花粉症

花粉症について

花粉症と漢方治療

近年、花粉症に悩まれている方が激増しています。花粉症とは季節性アレルギー疾患の総称です。多くはまず「痒み」の症状からはじまります。「鼻が痒い」「目が痒い」「のどの奥が痒い」「口の中の天井に当たる部分(口蓋)が痒い」そして「顔や体の皮膚が痒い」という方までいます。さらにそこからⅠ型アレルギー反応による炎症が増幅していきます。鼻であれば「くしゃみ」「鼻水」「鼻づまり」などの鼻炎が、目であれば「目のはれ」や「目の充血」「目やに」などの結膜炎がどんどん酷くなり、人によっては「頭痛」が起きたり、鼻炎から副鼻腔炎にまで悪化する方もいます。花粉症によって引き起こされる症状をまとめると以下のようになります。

●アレルギー性鼻炎
・鼻腔の痒み
・くしゃみ
・鼻水、鼻づまり
・鼻の奥の乾燥感
・鼻腔の熱感
●咽頭炎(上咽頭炎)
・口の中の天井に当たる部分(口蓋)が痒い
・のどの奥が痒い、時に痛い
●副鼻腔炎
・常に鼻がつまる
・後鼻漏(痰が鼻から咽にまわる)
・顔面痛・頭痛・時に歯茎の痛み
●アレルギー性結膜炎
・目が痒い
・目の充血・腫れ
・目やにがたくさん出る
●皮膚炎・湿疹
・肌が痒い
・肌が乾燥する
・もともとの皮膚疾患が悪化

このように花粉症は鼻腔のみならず目・咽頭・副鼻腔・皮膚などに複合的な症状を引き起こす疾患です。花粉症と一口に言っても多用な症状が起こりますので、漢方においてもこれらに合わせた治療を行わなければなりません。したがって花粉症に良いとされる漢方薬を一律的に服用しているだけではあまり効果を発揮できないというのが現実です。

花粉症に効くのか?

そもそも花粉症を漢方薬で治すことができるのか?という疑問は皆様感じられることだと思います。本やネットなどでは「効果がある」と説明されていますが、その現実的な所はどうなのでしょうか。ここではその実際のところを解説していきたいと思います。まずは花粉症に良く用いられる漢方薬を解説します。そして「臨床の実際」にて花粉症治療に対する素朴な疑問にお答えしていきます。

使用されやすい漢方処方

①小青竜湯(しょうせいりゅうとう)
②桂枝麻黄各半湯(けいしまおうかくはんとう)
③葛根湯(かっこんとう)
④香蘇散(こうそさん)
⑤川芎茶調散(せんきゅうちゃちょうさん)
⑥苓甘姜味辛夏仁湯(りょうかんきょうみしんげにんとう)
⑦麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)
⑧銀翹散(ぎんぎょうさん)
⑨桑菊飲(そうぎくいん)
 翹荷湯(ぎょうかとう)
⑩越婢加朮湯(えっぴかじゅつとう)
⑪辛夷清肺湯(しんいせいはいとう)
⑫柴蘇飲(さいそいん)
※薬局製剤以外の処方も含む

①小青竜湯(傷寒論)

 アレルギー性鼻炎、特に花粉症治療薬として有名。サラサラとした鼻水が、蛇口を開けっ放しにしたようにザーザーと流れ出るような鼻炎に効果を及ぼすことがある。ただし実際には本方が適応する病態はそれほど多くはない。また使用するにしても加減を含めたコツが必要となる処方である。
 本方は体内の水が外に張り出す勢いの強い状況で用いる薬である。そして張り出す勢いは強いが、熱証と言われるまで炎症が強まっていかないという状況で用いる。正確に言えば、勢い強く水を出すが熱証までいかせることができないという病態。心下に水気が有るからである。心下の水気とは、諸説あるが身体内に蓄積している多量の水を差す。水が多量なためにいつまでも熱を持たず、寒水のまま外にあふれ出す。目の周りが浮腫んで腫れ、くしゃみが止まらず、いつまでもビービーとひっきりなしに鼻水を出す者。サラサラの水がポタポタと垂れるので常にティッシュで受け止めていないと間に合わない者。ただし炎症が奥に進まず、副鼻腔炎などの気配を見せない者。また心機能に問題があったり胃腸が弱い者では加減を行うか使用を避ける必要がある。
小青竜湯:「構成」
麻黄(まおう):桂枝(けいし):芍薬(しゃくやく):甘草(かんぞう):半夏(はんげ):細辛(さいしん):乾姜(かんきょう):五味子(ごみし):

