帯状疱疹後神経痛について

痛みを伴う疾患の中には、漢方治療の方が西洋医学的治療よりもずっと迅速に効果を発揮するものがいくつかあります。帯状疱疹後神経痛はその一つです。

帯状疱疹後神経痛とは

帯状疱疹を発生させる水痘帯状疱疹ウイルス(ヘルペスウイルス3型)は、水ぼうそうの原因ウイルスです。子供の時に水ぼうそうに罹ると、このウイルスは神経に潜伏することで知られています。その後、通常は何の悪さもしませんが、生活の不摂生やストレスなどで免疫力が下がると再活性化され、神経を攻撃して皮膚症状を発現させます。これが帯状疱疹です。皮膚にポツポツとした水疱を生じ、チクチクとした刺すような痛みを発生させます。帯状疱疹は稀に繰り返す方もいますが、一度起これば再発しないのが普通です。そして抗ウイルス薬の使用によって治りやすいため、それほど心配はいりません。

しかし帯状疱疹による皮膚症状が改善した後に、神経痛のみが残存することがあります。この状態を帯状疱疹後神経痛といい、これが残ると非常にやっかいです。帯状疱疹後神経痛の痛みは特徴的で、衣類が擦れたり、冷たい風が当たったりしただけで強い痛みが発生します。しびれ感や知覚麻痺を伴い、非常に不快感が強く、そのために不眠になったり、気持ちを病んだりすることもあります。通常は1から3か月、長ければ1年以上症状が持続します。高齢の方であるほど発症しやすく持続しやすいと言われています。

帯状疱疹後神経痛には未だ治療方法が確立されていません。リリカ(神経障害性疼痛治療薬)などの薬が効かないことも多く、抗うつ薬を処方されることもしばしばです。手をうちにくく治りにくい病として、悩まれることの多い、怖い疾患だと思います。

帯状疱疹後神経痛と漢方

実は帯状疱疹後神経痛は東洋医学的治療で比較的容易に改善します。鍼灸でも腕の良い先生なら短期間で治癒させることができると思います。漢方でも的確に治療することができれば、比較的短期間で治ります。帯状疱疹に対しては抗ウイルス薬の使用が最も効果的ですが、その後残存する神経痛に対しては漢方治療を第一選択にした方が良いのではないかと感じます。

ただしすべての疾患で言えることですが、漢方には特効薬(その病であればどのような方でも効く薬)はありません。その方に合った薬を服用しなければ絶対に効きません。つまり個々の状態の見極めと、処方の選択とが正確にできて初めて効果を発揮することができます。帯状疱疹後神経痛は早期に解決しやすい病ですので、お困りの方は一度漢方専門の医療機関におかかりになることを強くお勧め致します。

使用されやすい漢方処方

①桂枝加苓朮附湯(けいしかりょうじゅつぶとう)
②当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)
③五積散(ごしゃくさん)
④柴胡疎肝湯(さいこそかんとう)
⑤帰耆建中湯(きぎけんちゅうとう)
⑥疎経活血湯(そけいかっけつとう)
⑦通導散(つうどうさん)
※薬局製剤以外の処方も含む

①桂枝加苓朮附湯(方機)

 江戸時代の名医・吉益東洞によって作られた名方。傷寒論中の桂枝加附子湯に茯苓・白朮の利水燥湿薬を加えたもの。桂枝湯は本来「血痺虚労(けっぴきょろう)」に適応する基本方剤であり、「血痺」とは諸説あるが血行障害によって起こる痛みやしびれと広く解釈できる。附子・蒼朮・茯苓は利水剤であり湿を除くことで血行循環を促す。総じて本方は虚を補い血流を促して身体の痛みや痺れを除く薬方である。各種神経痛に応用される。ただし帯状疱疹後神経痛に対しては本剤単体では薬能が弱い。加減または合方を行う必要がある。
桂枝加苓朮附湯:「構成」
桂枝(けいし):芍薬(しゃくやく):甘草(かんぞう):大棗(たいそう):生姜(しょうきょう):茯苓(ぶくりょう):蒼朮(そうじゅつ):附子(ぶし):

②当帰四逆加呉茱萸生姜湯(傷寒論)

