クローン病

クローン病について

クローン病(CD)は潰瘍性大腸炎と同じく原因不明の炎症性腸疾患です。両者ともに国の特定疾患に指定されている難病で、近年漢方治療を求められる方が増加しています。

クローン病とは

クローン病と潰瘍性大腸炎とは古くは同じ病因から派生した病と捉えられていたようです。西洋医学的な治療も似ている部分があります。しかし両者は起こる症状や発症する年齢層に違いがあり、また病の推移や炎症の起こり方も異なってきます。そのため漢方治療を行う際も、両者でその治療方法が異なってきます。クローン病の特徴を潰瘍性大腸炎と比較しながら解説すると以下のようになります。

●クローン病(CD)の特徴
〇クローン病と潰瘍性大腸炎とは伴に、腸に原因不明の炎症が起こる疾患である。
〇両者ともに再燃(症状が再発する状態)と緩解(症状が治まる状態)とを繰り返す。つまり闘病が長期に及び、完治が難しい。
〇クローン病はほとんどが10代・20代で発症する。潰瘍性大腸炎は若年層でも起こるが中年層から高年層にも発症する。
〇クローン病は下痢と腹痛を主とする。出血は大腸の潰瘍が重度の場合で起こり、肉眼的な下血はまれ。肛門周囲炎がしばしばおこる。潰瘍性大腸炎でも下痢と腹痛が起こるが、同時に肉眼的な下血が伴いやすい。
〇クローン病における炎症は回腸(小腸の最後の部分)を中心に口腔から肛門に至るまでどこにでも起き、飛び飛びに起こる。潰瘍性大腸炎では直腸(大腸の下端)の炎症をほぼ全例に確認でき、結腸に向かって連続的に炎症が広がる。
〇クローン病では炎症が腸管の筋肉層まで達するほど深い。潰瘍性大腸炎では粘膜までで比較的炎症が浅い。
〇クローン病は炎症が深いため、腸や肛門に膿瘍(のうよう:感染を起こして膿がたまる)が起きやすい。また瘻孔(ろうこう:腸や他臓器・皮膚などがつながってしまう)や癒着(ゆちゃく:隣接する臓器や組織同士がくっつく)、狭窄(きょうさく:腸が狭くなる)や腸閉塞なども起こりやすい。潰瘍性大腸炎は比較的炎症が浅い。故に膿瘍や瘻孔はおこらず、癒着や狭窄もまれである。
〇クローン病は深い潰瘍が繰り返し起こるため、腸壁が厚くなって(肥厚化)瘢痕(はんこん)を生じる。それが腸閉塞などの合併症の原因となることがある。
〇クローン病も潰瘍性大腸炎も根本治療が難しい。下痢を止め、炎症を抑える対症治療を行う。軽症ならロペラミド(下痢止め)・メサラジン(抗炎症薬の一種)、それでも炎症のコントロールが難しい場合はステロイドや免疫抑制薬を使い、時に手術を行なう。クローン病では膿瘍に対応するため抗菌薬も用いる。
〇手術は両者ともに行うことがあるが、潰瘍性大腸炎では手術後に再発することがないのに対して、クローン病では再発することが多く約50%の方に再手術が必要となる。

クローン病と漢方治療

このような特徴を持つクローン病では、漢方においても次の点に注目しながら治療を進めていく必要があります。

1.口から肛門まで広く炎症が起きやすいため、口内炎や肛門周囲炎など、下痢に止まらない総合的な治療が必要になる。

2.潰瘍が腸壁深くに達しやすく、腸に膿を生じる傾向がある。そのため「癰(よう)」と呼ばれる化膿性炎症(おでき等)に対する治療方針を知っておく必要がある。さらに「腸癰(ちょうよう)」に対する方剤を運用する場がある。

3.また潰瘍が繰り返し起こることで瘢痕を生じる。瘢痕とは傷口に残る傷跡つまり組織が硬くなったものであり、これを「瘀血(おけつ)」と捉えて治療することがある。

4.手術にて腸管の一部を切除した後も再発を予防していく必要がある。特に栄養状態の管理は病の予後と密接に関係する。クローン病の炎症を抑えるために、腸管切除のために落ちた消化・吸収能力を鼓舞しなければならない場合がある。

参考症例

まずは「クローン病」に対する漢方治療の実例をご紹介いたします。以下の症例は当薬局にて実際に経験させて頂いたものです。本項の解説と合わせてお読み頂くと、漢方治療がさらにイメージしやすくなると思います。

症例|クローン病・様々な合併症に苦しまれる患者さま

50歳男性、18歳よりクローン病を発症し、その後30代で肛門部摘出、人工肛門となりました。さらに骨盤内の瘻孔によって膀胱炎や座骨神経痛を合併されています。東洋医学の知識を総動員しての難病治療。効果を発揮させるために必要な真の解釈。難病治療がどう行われるのか、その具体例をご紹介いたします。

