不正性器出血

不正性器出血について

不正性器出血とは

不正性器出血とは、本来出血するべきではない時期に起こるすべての性器出血をさします。大きく区別すると、外傷性・腫瘍性(癌によるものなど)・炎症性(性感染症など)・機能性と分類できますが、妊娠初期又は後期に起こるものや、内科的疾患によるものなど、多くの原因によって起こる可能性があります。

そのため不正性器出血が見られれば、まずは病院にて検査することが必要になります。最も頻度が高いのは機能性のもの(機能性子宮出血(DUB):視床下部-脳下垂体-卵巣系のホルモン異常によるもの)です。この場合一時的に出血しても自然と治まるものも多いのですが、中には排卵ができていない場合(無排卵性DUB)もありますので検査はするべきです。また子宮筋腫や多嚢胞性卵巣、癌などの疾患が背景に隠れている場合もあります。放っておかずになるべく早めに原因を明らかにしてください。

不正性器出血と漢方

その上で、不正性器出血は漢方治療が選択されることの多い疾患でもあります。病院にて検査をして特に問題は無いと言われたものの、いつまでも不正性器出血を繰り返している方や、原因が特定できてその治療を行っていても、なかなか出血が止まらないという方がいらっしゃるためです。

●頻用されている漢方薬、しかし・・・
婦人科領域では近年東洋医学が注目され、多くの医療機関で漢方薬が処方されるようになりました。特に当帰芍薬散や桂枝茯苓丸・加味逍遥散などが頻用されます。しかし不正性器出血はこれらの処方だけでは対応しきれないというのが現実です。漢方治療が注目されている今だからこそ、より広く的確な処方運用が求められています。

不正性器出血に対しては、まず検査にて原因を見極めたうえで、背景となる疾患があればそれに対応して処方を決定します。その時、上記のような婦人科疾患で良く使われる漢方薬を一律的に使用しているだけではダメで、漢方における「止血の手法」をもとに薬方を決定していく必要があります。

参考コラム

まずは「不正性器出血」に対する漢方治療を解説するにあたって、参考にしていただきたいコラムをご紹介いたします。本項の解説と合わせてお読み頂くと、漢方治療がさらにイメージしやすくなると思います。

コラム|【漢方処方解説】帰脾湯・加味帰脾湯(きひとう・かみきひとう)

婦人科・心療内科系の漢方薬として有名な帰脾湯・加味帰脾湯。薬局では「心脾顆粒」という名称でもしばしば販売されています。「体の弱い人の出血傾向や精神症状」に対して、第一選択的に使われている傾向があるものの、本当にこれだけの情報で使ってしまって良いのでしょうか。飲んだけれども効かなかったという方のために、本方の適応病態を詳しく解説していきます。

【漢方処方解説】帰脾湯・加味帰脾湯(きひとう・かみきひとう)

使用されやすい漢方処方

①芎帰膠艾湯(きゅうききょうがいとう)
②帰脾湯(きひとう)
③四君子湯(しくんしとう)
④当帰建中湯(とうきけんちゅうとう)
⑤竜胆瀉肝湯(りゅうたんしゃかんとう)
⑥温清飲(うんせいいん)
⑦加味逍遥散(かみしょうようさん)
⑧桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)
⑨桃核承気湯(とうかくじょうきとう)
⑩芎帰調血飲第一加減(きゅうきちょうけついんだいいちかげん)
⑪田七人参(でんしちにんじん)
⑫鹿茸(ろくじょう)
※薬局製剤以外の処方も含む

①芎帰膠艾湯(金匱要略)

