潰瘍性大腸炎について

潰瘍性大腸炎(UC)とは

下痢を繰り返す病の中でも炎症性腸疾患として近年注目されているのが潰瘍性大腸炎(UC)です。自己免疫異常と指摘されているものの、原因が未だ不明であり完治が難しいことから、国の特定疾患(難病)に指定されています。一日に何度も起こる下痢が主とした症状で、多くの場合排便前の腹痛や血便を伴います。

●潰瘍性大腸炎(UC)の特徴
この病の特徴は原因不明の炎症が腸に生じている点です。そのためそれを抑えるために西洋薬を継続的に服用しなければなりません。またそれでも症状が落ち着かない場合はステロイドのような強力ではあるが副作用が危惧される炎症止めを用いることになります。

そして病の生じ方にも特徴があり、緩解(症状が治まる状態)と再燃(症状が再発する状態)とを繰り返します。すなわち再発が起こりやすく、長期的にこの病と付き合わなければなりません。そのため漢方薬が活躍する場の多い疾患で、当薬局でも多くの方が漢方薬を求めて来局されます。

潰瘍性大腸炎(UC)と漢方

●UC治療における西洋医学と東洋医学の違い
西洋医学的な治療としてはとにかく炎症を抑えるという点が重視されています。しかし一度緩解に向かっても多くの方が再燃を起こし、この再燃をいかにおこさないようにするかということに対しては、未だ模索段階であると言えます。

再燃を起こさないようにする力は、もとよりその方に備わっている力に依存しています。漢方薬はこの力を高めることで、再燃を起こしにくい体質を目指してきます。

また原因不明の炎症ではありますが、東洋医学的にみると根本的に病める部分が見えてきます。そしてその病元を正していくと不思議と炎症が起こらない状態へと向かっていく傾向があります。どのような治療をしても改善しなかった病が漢方薬によって改善した、というような話がネットや本などに良くのっています。この仕掛けは西洋医学的な体の見方と東洋医学的な体の見方が異なるためです。良くも悪くも漢方薬は東洋医学的な見方をしなければ効果的な使用ができません。

東洋医学への造詣の深さが治療効果にどうしても反映されてしまうのが漢方です。この疾患は特にそれが如実に現れる傾向があります。

使用されやすい漢方処方

①胃風湯(いふうとう)
②桃花湯(とうかとう)
 大桃花湯(だいとうかとう)
③黄土湯(おうどとう)
④四君子湯(しくんしとう)
⑤青黛(せいたい)
⑥田七人参(でんしちにんじん)
※薬局製剤以外の処方も含む

①胃風湯(太平恵民和剤局方)

 昭和時代の名医の経験をもとに、潰瘍性大腸炎によく用いられる。いわゆる虚証と言われる胃腸虚弱なものに適応し、貧血の傾向などある場合に良い。急性炎症期を経て後、下痢や下血が継続する者。豆汁のようなぴちぴちと散る下痢が目標とされている。細野史郎先生はその適応を「健常人に突発した胃腸炎に用いられるものではなく、下痢も久しくつづいて、体力稍々衰弱傾きかけたものに適応証あり、さらにその炎症の様子も、その最盛期を過ぎて、力弱く残存性のもの」と説明している。甘草を加えることが多い。
胃風湯:「構成」
桂枝(けいし):芍薬(しゃくやく):茯苓(ぶくりょう):白朮(びゃくじゅつ):人参(にんじん):当帰(とうき):川芎(せんきゅう):粟(あわ):

②桃花湯(傷寒論)大桃花湯(千金要方)

 潰瘍性大腸炎にて発病から日を経てのち、炎症は大部分取れたが腸の血行状態が悪く、潰瘍が治まりきらないという者に桃花湯を使用する場がある。方中の赤石脂(しゃくせきし)は赤い粉末状の鉱物で、収渋薬(しゅうじゅうやく)という出血や下痢を収める効能を有する薬物に分類されている。潰瘍性大腸炎の中でもやや独特の病態に適応する印象がある。「少陰(しょういん)」という概念にて捉えるべき方剤。桃花湯を基本に下痢や貧血への配慮をより深めた処方を大桃花湯という。
桃花湯:「構成」
乾姜(かんきょう):赤石脂(しゃくせきし):粳米(こうべい):

