「薬だけで治そうと思うな。そんなやつは半人前だ」
父に言われた言葉の中で、これほど脳天に突き刺さった言葉はありません。
臨床を始めたばかりの頃、私は「如何にして効く薬を出すか」だけを考えていました。
患者さまの病態に対して薬方という解答を出す、そういう勉強しかしてこなかったからです。
どの本もこういう場合にはこういう薬を使えとか、この処方はこういう時に使えとか、そういうことしか書いてありませんでした。
そんな自分にとって「正しい薬を出すだけでは半人前」という言葉は痛撃でした。
座学と臨床との差を象徴する言葉として、今でも鮮明に覚えています。
薬だけで治そうと思うな。そう言われた時、
私は悔しくて悔しくて憤懣やるかたない思いをしました。
しかし同時に、フッと肩の力も抜けました。
そうか、自分の使える道具は薬だけではないのだ、と思ったからです。
それからの方が、患者さまへの説明が丁寧かつ的確になったと、自分では思っています。
生活の中で気をつけること、それを何故気をつけなければいけないのか、気をつけないでいるとどうなるのか、
より具体的に、ポイントを絞って、説明できるようになったと思います。
薬方は私たちにとって大切な道具です。
ただし私たちの本当の力は「的確な想像力」です。そしてその力により生み出した東洋医学的解釈にあります。
正しい解釈を導き、それに基づくならば、なにも患者さまを治すものは薬でなくたっていい。
薬方使いとしての誇りを持ちながらも、薬方に依りかかってはいけない。
「薬だけで治そうとするのは半人前」
先代との臍(ほぞ)を噛む思い出とともに、私が大切にしている言葉です。
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