□胆石症 ~漢方治療を行うべき胆石症の特徴~

2022年02月15日

漢方坂本コラム

□胆石症
~漢方治療を行うべき胆石症の特徴~

<目次>

漢方治療を行うべき胆石症の特徴

1、とにかく腹部や背部に痛みがある方
2、痛みがなくても漢方治療を行ったほうが良い方の特徴
3、漢方治療を行うべき胆石症・まとめ

漢方治療を行うべき胆石症の特徴

一口に胆石症といっても、いろいろあります。

自覚症状の全くない、いわゆる無症状胆石(サイレントストーン)という状態もあります。

一方で何らかの痛みを起こす方、特に食後や起床時に右わき腹の痛みがくる方や、背中に痛みが走る方などもいらっしゃいます。

食事療法は絶対ですが、それさえ気を付ければ、自然と良くなる方もたくさんいらっしゃいます。また破砕療法や手術などの西洋医学的処置によりきれいに治る方も多いものです。

ただし、症状の軽重に関わらず、漢方治療を行うべき胆石症というものがあります。

私の今までの経験上、食養生だけではどうしても改善へとは向かっていかない方がおられます。また漢方治療が効きやすい方と、そうでない方との違いも徐々に分かってきました。

そこで今回は、漢方治療を行った方が良い胆石症、また漢方にて治療効果が見込める胆石症というものを、私自身の経験に基づいてご紹介していきたいと思います。

1、とにかく腹部や背部に痛みがある方

胆石症では腹部に何らかの痛みを自覚されている方が一定数いらっしゃいます。右季肋部の痛みや背中の痛みが、主に食後に起こることが多いものです。

また時に右ではなく左に起こったり、食後に吐き気や血の引くような感覚を起こす方もいらっしゃいます。程度の差に関わらず、このようなお腹や背中の「痛み・違和感」を伴われている方であれば、漢方治療を行っておいた方が絶対に良いと思います。

胆石症で怖いのは、そこから胆嚢炎を起こしたり、膵炎を併発したりといった、他の病への派生です。胆石による胆のう・胆管への負担から、火がついて爆発してしまう状態が最も危惧されます。

自覚症状がない場合は、ある意味それがほぼ鎮火している状態だともいえます。石の大きさや位置にもよりますが、そうであれば食事の養生をしっかりと気を付けることで、ある程度鎮火させ続けることは可能だと思います。

しかし、少しでも自覚症状がある方は、お腹の中ですでに火が灯っている状態、常に沸々と燻っている状態です。

睡眠不足や疲労、そして食事の不養生といったきっかけのたびに、その火が煽られ、炎が今か今かと燃え上がらんとしています。痛みを抱えておられる方は、そんな爆弾をお腹に抱えながら生活しているといっても過言ではありません。

痛みがあるものの、頻度は少ないという方もいらっしゃいます。1週間に1.2度、または月に数度しか感じないというケースです。

そうだとしても、何らかの対応を行っておくべきだと思います。少々のことで爆発するようなものではないと、油断していてはいけません。

不養生が続けば胆石発作は確実に起こるものです。また膵炎へと派生すればこの先、一生の問題へとつながる可能性さえあります。

放っておかれることの多い病であるだけに、少しでも症状を感じる方は、危険信号だと理解してください。

また発作は西洋医学的な処置で事なきを得ることができますが、それを繰り返すとなると話は別です。確実に消化管へのダメージは積み重なっていきます。

そして西洋医学的な処置は基本的に対症療法であり、胆石を起こしやすい状態そのものが改善されるわけではありません。

したがってこの先ずっと消化管の不調和を抱え続けないためにも、食養生をしっかりと行うこと、そしてもし食養生を行っても日常的な痛み・違和感が改善されない場合は、漢方治療を検討するべきだと思います。

胆石による痛みに対しては、漢方では比較的素早い効果が期待できます。特に日常的に痛みがあるという方では、その不快感を消すためにも漢方治療を強くお勧めすることができます。

2、痛みがなくても漢方治療を行ったほうが良い方の特徴

そもそも胆石症はなぜ起こるのでしょうか。

胆のう中に起こる胆石で最も多いのはコレステロール結石です。したがって脂肪分の摂り過ぎというのがその原因だと考えられている方が多いのですが、実はそうでありません。

確かに胆石による痛みは、油ものなどを食べた時に起こることが多いものです。したがって、脂肪分の多い食事が胆のうに負担をかけていることは間違いなく、食事に気を付けることは必須ではあります。

しかし実際のところ、胆石が起こる詳しい原因は未だに分かっていません。そして単に脂肪食過多というだけでは解決できない胆石も多々あります。

例えばコレステロールを多量に摂っていたとしても胆石が起こらない方もいらっしゃいます。また、油ものやお菓子などを食べていなくても胆石が起こる方もいます。

つまり胆石を生じてしまう原因は、その方のより体質的なところにあるのだと私は感じています。具体的には、ご自身の消化管に「胆石が起こりやすい状態」がもともと備わっているからだと考えられるのです。