大桃花湯:「構成」
乾姜(かんきょう):赤石脂(しゃくせきし):芍薬(しゃくやく):甘草(かんぞう):人参(にんじん):白朮(びゃくじゅつ):当帰(とうき):竜骨(りゅうこつ):牡蛎(ぼれい):附子(ぶし):

③黄土湯(傷寒論)

 排便の後に血を下すことを「遠血」といい、この症状を目標として用いるとされている。桃花湯に似て炎症の勢いが下火になったがなかなか止まず、潰瘍が治まりきらないという場に用いる機会がある。桃花湯と合わせる手法があり(これを桃黄湯と呼ぶ)、昭和時代に良く用いられた。これらの処方は潰瘍性大腸炎の中でもやや独特の病態に属する。虚ではあるが胃気のない者に用いるべき処方ではない。
黄土湯:「構成」
白朮(びゃくじゅつ):附子(ぶし):阿膠(あきょう):地黄(じおう):甘草(かんぞう):黄芩(おうごん):黄土(おうど):

④四君子湯(太平恵民和剤局方)

 脾気虚と呼ばれる消化吸収能力の弱りに用いる基本方剤。これに陳皮と半夏を加えれば六君子湯となる。臨床の場においては基本処方故にあまり用いられていない。しかし臨床の長けた先生ほどこのような基本処方を上手に運用する。一つ一つの生薬の薬能を熟知すればこそである。
四君子湯:「構成」
茯苓(ぶくりょう):人参(にんじん):甘草(かんぞう):白朮(びゃくじゅつ):

⑤青黛

 血熱を清する薬能をもつことから潰瘍性大腸炎に応用されるようになった。潰瘍性大腸炎の出血はある程度の炎症があるうちは止血剤に属する生薬では止まらず、血熱(炎症)を抑える必要がある。青黛はもと外用薬として用いる生薬。その効き目から潰瘍性大腸炎の特効薬のように使用をされている傾向があるが、使用を間違えれば当然副作用がでる。一律に用いるものではなく、使用に当たっては弁別が必要。総じて潰瘍性大腸炎の炎症は「温病(うんびょう)」と呼ばれる概念を理解しておく必要がある。

⑥田七人参

 止血効果のある生薬として有名。各種出血性疾患に用いられる。潰瘍性大腸炎の場合は炎症の程度が強ければ清熱を主とするが、勢い治まったあと弱い炎症を継続させ自らの力で炎症をおさめることができない状態に対しては田七人参にて止血を図る。出血には色々な止め方がある。田七人参は止血薬として有名だが、一律的に用いても効かない。

臨床の実際

UCに対する現行の漢方治療

●「柴苓湯」と「青黛」
東洋医学にとっても潰瘍性大腸炎は比較的新しい病に属するため、漢方治療を行う場所によって治療方法が様々であると感じます。上にあげた処方もその一部で、実際にはそれ以外の処方によって効を得ることも少なくありません。そして頻用されている処方が必ずしも効果的であるとも限らないというのが現状です。

例えば「柴苓湯」という処方は病院などで使用頻度の高い薬だと思います。これは自己免疫疾患やステロイド治療を行う際に良く併用薬として処方される薬で、西洋薬による肝機能障害とステロイドからくるむくみなどの副作用を予防する目的で使用される傾向があります。ある意味では潰瘍性大腸炎に対する方剤として使用されるのではなく、西洋医学的治療の補完的役割として用いられます。当薬局ではより積極的に潰瘍性大腸炎に対応するという主旨から、この処方はあまり用いません。

また「青黛(せいたい)」という生薬が潰瘍性大腸炎に対して注目を浴びています。青黛は入れ墨の染料として用いられる所謂インディゴで、本来は外用薬として使われてきた歴史があります。東洋医学的に言えば、この薬は血熱と呼ばれる炎症状態に適応し、血熱を清することで潰瘍性大腸炎が改善へと向かうことがあります。ただしこの薬は潰瘍性大腸炎の特効薬では決してなく、合わなければ胃痛や胃もたれ、また逆に下痢の悪化などを招きます。青黛には使い方があります。虚実の見極めが肝要です。