 不正性器出血に用いる代表的方剤。出典の『金匱要略』にてすでに「漏下(ろうげ:雨漏りのようにポタポタと滴る性器出血)」への適応を述べているように、古くから不正性器出血の第一選択薬として用いられてきた。血はその質が充実し、流れが順調であれば漏れることがない。本方は血が本来持っている力を高め、血行を促すことで出血を止める方剤である。東洋医学ではこのような血の弱りを「血虚」という。本方は補血剤の代表である四物湯に阿膠などの止血薬を配合した構成を持つ。『金匱要略』ではこれと同時に、流早産のあと性器出血の止まないものや、妊娠中に腹痛を起こして切迫流産するものへの適応が記載されている。総じて「血虚」に属する各種出血や腹痛を伴う婦人科疾患に広く運用される。
芎帰膠艾湯:「構成」
当帰(とうき)・川芎(せんきゅう):芍薬(しゃくやく):地黄(じおう):甘草(かんぞう):阿膠(あきょう):艾葉(がいよう):

②帰脾湯(薛氏医案)

 平素より体力の無い者が不正性器出血などの継続した出血を起こすと、血は徐々に希薄になってその力を減弱させていく。血の気が引いて顔色悪く、息切れや動悸を起こしやすくなり、場合によっては神経過敏になって不安感が強まり、ノイローゼ気味になったりする。いわゆる貧血の状態であり、これを東洋医学では「気虚」という。本方は気を補い、血の力を取り戻すことで止血を図る方剤である。出血と同時に貧血を伴う各種出血性疾患に広く応用されるが、主は「気虚」(貧血)の回復と心虚と呼ばれる精神不安の回復にある。つまり止血の効果はあくまで弱い。阿膠や艾葉などの止血薬を加える必要がある。また内包する遠志は嘔気をおこすことがあるため注意を要する。
帰脾湯:「構成」
当帰(とうき):黄耆(おうぎ):人参(にんじん):甘草(かんぞう):茯苓(ぶくりょう):白朮(びゃくじゅつ):酸棗仁(さんそうにん):竜眼肉(りゅうがんにく):遠志(おんじ):木香(もっこう):大棗(たいそう):生姜(しょうきょう):

③四君子湯(太平恵民和剤局方)

 東洋医学では血の不足を「血虚」というが、実際に貧血を起こし血色が悪く心身ともに薄弱となるものは血虚ではない。「気虚」である。本方は帰脾湯と同じように気を補い血の力を回復させる薬能を持つ。ただし此方は気虚を回復するための要剤であり、その効果にも切れ味がある。故に大量出血による気虚や、重い貧血を伴う疾患に用いられる。不正性器出血においても貧血の症状重く、顔面蒼白・息切れ・動悸が顕著で脱力感が強いもの、また消化能力も減弱し、食欲ないか又は少食で食べる気力もないというものに適応する。本方に黄耆を加えたものを大四君子湯という。補気の大剤である。
 一方で、重い貧血には苓桂朮甘湯のように利水剤を以て対応するべき時もある。立ちくらみが強く動悸・息切れ・耳鳴りがあり、血漿蛋白の減少により浮腫を伴う者。苓桂朮甘湯に人参・牡蛎・鍼砂を加えたものを鍼砂湯という。「黄胖(おうはん:顔や皮膚が黄ばみ、全身が浮腫んで脱力感が見られる病。貧血。)」に適応するための加減を施したものである。不正性器出血では止血も重要だが、同時に貧血が介在している場合にはそこから立ち直らせないと出血を止められない場合が多い。
四君子湯:「構成」
人参(にんじん):甘草(かんぞう):茯苓(ぶくりょう):白朮(びゃくじゅつ):生姜(しょうきょう):大棗(たいそう):

④当帰建中湯(金匱要略)

