変形性膝関節症・膝の痛みについて

変形性膝関節症とは

二足歩行をする人類にとって、体重を支える役割を持つ膝関節は障害が起こりやすい部位です。普段健康な人でも、年齢とともに膝にはどうしても負担がかかってきます。膝関節にてクッションの役割を持つ軟骨や、関節周辺の組織が損傷して関節炎を起こす病を変形性膝関節症といいます。中高年移行で発症しやすく、主に40代から70代の女性に発症し、男性では階段の上り下りやケガなどによる膝への負担で発症する傾向があると言われています。

変形性膝関節症は、動きだした時や、膝に急激に負担がかかった時の痛みから始まります。軽症であれば休めば痛みは取れますが、そのうち少しの負担でも痛みが発生するようになり、正座や階段の上り下りが困難になってきます。また炎症が強まると関節に水がたまり、膝が腫れて曲げ伸ばしの可動域が狭くなります。そして酷ければ安静時にも痛みが起こり、膝が伸びず歩行が困難になります。

●変形性膝関節炎治療の問題点
この病でやっかいなのは、西洋医学的治療や理学療法を行っても、日々の生活の中で膝に負担がかかるたびに炎症が悪化し、いつまでも改善し切らず、慢性経過をたどりやすいという点です。西洋医学では痛み止めの内服から始まり、膝に水が溜まればそれを抜き、関節の潤滑を促すヒアルロン酸を注射します。日々悪化しやすいこの病では、これらの対症療法にて一時的に良くなっても、止めるとすぐに悪化してしまう方が多いようです。

変形性膝関節炎と漢方

驚かれる方が多いのですが、変形性膝関節症による膝関節の炎症は、漢方薬によって改善することができます。炎症を抑えるだけでなく、その後炎症を起こしにくい状態にまで導くこともまた可能です。治療の最中は膝に負担のかからない生活を心がけていただくことは絶対条件ですが、早い方で1カ月、長い方では約半年間の服用で、ほぼ痛みが起こらない状態にまで改善していける傾向があります。エキス顆粒剤ではこのスピードは出ないと思います。効果を発揮すること自体が難しいかもしれません。変形性膝関節症では煎じ薬を服用するべきだと思います。

体重が極端に重かったり、O脚が極端であったりする場合には、比較的長期的な治療が必要になります。運動療法や鍼灸・整体などを平行して行うと良いでしょう。漢方薬を服用すると、これらの治療の効果が現れやすくなるという特徴もあります。西洋医学的治療が上手くいかない場合でも、諦める必要はありません。手術に踏み切る前に、漢方に習熟した医療機関に一度おかかりになることをお勧め致します。

使用されやすい漢方処方

①防己黄耆湯(ぼういおうぎとう)
②麻杏薏甘湯(まきょうよくかんとう)
③越婢加朮湯(えっぴかじゅつとう)
④麻黄加朮湯(まおうかじゅつとう)
⑤薏苡仁湯(よくいにんとう)
⑥桂枝加苓朮附湯(けいしかりょうじゅつぶとう)
⑦当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)
⑧五積散(ごしゃくさん)
⑨芎帰調血飲第一加減(きゅうきちょうけついんだいいちかげん)
⑩独活寄生湯(どっかつきせいとう)
※薬局製剤以外の処方も含む

①防己黄耆湯(金匱要略)

 変形性膝関節症の治療薬として有名。しかし単剤で用いてもあまり効果はない。麻黄を加えたり桂枝を加えたりといった加減方が絶対条件である。エキス剤で治療する場合には、麻杏薏甘湯や越婢加朮湯などと合方されることが多い。色白で肉質柔らかく、皮膚に湿り気を帯びている者に適応しやすい。確かに体質的にはこういう方に適応するが、実際に痛む膝を良くするためには体質治療をいくら行っていても効果はない。炎症のとり方を熟知した上で本方を運用する必要がある。
防己黄耆湯:「構成」
防已(ぼうい):黄耆(おうぎ):蒼朮(そうじゅつ):甘草(かんぞう):生姜(しょうきょう):大棗(たいそう):

②麻杏薏甘湯(金匱要略)

 関節部の炎症に頻用される方剤。出典では「風湿(ふうしつ)」と呼ばれる病態に適応すると記載されている。「風湿」とは外的な湿気や気圧変化により痛みを助長させる病態。雨の日に膝が痛くなったり、雨が降る前に痛みが起こるといった気候との兼ね合いの中で増悪する関節部の炎症に用いられることが多い。麻黄加朮湯とは急・緩の差がある。麻杏薏甘湯の方が適応の幅が広く、変形性膝関節症では第一選択的に用いられる機会が多い。
麻杏薏甘湯:「構成」
麻黄(まおう):杏仁(きょうにん):薏苡仁(よくいにん):甘草(かんぞう):