②桂枝麻黄各半湯(傷寒論)

 桂枝湯と麻黄湯とを各等分で合わせた処方。出典の『傷寒論』には桂枝二麻黄一湯という処方もある。これは桂枝湯2の分量に対して、麻黄湯1で合わせたものである。つまり桂枝湯と麻黄湯との合方は病態によってその量を調節するべきもの。この運用手法が鼻炎治療においても非常に重要である。
 鼻炎では「発表(はっぴょう)」が核となる。「発表」とは鼻炎治療の即効性を決める重要な薬能だが、この力が強い麻黄剤は、桂枝湯類を以て薄めることで発表の薬能を調節する。「麻黄」は多く用いれば即効性が強いというわけでは決してない。その方の状態に合った量である場合が、最も迅速に効果を発揮する。麻黄湯を用いる場合はもちろんのこと、葛根湯や小青竜湯、麻黄附子細辛湯などもこの手法をもって薬力を調節する。
桂枝麻黄各半湯:「構成」
麻黄(まおう):杏仁(きょうにん):桂枝(けいし):芍薬(しゃくやく):甘草(かんぞう):生姜(しょうきょう):大棗(たいそう):

➂葛根湯(傷寒論)

 日本、特に古方派と呼ばれる漢方家は鼻部の治療に好んで葛根湯を用いた。鼻炎でも鼻の詰まりが強い者。小青竜湯の適応にくらべて鼻水がやや粘稠にて、ねばつく鼻水を出す者に良い。夜間に鼻が詰まって眠れないという者に頓服的に本方を服用させると、即効性をもって鼻が開通することが多い。
 小青竜湯が熱証までいかない鼻炎に用いるのに対して、本方は熱化する鼻炎に用いる。桂枝麻黄各半湯はその間である。葛根は夏場に食べるクズの根。清熱作用があり鼻腔の熱化を予防する。熱の増悪は鼻腔から副鼻腔へと波及し、副鼻腔炎を起こすことがある。本方はその流れの中で運用されることが多い。ただし状況に従って的確な加減を施す必要がある。炎症が盛んならば石膏を、化膿傾向があるなら桔梗を、排膿を促すにはさらに川芎・枳実・蒼朮・附子などを加える。葛根湯を鼻の疾患に応用する場合、葛根湯加川芎辛夷の加減が有名である。痰の排出や鼻腔の開通を強めた加減であるが、花輪壽彦先生はこの加減を用いるよりも、むしろ葛根湯だけの方が効き目が良いことがあると指摘されている。
葛根湯:「構成」
葛根(かっこん):麻黄(まおう):桂枝(けいし):生姜(しょうきょう):芍薬(しゃくやく):甘草(かんぞう):大棗(たいそう):

④香蘇散(太平恵民和剤局方)

 もともと気剤として心療内科・精神科の疾患に頻用される本方は、花粉を排出しようとする体の反応を助ける「発表」の薬能を持つことから、花粉症にも用いられることがある。最大の特徴は薬能が穏やかで優しいことである。胃の弱い方やお年寄りの方、また妊娠中の方であっても安心して服用することができる。ただし薬能を充分に引き出すためには、紫蘇葉と生姜との質・分量が重要で、これらの生薬は本方の即効性を決める。したがって花粉症のように即効性が求められる病では、これらを適宜調節する必要がある。また鼻炎からややこじれた印象のある花粉症に、小柴胡湯と合わせて用いる手段もある。
香蘇散:「構成」
香附子(こうぶし):陳皮(ちんぴ):甘草(かんぞう):紫蘇葉(しそよう):生姜(しょうきょう):

