□蓄膿症・後鼻漏・慢性副鼻腔炎 ~漢方治療による治り方・前編~

2020年03月16日

漢方坂本コラム

□蓄膿症・後鼻漏・慢性副鼻腔炎
~漢方治療による治り方・前編~

<目次>

■副鼻腔炎や上咽頭炎・どのように治っていくのか?
■治っていく過程で起こる「一時的な悪化」
■「一時的な悪化」その理由と意味
 1.慢性化しやすい理由・「炎症と痰による負のスパイラル」
 2.治療に欠くべからざる薬能・「排膿」
 3.「一時的な悪化」は排膿作用の発現と改善への早道
■どのように治っていくのか・先を見越した治療の重要性

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■副鼻腔炎や上咽頭炎・どのように治っていくのか?

顔面が痛い・鼻の奥が重い・匂いが分からない・後鼻漏が続いて息苦しいなどなど、日常的に意識せざるを得ない不快な症状を発生させる副鼻腔炎や上咽頭炎。

西洋医学的に完治させることの難しいケースが多いことから、漢方治療をお求めになる方の多い疾患です。

ただし一口に副鼻腔炎・上咽頭炎と言っても、その病態は実に様々です。まず急性期のものと慢性期のものとでまったく状況は異なりますし、平素より蓄膿症や後鼻漏を生じている方かどうかによってもその適応処方は異なってきます。

したがってその治療方法は決して一律的に言えるものではありません。患者さまによってその適応処方も、そしてその治り方も、全く異なってきます。

特に「その治り方」、つまり「どのような経過を経て治っていくのか」ということを知っておくことがとても重要です。これを知っておかないと、的確な治療を行えているにも関わらず完治へと向かえないという可能性が出てきてしまうからです。

■治っていく過程で起こる「一時的な悪化」

副鼻腔炎・上咽頭炎を漢方薬にて治療する場合、その治り方にはいくつかのパターンがあります。そしてその中には、完治までの過程の中で一時的に症状の増悪を見るケースがあります。例えば、

・漢方薬を服用し始めてから急に後鼻漏が増えた感じがする。
・顔面や鼻の奥の圧迫感や重さが強くなった。

このような症状が出た場合、途中で症状が悪化しているように感じるため、悪くなっているのではないかと心配になられると思います。しかし、実はこの増悪は急速に改善していく時に良く表れる現象でもあるのです。

その場合、この増悪は一時的な反応として終息し、終息したとたんに改善へと迅速に向かうということがしばしば起こります。したがって増悪の段階で治療を止めてしまうと、せっかくの早く治るチャンスが無駄になってしまいます。

とはいえ、やはり一時的にでも症状が悪化してしまうと、誰もが心配になると思います。急に後鼻漏が増えたり、顔面や鼻の圧迫感や重さが強くなるという現象が起きれば心配になって当然だと思います。

そこで、ここでは何故このような反応が起こるのか、その理由を詳しく解説してみたいと思います。鼻の中にいったいどのような反応が起きているのか。腰を落ち着けて治療を続け、完治へと向かうためにも、治療の過程において発生してきやすいこれらの現象を是非知っておいてください。

■「一時的な悪化」その理由と意味

まずは、副鼻腔炎や上咽頭炎、さらに蓄膿症や後鼻漏という病・症状の根本的な病態を理解しておくことが大切です。これらの病に共通して言えること、それは副鼻腔洞や上咽頭部に炎症が継続しているという点と、さらにその為に副鼻腔洞に痰や膿が発生しているという点です。

1.慢性化しやすい理由・「炎症と痰による負のスパイラル」

この継続する炎症と、発生している痰や膿とは、互いに関連して生じ、さらにお互いに助長し合って悪化のスパイラルを形成していきます。

鼻の手前に位置する鼻腔にくらべて、副鼻腔洞は鼻の奥に存在する複雑な洞窟です。したがって一旦炎症が起こると、鼻腔に比べて治りにくいという特徴があります。そして継続する炎症はその部分に痰や膿を発生させますが、副鼻腔洞は空間的に閉鎖されている傾向があるため、発生した痰や膿が外に出にくく、そこに溜まっていきやすくなります。すると溜まった痰や膿はさらに副鼻腔洞を狭くさせ、副鼻腔洞の閉鎖性を高めてしまう、つまり、換気が充分に出来ていない部屋と同じで、細菌が繁殖しやすい状態を形成していってしまうのです。