 末端冷え性に用いられる機会が多い。その実は桂枝湯を内包し、血を復して血流を促し、冷えに対する身体の過緊張状態を緩和させる薬方である。各種神経痛に応用される機会が多い。ただし帯状疱疹後神経痛に適応させる場合には工夫が必要である。桃核承気湯や附子剤との合方が良く行われる。
当帰四逆加呉茱萸生姜湯:「構成」
当帰(とうき):桂枝(けいし):芍薬(しゃくやく):甘草(かんぞう):大棗(たいそう):細辛(さいしん):木通(もくつう):生姜(しょうきょう):呉茱萸(ごしゅゆ):

③五積散(太平恵民和剤局方)

 もと風邪薬として運用された本方は、「寒湿(かんしつ)」を去る薬方として広く運用される。「寒湿」とは冷えて水分代謝を停滞させることで出現する諸々の病態を指す。外に寒湿があれば手足の痛みや頭痛を生じ、内(胃腸)に寒湿があれば胃痛・腹痛・吐き気・下痢などを引き起こす。本方は内外の寒湿を同治する。多味生薬で構成され適応の幅が広い分、他剤を合方することで薬能に重点を持たせる必要がある。帯状疱疹後神経痛にエキス剤にて対応する場合、桂枝加苓朮附湯や麻黄附子細辛湯、当帰四逆加呉茱萸生姜湯を合わせることが多い。
五積散:「構成」
蒼朮(そうじゅつ):陳皮(ちんぴ):茯苓(ぶくりょう):白朮(びゃくじゅつ):半夏(はんげ):当帰(とうき):厚朴(こうぼく):芍薬(しゃくやく):川芎(せんきゅう):白芷(びゃくし):枳殻(きこく):桔梗(ききょう):乾姜(かんきょう):桂枝(けいし):麻黄(まおう):甘草(かんぞう):大棗(たいそう):

④柴胡疎肝湯(医学統旨)(漢方一貫堂医学)

 脇痛の主方で肋間神経痛の名方。応用して帯状疱疹後神経痛にも用いる。胸や脇腹のあたりに発生したものに使用される機会が多い。筋肉の緊張を和らげて血流を促し、自律神経の乱れを是正する薬能を持つ。本来「肝気鬱結(かんきうっけつ)」と呼ばれる自律神経の緊張状態に適応する方剤で、肝気鬱結を解する四逆散という基本方剤の変方。『医学統旨』の柴胡疎肝湯は四逆散に川芎・香附子などの血行を促す薬物を加えている。『漢方一貫堂医学』の柴胡疎肝湯は、さらに血行循環を促す薬物がより広く用いられており、特に「瘀血(おけつ)」に対して配慮されている。瘀血は陳旧性の固着した痛みを発生させる。そういう意味で、帯状疱疹後神経痛では一貫堂の処方が用いられやすい。
柴胡疎肝湯『医学統旨』:「構成」
柴胡(さいこ):芍薬(しゃくやく):川芎(せんきゅう):香附子(こうぶし):青皮(せいひ):枳殻(きこく):甘草(かんぞう):

柴胡疎肝湯『漢方一貫堂医学』:「構成」
柴胡(さいこ):芍薬(しゃくやく):川芎(せんきゅう):当帰(とうき):地黄(じおう):桂皮(けいひ):甘草(かんぞう):青皮(せいひ):枳殻(きこく):紅花(こうか):牡丹皮(ぼたんぴ):桃仁(とうにん):大黄(だいおう):芒硝(ぼうしょう):

⑤帰耆建中湯(瘍科方筌)

 江戸時代の外科医、花岡青洲によって作られた処方で、膿瘍自潰後の肉芽の新生を早めたり、外科手術後の傷跡や全身状態の回復に用いられていた。血行を促し、肌肉を生じる。シンプルな生薬構成を持つが、その分迅速に薬能を発揮する方剤である。血行を促し、身体の損傷を回復する。故に帯状疱疹後の神経痛や、いつまでも治りきらない皮膚症状の痕に用いられる。平素より体力なく、疲労しやすい者に適応しやすい。
帰耆建中湯:「構成」
桂枝(けいし):芍薬(しゃくやく):甘草(かんぞう):生姜(しょうきょう):大棗(たいそう):当帰(とうき):黄耆(おうぎ)

⑥疎経活血湯(万病回春)