⑤川芎茶調散(太平恵民和剤局方)

 もともと感冒治療薬として世に出た本方は、風邪と同じように鼻汁・鼻閉などを生じるアレルギー性鼻炎にも効果を発揮する。穏やかな発表作用を持つことから使いやすい処方である。辛夷や細辛を加えて用いられることが多い。
 経験的に鼻炎では桂枝を主として使うべきものと、川芎や香附子を主として用いるべきものとがあるように思う。両者ともに血行を促す薬能を持つが、その促し方が異なる。その見極めを間違えると本方はあまり効果を発揮しない。全体に弛緩の傾向があり血管の緊張度の低い者には桂枝が、逆に緊張感が強く血管が強く収縮して外にまで血行が行き届きにくい者には川芎や香附子が適応する、という印象がある。
川芎茶調散:「構成」
川芎(せんきゅう):香附子(こうぶし):白芷(びゃくし):羌活(きょうかつ):荊芥(けいがい):防風(ぼうふう):薄荷(はっか):甘草(かんぞう):細茶(さいちゃ):

⑥苓甘姜味辛夏仁湯(金匱要略)

 身体の水分循環異常である「飲病」に用いられる方剤。特に喘息や鼻炎などにおいて、「寒飲(かんいん)」と呼ばれる質がサラサラの分泌物を排出しようとする炎症に用いられる。本方は本来、小青竜湯による「発表」過剰によって陥ってしまった興奮状態を沈静化させるために作られた処方。したがって「発表」の薬能は備えていない。鼻炎では発表の薬能が必要であるため、本方単独ではあまり効果が薄い。そのため実際には乾姜・細辛剤として他方と合わせて用いられることが多い。
苓甘姜味辛夏仁湯:「構成」
茯苓(ぶくりょう):甘草(かんぞう):乾姜(かんきょう):五味子(ごみし):細辛(さいしん):半夏(はんげ):杏仁(きょうにん):

⑦麻黄附子細辛湯(傷寒論)

 鼻炎治療において非常に有効な方剤である。アレルギー性鼻炎に広く用いることが可能で、かつこの方剤ではないと止まらないという鼻炎がある。本方は『傷寒論』において「少陰病(しょういんびょう)」という病態に適応する方剤として提示されている。「少陰病」とは陰証、つまり身体の新陳代謝が衰え、病と闘う力を失いつつある病態と解釈されている。朝起きると寒気を覚え、くしゃみや水鼻が止まらず、日中でも冷気を受けるとゾクゾクとしてすぐに鼻炎を生じるという者。本方を用いる際には分量が重要である。
 ただし本方は陰証に拘泥すると運用の幅を狭める。麻黄・附子・細辛はともに利水剤であり、アレルギー性炎症において生じる分泌物を即効性をもって乾かす薬能を持つ。したがって鼻炎治療のファーストチョイスとして常に考えておくべき方剤である。鼻炎の炎症が進行して鼻腔に乾燥感がある者には不適。また胃の弱りを持つ者や心臓の弱りを持つ者にも不適である。他剤を合方することで薬力をコントロールする必要がある。
麻黄附子細辛湯:「構成」
麻黄(まおう):附子(ぶし):細辛(さいしん):

⑧銀翹散(温病条弁)

