□自律神経失調症・パニック障害 ~漢方薬による治り方とその具体像~

2022年07月22日

漢方坂本コラム

□自律神経失調症・パニック障害
~漢方薬による治り方とその具体像~

<目次>

自律神経治療の特殊性

自律神経治療のポイントと具体像

1、刺激の調節が全て
2、症状を消失させるのではなく、安定させる治療
3、不安感や焦りとの勝負

自律神経治療の特殊性

当薬局でも多くのご相談が寄せられる、自律神経失調症やパニック障害。

これら自律神経の乱れを主体する病は、とにかくさまざまな症状を併発しやすいという特徴があります。

息苦しさや動悸、頭痛や不眠、不安感や焦燥感を筆頭に、心身に及ぶあらゆる症状が、出たり止んだりを繰り返します。

そのため、各症状毎に異なる薬で対応しようとする西洋医学では、なかなか対応しにくいという側面があります。

一方、複数の症状を包括しながら改善してく漢方治療に、多くの期待が寄せられています。

漢方薬にて改善を見る場合は、確かに一つの処方で複数の症状を同時に解決できることが多いのものです。

しかし、どんなに漢方薬を服用しても効果を感じなかったという方も多くいらっしゃいます。

漢方薬にも当然限界はありますが、私見では漢方の限界というよりは、治し方自体が正しくないというケースがあるのです。

どんなに正しい漢方薬を選択できたとしても、治し方を間違えると改善することはできません。

すなわち的確な処方を選択するだけでは足りません。現実的な治し方・治り方を理解していていることがどうしても必要になります。

自律神経の乱れを主としたこれらの病では、そういう治療上のコツというか、治り方の特徴のようなものがあるのです。

他の病とは異なる治り方の特徴を理解すること。そこで今回のコラムでは、この特徴について解説していきたいと思います。

自律神経症状を改善していくために、是非とも知る必要のある内容になっております。

漢方治療を既に行われている方、またご検討されている方などに、是非お読みいただければ幸いです。

自律神経治療のポイントと具体像

 

1、刺激の調節が全て

そもそも自律神経は、身体に及ぼされる「刺激」に反応するための神経です。

身体は全ての活動を自分の意志で行えるわけではありません。自分の意志とは関係なく、自動的に、自律して働く神経のことを自律神経といいます。

身体には常に様々な刺激が侵襲しています。温度や湿度・気圧など光など、これらの刺激を受けて、人体は刻々と変化しています。

そしてこれらの刺激に対しては、通常自らの意思を持って対応することができません。

自動的に働くセンサーたる自律神経が機能することで、身体を変化・調節させて、これらの刺激による影響から身を守っているのです。

漢方は、この「刺激に対して自動的に反応・対応する」という自律神経の特徴を利用することで効果を発揮します。

つまり漢方薬とはそもそも「刺激」であり、その刺激をもって自律神経に働きかけているのです。

したがって自律神経を的確に調節するためには、的確な刺激を作れるかどうかが勝負になります。

強すぎてもだめだし、弱すぎてもいけません。

半夏厚朴湯はんげこうぼくとう柴胡加竜骨牡蛎湯さいこかりゅうこつぼれいとうなど、自律神経に働くとされる漢方薬をいくら服用したとしても、それらの刺激の度合いを間違えていれば決して効果は表れません。

つまりどんな漢方薬も、刺激の調節抜きに自律神経に働きかけることはできません

私見では、多くの自律神経治療において、この点を間違えているケースが多いと感じます。

漢方薬は刺激であり、さらにその刺激をどう調節するのか。

そういう視点で薬を使わないと、自律神経を安定させることは出来ない。生薬の産地や質を見極めると同時に、必要であれば他剤を合方するなどの、丁寧な処方作りを行う必要があります。

治療者側のさがとして、効かせようと思えば思うほど分量を増やしたくなるものです。

しかし、それでは効果が出ません。逆に、悪化さえることさえあります。

漢方では治療得手の先生であればあるほど、少量処方の偉功を知っています。

少ない量だからこそ効果が出る、そして増やすときは断じて増やすという治し方を、知っていらっしゃるのです。

 

