漢方治療の経験談「膵炎治療」を通して

2022年02月10日

漢方坂本コラム

「膵炎じゃないかと思うのですが・・・」

膵炎治療において、当薬局におかかりになる方の多くが口にされる言葉です。

症状的には確かに膵炎が疑われる。しかし血液検査でも画像検査でも、病院では問題がないと言われてしまう。

検査に出ない以上、それほど重いものではないのだから、とりあえず経過観察していきましょうと。

こういう経緯の中で、当薬局にご来局される方がかなりいらっしゃいます。

不安を抱えておられる方も多く、それも当然のことかと思います。

膵炎の症状はかなり不快です。起こる腹痛は結構なキツさを伴うもだからです。

食後にくる左上腹部の痛みと、それに連動して起こる背中の痛みや吐き気というのが典型例ですが、背中を丸めて辛抱しなければならず、日常生活に差し支えるレベルだという方がたくさんおられます。

また痛みは時に左ではなく右におきたり、上腹部ではなくおへそ周りや下腹部に起きたりします。

背中は痛まないという方もいて、典型例ばかりではないというのも、この病が迷宮入りしてしまう原因の一つになっています。

そしてとにかく症状に恐怖感を伴うということ。ある種の恐怖を伴うような、急激な・・・痛みがおきます。

ですから経過観察しましょう、では到底不安が拭えるはずもなく。

放っておいて悪化してしまう前に、何らかの治療を行うべきではないか。そういうお気持ちをもってご来局されている方が、とても多い病だという印象があります。

膵炎は急性かつ激しく症状が出ていなければ、なかなか検査にあらわれてきません。

しかし、症状がある以上は、決して放っておいて良い病ではないと、私は思います。

分かりにくいからこそ検査で確定したときには、かなり進行してしまっていることが多いものです。

膵臓は非常に敏感な臓器です。だからこそ明確にダメージを受ける前に、症状というサインを発して不調を教えてくれていると考えることもできます。

膵炎は進行すると、およそ不可逆的な状況に陥ってしまうこともあります。そのため体がサインを発している段階で、何からの治療を行っていくべきだと思います。

そして、そういう治療法が東洋医学にあるということ。

この事実は、我々漢方家にとってはごく当たり前のことなのですが、実際に改善されていく方々は、皆さん驚かれることが多いものです。

これは多分、我々漢方を生業とする者に責任があります。

東洋医学という選択肢があることを、皆様にちゃんと伝えていないからです。

しかも漢方において、膵炎治療はやや独特な、コツがいる治療に属します。

特に江戸時代に行われていた治療手法にその大きなヒントが隠されているのですが、保険適用のエキス顆粒剤ではその手法を体現することが難しいという側面があり、そのために漢方による膵炎治療があまり広まらないというのも、原因の一つかも知れません。

漢方は膵臓に対して先手を打つ治療です。胃痛・腹痛や吐き気、背中の痛みなどを緩和させるだけでなく、膵臓をこれ以上悪化させることなく、かつ現状回復まで及ぶようにしていく治療を行います。

なぜかあまり広まらないこの治療は、活用しなければもったいないと私は感じます。

何も特別なことを行うわけではありません。漢方治療の基本に則った、東洋医学では昔から用意されている治療方法です。

ここで一つ、注意点があります。

いくら漢方薬が効くといっても、こと膵炎においては、ご自身の判断で漢方薬を選択することは絶対にやめていおいた方が良いです。

膵炎治療は、先で申し上げた通りかなり独特です。膵炎にこれが効くという処方があるわけではなく、膵臓のみならず消化管全体、ひいては心肺機能にまで及んだ状況把握が薬方選択のキモになります。

さらに膵炎では、消化管が非常に敏感になるという特徴があります。たった一口や二口だけ多く食べてしまったことで胃痛を発するというくらいに、消化管活動の敏感さを形成している方がほとんどです。

そのため漢方薬も少しでも合わないものを飲むと、効かないばかりか悪化させてしまうことがあります。

薬方選択の難しさと悪化しやすさから考えれば、治療を行う際には必ず漢方専門の医療機関におかかりになるべきだと思います。

肉体的にも精神的にも、キツい症状を強いられる膵炎。

その独特さ故に分かりやすい症状を発するため、ネットなどに書いてある情報から、ご自信で膵炎を疑われている方も多いと思います。

そして検査をしても、その診断の難しさから「疑い」という曖昧な状態で、かつ不調を抱えたまま様子を見ている方もたくさんいらっしゃると思います。

そういう方にほど、漢方治療を強くお勧めします。

私の今までの経験から言って、膵炎は漢方で十分に改善が見込める病であり、かつ決して放っておいてはいけない、先手を打って治療を行うべき病です。



■病名別解説:「膵炎(急性膵炎・慢性膵炎)

【この記事の著者】店主:坂本壮一郎のプロフィールはこちら