〇漢方治療の実際 ~本当に効くのか?実際に治している先生方の共通点~

2020年05月02日

漢方坂本コラム

○漢方治療の実際
~本当に効くのか?実際に治している先生方の共通点~

<目次>

■当然かつ真っ当な疑問「漢方薬は本当に効くのか」
■曖昧であることから逃れられない医学
■解説書に載る分かりやすい東洋医学概念とその弱点
■様々な先生方を見てきた中で気付いたこと
■実際に治されている先生方の共通点
■「曖昧」だからこそ発揮し得る漢方薬の偉効
■漢方薬は本当に効くのか?

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■当然かつ真っ当な疑問「漢方薬は本当に効くのか」

漢方薬は本当に効くのでしょうか?
そもそも気を調えるとか、血を調えるとか、漠然とし過ぎていてよくわかりません。

このような疑問を持つ方は、おそらく多いと思います。漢方治療に何となく一歩踏み出せないという方の理由、その多くが煎じ詰めると「曖昧だ」という点に行きつくのではないでしょうか。

そのようなお気持ちは、ある意味当然のことだと思います。漢方の世界では、それを構成する「気」や「血」といった言葉が確かに抽象的です。気を補ったから治ったと言われても、本当かなと思って当然です。猜疑的な目を向けられることの方が、むしろ自然な気さえします。漢方薬により病気が改善したという記事がネットには散見されていますが、たまたまだろうとか、誇張じゃないかとか、猜疑的な気持ちを持たれている方も多いと思います。

漢方薬は本当に効くのか?
今回はこのような疑問に対して、私自身が思う、率直な回答をお示ししたいと思います。治療者、つまり漢方薬の出し手としてではなく、漢方を勉強してきた一学徒としてご説明いたします。ですので、漢方の良さも悪さも、包み隠さずお話することになると思います。

■曖昧であることから逃れられない医学

漢方薬は確かに効果を発揮する時があります。「正しい治療方法に基づき、適切に選択され、使用されている」という条件が満たされている時です。

ただし、この条件を満たすためには、どうしても気や血、五臓や陰陽といった東洋医学的な概念の理解が必要になってきます。そもそも漢方処方というものが、これらの概念を用いて作られてきたからです。

したがって各処方の真の薬能を理解するためには、どうしても東洋医学の基礎概念を知ることが必要になってきます。つまり漢方薬を効かせるためには、これらの概念からは逃れられない。どうしてもそういう宿命を負っているのが漢方医学です。

そしてこの点こそが漢方治療の最も分かりにくい部分であることも確かです。

近年これらの曖昧な概念を無視し、西洋医学的な解釈で漢方薬を運用する機会も増えてきています。しかし果たしてそれで漢方薬が本質的に備えている薬能をすべて引き出せているかというと、決してそうではないというのが現実です。どうしても分かりにくい概念を理解する必要がある。漢方って本当に効くの?という疑問が出てくる理由の核たる部分だと思います。

■解説書に載る分かりやすい東洋医学概念とその弱点

分かりにくい漢方を、なるべく分かりやすく。抽象的な概念に頼らざるを得ない漢方では、そういう試みが今まで沢山なされてきました。

ネットや本には非常に分かりやすい東洋医学の説明がたくさん載っています。気や血、陰・陽などについても、なるほどな・そういうことかと比較的簡単に理解できます。この傾向は一般の方向けの情報のみならず、漢方治療を専門的に解説するものにおいても同じです。分かりにくいというデメリットをなるべく解消しようとする試みとして、これらには一定の効果があることは確かだと思います。

しかし、これらの解説書には弱点があります。それは「漢方は曖昧である」という本質を示していないことです。

実は「曖昧」であることはデメリットであると同時にメリットでもあります。西洋医学をもってしても改善できない病や症状が、漢方薬によって改善できるという現象は、実はこの「曖昧さ」と向き合うことで初めて成し得ることが可能になるのです。

■様々な先生方を見てきた中で気付いたこと

漢方の理論は漠然とし過ぎていてよく分からない。漢方の道に入ったばかりの頃、私自身がそう思っていました。

例えば「気」は身体の元気をつかさどる「機能」だと説明されています。元気が無いという状態は、気の不足として発現してきますよという理屈です。しかし元気がないという症状は、実際にはさまざまな状況が考えられます。体力が無い状態も元気がないと言いますし、気力が無いという状態でも元気がないと言います。

