■症例:蕁麻疹(じんましん)

2019年08月31日

漢方坂本コラム

漢方治療は、積み重ね以外の何物でもない。

この生業を続けていく中で、日々痛感することである。

なぜ治らないのかを考え続け、思考錯誤を繰り返す。
そうしているうちに一つ、また一つと、治療成績を残せるようになる。

治療の得手・不得手はその積み重ねによって決まる。
そしてそのとき積み重なるものは、実はとても小さなものである。

そうだったのか、こうすればいいんだ、という実感と発見。
治療者はそれを、コツと呼んでいる。

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40代、女性。

小さいころから皮膚の痒みに悩まされてきた。蕁麻疹(じんましん)である。

ここ一か月ぐらい前から、強い皮膚の痒みが断続的に繰り返されるようになってきた。
皮膚科でもらった強い痒み止めで何とかおさまってはいるが、それでも毎日急激な蕁麻疹が出るという。

発疹は掻き始めると地図状に広がり、時間が経つと引く。
皮膚が真っ赤になって熱感を伴い、全体に浮腫んだように腫れて痒くてしょうがないという。

皮膚科で消風散(しょうふうさん)の顆粒を出してもらった。
炎症が引かないため、その後、黄連解毒湯(おうれんげどくとう)が追加された。

それでも効果を感じることが出来ず、当薬局に来られた患者さまだった。

このような蕁麻疹の場合、第一選択は消風散で正しい。
そして皮膚の熱感が強ければ、黄連解毒湯を追加する。これも正しいと思った。

しかしこれらが効かない。そうなると、消風散+黄連解毒湯は間違いだったということになる。

患者さまの体調を詳しく伺う。
なるほど方向性は正しい。しかし工夫が足りなかった。

私は消風散と黄連解毒湯を出した。同じく顆粒剤である。
ただし一工夫を加えた。それは経験から得たコツだった。

患者さまの蕁麻疹は、飲み始めて一週間ほどで起きなくなった。

再発を危惧し、それから数か月服用を続ける。
その後、蕁麻疹が完全に消失したことを確認して、治療を終了した。

今回私が行ったことは、単なる一工夫でしかない。
口で言えば其れしきの?と思われるであろう些細なことである。

しかし、しばしばそんな小さなことでさえ、治療成績を決めてしまう。
小さなこととはいえ、些末なことでは決してないのである。

これらのコツは、今まで自分自身で見つけるか、
または師や歴代の先哲が口伝するという形で伝えられてきた。
治療者が発見し、それを後続の治療者に伝えてきたのである。

しかし、本当はそうではないと、私は思っている。
コツは治療者が作り出したものではない。

漢方治療を受けた多くの患者さまが、その治療者に教えてきてくれたこと。
コツとはそうやって作られ、伝えられてきたものである。

すなわち私たちのやっていることは、頂いたものを、ただお返ししているに過ぎない。
治療とはそのようにして繋がってきたものだと、綺麗ごと抜きで、私はそう思っている。



■病名別解説:「蕁麻疹

〇その他の参考症例:参考症例

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