 一種の疲労状態を伴う出血に適応する方剤。小建中湯に当帰を加えたもの。出典の『金匱要略』では産後に疲労を伴う腹痛への適応を提示している。方後の解説には、出血が止まない者には地黄・阿膠を加えるとあり、浅田宗伯はこの加減を以て「内補湯」と名付け、虚血過多の症に広く運用している。身体疲労し、貧血の傾向がり、体がだるく力が出ないという者。ポタポタと長引く不正性器出血に著効することが多い。これに黄耆を加えたものを帰耆建中湯という。江戸時代の外科医、花岡青洲によって作られた処方で、膿瘍自潰後の肉芽の新生を早め、外科手術後の傷跡や全身状態を回復させる目的で使用していた。当帰建中湯と同じようにこの方剤にも止血の効果がある。
 これらは血の力を回復する方剤である。血の弱さを持つものは、傷が治りにくく、体力が回復しにくい。故に経血がいつまでも続いて止まず、出血中に疲労感が強く、すぐに体がだるくなる。出血とともに下腹部が冷えて痛みが続いているというものにも良い。血の量も質も不足しているため、子宮にたまるまでに時間がかかる。故に月経周期は遅く・長くなりやすい。本方は血の力を回復する、そして陰と陽とをまたいで回復するというところに主眼がある。
当帰建中湯:「構成」
桂枝(けいし):芍薬(しゃくやく):甘草(かんぞう):生姜(しょうきょう):大棗(たいそう):当帰(とうき):

⑤竜胆瀉肝湯(薛氏医案)(漢方一貫堂医学)

 不正性器出血は子宮部の炎症によって起こるものがあり、本方は下腹部の炎症を抑える代表方剤で、熱性の不正出血に応用される。性感染症が治りきらず、いつまでも出血を続けるもの。『薛氏医案』の竜胆瀉肝湯は急性炎症期に使用される傾向があり、性感染症の比較的初期に用いれることが多いのに対して、『漢方一貫堂医学』の竜胆瀉肝湯は解毒証とよばれる体質的傾向を持つ者に適応し、やや漫然と炎症が続く者の体質改善薬として運用されることが多い。
竜胆瀉肝湯(薛氏医案):「構成」
当帰(とうき):地黄(じおう):木通(もくつう):黄芩(おうごん):沢瀉(たくしゃ):車前子(しゃぜんし):竜胆(りゅうたん):山梔子(さんしし):甘草(かんぞう):
竜胆瀉肝湯(漢方一貫堂医学):「構成」
竜胆(りゅうたん):山梔子(さんしし):黄芩(おうごん):木通(もくつう):沢瀉(たくしゃ):車前子(しゃぜんし):)当帰(とうき):地黄(じおう):甘草(かんぞう):芍薬(しゃくやく):川芎(せんきゅう):黄連(おうれん):黄柏(おうばく):連翹(れんぎょう):薄荷(はっか):防風(ぼうふう):

⑥温清飲(万病回春)

 『万病回春』の「血崩(けつほう)」に収載される名方。血を補い血行を促して身体を温める四物湯と、熱を清する黄連解毒湯との合方。故に温清飲という。「血崩」とは雪崩(なだれ)のように出血する不正出血を指し、出血量の多いものを指す。熱が介在する出血は出血の勢いが強い。自律神経的に強く興奮するような体質を持つ方の不正出血に適応しやすい。例えば普段からのぼせやすく頭痛や目の充血を生じやすい、興奮して不眠の傾向があり、イライラしやすいという者。更年期・閉経前の時期に月経が乱れて起こる不正出血などに用いられる機会が多い。止血剤である側柏葉・地楡や、各種駆瘀血剤と合わせて用いられる。
温清飲:「構成」
当帰(とうき):川芎(せんきゅう):芍薬(しゃくやく):地黄(じおう):黄連(おうれん):黄芩(おうごん):黄柏(おうばく):山梔子(さんしし):

⑦加味逍遥散(薛氏医案)

