胆石症・胆嚢炎について

胆石症・胆嚢炎とは

胆石症とは胆嚢の中や胆管に砂粒のようなかたまりができた状態をいいます。多くが胆汁中のコレステロールが蓄積したものです。(一部胆汁の成分であるビリルビンなどが固まる場合もあります。)原因はコレステロールの多い欧米食です。ほとんどの胆石は胆嚢にとどまっている限り、長期間何の症状もおこりません。これをサイレントストーンといいます。

●胆石疝痛
しかしある程度の大きさの胆石が胆嚢から胆管に移動し詰まってしまうと、右脇腹に強烈な痛みが生じます。これを胆石疝痛といいます。痛みはみぞおちや背中・右肩甲骨の下部に広がり、悪心・嘔吐を生じます。

●胆嚢炎
また胆管が詰まると細菌が繁殖しやすくなり、たちまち感染が生じて発熱・悪寒・黄疸などの胆嚢炎が出現します。放置すると感染が広がって肝膿瘍(肝臓に膿が溜まる)が生じたり腹膜炎が生じたりして危険な状態となります。またそこから膵炎を併発したり、まれに大きな胆石が胆嚢の壁を貫通して小腸に入り腸閉塞を起こすこともあります。症状の無いサイレントストーンですが、胆嚢炎によって危険な状態となることがありますので放置することなく治療することが望まれます。

胆嚢炎を生じたら全身管理が必須です。そのため胆石発作が生じたら入院が基本となります。退院後に疝痛を繰り返す方では手術や胆石を溶かす薬物療法(ウルソ等)が使われます。サイレントストーンに対しては食事療法が基本で、時に衝撃波胆石破砕術によって胆石を体外から砕く治療も行われます。胆石が小さければ胆管を通ってそのまま排泄されることもありますが、このような食事療法・薬物療法では再発するケースも多くあります。

胆石症と漢方

漢方薬での治療は退院後に疝痛を繰り返す方、また症状のないサイレントストーンを所持している方に適応します。胆石症自体は古くから存在し、近年中国の長沙で発掘された馬王堆(まおうたい)の遺跡の婦人が胆石症を患っていたようです。事実、東洋医学における胆石治療の歴史は古く、「積聚(せきじゅう)」などの病が今日でいうところの胆石症・胆嚢炎と深い関わりがあると考えられています。

参考症例

まずは「胆石症」に対する漢方治療の実例をご紹介いたします。以下の症例は当薬局にて実際に経験させて頂いたものです。本項の解説と合わせてお読み頂くと、漢方治療がさらにイメージしやすくなると思います。

症例|育ち盛りの家族を支え食事のコントロールが難しいお母さまの胆石症

40代女性、育ち盛りの男の子3人を育てるお母さま、右わき腹の鈍痛を訴えご来局されました。胆石が見つかり、胆嚢炎を起こしそうな不安を抱える中、どうしても食事のコントロールがうまく行きません。治療に求められる食養生、そしてそれを実現させるため漢方治療。食事のコントロールが上手くいかない方にとって本当に必要な治療を具体例を示してご紹介いたします。

■症例:胆石症

使用されやすい漢方処方

①柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)
②大柴胡湯(だいさいことう)
③茵蔯蒿湯(いんちんこうとう)
④苓桂甘棗湯(りょうけいかんそうとう)
⑤小建中湯(しょうけんちゅうとう)
⑥大建中湯(だいけんちゅうとう)
※薬局製剤以外の処方も含む

①柴胡桂枝湯(傷寒論)

 「心腹卒中痛」といわれるような、急卒に生じる腹痛に応用される方剤。胆石疝痛のような痛みが主となる消化管の炎症にも広く用いられてきた。胃もたれや悪心・吐き気を伴う腹痛に用いられる。古くは感染症に広く用いられてきたが、今日では慢性的に継続する痛みに用いられることが多い。膵炎にも応用される。胆石症や膵炎にて痛みを伴う場合には、本方にある工夫を施すことが多い。
柴胡桂枝湯:「構成」
柴胡(さいこ):黄芩(おうごん):半夏(はんげ):人参(にんじん):桂枝(けいし):芍薬(しゃくやく):甘草(かんぞう):大棗(たいそう):生姜(しょうきょう):

②大柴胡湯(金匱要略)

 一般的には柴胡の証にして体格良く体力があって便秘傾向の実証に属する者がこの処方の適応となるが、実際の運用においては体格はあまり関係ない。線が細い方でも用いる場がある。大柴胡湯は四逆散に類似し消化管の緊張状態を緩和させる処方である。膵炎にも応用されるが、私見では胆石症に用いる場が多い。
大柴胡湯:「構成」
柴胡(さいこ):半夏(はんげ):黄芩(おうごん):芍薬(しゃくやく):枳実(きじつ):大棗(たいそう):生姜(しょうきょう):大黄(だいおう):