2、症状を消失させるのではなく、安定させる治療

自律神経とは、そもそも「変化するもの」です。

刺激に合わせて変化するからこそ、自身の生命活動を維持することができます。

したがって治療において、自律神経症状を「消す」という目的を持つことは間違いです。

消すのではなく、「安定させる」こと。不安定さを安定させるという治療が、自律神経治療の本質です。

自律神経の乱れとは、刺激に対して過敏かつ過剰に反応し過ぎてしまっている状態を指します。

すなわち、そのふり幅が大きすぎるために体に変調をきたします。そこまで反応しなくても良いような小さな刺激に対して、自律神経が頑張り過ぎてしまうために症状が発生してきます。

したがって自律神経が改善する場合は、このふり幅が小さくなり、過敏さが緩和されて安定してくるという治り方をします。

つまり刺激に対して変化はするものの、そこまで振れないという状態を作ることが目標になるのです。

自律神経に伴うに症状は、急激に消え去るということはあり得ません。

例えば毎日のようにあった症状が、一週間に1日だけ起こらない日が出始めます。

それが2日になり、3日になり、徐々に症状の無い日が増えてくるという経過をたどります。

消失させる治療ではなく、安定させる治療。それ故に、時間はどうしてもかかります。

時間をかけながら、徐々に落ち着いてくる。自律神経治療では、往々としてそういう治り方をしてくるものです。

 

3、不安感や焦りとの勝負

つまり自律神経症状は、変化を繰り返しながら改善へと向かいます。

たとえ一時、治り始めたことを実感したとしても、さまざま刺激により、また必ず波を打ちます

そして自律神経の乱れには、ほとんどの場合で精神の乱れも介在してきます。

不安感や焦り、恐怖感やイライラなど。もともとの性格や気質といったものとは一線を画する精神の乱れが、身体的症状と伴に、「症状」として介在してきます。

これらの精神症状は、しかるべき漢方治療が行われれば必ず改善へと向かいます。

何であんなに不安だったのだろうと、不思議に思うというような治り方をしてくることが多いものです。

しかし、身体症状と同様に、これらの精神症状も必ず波を打ちます

一時不安感がなくなってきたと感じても、身体症状が波を打つ際に、同時に不安感や焦りがまた顔を出し始めます。

実はこの精神症状の介在こそが、自律神経治療を難しくさせる最大のポイントです。

身体症状と伴に、不安や焦りが症状として発現してくる点にこそ、治療の難しさがあるのです。

なぜならば、不安や焦りは、治療そのものを断念してしまうきっかけになり得るからです。

良くなっていたのに、また悪くしまったのではないか。やっぱり今の治療が自分に合わないのではないか、漢方薬が効かなくなってしまったのではないか。

そういうさまざまな不安に負けてしまうと、治療が続かなくなります。治療中、症状の波を受けて現在行っている治療を断念してしまうという方が、実際にたくさんいらっしゃるのです。

的確な処方を選択し、かつ適切な刺激としてそれを調節する。さらに波を打つ治療になることを理解しながら、養生を守りつつ腰を落ちつけて服用を続ける。

これさえできれば、自律神経症状は不治の病では決してありません。必ず改善へと向かう。臨床を通して、そういう現実を何度も目の当たりにしてきました。

しかし、これは言うほどやさしいものではありません。症状は必ず波を打つ。すなわち、不安感や焦りに負けず、堪えて辛抱しなければならない時期を必ず経過しなければなりません

不安や焦りという精神症状こそが、自律神経失調症やパニック障害治療における、最大の難敵です。

身体的症状だけなのであれば、人はそれを客観的に見つめられます。

冷静に理解し、治療を理解する。そういうことが比較的しやすいものです。

しかし、不安感や焦りという精神症状は、この理解や納得を困難にさせてしまいます。

どうしよう、どうしようと、ソワソワしている方が何かを選択・決定しようとするならば、その時はまず冷静になることが必要です。そうでなければ、間違えた選択をしてしまうからです。

自律神経が乱れると、どうしてもこの状態に陥ってしまいやすくなります。だからこそ、理解して、納得して、信じて、安心して、治療を続けていくことがとても大切になります。

自律神経失調症やパニック障害は、決して治らない病ではありません。

だからこそ、それを実現させるために知っておくべきこと。それは、どういう治り方をしてくのかというイメージをしっかりと持つこと。説明を聞いて把握し、納得することが、大前提になるのです。



■病名別解説:「自律神経失調症
■病名別解説:「パニック障害・不安障害

【この記事の著者】店主:坂本壮一郎のプロフィールはこちら