 鼻炎では小青竜湯や麻黄附子細辛湯が適応となる「風寒型」の者と、本方が適応するような「風熱型」とに大きく分かれる。アレルギー性炎症は熱化が強まると鼻水の質がべとつきはじめ、鼻水よりも鼻づまりが強くなる。また酷いと鼻腔が乾燥して熱を持ち、咽が腫れて痛んだり、副鼻腔炎へと移行することがある。これを「風熱型」という。この場合は発表よりも「清熱」を主体とする処方を用いる必要がある。本方は「風熱型」の主方。風寒・風熱のどちらに移行していきやすいかを発症初期の段階から見極め、風熱型の初期の段階で本方を服用しておくと炎症が強まらずに済む。
 本方の出典である『温病条弁』は日本においてはあまり研究が進んでこなかった背景があり、古人は風熱型の鼻炎に葛根湯加減を頻用した。葛根湯の加減でも確かに風熱に対応することができるが、やや無理やりな感があり、下手をすると血行を促し過ぎることで炎症が悪化し、鼻の熱感や乾燥感が強くなる。特に現代においては抗ヒスタミン薬によって鼻水を無理やり止める治療を続ける傾向があるため、鼻腔の乾燥や、深部への炎症を招きやすい。本方は発表を行いつつも、いかに炎症や乾燥を助長せず清熱へと導くかという考え方のもと作られた方剤。故にこのようなケースで非常に使い勝手が良い。
銀翹散:「構成」
金銀花(きんぎんか):連翹(れんぎょう):薄荷(はっか):荊芥(けいがい):竹葉(ちくよう):香豉(こうし):牛蒡子(ごぼうし)甘草(かんぞう):

⑨桑菊飲・翹荷湯(温病条弁)

 花粉症において生じる目の痒みは点眼などの配慮を必要とするが、本方を服用しておくと軽くなるという方が多い。本方の主眼は軽い清涼の気で目・鼻・口の熱をはらい取るという所にある。炎症の強さに従って石膏・知母を加える。煎じ薬では薄荷を後入れにした方が良い。薄荷を煮詰める際の香気も薬能の一つであり、香りをかぐだけで目の痒みが引くという者も多い。充血が強くまぶたが赤く熱を持ち、乾燥感が強い場合には本方ではまかないきれない。翹荷湯を用いる。鼻の詰まり、奥が乾燥して熱感が強いという者にも良い。また目の炎症が強く、まぶたの腫れが強い者では越婢加朮湯、さらに腫れよりも目の充血や赤味が強く、時に痛むという場合では洗肝明目湯を用いる場がある。
桑菊飲:「構成」
連翹(れんぎょう):薄荷(はっか):桑葉(くわよう):菊花(かくか):桔梗(ききょう):杏仁(きょうにん):甘草(かんぞう):芦根(ろこん):
翹荷湯:「構成」
連翹(れんぎょう):薄荷(はっか):黒梔皮(こくしひ):緑豆皮(りょくずひ):桔梗(ききょう):甘草(かんぞう):

⑩越婢湯加朮湯(金匱要略)

 花粉症にて目の炎症が甚だしく、痒くて掻きむしり、目が腫れて引かないという状態に用いる機会がある。麻黄・甘草という利水剤に石膏を配する本方は、滲出性炎症を改善する薬能を持ち、強い腫れをともなう諸病に広く用いられる。赤味が強く充血の傾向が明らかであれば、さらに黄連剤を合方する必要がある。黄連解毒湯や清上防風湯、加減涼膈散を選用する。また目やにが強く、涙嚢炎やものもらいなどの化膿性炎症を起こすものでは荊防敗毒散や十味敗毒湯が必要になる。
越婢湯:「構成」
麻黄(まおう)・甘草(かんぞう):石膏(せっこう):大棗(たいそう):生姜(しょうきょう):

⑪辛夷清肺湯(勿誤薬室方函口訣)

 鼻腔・副鼻腔に起こる強い炎症をしずめる代表的な清熱剤。鼻炎の炎症が甚だしく、副鼻腔炎へと派生している場合では本方の運用が必要になる。副鼻腔炎の急性炎症期、鼻の中に熱感や乾燥感がある場合に用いる。また炎症によって鼻茸(ポリープ)が生じ、鼻の孔を塞ぐように大きくなる勢いのもの。さらに後鼻漏にて黄色・緑色を呈する粘稠な痰を出す者に用いられる機会がある。
 本方は強力な清熱作用を持つ薬であるが、熱の程度によって清熱作用を強める必要がある。また本方には排膿作用がなく、そのため痰の排出を促さなければならない副鼻腔炎では排膿散及湯のような排膿薬を合わせる必要がある。鼻部の清熱剤には、本方の他にも加減涼膈散や清上防風湯などがある。これらの方剤にはそれぞれの特徴があり、病態を見極めた上で適宜選択する。
辛夷清肺湯:「構成」
辛夷(しんい):石膏(せっこう):知母(ちも):黄芩(おうごん):山梔子(さんしし):百合(びゃくごう):麦門冬(ばくもんどう):枇杷葉(びわよう):升麻(しょうま):

