漢方治療の経験談「子宮筋腫・子宮内膜症治療」を通して

2022年08月18日

漢方坂本コラム

漢方治療のお求めの多い疾患である、子宮筋腫や子宮内膜症。

これらの病を患われている方の多くは、単に筋腫を無くす、内膜症を改善するというだけではなく、

その背景に、様々な願いを持たれている方が多いものです。

例えば、妊娠を見越している方や、

閉経にあたってなるべく手術をせずに済ませたい方など、

病の背景に、本質的な願いがあります。それは、人によって全く異なります。

その背景をちゃんと理解すること。これらの病の治療において、とても大切なことだと感じます。

なぜならば、治療方針や、使う薬が異なってくるためです。

だから、単に子宮筋腫だからこの薬とか、子宮内膜症だからこれとか、

それだけでは論じることができません。これが漢方治療の現実だと思います。

子宮筋腫にてホルモン剤の服用を勧められているものの、

妊娠したいという思いは捨てきれない。そんな患者さまがいらっしゃしました。

筋腫は大きく、手術適応の一歩手前という状態。

妊娠を希望しないのであれば、とりあえずホルモン剤で月経を止めましょうと。

病院にてそう説明されました。しかし、希望する・しないで、妊娠を簡単に割り切ることができません。

できれば、赤ちゃんが欲しい。でも、そのためにも今はホルモン治療をやるべきなのか。

そういう迷いの中で、漢方治療を希望された方でした。

私は即決で、ならばホルモン治療の前に、漢方薬を試されてみてはどうかと、ご提案しました。

なぜならば、明らかに体調不良が見て取れたから。

東洋医学的の視点で見たときに、お体にある不具合が明確だったからです。

そしてその不具合は、子宮筋腫を起こしやすくさせてしまうだけでなく、同時に妊娠しにくい状態を形成させるもの。

つまり子宮筋腫も、妊娠のしにくさも、同じ理由によって起こっているように、把握できたのです。

私は子宮筋腫に対する治療が、そのまま妊娠しやすい体作りを行う治療になり得るという説明をしました。

それに承諾された患者さまは、漢方治療を始め、

その数カ月後には、月経血量の過剰や、貧血が改善していきます。

そして約半年たったころに、ご懐妊されました。

夢のようだと喜んでいただけた。私にとっても夢のようでした。

しかし、これは幸運だということだけでは決してありません。なぜならば、漢方治療においては、何も珍しいことではないからです。

また、このような方もいらっしゃしました。

かなり大きめの子宮内膜症を患われていた方です。

月経血量が多く、強い貧血がある。日常生活で辛い思いをすることが多く、しかし、あと少しで閉経というご年齢でした。

ホルモン治療にて一度、強制的に閉経へと向かわせたところ、

急激なホットフラッシュが起きて、どうしてもホルモン治療を続けることができません。

次なる手は手術と言われたはものの、それによる体の影響を考えると、どうしても決断できません。

できればこのまま、穏やかに閉経を迎えたい。そんな願いの中で、漢方治療をお求めになられた患者さまです。

詳しくお体の状況をお伺いしました。その上で私は、漢方治療がお勧めできると断言しました。

なぜならば、子宮内膜症を緩和する治療と、更年期障害を予防する治療とが、ピタリと重なるケースだったからです。

漢方治療であれば、別の疾患でも、同じ薬で同時に治療できることがあります。

それが、まさしく出来得るケース。患者さまには、その旨をご説明しました。

漢方治療を始めてまず実感されたのは、月経血量が減ったことと、生理痛の緩和でした。

生活が楽になったと喜ばれていました。それほど、内膜症に伴う貧血状態が負担をかけていたということの証左でもあります。

そのまま数年たち、月経は穏やかに閉止へと向かいました。

更年期障害も起こることはなかった。今ではもう薬は飲まず、まるで何もなかったかのように、元気に過ごされています。

子宮筋腫や子宮内膜症では、人それぞれの状況と、異なる治療への「願い」があります。

これらの病を治療するということは、その願いも含めてご対応するということ。

単にこの病に効くと言われている漢方薬を飲めば良い、そういう一律的な治療だけでは、到底対応することが出来ないという実感が、私にはあります。

今回ご紹介した2例は、

実はいずれも、筋腫や内膜症が物理的に小さくなったわけではありません。

定期的に行われた検査においても、拡大はしなかったものの、縮小もしませんでした。

それでも、その背景にある「願い」は、お二人とも叶ったのです。

漢方治療では、物理的に大きくなってしまった組織を小さくしていくことは、

現実的に言うと難しいという側面があります。

しかし、子宮筋腫や子宮内膜症に付随する様々な機能的問題、

例えば経血量の過剰や貧血、激しい月経痛やPMS(月経前緊張症)など、

これらの側面に対しては、高い効果を発揮することがままあります。

そして何度も言うようですが、これらの病にはその背景に患者さまそれぞれの願いがあります。

そういう願いを叶える時に、見るべき本質的な体調不良の原因がある。

そこに配慮できるというのが、漢方治療の最大の利点だと、私は感じています。



■病名別解説:「子宮筋腫
■病名別解説:「子宮内膜症

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