③越婢加朮湯(金匱要略)

 麻黄・甘草の炎症による腫れの治療薬に清熱薬である石膏を配している点が最大の特徴である本方は、関節部の炎症甚だしく、腫れの勢いが強い変形性膝関節症に用いられる。石膏の薬能は用量依存的だと言われている。炎症の程度に合わせて石膏の量を増減する必要がある。もしこの方剤をもってしても腫れが引かないのであれば、それは経方の範疇ではない。「温病」の方剤をもって対応する必要がある。
越婢加朮湯:「構成」
麻黄(まおう):甘草(かんぞう):石膏(せっこう):蒼朮(そうじゅつ):生姜(しょうきょう):大棗(たいそう):

④麻黄加朮湯(金匱要略)

 悪寒(ぞくぞくとした寒気)を伴う風邪に用いる麻黄湯に蒼朮を加え、痛み止めとしての薬能を強めたもの。「湿家(しつか)」といわれる病態に適応する。湿気などの外気によって症状が増悪する点は「風湿」に似るが、その状緊急にて勢いのある病態に適応する。足を急激に冷やし、たちどころに腫れて痛みだす者。慢性経過する者でも一時的に本方の適応となる方がいる。
麻黄加朮湯:「構成」
麻黄(まおう):甘草(かんぞう):桂枝(けいし):杏仁(きょうにん):蒼朮(そうじゅつ):

⑤薏苡仁湯(明医指掌)

 患部が腫れて痛むと同時に、血行障害を起こして痛みや腫れが長引くもの。「湿病(しつびょう:湿気によって痛みを発生させる病)」に用いる麻杏薏甘湯や麻黄加朮湯の方意を内包する。したがって曇天による湿気や急激な気圧の変化によって痛みが助長する、という場合に良い。麻杏薏甘湯に比べて筋肉の血行状態悪く、温めると痛みや腫れが引くという者。慢性化した痛みに適応となることが多い。
薏苡仁湯:「構成」
薏苡仁(よくいにん):麻黄(まおう):桂枝(けいし):芍薬(しゃくやく):甘草(かんぞう):当帰(とうき):蒼朮(そうじゅつ):

⑥桂枝加苓朮附湯(方機)

 江戸時代の名医・吉益東洞によって作られた処方。傷寒論中の桂枝加附子湯に茯苓・白朮の利水燥湿薬を加えたもの。身体羸痩(るいそう)の状あり筋脈の弱り関節の痛みが長引く者。炎症を鎮めるというよりは、血行を促して筋肉を和らげ、関節部の負担を除いていくことで痛みを止める方剤。似た処方に桂枝附子湯がある。同じく関節の痛みに適応する処方であるが、変形性膝関節症では膝関節回りの筋肉の疲労状態が関与しやすい。故に芍薬・甘草の薬対を配した本方を以て対応することが多い。
桂枝加苓朮附湯:「構成」
桂枝(けいし):芍薬(しゃくやく):甘草(かんぞう):大棗(たいそう):生姜(しょうきょう):茯苓(ぶくりょう):蒼朮(そうじゅつ):附子(ぶし):

⑦当帰四逆加呉茱萸生姜湯(傷寒論)

 末端冷え性に用いられる機会が多い。方中に桂枝湯を内包し、血を復して血行を促し、冷えに対する身体の過緊張状態を緩和させる薬方である。月経痛・腹痛・腰痛・坐骨神経痛などの痛み治療に応用されるが、下半身の血行循環を促すことで、変形性膝関節症の改善・予防にも用いられる。呉茱萸・生姜を除いたものを当帰四逆湯という。冷気が下半身を伝って下腹部に内攻する者には呉茱萸・生姜を配する必要がある。
当帰四逆加呉茱萸生姜湯:「構成」
当帰(とうき):桂枝(けいし):芍薬(しゃくやく):甘草(かんぞう):大棗(たいそう):細辛(さいしん):木通(もくつう):生姜(しょうきょう):呉茱萸(ごしゅゆ):

⑧五積散(太平恵民和剤局方)