細菌が繁殖しやすいということは、ちょっとしたことですぐに炎症を起こしてしまうということです。そして度々炎症が起こることで、さらに副鼻腔洞に痰や膿が溜まってしまいます。そして溜まった痰や膿がさらに細菌を繁殖させるベットになる。こうやって副鼻腔炎や上咽頭炎がずっと継続してしまう原因を形成してしまうのです。

2.治療に欠くべからざる薬能・「排膿」

つまり、これらの治療において必須となる薬能は大きく二つ、まずは継続する炎症を抑えること、そして副鼻腔洞に溜まった痰や膿を排出させることです。

このうち痰や膿を排出させる薬能を漢方では「排膿(はいのう)」といいますが、この「排膿」は副鼻腔炎であれば必ず必要とされるものです。炎症を抑えるだけでは副鼻腔炎は高い確率で再発しやすい状態を形成してしまいます。また蓄膿症においても、副鼻腔洞に溜まる膿を排出させなければ、その不快感を解消することは出来ません。

そしてこれは後鼻漏においても同様です。後鼻漏は鼻の奥から咽に向かって痰が落ち続けるという症状ですが、このようにいつまでも痰が流れてくる理由は、副鼻腔洞に溜まっている痰がいつまでも抜けきらないからです。しっかりと抜けきらないから、いつまでもチビチビと流れ続ける。それが後鼻漏という症状の実態です。

つまり副鼻腔炎・蓄膿症・後鼻漏においては、「副鼻腔洞に溜まる痰をしっかりと排出させ切る」という治療が必要になってきます。そのため「排膿」作用を持つ漢方薬をもって痰や膿の排出を促さなければならないのですが、この時、その反応が迅速に表れると、副鼻腔洞の痰や膿の動きが活発になり、一時的に排出が強く行われる場合があるのです。この反応が、先ほど申し上げた「完治までの過程の中で一時的に起こる症状の増悪」です。

3.「一時的な悪化」は排膿作用の発現と改善への早道

この時、炎症を去るというもう一つの薬能も含めてしかるべき処方をもって対応していれば、もともとの病が悪化することは決してありません。

痰や膿の排出が促されてまるで病状が悪化してしまったように感じはしますが、もともとの病態、つまり副鼻腔炎や上咽頭炎・蓄膿症自体が悪化しているわけではないのです。

むしろ漢方薬による「排膿」の薬能がピタリと当てはまらなければ、このような反応は決して起きません。排膿が迅速に進んで速やかに改善へと向かっていく可能性が非常に高いという状況の表れでもあるのです。

■どのように治っていくのか・先を見越した治療の重要性

当薬局ではこれらの現象を、漢方薬をお出しする際にご説明差し上げておりますが、この現象の説明を受けずにいきなり症状が悪化し出せば必ず不安になるはずです。そのまま漢方治療をあきらめてしまうことは当然だと思えますし、おそらくこの一時の悪化で漢方薬の服用を止めてしまった方は相当数おられるのではないかなと容易に想像することができます。

すべての副鼻腔炎・蓄膿症・後鼻漏治療において必ず起こる現象ではありませんが、改善への過渡期の中でこのような「一時的な増悪」が起こり得るということは是非知っておいてください。

長期的に苦しまれていた症状が、完治へと向かう可能性を秘めた現象です。そしてこのような現象が起きたら、その漢方薬を出してくれた医療機関に相談しながら治療を進めていくことをお勧め致します。



■病名別解説:「副鼻腔炎・蓄膿症・後鼻漏
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【この記事の著者】店主:坂本壮一郎のプロフィールはこちら