③茵蔯蒿湯(金匱要略)

 「発黄」つまり黄疸を治する聖剤と称される方剤。胆嚢炎にて黄疸を伴う場合に大柴胡湯や柴胡桂枝湯と合わせて用いられてきた。
茵蔯蒿湯:「構成」
茵蔯蒿(いんちんこう):山梔子(さんしし):大黄(だいおう)

④苓桂甘棗湯(傷寒論)

 もともとは奔豚(ほんとん)と言われる下腹部から突き上げてくるような動悸に用いられる処方であるが、胆石疝痛や胆嚢炎に応用される。特にこの処方に良姜・枳実を加えた「良枳湯(りょうきとう)」は右上腹部痛を生じる胆石疝痛の薬として有名。浅田宗伯は痛みが左にある時は良姜を去り呉茱萸を加えると示している。
苓桂甘棗湯:「構成」
茯苓(ぶくりょう):桂枝(けいし):甘草(かんぞう):大棗(たいそう)

⑤小建中湯(金匱要略)

 日本では小児の薬として有名だが本質は虚労と呼ばれる疲労状態に用いるべき処方である。「中気(消化管の力)が虚して腹中の引っぱり痛むを治す」と浅田宗伯は説明し、胆石症や胆嚢炎の再発予防に効果を発揮する。「血乾き腹皮の拘急する者」という浅田の口訣には含蓄がある。
小建中湯:「構成」
桂枝(けいし):芍薬(しゃくやく):甘草(かんぞう):生姜(しょうきょう):大棗(たいそう);膠飴(こうい)

⑥大建中湯(金匱要略)

 腸管の活動を是正する薬として有名。浅田宗伯の口訣に「寒気の腹痛を治するに此方にしくはなし。蓋し大腹痛にて胸にかかり嘔あるか腹中塊の如く凝結するが目的なり」とあることからも、腸閉塞や胆石疝痛への適応を伺わせる。臨床的にも胆石による痛みを繰り返している方の中にこの適応がある。小建中湯と合わせた「中建中湯」は昭和の大家、大塚敬節先生の創方。
大建中湯:「構成」
人参(にんじん):山椒(さんしょう):乾姜(かんきょう):膠飴(こうい):

臨床の実際

胆石症と漢方治療

漢方治療は胆石を生じやすい消化管状態を是正することに重きを置きます。古くは胆石疝痛の発作時や胆嚢炎に対しても漢方薬をもって対応してました。ただし現代においては入院・絶食が基本となりますので、その時は西洋医学的治療を優先するべきです。

●漢方治療を考慮するべきケース
漢方治療が望ましい方は、無症状のサイレントストーンの段階から胆嚢炎までは発展せずとも不快な症状を繰り返すまでの段階です。漢方薬は消化管の緊張を去り、血流を促し、活動を是正することでこれらを改善していきます。

サイレントストーンを所持している方は、便通が良くなったり、胃のもたれ感がなくなったりといった、体調の変化を感じられる漢方薬を選択していきます。そのような良い反応の出る漢方薬を継続しているうちに、胆石自体が細かく砕かれやすくなり、知らない間に胆石が消失していくという傾向が出てきます。

また右腹部の鈍痛を繰り返したり、右肩や右背中の鈍痛を訴えたりする方は、まずはこれらの症状を取り去ることを目標にします。漢方薬をもって消化管の活動状態を是正すると、痛みが解消されるとともに、胆石自体を生じにくい体質へと向かっていきます。

胆嚢炎にて退院後に痛みが断続的に生じる方は、胆嚢炎からの合併症の可能性があるため西洋医学的な管理が必要です。ただしこの場合も漢方薬が有効で、漢方薬の併用によって胆石発作・胆嚢炎の再発を予防し治療をスムーズに進めていきます。

●食事療法と漢方
当然のことながら、脂こいものや甘いものなどコレステロール値を上げるようなものを避ける食事療法も非常に重要です。漢方薬を服用していくうちに味覚や好みが変わり、これらの食事をとらなくなったという方もおられます。体内の調子が整うと、体を壊すような食事を自然と避けれるようになるということは良くあることです。

●「積聚(せきじゅう)」と胆嚢炎・胆石症
古くは「積聚(せきじゅう)」という病の中に胆嚢炎や胆石疝痛が包括されていたと考えられています。積聚とは積気(かたまり)が聚(あつまる)るという意味で、腹中の臓器が硬くなって活動・機能が失調し、急迫的な消化管活動の固縮を生じて腹痛を呈する状態を指します。この積聚に対する治療方法と適応方剤とは、現代における胆石症治療に対しても多くのことを示唆しています。

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