 もと風邪薬として運用された本方は、「寒湿(かんしつ)」を去る薬方として広く運用される。「寒湿」とは冷えて水分代謝を停滞させることで出現する諸々の症状を包括した病態である。本方は内外の寒湿を同治する。すなわち胃腸を温め、下痢を止め、四肢の血行を促し、肌肉を温めて痛みを去る。顕著に冷えを自覚する変形性膝関節症の改善および予防に応用される。
蒼朮(そうじゅつ):陳皮(ちんぴ):茯苓(ぶくりょう):白朮(びゃくじゅつ):半夏(はんげ):当帰(とうき):厚朴(こうぼく):芍薬(しゃくやく):川芎(せんきゅう):白芷(びゃくし):枳殻(きこく):桔梗(ききょう):乾姜(かんきょう):桂枝(けいし):麻黄(まおう):甘草(かんぞう):大棗(たいそう):

⑨芎帰調血飲第一加減(漢方一貫堂医学)

 産後におこる骨盤内の充血を去る芎帰調血飲に、さらに血行循環を改善する駆瘀血薬を配合したのが本方である。平素より下半身が冷え、膀胱炎や痔を患いやすく、時として気持ちを病み不安定になりやすい者。多種類の生薬にて構成される処方ではあるが、その基本骨格を理解すれば様々な疾患に応用することができる。冷えると増悪する膝の痛みにも応用する。麻黄剤をもって炎症を引かせた後、炎症を起こしにくい状況にまでもっていく薬として使用する。炎症が明らかで、痛みや腫れが強い場合に使用しても効果は弱い。
芎帰調血飲第一加減:「構成」
当帰(とうき):芍薬(しゃくやく):地黄(じおう):川芎(せんきゅう):白朮(びゃくじゅつ):茯苓(ぶくりょう):陳皮(ちんぴ):烏薬(うやく):香附子(こうぶし):益母草(やくもそう):延胡索(えんごさく):牡丹皮(ぼたんぴ):桃仁(とうにん):紅花(こうか):桂枝(けいし):牛膝(ごしつ):枳殻(きこく):木香(もっこう):大棗(たいそう):乾姜(かんきょう):甘草(かんぞう):

⑩独活寄生湯(太平恵民和剤局方)

 腰痛治療薬として有名。下半身の血行循環を促すことから、変形性膝関節症の予防薬としても用いることができる。下肢の冷えに、気血両虚・肝腎不足を併存させる者。端的に言えば加齢により足腰が弱り、冷えて血行を損ない、関節痛に長く悩まされている者に適応する。
独活寄生湯:「構成」
独活(どくかつ):桑寄生(そうきせい):杜仲(とちゅう):牛膝(ごしつ):細辛(さいしん):秦艽(じんぎょう):防風(ぼうふう):茯苓(ぶくりょう):人参(にんじん):甘草(かんぞう):芍薬(しゃくやく):地黄(じおう):当帰(とうき):川芎(せんきゅう):桂枝(けいし):

臨床の実際

変形性膝関節症に対して最も有名な処方は防己黄耆湯だと思います。おそらく昭和の大家の一人である大塚敬節先生が『症候による漢方治療の実際』にて紹介したことがきっかけでしょう。今でも変形性膝関節症と言えばこの処方というくらいに頻用されている傾向がありますが、一律的に使用するだけでは大塚先生のように著効を得ることは難しいと思います。

大塚先生は防己黄耆湯の出典である『金匱要略』を熟読した上で、防己黄耆湯の加減方を駆使して治療しています。すなわち麻黄を加えたり、桂枝を加えたりといった運用です。したがってエキス顆粒剤のように固定した処方をそのまま使っていても、効果が無いのは当たり前のことだと言えます。エキス剤を使う場合には麻杏薏甘湯や越婢加朮湯を合方し、さらに常用量以上の分量を服用することが必要でしょう。

<漢方による変形性膝関節治療の実際>

ただし、そもそもすべての変形性膝関節症が、防己黄耆湯およびその加減方でまかない切れるかというと、当然そういうわけではありません。炎症の程度を見極めた上で、段階的に薬方の選択を行うことが基本になります。

1.膝関節の炎症が強い場合。腫れが明らかで、動き出しや動作時に痛みがある。

明らかに炎症性浮腫によって痛みが発生している状態です。病院で水を抜いてもらっても1週間ほどですぐに水がたまる、膝が腫れ、膝の見た目に左右差がある。こういった場合では先ずは炎症を抑える治療が必要です。

