漢方治療の経験談「陰部湿疹・陰部掻痒症治療」を通して

2023年02月08日

漢方坂本コラム

陰部に起こる症状は、どのようなものであろうと、とにかく「不快」です。

日常的に如何ともし難い、そういう不快感を必ず伴います。

抗生剤や塗り薬によって簡単に治るものがある一方で、なかなか治らないとなるとさらに不快です。

部位が部位だけに気軽に相談できず、治療が遅れる傾向もそれを助長しています。

陰部の症状としては、膀胱炎や膣炎などさまざまありますが、

特に「陰部湿疹」や「陰部掻痒症」は、漢方治療をお求めになる方の多い疾患です。

慢性経過する場合は、皮膚科や婦人科にて治療しても治らない方が多いからだと思います。

やはりその不快感も相当なもので、

「気が狂いそうになる」と、表現される方がしばしばいらっしゃいます。

私の経験上、「陰部湿疹」や「陰部掻痒症」は漢方治療によって改善可能な病です。

時に素早く、時に薄紙をはぐように、

改善へと向かうことが多いものです。養生を根気強く行うことも重要です。

「陰部湿疹」と「陰部掻痒症」とでは、

漢方では明らかにその治療方法が異なってきます。

実際に患部に皮膚の発疹やただれを起こす「陰部湿疹」では、

漢方における「皮膚病治療の要領」を適応させて改善するケースをしばしば経験します。

したがって薬方選択においては、皮膚病治療の大枠を捉えておく必要があり、

さらに陰部に起こるという特殊性を鑑みることが重要です。

したがって十味敗毒湯じゅうみはいどくとう黄連解毒湯おうれんげどくとうといった皮膚病治療薬だけでは対応することが難しく、

当薬局にお越しになられる方も、それらの薬では改善しなかったという方がほとんどです。

また陰部の皮膚自体には目に見える変化がない「陰部掻痒症」では、

皮膚病治療の要領だけでは太刀打ちすることが出来ません。

「皮膚が痒い・ピリピリする」という訴えから、私も散々皮膚に対する治療を行ってきました。

しかし、それで改善することはほとんどなかったというのが現実です。

先にあげた十味敗毒湯や消風散など、漢方における皮膚病治療薬は沢山あるものの、

それらをいくら使っても治ることはありません。

「陰部掻痒症」は、基本的に皮膚の病という考えを頭から外すことが先決で、

おそらく「陰部掻痒症」はもっと奥、つまり陰部に起こっている血流障害という解釈が最も適当であると感じます。

「陰部湿疹」と「陰部掻痒症」とは似て非なる病です。

しかし実際には、その見極めが難しいという側面があります。

通常であれば皮膚にただれなどを伴わない「陰部掻痒症」ですが、

実際には強い痒みのために皮膚を掻き壊してしまうことで、皮膚表面の荒れを作ってしまうことがあります。

したがって皮膚だけで判断することはやはり出来ず、

おからだ全体の状態を把握することで、治療方針を勘案していく必要があります。

その際、おからだの症状と陰部に起こっている症状とに矛盾がないか、という点が重要で、

矛盾がなければ治療は比較的たやすく、逆に矛盾がある場合には治療にコツが必要になります。

矛盾がない・・・・・というのは、

例えばもともと食欲旺盛でおからだ自体に弱りがなければ、

炎症は素直に起こります。要因が強ければ強い炎症を、そうでなければ弱い炎症を起こします。

これが、矛盾がない、という状態です。

そういうケースであれば、比較的治療は容易なものです。

しかし、身体に不安定さがあるケースでは、治療は少々難しくなってきます。

特に自律神経の乱れを介在させている場合では、常道では難しいという側面があります。

この場合、陰部の症状とおからだの状態との繋がりが薄く、

多くの場合で矛盾を起こします。要因の強さに関わらず、陰部の症状が強くなったり弱くなったりを繰り返します。

したがっていくら陰部の症状に着目しても適切な治療方法は見つからず、

竜胆瀉肝湯りゅうたんしゃかんとう加味逍遙散かみしょうようさんなど、陰部湿疹や陰部掻痒症に使う漢方薬が効果を表しません。

より根本的な乱れから治療方法を組み立てていかなければならなず、

このあたりの説明はなかなかに難しい所ですが、

私の感覚で言うと、腹に気を納めることが出来るようになれば・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

自ずと陰部の症状が改善するという流れで治療が進みます。

おおよそ身体外面に起こる症状を治療する際に重要なこととして、

外面だけに囚われいると治療が進んでいかないという側面があります。

そんな時は思い切ってまったく違う視点からアプローチしてみる。

そういう機転によって、回復する病があることは事実だと思います。

古人が融通無碍ゆうずうむげと表現した自由な治療方法。

奇をてらうのとはまた違う、意味のある治療方法。

いくら本やネットを調べても導き出せない治療方法が漢方にはあり、

それこそが「生きた手法」で、多くの名医はそれを自分のものとしています。

強烈な不快感を伴う病であればあるほど、このような生きた治療が必要になるものです。

「陰部湿疹」や「陰部掻痒症」では特にそう感じます。

容易に断定できない状態を、多々散見する所です。



■病名別解説:「陰部湿疹・陰部掻痒症

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