■症例:クローン病

参考コラム

次に「クローン病」に対する漢方治療を解説するにあたって、参考にしていただきたいコラムをご紹介いたします。参考症例同様に、本項の解説と合わせてお読み頂くと、漢方治療がさらにイメージしやすくなると思います。

コラム|自己免疫疾患・アレルギー性疾患 ~原因不明の炎症・その漢方治療~

現代では原因不明の炎症を生じる病が数多く存在しています。アトピー性皮膚炎などのアレルギー性疾患や、関節リウマチなどの自己免疫疾患、また潰瘍性大腸炎やクローン病などがこれに属しています。日本でもこれらの疾患に対して、昭和時代の漢方家が多くの治験を残してきました。ただし今まで繰り返し行われてきた手法では、その治療成績に限界があると感じています。そこで、今まで漢方はどのように対応してきたのか、そして今後どのように対応するべきなのかということを、一つの見解として解説していきたいと思います。

□自己免疫疾患・アレルギー性疾患 ~原因不明の炎症・その漢方治療~

使用されやすい漢方処方

①千金内托散(せんきんないたくさん)
 托裏消毒飲(たくりしょうどくいん)
 帰耆建中湯(きぎけんちゅうとう)
②大黄牡丹皮湯(だいおうぼたんぴとう)
 騰竜湯(とうりゅうとう)
 腸癰湯(集験方)(ちょうようとう)
 腸癰湯(千金要方)(ちょうようとう)
③薏苡附子敗醬散(よくいぶしはいしょうさん)
④伯州散(はくしゅうさん)
⑤四君子湯(しくんしとう)
⑥通導散(つうどうさん)
⑦芎帰調血飲第一加減(きゅうきちょうけついんだいいちかげん)
⑧大建中湯(だいけんちゅうとう)
⑨半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)
※薬局製剤以外の処方も含む

①千金内托散(和剤局方)托裏消毒飲(外科正宗)帰耆建中湯(瘍科方筌)

 「癰(よう)」つまりオデキの治療薬の中でも托法(たくほう)に属する方剤。托法とは補法に属し、体力を回復させながら膿の排出を促し、組織の修復を早めて潰瘍を治す手法。これらの方剤には血行を促進する薬能があり、それによって托法を実現する。クローン病では体力を失うことで、血液の循環ならびに質が落ちていく傾向がある。故に托法を行うこれらの処方が用いられやすい。一般的には千金内托散が用いられやすいが、より消炎効果をもった托裏消毒飲や、虚労と呼ばれる疲労状態に適応する帰耆建中湯などを運用しなければいけない場合もある。
千金内托散:「構成」
当帰(とうき):川芎(せんきゅう):人参(にんじん):黄耆(おうぎ):防風(ぼうふう):桔梗(ききょう):厚朴(こうぼく):桂枝(けいし):白芷(びゃくし):甘草(かんぞう):

托裏消毒飲:「構成」
当帰(とうき):川芎(せんきゅう):黄耆(おうぎ):括呂根(かろこん):陳皮(ちんぴ):防風(ぼうふう):桔梗(ききょう):白芷(びゃくし):厚朴(こうぼく):金銀花(きんぎんか):皀角刺(そうかくし):

帰耆建中湯:「構成」
当帰(とうき):黄耆(おうぎ):桂枝(けいし):芍薬(しゃくやく):甘草(かんぞう):生姜(しょうきょう):大棗(たいそう):

②大黄牡丹皮湯(金匱要略)騰竜湯(勿誤薬室方函)腸癰湯(集験方)腸癰湯(千金要方)

 「腸癰(ちょうよう)」と呼ばれる腹中の化膿性炎症に用いる方剤。主に虫垂炎だと言われているが、クローン病に応用する場がある。古人は腹中の膿が未だ出来上がりきらない化膿初期に、大黄・牡丹皮などの入ったこれらの処方を用いて抗炎症を図った。また膿の潰後、余毒を除き潰瘍を修復する目的においては大黄・芒硝の入らない処方を選用していた。痔瘻や肛門膿瘍にも用いる。また膀胱や子宮部に起こる化膿性疾患にも応用することができる。
大黄牡丹皮湯:「構成」
大黄(だいおう):牡丹皮(ぼたんぴ):桃仁(とうにん):冬瓜子(とうがし):芒硝(ぼうしょう):

騰竜湯:「構成」
大黄(だいおう):牡丹皮(ぼたんぴ):桃仁(とうにん):冬瓜子(とうがし):芒硝(ぼうしょう):蒼朮(そうじゅつ):薏苡仁(よくいにん):甘草(かんぞう):