 月経前症候群(PMS)の治療薬として有名な本方は熱性の不正性器出血にも応用される。熱に属するも竜胆瀉肝湯は実証、加味逍遥散は虚証と区別されることが多い。本方が不正性器出血に適応する場合には、月経前のイライラや便秘・下痢などの便通異常、浮腫み・胸の張りなど、PMS症状が介在していることが多い。逆に言えばPMSを改善していく中で月経周期が安定し、不正性器出血がなくなるといった場合もある。内包する牡丹皮・山梔子は血熱を冷ます効能を持ち、夜間に手足がほてる、イライラして顔が赤くなるなどの頭部・末端部の煩熱が一つの目標になる。
逍遥散:「構成」
当帰(とうき):芍薬(しゃくやく):白朮(びゃくじゅつ):茯苓(ぶくりょう):柴胡(さいこ):甘草(かんぞう):生姜(しょうきょう):薄荷(はっか):

加味逍遥散:「構成」
当帰(とうき):芍薬(しゃくやく):白朮(びゃくじゅつ):茯苓(ぶくりょう):柴胡(さいこ):甘草(かんぞう):生姜(しょうきょう):薄荷(はっか): 牡丹皮(ぼたんぴ):山梔子(さんしし):

⑧桂枝茯苓丸(金匱要略)

 婦人科領域に用いる駆瘀血剤として有名。「瘀血(おけつ)」を去る薬方として頻用される有名処方である。駆瘀血剤は血を去るというイメージから出血を助長するように感じられるが、「瘀血」を改善しないと止まらない不正性器出血というものが実際にある。「瘀血」に属する出血とは、毛細血管のような目に見えない微小な血管が詰まることで血が漏れているような印象である。駆瘀血剤は血行循環を隅々まで行き渡らせることで詰まりを取り、それによって出血を止めると解釈されている。出血が急に多くなったり、少なくなったりする、そして継続して出血している期間もあれば、出たり止まったりを繰り返して断続的になったりする。「瘀血」の不正出血はまさに血が詰まっているという感じの出血で、塊状の血が下ることもある。本方は駆瘀血剤の中でもその効果が比較的穏やかで使いやすい方剤。貧血の傾向がある者に、補気剤と合わせて用いられることも多い。瘀血を除くと新血が生まれやすくなる。故に「瘀」に属するならば、駆瘀血を行った方が貧血は改善されやすい。
桂枝茯苓丸:「構成」
桂枝(けいし):芍薬(しゃくやく):茯苓(ぶくりょう):牡丹皮(ぼたんぴ):桃仁(とうにん):

⑨桃核承気湯(傷寒論)

 代表的な駆瘀血剤の一つ。「下法(げほう:大便の通じを促すことで鬱血を去る手法)」によって瘀血を駆逐する点が特徴。桂枝茯苓丸に比べてその作用は強い。「少腹急結(しょうふくきゅうけつ)」という腹証を目標として用いられることが多い。また下法は血行循環を促すと同時に、身体の興奮状態を沈静化させる薬能も持つ。故に狂(きょう)の如くと言われる精神症状や、不眠などにも応用される。不規則な不正出血を繰り返し、便が乾燥状で便秘し、のぼせてイライラするという者。もともとは感染症において急激に発生した瘀血を、迅速に瀉下し揮発する目的で作られたもの。したがってやや急性的に生じたものに適応する。より陳旧化した瘀血には通導散を用いる。
桃核承気湯:「構成」
桂枝(けいし):甘草(かんぞう):桃仁(とうにん):大黄(だいおう):芒硝(ぼうしょう):

⑩芎帰調血飲第一加減(漢方一貫堂医学)

 産後におこる骨盤内の充血を去る芎帰調血飲に、血行循環を改善する駆瘀血薬を配合したのが本方である。骨盤内臓器の充血を去る目的で産後に関わらず広く応用され、温性を持つ駆瘀血剤として不正性器出血にも使用される。平素より下半身が冷え、冷える思いをすると如実にお小水が近くなるという者。膀胱炎や痔を患いやすく、時として気持ちを病み不安定になりやすい者。多種類の生薬にて構成される処方ではあるが、その基本骨格を理解すれば様々な疾患に応用することができる。
芎帰調血飲第一加減:「構成」
当帰(とうき):芍薬(しゃくやく):地黄(じおう):川芎(せんきゅう):白朮(びゃくじゅつ):茯苓(ぶくりょう):陳皮(ちんぴ):烏薬(うやく):香附子(こうぶし):益母草(やくもそう):延胡索(えんごさく):牡丹皮(ぼたんぴ):桃仁(とうにん):紅花(こうか):桂枝(けいし):牛膝(ごしつ):枳殻(きこく):木香(もっこう):大棗(たいそう):乾姜(かんきょう):甘草(かんぞう):