●炎症の取り方
炎症を抑えるには「麻黄剤」を用いることが一般的です。麻黄は動悸や胃障害などの副作用を起こす可能性があるため、やたらと使うわけにはいかない生薬です。しかし、麻黄が適応となる炎症(滲出性炎症)が明らかな場合には、麻黄を使わなければ腫れや痛みは引きません。そして麻黄が適応となる病態であれば、副作用を起こすこともありません。麻黄剤適応の見極めは、変形性膝関節症において基本中の基本であると言えます。

麻黄・甘草の薬対(麻黄甘草湯)を基本にし、腫れが強く、痛みも甚だしく、自発痛があるような場合には、これに石膏を加える必要があります。越婢湯や越婢加朮湯が適応となります。麻杏薏甘湯や防己黄耆湯加麻黄は、その一段薄い炎症、つまり腫れるも水のたまる勢い弱く、自発痛はないが動き出しや動作時に痛み、膝の可動域が狭いというような場合に使います。改善とともに炎症に波が出てくると、足を冷やした時に腫れが強くなり、お風呂などで温めると痛みが軽くなるという状態になります。こうなると炎症を去るとともに血行を促す必要が出てきます。桂枝や当帰・蒼朮といった生薬が必要で、この時頻用される処方が薏苡仁湯(明医指掌)です。

2.膝関節の腫れはほとんどなくなってきたが、動き出しや膝に負担がかかった時に痛み、もしくは痛みはないが違和感やこわばりを感じる場合。

膝関節は大腿骨(ふとももの骨)・膝蓋骨(膝の皿)・脛骨とで構成されています。そして様々な筋肉・腱・靭帯によって支えられ、その安定を保っています。特に太ももの全面の筋肉(大腿四頭筋)は膝関節の曲げ伸ばしをする際に体重を支える重要な役割をもっており、これらの筋肉の状態が膝の安定性を大きく左右しています。

●膝の痛みと血行
変形性膝関節症は膝関節部の炎症性疾患ですが、その要因には関節部位のみならず、その周りの筋肉の状態が深く関与しています。特に膝関節の活動は筋肉内の血行状態に大きく影響を受けています。足を冷やすと痛みが強くなり腫れやすくなる、お風呂に入って足を温めると膝が楽になるといった現象は、下半身の血流が改善されることで膝回りの筋肉と関節との負担が減っているからです。変形性膝関節症は、その起こる原因が特定できないことの多い疾患ですが、大きな要因の一つに下半身の筋肉の状態、ならびに血行状態が関与しているものと考えられます。

したがって下半身の血行状態を促し、筋肉の緊張をやわらげることで、膝の負担が減り、炎症が起こりにくい状態へと導くことができます。つまり膝関節部の炎症を去った後は、下半身の血行を促す薬方を以て対応していきます。ちなみに血行を促す生薬には温性(体をあたためる性質)がありますが、炎症が強い時にこれを使うと、炎症を悪化させることがあります。炎症が強い時にはどちらかと言えば寒性を持つ生薬を配合する必要があるからです。したがって炎症が強い時と、炎症がおさまり血行を促すべき時とでは、基本的には薬方を変化させて対応します。(※温性を持つ生薬と寒性を持つ生薬とを同時に配合して、抗炎症作用と血行促進作用を同時に行い、薬方を変化させずに継続させていく治療方法もあります)どちらにしても炎症の程度によって薬方を使い分けることが必要で、この手法を間違えると改善しないばかりか悪化することもあるため注意が必要です。

●血行状態の見極めと薬方選択
血行を促進させるというと、単純な手法に思えますが、実は人間の血行状態は個人差が大きく、その方に合った方剤を適応させなければ血行循環は改善しません。冷えが強い場合は血行が悪くなります。その冷えの程度によっても薬方を変える必要があります。また内在的な浮腫みがある場合には、その浮腫みが血流を阻滞してしまいます。さらに身体虚弱で栄養状態の良くない方では、当然筋肉の質が悪く、充分な血流を維持できません。これらの要素を東洋医学的な視点をもって的確につかみ、それぞれの方にあった薬方を選択する必要があります。

桂枝加苓朮附湯や当帰四逆加呉茱萸生姜湯、五積散や独活寄生湯、芎帰調血飲第一加減などが用いられます。どの処方も炎症を去るというよりは、血行を促し炎症を起こした患部の損傷を回復するという意味合いで用いられます。麻黄を主とした薬方とこれらの処方との使いわけの正確さが、治療の速さを決定します。膝の痛みに良いとされる漢方薬を一律的に服用するのではなく、その治療手法にのっとった薬方を選択することができれば、いつまでたっても治らなかった痛みから驚くほど速く開放されることもあります。

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