医療の深さ

2022年04月25日

漢方坂本コラム

数年前から始めたこのコラム、

本日で501回目を迎えました。

私自身も気が付かなかったのですが、

先のコラムで、静かに500回を迎えていました。

ごひゃく。

よく続いているなと、

自分を褒めてあげたい。

今まで日記とかブログとか、全くの無縁の自分が、

こうして文章を書き続けられている。

ちょっとした奇跡だなぁと。

それもこれも、見ていただいている皆さまのおかげでして、

兎にも角にも、感謝しかありません。

いつも見ていただき、本当にありがとうございます。

記念すべき501回目。

ということで、何を書こうか考えたのですが、

節目というのは、なぜか過去のことを振り返りたくなるもので。

現在との差を見つけたりして、一人であーだこーだと考えたりするもので。

その多くは反省のたぐいですが、

中には気付きのようなものが、少なからずあって、

今回はそのことについて、書こうかなと。

結論からいうと、私の心配は杞憂きゆうに過ぎなかった、というお話です。

私が漢方の道を志した時、

本当に漢方というものが世の中に必要とされているのか、

私はなかば、半信半疑でした。

医療において、漢方はほんの小さななぐさみ事にしか過ぎないのでは、と思っていたのです。

日本の医療は完全に西洋医学を中心としていて、

その広がりも功績も、漢方とは比べるまでもなく。

しかも漢方は科学的な根拠が乏しく、

さらに医療者全体にも、それほど認知されてはいません。

そういう状況において、漢方にできることなど、

本当にあるのかと、少々不安を抱えていました。

身近に漢方に接しながら育った私でさえ、

医療においての漢方は、大変にニッチな存在であることは明白でした。

しかし、こうやって臨床を何年か経て、

その考えは杞憂だとわかりました。

漢方に助けを求められる方が、

実際には、とても多いのです。

不思議に思っていたのですが、ある時ふと、自分なりの結論にたどり着きます。

それは、漢方は素晴らしいものだ!西洋医学にも負けないぞ!という、

そんなおおげさなものでは全くなく、

医療の構造が分かったのです。

医療の全体構造が、少しだけ理解できたということです。

江戸後期から、日本に広がっていった西洋医学。

この合理的かつ、再現性の高い医学は、

燎原りょうげんの火の如く、急速に広まりました。

そして、今でも素晴らしい功績を残し続けています。

私達の人生を一変させ得る「病」という存在。

今でも多くの不治の病が存在します。

しかし西洋医学がなければ、その数は今よりもずっと多いはず。

一つ一つ、さまざまな努力と知識とによって、不治を可治へと変えていったのです。

そして何よりも素晴らしい功績は、

この医療が可能な限り、全国に広がったということです。

広く、大きく、沢山の人々が普通に医療を受けられる社会。

この実現こそが、本当に素晴らしい功績だと私は感じています。

ただ、そうであってもなお、西洋医学は完璧ではありません。

大きな広がりを持った西洋医学、

沢山の人々を救い、支えてきたこの器でさえ、

ときに、その編みの目から溢れてしまう人たちがいる。

そういう現実があるのだなと、ひしひしと感じるのです。

もし日本で西洋医学しか選択できなければ、

この大きな器から溢れてしまった人たちは、いったいどうすれば良いのでしょう。

そういう方たちを支える器が必要で、

それこそが、医療の広さとは違う、もう一つの側面。

医療の「深さ」だと、私は思うのです。

医療は広く大きく、そして深く、あらねばなりません。

広さと同時にふところの深さを持つ、

そうやって、さまざまな医学が協力して、より多くの人々を救い得る「構造」を持つべきです。

西洋医学という大きな器、そこから漏れてしまう人たちを支えられるように、

それがたとえ取るに足らない小さな器であったとしても、

そこに支えられる人達がいる以上は、無くてならない医学であることに変わりはない。

そういう思いで、私はこのコラムを書いています。

漢方だけではありません。鍼灸や整体、ヨガやホメオパシーもある。

さまざまな医学がある。それが、とても大切なことなのです。

西洋医学からみたら小さな器かもしれない。それでも、無くてはならない医学です。

だから私は漢方を続けているし、また続けなければいけないのだと。

今後も医療の懐を深くするために、

漢方は生き残っていかなければならないのだと、私は思っています。

そんなことをぼんやりと考える501回目。

単なるひとり言のようなものですが、本当にそう思っています。

それがモチベーションとなり、このコラムを書いているわけで、

このコラムを通して、病にお悩みの方にとって、漢方が一つの選択肢になればと願っております。

ここ山梨は、漢方専門の医療機関が比較的少ないようです。

そういう意味では、漢方という土壌があまり育っていない地域だと言えると思います。

その中で、私にできることを一歩ずつ、一歩ずつ。

1000回目に向けて、皆さまのためになる情報をこれからも発信していきたく、邁進してまいります。



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