腸癰湯(集験方):「構成」
牡丹皮(ぼたんぴ):桃仁(とうにん):冬瓜子(とうがし):薏苡仁(よくいにん):

腸癰湯(千金要方):「構成」
牡丹皮(ぼたんぴ):芍薬(しゃくやく):地黄(じおう):丹参(たんじん):敗醬根(はいしょうこん):薏苡仁(よくいにん):桔梗(ききょう):麦門冬(ばくもんどう):茯苓(ぶくりょう):生姜(しょうきょう):甘草(かんぞう):

③薏苡附子敗醬散(金匱要略)

 「腸癰」の中でも陰証つまり排膿を促す体力なく、潰瘍がいつまでも治らないという新陳代謝が低下した状態に用いる方剤。古くは日本の古方派と呼ばれる流派にて良く用いられた。現在ではあまり運用を見ない。
薏苡附子敗醬散:「構成」
薏苡仁(よくいにん):附子(ぶし):敗醬根(はいしょうこん):

④伯州散(大同類聚方)

 日本における陰証の「癰(よう:化膿性疾患)」ならびに慢性潰瘍治療の代表的な方剤。腹腔内の膿傷、下腿潰瘍、凍傷の潰瘍、結核性の瘻孔、寒性膿瘍、痔瘻をはじめ、乳腺炎、中耳炎、カリエスなど、化膿性疾患の治療しにくいものに応用する。その効果は非常にすぐれていて『外科倒し』という異名をもつ。
伯州散:「構成」
鹿角霜(ろっかくそう):反鼻(はんぴ):津蟹(つがに)

⑤四君子湯(太平恵民和剤局方)

 脾気虚と呼ばれる消化吸収能力の弱りに用いる基本方剤。クローン病において広範な回腸部の切除後など栄養管理が難しくなる場合に、この方を用いるべき時がある。臨床の場においては基本処方故にあまり用いられていないが、臨床の長けた先生ほどこのような基本処方を上手に運用する。一つ一つの生薬の薬能を熟知すればこそである。
四君子湯:「構成」
茯苓(ぶくりょう):人参(にんじん):甘草(かんぞう):白朮(びゃくじゅつ):

⑥通導散(万病回春)

 もと「折傷(せっしょう)」つまり骨折や打撲、内臓損傷などの治療薬として作られた方剤。「瘀血(おけつ)」と呼ばれる血液循環障害に広く用いられるようになった。クローン病にておこる腸壁の瘢痕化に対して主剤と合わせる形で用いられる。また腸管外合併症の改善・予防にも対応する。牡丹皮・桃仁を加えることが多い。
通導散:「構成」
当帰(とうき):枳殻(きこく):厚朴(こうぼく):陳皮(ちんぴ):木通(もくつう):紅花(こうか):蘇木(そぼく):甘草(かんぞう):大黄(だいおう):芒硝(ぼうしょう):

⑦芎帰調血飲第一加減(漢方一貫堂医学)

 上記の通導散は芒硝などの下剤が入っているため、下痢を起こすクローン病では用いにくい。この処方は温性を持つ駆瘀血剤で、もと冷えなどの傾向がある瘀血に適応する。クローン病での瘀血治療ではこの処方が運用されやすい。適宜加減が行われる。
芎帰調血飲第一加減:「構成」
当帰(とうき):川芎(せんきゅう):地黄(じおう):白朮(びゃくじゅつ):茯苓(ぶくりょう):陳皮(ちんぴ):烏薬(うやく):香附子(こうぶし):牡丹皮(ぼたんぴ):益母草(やくもそう):延胡索(えんごさく):芍薬(しゃくやく):桃仁(とうにん):紅花(こうか):桂皮(けいひ):牛膝(ごしつ):枳殻(きこく):木香(もっこう):大棗(たいそう):乾姜(かんきょう):甘草(かんぞう):

⑧大建中湯(金匱要略)

 クローン病の腸管合併症にて生じる腸閉塞や、術後の腸活動是正に用いられる機会がある。この処方は強い温性を持ち、腸の蠕動運動が極端に弱まったことで生じる腹満・腹痛を目標とする。したがって患部の炎症が強かったり、腸の蠕動亢進にて下痢したりしている場合には、病を悪化させることがある。一律的に使用されやすい処方なだけに注意を要する。
大建中湯:「構成」
乾姜(かんきょう):人参(にんじん):山椒(さんしょう):膠飴(こうい):

⑨半夏瀉心湯(傷寒論)