 帯状疱疹後神経痛に適応する処方は、血行を促すために温性を持つものが多い。その中で本方は寒性を帯び、清熱作用を発揮しながら神経痛を改善する。明代に書かれた『万病回春』において、手足の関節の痛みの治療薬として紹介されている処方。出典に「風寒湿熱を被り内に感じ、熱は寒に包まれ、すなわち痛み経絡を傷る」とあるように、湿熱と呼ばれる病態を背景に備える者に著効することが多い。平素より酒客(酒飲み)にて、酒を飲むと神経痛が悪化するというもの。便秘がちの者には大黄を加えると、さらに鎮痛効果が強まる。
疎経活血湯:「構成」
当帰(とうき):地黄(じおう):川芎(せんきゅう):芍薬(しゃくやく):羌活(きょうかつ):蒼朮(そうじゅつ):茯苓(ぶくりょう):牛膝(ごしつ):防已(ぼうい):竜胆(りゅうたん):防風(ぼうふう):陳皮(ちんぴ):白芷(びゃくし):桃仁(とうにん):威霊仙(いれいせん):甘草(かんぞう):生姜(しょうきょう)

⑦通導散(万病回春)

 もと「折傷(せっしょう)」つまり骨折や打撲、内臓損傷などの治療薬として作られた方剤であるが、今では「瘀血(おけつ)」と呼ばれる血液循環障害に広く用いられるようになった。沈瀝し固着した神経痛を「瘀血」と捉え、駆瘀血剤を以て痛みを引かせる手法がある。通導散はその代表方剤である。特に固着の強い瘀血では、「下法(げほう:大便の通じをつけることで血行循環を促す手法)」を用いる。適応すると痛みが迅速に引く。桃核承気湯や治打撲一方、大黄牡丹皮湯などもこの範疇に属する処方である。単独もしくは他剤を合方して用いる。
通導散:「構成」
当帰(とうき):枳殻(きこく):厚朴(こうぼく):陳皮(ちんぴ):木通(もくつう):紅花(こうか):蘇木(そぼく):甘草(かんぞう):大黄(だいおう):芒硝(ぼうしょう):

臨床の実際

漢方による帯状疱疹後神経痛治療の実際

帯状疱疹後神経痛の痛みとしびれは、血行を促すと止まります。気滞を疎通する、瘀血を駆逐するなどといった東洋医学的な概念云々はまず置いといて、とにかく血行を促すと痛みとしびれは止まります。

●残存する神経痛と血行障害
神経は細い神経細胞が束(たば)になって膜で覆われた構造をしています。そしてそこに血管が並走することで末梢神経を構成しています。神経はこの血管から酸素や栄養を受け取ることで正常な神経伝達を保っています。さらに末梢神経の周囲には筋肉があり、この筋肉も筋中を走行する血管から栄養を受け取ることで柔らかい活動を保っています。血流障害が起こると、神経に栄養を送れなくなります。すると神経伝達を失調させると同時に、受けた損傷を回復させることができません。また神経周囲の筋肉にも栄養が行き届かなくなるため、筋肉が硬く動きにくくなり、神経を圧迫することでさらに神経伝達を阻むようになります。

神経の痛みやしびれがずっと残ってしまう理由は、未だ明らかになってはいませんが、血行障害がその大きな要因の一つになっているのではないかと考えられます。少なくとも漢方薬を服用した際に、体が温まる感覚と同時に痛みやしびれが軽減されてくるのは、血行循環が改善しているからです。例えば風呂に入って体を温めると、痛みやしびれが楽になるという方がおられます。そういう方であれば、漢方薬は中から体を温めて風呂に入っているような状態を作りだし、神経の失調を改善していきます。東洋医学は気や瘀血といった難しい概念で溢れていますが、実はこういう簡単な現象を利用しているだけにすぎません。

●見極めが求められる血行改善
ただし、血行が悪いと一口に言っても、具体的にどう悪いのかということは人によって千差万別です。漢方治療を行う場合は、そこを見定めなければなりません。実はそこを見定めるために気や血や寒や湿といった概念が必要になってきます。

例えば気剤(気の巡りを良くする薬)である桂枝で血流が良くなる方もいれば、同じく気剤に属しますがやや流し方が異なる川芎や香附子で血流が良くなる方もいます。また血剤である当帰を必要とする方もいますし、湿を除く蒼朮を必要とする方もいます。一つ一つの生薬にそれぞれ使い方があり、それぞれに適応する血行障害が異なってきます。腕の良い漢方家であるほど、一味一味の生薬の薬能を心得ています。むしろそこを心得ないと、血行を促すという単純なことでさえできません。

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参考症例

■症例:帯状疱疹後神経痛

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