⑪田七人参

 「散瘀止血(さんおしけつ)」の聖薬である。ウコギ科のサンシチニンジンの根で、各種出血に非常に優れた効果を発揮する。止血薬は血を止めるため血の瘀滞を残すことがある。しかし田七人参は瘀血を散らす「散瘀」の効能も備えており、瘀をとどめる弊害がない。瘀を消すため止痛効果もあり、打撲の腫れや痛み、さらに月経痛に用いられることが多い。総じて子宮内膜症や不正性器出血などの婦人科疾患においては要薬である。高価であることが難点。

⑫鹿茸

 婦人科系疾患、特に無月経や不正性器出血などの月経不順において用いられる要薬である。マンシュウジカの雄の幼角であり、輪切りにした時に血色素が見えるものが上等とされている。単独で用いるというよりも、他剤に加えて用いる方がより効果的である。例えば帰耆建中湯を服用し、冷えや疲労が取れて体調がよくなるも未だ月経を見ないという場合に、鹿茸を加えることで初めて月経が始まるということがある。またいつまでも止まない不正出血に、他剤に鹿茸を合わせることで初めて止まるということもある。今一歩という場において、知っておくべき手段である。

臨床の実際

東洋医学では出血のことを「血証」といいます。古来より様々な出血性疾患を内服的治療にて改善させる経験を積み重ねてきました。各漢方処方がなぜ出血を止めることができるのか、その薬理学的根拠は未だ明らかになってはいないものの、臨床的には西洋医学的治療を上まわる成績を残すことも少なくありません。急激かつ多量に生じた出血では当然輸血などの全身管理が優先されますが、慢性的に続いたり繰り返したりしている出血で、特に機能性のものであれば、有意義な内服的治療方法としてもう少し見直された方が良いのではないかと感じます。

<不正性器出血における漢方治療の実際>

血証には血証の治療方法があります。また血証の中でも特に性器出血のことを「崩漏(ほうろう)」と呼びますが、やはり崩漏には崩漏の治療方法があります。不正性器出血おいてはこの治療方法を念頭において、漢方薬を選択していかなければ効果的な治療を行うことができません。山本巌先生は『東医雑録』の中で血証の治療方法を非常にわかりやすく解説されていて、血証を大きく「熱」・「虚」・「瘀」と分類しています。これはシンプルかつ臨床的にも非常に有効であるため、これに沿って崩漏の治療方法を解説してみたいと思います。

1.「熱」に属する不正性器出血

「熱」とはイコールではありませんが炎症を包括している概念で、性感染症によって不正出血を生じている者の多くが「熱」に属します。また普段から体力が充実していて、自律神経的に強く興奮するような体質の方もやはり熱性の不正出血を生じてくる傾向があります。

●「実熱」に属するもの
大量に出血する傾向があり、出血量が多いにも関わらず貧血の傾向があまりない、また出血するとむしろ体がスッキリするという者。血液は濃く鮮紅色で、普段からのぼせやすく頭痛や目の充血を生じやすい。興奮して不眠の傾向があり、イライラしやすいという者。いわゆる気力・体力が充実している実証の方で、これを「実熱」といいます。黄連や大黄などの清熱薬によって火を鎮火させる必要があります。三黄瀉心湯や温清飲、また感染症では竜胆瀉肝湯などを使います。