消化管は平滑筋という筋肉の活動によってその働きが支えられています。

食道・胃・小腸・大腸・胆のう・膵臓という一連の消化管臓器は、この筋肉活動がスムーズに連動することで初めて、様々な働きを全うすることができるようになります。

また胆のうそのものが筋肉で出来ています。食事のたびにその筋肉が収縮・拡張を繰り返すことによって胆汁を排出していて、さらに胆汁や膵液はOddi(オッディ)括約筋による筋肉活動によってその放出が支えられています。

すなわち胆のうの働きは、これらの筋肉活動によって常に支えられているということです。そして筋肉活動に支えられている以上、どんな方であっても乱れることが必ずあるものです。

疲労を起こさない筋肉はありません。暴飲暴食を行えば誰であっても消化管は疲労します。また元来、消化管平滑筋が疲れやすく緊張しやすい方などでは、特にこの活動が乱れやすくなります。胆石症を起こしやすい方には、このような消化管活動の乱れ、つまり疲労や緊張状態が関与している場合が非常に多いのです。

漢方治療は、当にこの点を改善します。単に胆石を消す薬が用意されているわけではなく、あくまで消化管の筋肉活動を是正することで胆石を治療していきます。

つまり消化管平滑筋の緊張や疲労を去り、それによって胆石が排出されやすい状態や、胆石を生じにくい状態を作っていきます。消化管活動のベースを整えることで、体質から改善していくというのが漢方治療の本筋になります。

そしてここで重要な点は、消化管活動はすべて連動して起こっているという点です。

胆のう以外の消化管活動に問題があれば、胆のうにも必ず負担がかかります。胆のう自体の症状がなかったとしても、他の消化管に不調があれば胆石症を悪化させる要因が常に存在しているということです。

したがって、他の消化管活動に何からの症状があれは、それは胆石症を悪化させやすい状況を表すサインになります。

特に、以下のような症状がある方では、たとえ痛みがなかったとしても、胆石症を改善する目的をもって消化管活動を是正する治療を行うべきだと思います。

まず、胆石症が起こりやすい方の多くは、「便通」の不調和を伴われていることが多々あります。

特に多いのが「便秘」。もともと便が硬くて出にくい方や、柔らかくてもすっきりと出ず、残便感を伴うという方は、胆石症をおこしやすい、悪化させやすいという傾向があると思います。

また時に下痢をしやすいという方もいます。腹痛を伴って下痢をするとか、過敏性腸症候群が平素からあり、お腹が緊張しやすいという方でも胆石を併発することがあります。

便通の乱れは日々起こりやすく当たり前のこととして我慢している方が多いからこそ注意が必要です。ほぼ無自覚の無症状胆石(サイレントストーン)であったとしても、便通に問題があれば漢方治療を行っておいた方が良いでしょう。

また便通に問題を抱えておられる胆石症は、比較的漢方にて治しやすいものに属します。そういう意味でも便通異常と胆石とが関連している可能性を是非知っておいてほしいと思います。

そして次に多いのが、「胃もたれ」や「腹満・膨満感(お腹の張り)」です。右季肋部の痛みや背中や肩への放散痛がなかったとしても、食後に胃もたれしやすいとか、お腹が張って苦しいという方であれば、胆嚢に負担がかかっている可能性が高くなります。やはり、漢方治療を行うべきです。

さらに、めまいや動悸、息苦しさや不眠、イライラや不安感など、自律神経の乱れを伴っている方も漢方治療を行っておいた方が良いと思います。消化管の筋肉活動は自律神経によって支えられています。したがって自律神経を乱しやすい方では、容易に消化管活動も乱れやすくなります。

また月経に伴って便秘したり下痢したりする方や、PMS(月経前緊張症)症状が強いという方でも、胆石に影響を与えることがあります。月経においてはホルモンバランスと自律神経とが波を打ちます。そのため特にPMSが強いという方であれば、まったく関係ないと思われる月経に伴う症状であったとしても、放っておくべきではないと思います。

このように、たとえ右季肋部痛や背部痛のない無症状胆石(サイレントストーン)であったとしても、それだけでは決して「無症状」とは言えないと私は思っています。

消化管全体、そして自律神経を介した何らかの症状を伴っている場合には、それはすでに胆石症と関係の深い症状が発動している状態だと理解してください。

3、漢方治療を行うべき胆石症・まとめ

さて、ここまで説明してきたことをまとめてみます。

胆石症には様々な状態が考えられますが、以下のようなケースでは、漢方治療を行うことをお勧めいたします

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〇とにかく痛みのある方

・右、時に左の季肋部に痛みのある方や、背中や肩に痛みが波及する方。

〇痛みが無くても以下の症状が介在している方

・便秘や下痢、胃もたれや膨満感などの消化管症状を感じておられる方。
・めまいや動悸、息苦しさや不眠、イライラや不安感など、自律神経症状を感じておられる方。
・月経前後に伴う便秘・下痢・胃もれなど、またPMS症状を伴っておられる方。

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以上のケースは、今後悪化する可能性が高いという状態です。

そして同時に、漢方薬にて効果を発揮しやすい胆石症に属している状態でもあります。

ですのでこれらの状態が備わっているのであれば、強く漢方治療をお勧めすることができます。

放っておかれやすい病であるからこそ、心配な方はぜひ、漢方専門の医療機関へと足をお運びください。



■病名別解説:「胆石症・胆嚢炎

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