〇漢方治療の実際 ~自分に合った漢方薬を探されている方へ~

2020年07月18日

漢方治療の実際

○漢方治療の実際
~自分に合った漢方薬を探されている方へ~

<目次>

■漢方治療の具体像 ~改善への条件と段階~
 □改善するための条件1
 □改善するための条件2
 □改善するための条件3
 □改善するための条件4
■病を改善していくために・持つべき正しいイメージ

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自分に合った漢方薬を見つけたい・・。

今回のコラムは、そう思われている方々にこそ、是非読んでいただきたい内容です。

まずは、今回お伝えしたいことの結論から先に申し上げます。

自分に合った漢方薬が見つかったとしても、それで病が治るわけではない。

出鼻を挫くようですが、実は、これが漢方治療の現実です。

例えば、漢方薬のことをたくさん勉強し、もしくは漢方家から教えを受け、やっとのことで効果を実感できる漢方薬が見つかったとします。しかし残念ながら、それだけでは決して病は改善していきません。症状を消失させることは出来ないのです。

この事実は、漢方を扱う医療者でさえ勘違いしていることがあります。初めに漢方薬を出し、それが的中して効果があったと喜ぶ。さぁこれで治るぞと思ったとしても、その数週間後から数か月後には、病は全く改善していないということが漢方治療では当たり前に起こります。

お体にあった漢方薬を選択することは、病を改善していくための必須条件ではあります。しかし必須条件はそれだけではありません。改善というゴールにたどり着くためには、様々な条件をクリアしていかなければならないのです。

治療という「道のり」には複数の段階があります。そしてその段階をすべて突破できた時に初めて、病は改善へと到達します。お体に合った漢方薬を選択できるかどうかは、あくまでその段階の最初の一つにしか過ぎません。自分に合った漢方薬を服用するということ以上に大切なことが、治療という道のりには沢山あるのです。

■漢方治療の具体像 ~改善への条件と段階~

さて今回は、実際に病が改善へと向かっていくためにはどのような条件をクリアしなければいけないのか、ということを解説してみたいと思います。

私が今まで教えを受けてきた先生方、特に臨床に強い先生方ほど、これら治療の必須条件を強烈に意識されています。名医たちが治療に臨んで何を考えているのか、その頭の中を覗いてみたいという方は、是非とも以下の解説に目を通してみてください。そして病がどのように改善していくのか、そのイメージを具体的に掴んでいただければと思います。

□改善するための条件1

的確に病態を把握し、「治療方針」を導く。
その上で適切な「薬方」を選択できるかどうか。

漢方治療においては、言うまでもなくお体に合った漢方薬を選択する必要があります。同じ病であっても人によって適合する漢方薬は違います。したがって各個人の状況を東洋医学的にちゃんと把握できるかどうかが、まずは最初の勝負になります。

しかし治療得手の先生であるほど、この時想定する処方を一つに絞ることは決してありません。お出しする処方は一つであったとしても、必ず「その薬が効かなかった時にどうするのか」を考えながらお出しします。つまり処方を決定する前に、「治療方針を必ず組み立てているのです。

したがって最初に出す処方は、必ずしも「最もお体に合った処方」というわけではありません。出すのは「治療方針に則った処方」、つまり「この場合、先に出すべき処方は何かという基準をもって選択された処方です。服用したあとのリアクションを見て、徐々に的確な処方へと詰めていく。そういう丁寧かつ余裕のある治療を行っているのが、名医と呼ばれる先生方なのです。

ここで注意して頂きたいのは、名医の処方選択は決して「数打てば当たる」ではないということです。これで効かないのなら、今度はこれを試してみましょう、名医は決してそのような治療は行いません。はじめに出される処方は、あくまでお体を理解するための「布石(ふせき)」です。その薬を服用した後のリアクションをもって患者さまのお体をより深く知る、それが出来る処方を名医は最初に選択しているのです。そしてその情報をもってより的確な処方へと詰めていく、だからこそ一つの処方をもって最初からそれに寄りかかって治療をするというのは、決して良い治療ではないのです。

想定していないこと・把握し切れていないことが背景にある、そのことを見越した上で行われる治療こそが良い治療です。したがって病を治すのは、自分に合った漢方薬ではなく、あくまで自分に合った「治療方針」です。

漢方治療にご興味のある患者さまにおかれましても、専門家とともに是非「治療方針」を見つけ出し、把握してください。数日飲んでみて合うか合わないかを試してみよう、そういうお気持ちでは治療は成功しません。自分に合った漢方薬さえ見つかれば治る、という固定観念を是非捨てて頂きたいと思います。

□改善するための条件2

効果を感じられなくなった時に、
その原因を突き止めて適切な配慮が行えるかどうか。

治療は「道のり」です。したがって多くのケースで症状には悪化の波がついてまわります。

例えばお出ししていた薬方がピタッとはまり、症状が改善し始めたとします。そうなれば、この薬こそが自分に合った漢方薬だと感じられると思います。しかし服用を進めていくうちに、改善していたはずの症状がぶり返すことがあります。漢方薬が効きにくくなっている、こういう感覚を抱かれたことのある患者さまも多いのではないでしょうか。

この現象は、道のりである治療においては、ある意味で常識です。症状が全くぶり返すことなく治療が完了することの方が、むしろまれだと言って良いと思います。つまり治療がゴールへとたどり付くためには必ずこの一時的な悪化を経なければなりません。したがって治療においては、途中で起こってくるこの症状のぶり返しに対して、その原因を的確に突き止め、そこへ配慮するということが必ず求められてきます。