●「虚熱」に属するもの
一方同じ熱でも「虚熱」という熱状があります。東洋医学では身体には興奮する力(陽気)と興奮をおさめようとする力(陰液)があると考えられていて、興奮する力が強いというよりは、興奮をおさめようとする力が不足しているという状態の熱を「虚熱」といいます。このような熱状はそれを生じる体質的傾向があり、多くの場合それを見極めて虚熱と判断します。肌の色が褐色で黒っぽく、筋肉質かつ細身の体系で食欲旺盛だが食べてもあまり太らないという者。皮膚乾燥して口腔も乾きやすく、夜間に手足が熱くなり不眠の傾向がある者。虚熱を鎮めるには身体に潤いを与える六味地黄丸などの滋陰剤を使います。

●「実熱」と「虚熱」とは併存する
熱証では、これら実熱と虚熱とを弁別する必要があります。しかし臨床的にはその差が曖昧なことが多く、どちらかの方に偏っているという考え方で病態を把握することが現実的です。したがってこれらの方剤を合方して用いることも少なくありません。また出血を起こす熱証は血自体に熱を持つという意味の「血熱」を清する薬物を加えることも必要です。生地黄や牡丹皮・赤芍などを加えます。また止血剤に属する生薬を加えることも大切で、特に熱に属する出血では側柏葉や地楡・棕櫚などが良く使われます。

2.「虚」に属する不正性器出血

血自体には出血を止める力があります。昔の人は今のように血液の成分を知っていたわけではありません。しかし出血が起きてもそれが固まって止まるのは、血自体がある程度の粘稠さを保っているからだと考えたのではないでしょうか。また血自体が少なかったり流れる力が弱かったりすると、血流の勢いが弱くなって外に漏れてしまうとも考えたはずです。川の流れなどの自然現象から想像した思弁的な把握法ですが、そういう着想が現実的な治療方法を作り出してきたのが漢方です。この場合の虚とは、こういった血自体が持つ出血を止める力の弱りを指します。

●「血虚」に属するもの
血の力が弱り、血流が悪くなってくることで、血が外に漏れだしやすくなる。この時まず考えるべき病態が「血虚」です。頻用される方剤は芎帰膠艾湯で、機能性出血などに第一選択的に用いられる方剤です。不正出血であれば盲目的に用いてもある程度の効果を発揮することができると解説する先生もいらっしゃいます。長引く月経に頓服的に使っても効果的ですし、他剤と合方して長服することで不正性器出血を生じやすい体質の改善を行うこともできます。比較的用いやすい方剤で、不正出血では常に年頭に置いておくべき処方です。

●「気虚」に属するもの
血がさらに弱り、質が希薄になってくると、血を止めようとする力自体が失われていきます。血を止める力は気であると考えらえていることから、これを「気虚」の出血(気不統血)といいます。粘稠度の薄い出血がぽたぽたと少量ずつ続き、出血中は疲労感が強く脱力感がある、貧血の傾向があって顔色がくすんだ黄色味を帯び、動くと動悸や息切れをして浮腫みやすい。こういった気虚の出血には帰脾湯が頻用されます。浮腫みが全面に出ていて動悸・息切れなどの循環障害が顕著な場合には苓桂朮甘湯や鍼砂湯(苓桂朮甘湯加人参・牡蛎・鍼砂)を用いて対応することもあります。気虚は消化吸収能力の低下を伴いやすく、胃腸の弱りを招きます。食欲のなさが全面に出ていたり、貧血が明らかである場合には四君子湯や六君子湯で出血が止まることもあります。

●「陽虚」に属するもの
そして血の弱りとともに、身体が冷えて血行不良が全面に出てくる場合は「陽虚」になります。平素より冷え性で特に胃腸が冷えやすく、腹痛を起こしたり、強い月経痛を起こしたりします。黄土湯という方剤が適応しますが、現代ではあまり使われていません。実際には陽虚のみならず、気虚や陰虚(先述の虚熱を発生させる病態)などが同時に介在していることが多いため、陽虚の出血には当帰建中湯などの建中湯類が頻用されます。