●流行(はや)る漢方薬の落とし穴
ある漢方薬にて難病が改善されたという話を聞くと、心理的にその漢方薬を服用してみたくなります。ただしそれは正解ではありません。その漢方薬が効いたのは、東洋医学的に正しい「見立て」ができたからであり、その「見立て」が正しかったからこそ、その方にとって正しい漢方薬を選択できたというのが真実です。つまり東洋医学における独特な病態解釈が正しくなされて初めて、病を改善へと導くことができます。

漢方治療をぜひ試してみたいという方は、漢方薬をお調べになるのではなく、漢方に精通した医療機関をまずはお調べになってください。特に潰瘍性大腸炎は、東洋医学的な正しい「見立て」ができているかどうかで治療成績に大きな差が出てくる疾患です。

潰瘍性大腸炎への具体的対応

潰瘍性大腸炎は「炎症を沈静化させる。そして再発させない」ということがちゃんと行われれば完治します。漢方薬をもってこれをどう実現していくかということが全てです。

通常、潰瘍性大腸炎は腸の下部つまり直腸やS字結腸に炎症がとどまっている場合(これを潰瘍性直腸炎といいます)は比較的軽症に属します。この時は便も正常で下痢せず、むしろ硬く乾燥している傾向があります。排便の間に粘液を下しますが、出血は起こらないか起こっても軽度です。

しかし大腸全体に炎症が広がってくると、便が下痢状となり一日に10回を超えるようになってきます。また便に膿や粘液、血液が混ざるようになり、出血の程度も強くなります。大腸全体に炎症が広がると、そうでない場合と比べて西洋薬での炎症のコントロールが非常に難しくなります。この理由として単純に炎症部位が広範囲にわたっているからということも言えますが、実はそれだけではありません。

●「虚」への対応
炎症のコントロールが難しくなるのは、体力が急速に消耗していくからです。人はもともと炎症を治そうとする力を備えています。しかし胃腸の働きが弱まったり、血の力を失ったりすると自分で病を治そうとする力自体を減弱させていきます。潰瘍性大腸炎は頻回の下痢や出血を合併することで、人体に備わるこの力を急速に減弱させていく疾患です。これが西洋薬が効きにくい、つまり難治性となってしまう大きな理由の1つだと考えられます。

したがって漢方治療においては「清熱薬をもって炎症を鎮める」こと、そして「もともと備える炎症を沈静化させる力を高める」こと、この2点をもって潰瘍性大腸炎の炎症を沈静化させます。非常に簡略化した言い方ではありますが、これが基本です。そしてこの見極めをしっかりと行うことができれば炎症は治まり、再発もなくなります。

潰瘍性大腸炎の患者様の中には下痢や出血を起こしていても、通常通りの日常生活を送られている方も多く、自分自身で体力の低下をそれほど自覚していないこともあります。また体力が落ち立ちくらみなどの貧血様症状を感じている方でも、病院での血液検査では貧血を指摘されていないという場合もあります。

このように体力や血の力とは自覚・他覚ともに見極めることが非常に難しい尺度です。実際に潰瘍性大腸炎にて当薬局にお越しになる患者様の中にも、漢方薬にて体力がついた時に初めて、以前は疲労していたんだなと自覚される方がいらっしゃいます。

●「熱(炎症)」への対応
また清熱薬を用いるにしても、どのような「熱」なのかを捉えることができなければ、的確な清熱薬を選択することができません。特に潰瘍性大腸炎における熱証を理解するためには「温病(うんびょう)」という概念を知っておくことが必要になります。

●「出血」への対応
頻度の高い合併症である出血を止めていくことも重要です。漢方薬には阿膠や艾葉などの止血薬(「芎帰膠艾湯」どに含まれる止血薬)がありますが、潰瘍性大腸炎ではこれらだけで止血を図ってもなかなか止まりません。しかし「清熱」と「補虚(虚を補う)」とをちゃんと見極めて治療することが出来れば止まります。「清熱」が必要な時には「清熱」によって出血が止まり、「補虚」が必要な時には虚を補うことで出血が止まります。漢方の止血薬はあくまでその補助として用います。

いかに炎症を抑え、出血を止めて、体力を回復させるか。潰瘍性大腸炎は自己免疫疾患・原因不明・難病といった難しい印象のある病ではありますが、私の経験上、東洋医学の基本を着実にこなせば怖い病ではありません。これらの点をしっかり見極められるかどうかが勝負だと言えます。

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