体力と気力とを一緒に論じてもいいのでしょうか。気が不足するという状態は、いったい何を根拠にそう捉えれば良いのでしょうか。はっきりいって、そのあたりの定義が非常に曖昧なのです。漢方の勉強を始めて未だ間もない頃、私はこのような曖昧さに強い疑問を抱きました。

しかしこのような疑問は、最終的には多くの先生方とお会いしていく中で、結局のところ解決へと至ります。なんてことはありません。患者さまの病を実際に治されている先生方は、これら教科書の概念にはそれほどこだわってはいなかったのです。

■実際に治されている先生方の共通点

東洋医学の教科書に書いてあるような気・血・水や五行・五臓といった概念は、あくまで勉強のための概念である。実際の臨床ではそれほど役に立たない。そう綺麗に割り切っておられる先生方が非常に多かったのです。「もっと現実的な考え方で治療しなければ治らないよ」、これが漢方臨床の最前線に携わる多くの先生方が持つ共通認識でした。

この認識は気・血・水などの概念を否定するという考え方ではありせん。その解釈を「自分で見つけていかなければならない」という解釈です。

教科書に書いてある解説は、非常に分かりやすいという側面があります。ですから一瞬分かったような気になるのですが、実際の臨床ではそれほど意味をなしません。むしろ自分で理論を作り出すことから始めなければならないということに臨床を通して気づき、そうやって現実的な手法を一人一人の先生方が掴み取っている、というのが本当のところです。

東洋医学概論などに書いてある内容をそのまま鵜呑みにし続けるのではなく、ある段階でこれらの知識に背を向ける。そして本当の意味で気とは何か・血とは何かを臨床の中から考え直していくという作業。漢方薬をもって実際に患者さまを治されている先生方は、みな一様にこの作業を行っており、そうやって理解した本当に使える知識をもって治療に当たられているのです。

したがって気とは何か、血とは何かという言葉の定義は、おそらく先生方一人一人によって全く異なります。むしろ異なっていなくてはならないのであり、教科書に乗っているような基礎解釈だけでは実際に病を治すことは出来ず、出来たとしてもまぐれに過ぎず、決して多くの患者さまを治すようにはなれないというのが、漢方治療の真実です。

■「曖昧」だからこそ発揮し得る漢方薬の偉効

この見解は漢方を生業としている全ての漢方家に賛同してもえる意見ではないかも知れません。しかし、私が今まで経験してきたものを振り返ると、どうしてもそう思わざるを得ません。学問であると同時に、技術であるという点を大きく宿命付けられているのが漢方医学であり、良い意味でも悪い意味でも、治療者それぞれによってやっていることが全く異なっているのです。

つまり実際に病を治している先生方の共通点、それは「独自の考え方を持たれている」ということです。そして曖昧さから逃げず、現実に即した独自の東洋医学理論を構築されている先生方こそが漢方薬を効かせることができる、これが現実です。

したがって名医であればあるほど、各先生方によりさまざまな異なる手法を持たれています。時に周りの漢方家でさえも驚くような考え方によって、漢方薬を運用されている名医もいらっしゃいます。各先生方によるこのような手法は、それがそのまま漢方治療の可能性を広げることになります。つまり時に難治性の病さえも治し得る漢方薬の偉効は、「曖昧さ」と向き合う中で掴み取った各先生方の現実的な手法があるからこそ、実際に起こり得ることなのです。

もし漢方治療を行い症状が改善されなかったとしても、漢方治療自体を諦める必要は全くありません。漢方治療は各先生方によって全くやり方が異なります。したがって違う先生であればその点も踏まえて全く異なる治療方法を提示されるはずです。つまり、今まで受けていたものとは異なる新たな治療を受けることができるということです。これは各先生方によってやり方が異なるという、曖昧だからこそ生まれる漢方治療のメリットだと思います。

■漢方薬は本当に効くのか?

漢方薬は本当に効くのか?
そう思っているのは、実は治療者自身も始めは同じです。

しかし本当に漢方薬を効かせることの出来る先生方は、その疑問から逃げず、自分自身で回答を導きだした方たちです。曖昧だから効かないではなく、効くまで曖昧さを排除しようとする。その努力こそが漢方薬を効かせる技術を磨き上げます。そういう血のにじむ努力によって、漢方薬は初めて効く薬になるのです。

そして長い年月をかけて導き出したその理論は、決して簡単に説明できるものではありません。だからこそ漢方は、傍から見ればどうしても曖昧なものに映ってしまいます。しかし、曖昧に見えるものが本当に曖昧なのかというと、決してそうではないという領域があるのです。その領域の中で漢方を論じている先生たちこそが、本当に効くのかという疑問への回答を知っていらっしゃるのです。



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