⑫柴蘇飲(本朝経験方)

 小柴胡湯と香蘇散との合方。鼻・耳の詰まりを取る薬として耳鼻科領域の病に広く用いることができる。どちらかと言えば花粉症のようにアレルギー性の炎症に効果を発揮しやすい。粘稠な痰を伴うような炎症の強い病態には不向きである。本方の特徴は「やわらかさ」である。点鼻薬などの常用によりややこじれた鼻炎・副鼻腔炎では、清熱や排膿などハッキリとした薬能を持つ方剤では対応しきれないことがある。そういう時は去湿・去痰・清熱・滋潤を包括してやわらかく行う本方のような処方の方が、かえって効果を発揮しやすい場合がある。また胃腸におだやかで胃の弱い方でも安心して服用でき、さらに鼻炎から副鼻腔炎、さらに耳が塞がるといった耳閉感に対しても広く効果を発揮する。優しい薬にはそれなりの使い方がある。
柴蘇飲:「構成」
柴胡(さいこ):半夏(はんげ):人参(にんじん):黄芩(おうごん):甘草(かんぞう):大棗(たいそう):生姜(しょうきょう):香附子(こうぶし):紫蘇葉(しそよう):陳皮(ちんぴ):

臨床の実際

<漢方薬による花粉症治療>

花粉症を漢方薬で治すことができるのか?この疑問に対して現実的なところを回答していきたいと思います。

漢方薬で症状が良くなるのか?
漢方薬によって症状が改善されるのかという点に関して。答えはイエスです。ただし条件付きです。漢方薬が的確に選択できれば効果が出ますが、そうでなければ効きません。花粉症はさまざまな病態を包括した疾患です。一口に花粉症といっても、炎症の程度や段階・起きている部位がまったく異なります。漢方薬は何でもただ飲めば良いというわけではなく、様々な状態に的確に適合したものを服用しなければ効かないという仕組みになっています。

●小青竜湯について
花粉症治療では小青竜湯という処方が有名ですが、有名過ぎて一律的に使われている傾向があります。しかし小青竜湯が効果を及ぼす花粉症というのは、発症初期、さらに炎症の勢いは強いけれども熱証にまでは陥っていないというごく限られた病態にしか著効しません。状態の見極めが正しく、かつ処方を正確に選択できたときのみ、花粉症に効果を発揮します。

漢方薬でどこまで改善できるのか?
次に、改善とはどこまで良くなることを指しているのか、ということについて。漢方薬の服用によって、症状の程度・頻度を抑えることは可能です。しかし実際の所、花粉が飛んでいる時期に漢方薬の服用のみで完全に症状を抑え切れるわけではありません。即効性がないというわけではありません。漢方薬といえども的確に選択することができれば、即効性をもって症状を抑えることができます。しかし花粉の時期は、常に花粉が飛んでいます。風邪のように一度侵襲した菌を排除すれば終了するという病ではありません。したがって症状の程度や頻度が減っても、まったく起こらない状態になるというわけではありません。

●西洋薬と漢方薬との併用
そこで経験上お勧めしているのが、西洋薬との併用です。抗ヒスタミン薬と漢方薬とを併用することで、多くの方が花粉症症状をかなりの所まで抑えることができます。現実的に当薬局に来局される方のほとんどは、抗ヒスタミン薬をすでに服用していて、それでも症状があまり変わらないという方です。そのような方に適切な漢方薬を服用して頂くと、症状のかなりの部分が治まってきます。その時、今まで効かなかった西洋薬を中断し漢方薬一本にするよりは、抗ヒスタミン薬を継続して服用してもらっていた方が症状の程度が楽なのです。つまり漢方薬には抗ヒスタミン薬の効き目を引き出す効能があると考えられます。またこれらの西洋薬には眠気などの副作用がありますが、漢方薬を併用すると不思議とそれがなくなります。花粉症にて使われる漢方薬には穏やかな覚醒作用のある物が多いためだと思います。どうしても抗ヒスタミン薬を服用したくないという場合を除いて、現実的には西洋薬と漢方薬とを併用するという治療が最も効果を発揮しやすいと思います。

