○漢方治療の実際 〜漢方薬を試してみたい方へ・医療機関の選び方〜

2019年11月25日

漢方坂本コラム

○漢方治療の実際
〜漢方薬を試してみたい方へ・医療機関の選び方〜

<目次>

■漢方薬を飲んでみようかな・・でもどこへ行けば良いのか
■どこまで深い治療をしてみたいか・自分に丁度良い医療機関の選択
A、ドラックストアで漢方薬を選んでみる
B、保険がきく漢方治療を行ってみる
C、自費による漢方治療を行ってみる
■どの医療機関を選択するべきなのか ~まとめ~

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

■漢方薬を飲んでみようかな・・でもどこへ行けば良いのか

漢方薬を服用してみたい、そう思われている方の中には「どこに行けば良いのだろう」とお悩みの方も多いと思います。

漢方薬は様々な場所で扱われています。病院やドラックストア、漢方薬局など、たくさんの場所があるので迷うと思います。これらの薬店や医療機関は各々で扱える漢方薬も違いますし、漢方治療における専門性も異なってきます。自分はどこに行くべきか、そう迷われている方々のために、今回はその見極め方を解説してみたいと思います。

■どこまで深い治療をしてみたいか・自分に丁度良い医療機関の選択

まず最初にどこに行くかを選択する上での意見として「どなたであっても、より専門的な医療機関に行くべき」という考え方もありますが、私自身はそれは必ずしも正解とは言えないのではないかと思っております。

確かに漢方治療を専門に行っている医療機関の方が効果が感じられやすいという側面はあります。しかしその分一般的には費用が高くなりますし、生活習慣の改善などご自身で頑張ることも大切になるため、治療を行うという心構えのようなものが必要になってきます。少しだけ気になる症状を緩和させたい、一時的な症状をその時だけ改善したいなど、ちょっとだけ試してみたいというお求めも当然あると思います。そういう方にとっては、専門性の高い治療が必ずしも自分に合っているとは限りません。

要は体調が良くなっていると感じることができるのであれば、どのような場所であっても良いと思います。どこまで治療したいのか、どういうことをお求めなのかは、人それぞれ違うと思います。自分に丁度良い場所を選択すること、それが一番大切です。

ただし漢方薬といえども合わなければお体に負担をかけることがあります。そのため副作用などのリスクの少ない選択を行えていることが前提です。簡易的に漢方薬を買える場所においても、何かこまった時に相談できる医療関係者がその場所にいるかどうかは、必ずチェックしておいてください。

■漢方治療の選び方・各医療機関の特徴

どうすれば自分に合った薬店・医療機関を選べるのか、それを知るためにはそれぞれの医療機関の特徴を知ることが大切です。そこで各々の特徴を知るために、ここでは以下のように分類してみます。

A、ドラッグストアで漢方薬を選んでみる
B、保険がきく漢方治療を行ってみる
C、自費による漢方治療を行ってみる

この分類はあくまでおおよそです。各項目の中でもそれぞれのお店や医療機関によって特徴がありますので、一概にこうだと言えない部分はあります。ただしこの分類によって使うことのできる漢方薬が異なってきますので、どこまで深い治療に対応できるかということについては、おおよその目安にはなるはずです。まずは皆さんにとって馴染み深いドラッグストアの漢方薬について解説していきましょう。

A、ドラックストアで漢方薬を選んでみる

日用品などを取り扱っているドラッグストアの多くが漢方薬も取り扱っています。自分で手にとって薬の解説を見る事が出来ますので、比較的簡単に漢方薬を試してみることができます。大きなドラックストアでは商品の品揃えも多く、たくさんの漢方薬の中から選ぶことができます。そしてできれば漢方薬を選ぶ際に、在中されている薬剤師や登録販売者に一言相談してみましょう。ご自身の症状やお困りの内容を伝えれば、こういうものがありますよと紹介してくれるはずです。簡便であることと、比較的副作用などの体への負担が少ないことが最大のメリットです。ちょっと試してみたいな、という方であれば先ずはドラックストアに足を運ばれるのが良いと思います。

ただし次のような特徴もあります。ドラッグストアに置いてある薬は3つの分類の中では最も薄いものに属します。その分副作用の危険などは少ないのですが、同時に薬能が薄いということでもあります。そして店頭にすべての漢方薬が揃っていることはまれで、扱える漢方薬の種類も限られています。つまり漢方の専門性を発揮しにくいという側面があります。そこで、できれば漢方に造詣の深い薬剤師や登録販売者が在中されているドラックストアを探したいところです。これらのデメリットを補いながら、効果的な漢方薬を紹介してくれると思います。

総じて言うならば、ドラッグストアにて漢方薬を購入される場合は、あくまで漢方治療の入り口としての利用が望ましいと言えそうです。先程述べたように、要は効果を感じられればそれが最も良い選択だと思います。したがってドラックストアで購入した漢方薬で調子が良くなればそれに越したことはありません。もし効果をあまり感じられなかったとしても、漢方治療自体を諦める必要はありません。次に解説する2つのステップがあることを是非知っておいて下さい。

B、保険がきく漢方治療を行ってみる

現在、多くの病院や診療所にて漢方薬が処方されるようになりました。ツムラやコタローの漢方薬など、病院にて処方された漢方薬を一度は飲んだことがあるという方も多いのではないでしょうか。これらの漢方薬は保険が適用され、その分安価で治療を受けることが可能です。また専門性の高い漢方治療を行うことができるという点からしても、患者さまにとって保険のきく漢方薬があるということはとてもありがたいことだと思います。