そしてその配慮として、今までお出ししてきた薬方を改良、もしくは変更しなければならない時があります。しかし逆に、薬方を一切変更することなく、症状のぶり返しに惑わされずに同じ処方を貫かなければならない時もあります。実は、この見極めは条件1、つまりお体にあった薬方を選択することよりも、難易度が格段に高くなります。なによりも先に薬方をお出しした時点で、そういう事態を予測していなければなりません。そういう予測が行われていなければ、この悪化の波に対応することが出来ず、治療が後手後手に回って、最終的には改善へと導くことができなくなります。

治療得手の先生であっても、治療が失敗に終わるケースの大半がこれに当たると思います。この悪化の波に対して如何に対応していくか、名医であればあるほど、そのことに心を砕きます。

□改善するための条件3

症状を消失させるために、
適切な服用法を探し出せるか。

漢方薬は、薬を温めて飲むか、冷やして飲むかで効果が全く違ってきます。またその服用回数によっても、効果がはっきりと異なってきます。つまり処方を的確に選択し、さらに悪化の波に先手を打てたとしても、服用方法が適切でなければ全てが台無しになることがあるのです。

そこまで気にしないでも良い、普通に服用していれば大丈夫という状況があることも確かです。しかし断じて服用回数を増やすべき時がきたら、その時は必ずそうしなければ効果が発揮されることはありません。また逆に、服用回数を減らずべき時もあります。さらに改善へと向かうために、一旦服用を中止するべき時さえあります。様々な状況にしたがって、服用法を考えなければなりません。

これが出来るのも、「治療方針と病態変化の予測」が行われているからこそなのです。

□改善するための条件4

適切な「養生」を見つけ出すことができるかどうか。

養生は、人それぞれで重視するべきものが異なります。食事を気を付けなければいけない方、睡眠を重視しなければいけない方、運動を重視しなけばいけない方、例えばこのような別が人それぞれにあり、それを的確に見つけ出していかなければなりません。

このような患者さまに合った養生は、ある程度治療が進むごとに正確に把握することが出来るようになってきます。漢方薬をお出しし、その処方に対するお体のリアクションを知ることで、何が重要になるのかが具体的かつ正確に分かるようになってくるのです。

そして的確な養生を見極めることは、実は的確な処方を導き出すことに匹敵するぐらい難易度の高いものです。治療に精通した先生でなければ、正しく見極めることが出来ない、養生の見極めとはそれほどの経験と知識とを必要とするものなのです。

そして治療においては、必ずといって良いほど養生が必要になります。今までの生活の中にこそ、現在生じている病の原因がある。そういう前提を持つことこそが、治療をゴールへと導いていくためにはどうしても必要になります。

なぜならば、正しい養生が見つかると、治療が加速度的に進んでいくからです。生活のコツを掴み、養生が正しく行われ始めると、症状の消失が早まるだけでなく、症状の悪化の波さえも起こらなくなってきます。一年間かかる治療が数か月で済む、養生が的確に行われるとそういう魔法を起こすことが出来るようになるのです。

また正しい養生が見つかると、最終的には漢方薬を、そしてあらゆる薬を服用しなくても、自分自身で体をコントロールできるようになります。そして再発を起こすことも少なくなります。一旦治療を行い良くなっても、その後再発したという方もいらっしゃると思います。そういう方々の多くが、正しい養生を見つけることが出来なかった方なのです。

薬ではなく、養生をもってお体がコントロールされている、この状態こそが治療という道のりのゴールです。つまりゴールへとたどりつくためには、養生の見極めと実現こそがどうしても必要になってきます。

■病を改善していくために・持つべき正しいイメージ

漢方治療を行い、改善へと向かっていくための条件。今回のコラムでは、具体的にどうすれば病が改善していくのかを、具体的にイメージしていただくためにやや詳しくお話させていただきました。これらはすべて治療得手の先生方が実際に行っていることです。簡単にまとめてみますので、漢方治療の具体例として参考にしてみてください。

・名医は必ず「治療方針」を組み立てる。
・故にゆっくりと丁寧に薬を合わせていく。
・また一旦良くなっても症状は必ず波を打つ。
・その波に如何に対応するかが勝負となる。
・的確な服用法は症状消失の要になる。
・治療の完了とは「養生」によって症状がコントロールされている状態である。

治療においては、正しいイメージを持つことがとても重要です。自分に合った漢方薬さえ見つかれば病は改善するそういうイメージは多くの場合で誤りです。固定観念を捨てて、本当の漢方治療とはどういうものなのか、そして改善していく時は、どういう手順が必要なのかを、なるべく正しくイメージして頂ければと思います。

そして正しいイメージが持てたならば、あとはもう漢方治療を行うだけです。漢方治療を熟知した先生方は、各県に必ず点在されています。そして患者さま自身が固定観念を捨てて、今回の内容を理解した上で治療をお受けになれば、きっと漢方の先生方も腕を発揮しやすく、かつスムーズに治療を行いやすくなるはずです。

病を治したい、症状を改善したい、そのお気持ちを持って漢方薬にご興味を持たれたならば、探すべきは「漢方処方」ではありません。漢方治療を熟知している「人」と「場所(医療機関)」とを是非お探しください。それが目的を果たすための最も確実な方法です。そして同時に、最短距離になるはずです。

病に悩まれている方々が良い先生に出会われることを、そして治療という道のりをゴールまで歩んでいけることを、心より願っております。お読み頂きありがとうございました。



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