調維持」になるはずです。
ただ、そうであったとしても、漢方医学の変化が後手に回っている気がするのです。
病み苦しんでいるのは私たちだけではない。先に病んでいたのは、むしろ自然です。
そして、そうさせたのは一体誰なのかを考えると、、、。
本来であれば、自然をこんな顔付に、させたくはありませんでした。
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