●漢方薬だけで治療した方が良い場合
ただし西洋薬を服用せず、漢方薬だけで治療した方が良い場合もあります。抗ヒスタミン薬の連用によって鼻炎が副鼻腔炎にまで悪化している場合です。抗ヒスタミン薬は鼻水を出なくさせる薬です。本来鼻水は、鼻に入ってこようとする異物から鼻腔を守り、異物を外に出すために分泌されます。この分泌液を止めてしまう抗ヒスタミン薬は、連用すると鼻腔を乾燥させて、異物をより深い副鼻腔にまで到達させ、さらに粘膜が守れず鼻の奥の炎症を助長させてしまうことがあります。粘稠な鼻水が出て鼻がつまっているのに、鼻の奥には乾燥感や痛みがあるという方。また鼻に熱感があり後鼻漏といって咽の奥の方に痰がまわるような症状が起こるという方。このような場合では西洋医学的な治療が非常に効きにくくなります。漢方治療が最も求められる状態であり、漢方薬によって改善するケースの多い状態でもあります。

花粉症が起こらない体になるのか?
最後に漢方薬によって花粉症が起こらない体にすることができるか、という疑問に対して。ネットや本などにおいて、漢方薬を長期的・通年的に服用すると、「本治」といって花粉症自体が起こらない体になるという記載があります。しかしこのような記載に対しての私の感想は、正直なところグレーです。

まず花粉症が起こらない体質になるという点ですが、通常のアレルギー性鼻炎におけるアレルゲン、つまりチリやホコリ・ハウスダストなどであれば、確かにこれらに反応しない状態にまで改善することがあります。しかし近年の花粉はその飛散量が極めて多いため、この強い侵襲性に対してまったく体が反応しない状態になるかは疑問を持つところです。現実的には体質が改善されてきたとしても、目が痒いとか、朝数発くしゃみが出るという程度には症状が残ることはあると思います。

●通年的に服用する必要性
体質改善のためには長期的・通年的に服用を続ける必要があるという点に関しては、私見ではその必要はないと思います。もし通年的に服用を続け、翌年の花粉症の程度が楽になったとしても、そもそも花粉はその年によって飛ぶ量が変わりますし、もし生活の状況が変化していれば、花粉に触れる頻度も翌年と同じではないはずです。つまり通年的に服用していなかったとしても、花粉症の程度が楽になっていたかもしれません。したがって長く服用を続けていたとしても、それによって花粉症が起こらない体質になっていると正確に判断することは、実際には難しいと思います。

●現実的な対応
花粉症が起こらない体にしていきたい、というお悩みに対して、当薬局でお勧めしている現実的なやり方は、とにかく花粉症が起きている時期のみ漢方薬を服用するという方法です。体質改善と称して、花粉症が起きていない時期も漢方薬を飲み続けるという方法はあまり効果的ではない、もっと言えばコストパフォーマンスが悪いと判断しています。通年性のアレルギー性鼻炎では話は違いますが、その季節だけ起こる花粉症であれば、症状が出ている時にだけしっかりと対応していけば、花粉症の時期になっても年々症状が軽くなっていく、治しやすくなっていくという傾向が出てきます。そしてそれを何年か行っていくうちに、花粉症が起こりにくくなってきたという変化を実感されることが多いのです。当然、実際に症状が改善されていると感じることのできる漢方薬を服用することが必須です。現実的に言えば、このやり方が最も効率よく花粉症を起こりにくくしていく方法だと感じています。

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