 もと心下痞硬と呼ばれる胃もたれやげっぷ、さらに胸やけ・腹満・下痢などを改善するための処方だが、口内炎の治療薬としても有名。したがって脾胃(胃腸)の湿熱を去る方剤として、クローン病ならびにクローン病にて合併するアフタ性口内炎に応用される。ただしクローン病の炎症はこの方剤だけでは治まりきらないことが多い。
半夏瀉心湯:「構成」
半夏(はんげ):乾姜(かんきょう):黄芩(おうごん): 竹節人参(にんじん):大棗(たいそう):甘草(かんぞう):黄連(おおれん):

臨床の実際

漢方によるクローン病への対応

漢方は古くから大腸部に起きた化膿性疾患を「腸癰(ちょうよう)」という病態として捉え、治療してきた歴史があります。虫垂炎などがその代表疾患で、大黄牡丹皮湯などが好んで用いられてきました。腸管に化膿性炎症が起き、実際に膿瘍を起こす傾向のあるクローン病は、これらの漢方治療を応用する形で行われることがあります。

ただしクローン病は膿瘍を再発させる、つまり膿瘍を繰り返し起こす病態です。そのため一時的な膿瘍治療を行い続けるのではなく、膿瘍が起きないような状態へと向かわせる治療が必要になります。この点で「腸癰」治療を一歩進めた対応が必要になります。

●「虚」への対応
その1つとして「虚」への対応があげられます。クローン病は継続的に体力を消耗させる疾患です。消化機能は食事から栄養を作りだすという生命に直結する力です。クローン病はこの力を減弱させていくことによって、生体の自己治癒力を消耗させていきます。すると炎症が治まりにくくなると同時に、潰瘍や膿瘍が悪化しやすくなります。特に食欲不振や体重減少が顕著な方や、手術によって回腸部が切除されて吸収不良を起こしている方などの場合は、「虚」への対応を優先して行う必要があります。

したがって化膿性炎症つまり「癰(よう)」に対する方剤の中でも、「虚」を回復させながら癰を治療する方剤が第一選択として選ばれる傾向があります。千金内托散はその代表で、やや抗炎症作用を強めたものが托裏消毒飲、そして虚労という疲労状態に対応しながら癰を改善するのが帰耆建中湯です。

ただし手術によって腸を物理的に取り除いている方など、特に栄養状態の管理が難しい方では、これらの処方では「虚」への対応が追い付かない場合があります。

「虚」には段階があり、どの程度「虚」が深まっているかによって適応処方も異なってきます。特に「陰証」と呼ばれる新陳代謝の低下に対しては、それに適応した漢方薬を用いる必要があります。このあたりの見極めと選択は漢方治療の経験の深さによるところが大きいと思いますので、漢方の専門家に診てもらうことが重要です。

●「瘀血」からのアプローチ
また「腸癰」治療を一歩進めた考え方の1つに、「瘢痕」に対する「瘀血(おけつ)」への対応というものがあります。腸の潰瘍が緩解と再燃とを繰り返していくと、傷口にできる古い傷跡のように組織が瘢痕化します。すると腸の正常活動が妨げられて腸閉塞などの合併症が起きやすくなります。この病理所見を「瘀血」という東洋医学的病態に結び付けて、瘀血を除く治療をもって病根を取り除こうという考え方です。

具体的には潰瘍を改善するための漢方薬と駆瘀血薬とを合わせて薬を調節します。名医・山本巌先生により広められた考え方であり、今後の臨床成績が期待されるところです。

クローン病における漢方治療の役割

現実的な対応として、クローン病は西洋医学的治療により炎症を抑え、漢方治療により全身状態の管理と再発の予防・重症度の軽減を行います。クローン病の炎症を漢方薬で、特に黄連解毒湯などの清熱薬で無理やり抑えようとするやり方はあまり効果的ではありません。

むしろ漢方薬によって血流障害や体力の低下を是正していくと、西洋薬による抗炎症作用が発揮されやすくなります。当薬局においても西洋薬にてコントロールできなかった炎症が、漢方薬を併用することによって炎症を抑えられるようになることがしばしば起こります。西洋医学と東洋医学との分担をはっきりさせた上で、これらの総合力をもって対応することが今日において最もクローン病に有効な治療方法だと思います。

またクローン病は口内炎や肛門周囲炎、また腸管外合併症などの全身症状を伴う疾患でもあります。したがって漢方治療においてもこのような総合的な治療を必要とする疾患です。西洋医学では各症状にそれぞれの薬を必要としてくるため薬剤が多量となり、体への負担も増えてきます。一方で漢方薬はこれらの症状を包括して治療していける可能性があります。体への負担という意味でも漢方治療を平行して行うことを強くお勧めいたします。

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この記事の著者

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※解説の内容は著者の経験や多くの先生方から知り得た知識を基にしております。医学として高いエビデンスが保証されているわけではございませんので、あくまで一つの見解としてお役立てください。

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