ただし保険の漢方薬にも弱点があります。それは使える漢方薬の種類に制限が出てきてしまうということです。エキス顆粒剤(粉薬)でみると、保険適応が認められている漢方薬が148種類であるのに対して、保険外で扱える漢方薬は全部で294種類あります(2019年現在)。つまり漢方薬は全体の中の一部しか保険が認められておらず、保険で治療を行う際にはこれらの限られた処方の中から上手に運用していくことが求められます。

また保険の煎じ薬を服用する場合には、上質な生薬を使用しにくいという側面もあります。保険が適応しているということは、お薬の値段が国によって決められているということです。そして生薬に対して国で定めている保険薬価はかなり安く、煎じ薬を処方する際には逆ザヤ(薬価(売値)よりも仕入れ値の方が高い状態)になってしまうこともあります。そのため保険で出される煎じ薬は、費用上どうしても質の低いものにならざるを得ません。漢方に精通している先生ほど、各生薬の質には非常に気を配ります。したがってこの辺りの制限に関しては、先生方も常に頭を悩ませてしまう所だと思います。

とはいえ東洋医学に精通されている先生であれば、このような制限を受けつつも、その中で効果的な治療を行うことが出来ます。漢方薬は同じお薬でも使用している生薬の質によって全くの別物になります。したがって保険の漢方をお使いの名医は、保険の漢方の特徴を充分に理解されている中で、それをどのように使用すれば最も効果的かを熟知されています。ただし漢方薬が保険にて頻用されるようになった昨今においては、時に的確な状況判断がされないまま安易に処方されているという現状もあるようです。東洋医学に対する造詣は先生方によって天と地ほどの差があります。保険にて漢方治療を受けられる際には、是非とも漢方治療に造詣の深い先生におかかりになってください。

C、自費による漢方治療を行ってみる

漢方薬の薬能を決定する上で最も重要な要素は「生薬の質」です。同じ処方であっても生薬の質が異なれば、まったく違う薬になるといっても過言ではありません。この生薬の質を制限なく高められる方法が自費による漢方治療です。そのため漢方の専門性が高い先生ほど自費治療を行われている傾向があります。

現在の日本において、もっとも専門性の高い漢方治療を行うことが出来るのが自費治療です。そのため北里研究所東洋医学総合研究所や聖光園細野診療所など、漢方治療のみを行っている病院では、この自費治療(自由診療)が採用されています。またやや使用する薬に制限はありますが所謂漢方治療を専門に行っている一部の漢方専門薬局もこの範疇に属しています。非常に高い専門性をもって漢方治療を受けることのできる場所ではありますが、同時にこの3つの中では最も費用がかかりやすいという側面があります。したがって一般的には敷居が高いという印象をお持ちの方が多いようです。

専門性の高さに伴って費用が高くなることは致し方ない部分ではあります。しかしそうだとしても、実際に治療を受けられる患者さまにとってはどうしても気になる所だと思います。ただし考えようによっては、最も費用がかからない治療になる可能性もあります。効果を発揮できる治療こそが、最も安くすむ治療だからです。安価な治療を年単位で行わないといけないのか、高価ではあるが効果的な治療を数か月集中して行うべきなのか、治療全体という視点で見れば、どちらが安いかを判断することはなかなか難しいものです。

また自費治療におかかりになる際は、ご自身の費用的な負担を理解してくれている先生におかかりになるということも重要だと思います。自由に生薬の質を選びながら漢方薬を処方できる自費治療であるからこそ、その分治療の幅も広がります。なるべく短期間に効果を発揮できるようにする、その後再発予防のためにはなるべく費用がかからないよう薬を調節するなどの細かい調節を、自由に行えるのも自費治療の魅力の一つです。もし費用面で不安がある場合は、対応してもらう先生にその旨を正直にお話ししてみてください。臨床に長けた先生であるほど、患者さまのご負担がなるべく少なくて済むように配慮してくれるはずです。

■どの医療機関を選択するべきなのか ~まとめ~

ひとことに漢方薬を取り扱っているといっても、その場所各々によってかなり異なった特徴があります。そこで今回は漢方薬を服用してみたいという方に、各医療機関の特徴を簡単に解説してみました。

ここで、上にて述べてきたことをまとめてみます。

1、症状がそれほど酷くない・病気をしているわけではないけど日々の不調を取ってみたいという方は、まずは漢方薬を扱っているドラッグストアさんに足を運んでみると良いと思います。

2、症状をとにかく取りたい・病気が背景にありその病の治療をしたいという方は、より専門的な医療機関である病院や漢方専門の薬局に足を運びましょう。その上でまずは保険治療を受けてみるそれでもダメならばより専門的な自費治療を受けてみる。最初から自費治療に足を運ばれても良いと思いますが、費用がかかる点がデメリットです。迷われている方は、まずは保険治療を受けてみることをお勧め致します。

たとえどのような選択を行ったとしても、自分にとって丁度良い医療機関を選ぶということが最も大切なことだと私は思います。お困りのことが改善されていると実感できる漢方治療さえ行えていれば、どの医療機関にいってもそれが正解です。そしてご自身が納得しながら治療を受けられていることもまた、非常に大切なことだと思います。

以上はおおよその分類にはなりますが、これらの特徴を知れば、自分自身がどの医療機関にかかるべきかがある程度判断しやすくなると思います。自分に合った医療機関を見つけることは、時として難しいものです。これらを知ったとしても、どこに行くべきかを悩まれる方も多いと思います。その場合には各医療機関にお電話にて問い合わせてみることも一つの方法です。漢方薬を服用してみたいという方にとって、微力ながらも医療機関選択の一助となって頂ければ幸いです。




「漢方治療の実際」
○漢方治療の実際 〜この漢方薬、本当に効果ある?と感じられている方へ〜
○漢方治療の実際 〜気や血・漢方特有の言葉に隠された落とし穴〜

【この記事の著者】店主:坂本壮一郎のプロフィールはこちら