3.「瘀」に属する不正性器出血

「瘀血」は東洋医学においてとても重要な概念ですが、非常にあいまいな概念でもあります。一種の血行障害と考えられますが、血の溜まりという着想が古人の定義した瘀血に近いイメージだと思います。山本巌先生は「熱」による出血は主に動脈性の充血を伴う出血で、「瘀」による出血は主に静脈性の鬱血によるものであると解釈されています。細かい血管につまり(鬱血)があって、その部分からぽたぽたと出血を生じているというのが「瘀」に属する出血です。そしてそのつまりを除く方剤を駆瘀血剤といいます。

●不正性器出血では「瘀」に属するものが多い
未だ曖昧な部分を多く残している概念ですが、いざ臨床的にその効果を見ると驚くほどの治療成績を残すことがあります。特に出血性疾患では、確かに駆瘀血剤を用いなければ止まらないものがあり、不正性器出血では特にその傾向が強いと思います。骨盤内臓器、つまり子宮や膀胱・大腸といった中空器官は、毛細血管を豊富に含む筋肉組織によって構成されています。目に見えないほどの細い血管で構成されているため逆につまりが生じやすく、そのため骨盤内臓器は瘀血が生じやすい部分だと言えます。不正性器出血の治療では駆瘀血剤をどう上手く使うかというのが一つのポイントになります。

●「駆瘀血剤」は強弱を選別することが重要
血は流れて初めてその力を発揮することができますので、駆瘀血剤は細かい血管のつまりを取ることで、血の力を引き出す方剤です。そして血を去るというイメージの強い駆瘀血剤ですが、同時に新しい血を生むという効果もあります。強い駆瘀血作用のある薬は血を去る働きが主になりますが、緩徐な駆瘀血作用のある薬はむしろ血を生む場合に他剤と合方して用います。駆瘀血剤を使用するさいには、その強弱を見極めて運用することが重要です。

強い駆瘀血作用のある方剤は、通導散や桃核承気湯がその代表です。これらには下剤としての効能が含まれていて、下すことで瘀血を去り、出血を止めます。緩徐な薬能を持つ駆瘀血剤には、桂枝茯苓丸や桃紅四物湯があります。単剤で用いる場合もありますが、人参剤などと合わせて運用すると新血を生む効能を助けることができます。どちらにしても「瘀」に属する不正性器出血では、月経血が紫黒色の傾向があり、突然多くでたり、ちびちび出たり、断続的であったり、持続的であったりして量や出かたが安定せず、塊状の血を出すというのが一つの目標になります。

4.止血薬の運用

漢方では各処方とは別に止血に働く生薬があります。各出血性疾患では、このような止血薬を上手に運用することが、効果を発揮する上で非常に重要です。不正性器出血では特にそうで、方剤が正確であっても止血剤が入っていなければ出血が止まらないということが良くあります。

●「止血薬」の選別
止血剤は出血の仕方を虚・実によって弁別して選択するのが一般的です。実に属する出血は勢いが強く、量が多く、鮮紅色で雪崩(なだれ)のように起こる傾向があります。側柏葉(そくはくよう)や地楡(ちゆ)、棕櫚(しゅろ)などから止血剤を専用します。一方で虚に属する出血は勢いが弱く、量が少なくてポタポタと滴り漏れるように出るものです。色は茶褐色や暗紫色に近く、質がサラサラとして薄く、おりものなどに少量混ざって出るというよう傾向があります。虚の出血には阿膠や艾葉、牡蛎などを用います。

ただし現実には虚実が錯雑していることもあります。身体は貧血状強く虚状が明らかであっても、出血に勢いがあり実性を帯びているというような場合です。その時には貧血を改善するために帰脾湯や四君子湯を用いつつも、出血に対しては地楡・側柏葉を以て対応するというやり方が必要です。虚証・実証という概念に拘泥しすぎないということも臨床的には重要なことです。

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