膵炎(急性膵炎・慢性膵炎)について

膵炎とは

膵臓は食事を消化する際に必要な消化酵素を分泌する臓器です。膵臓が自らの消化酵素によってダメージを受け、炎症を起こした状態を膵炎といいます。一部原因不明の膵炎もありますが、多くの場合はアルコールの過剰摂取や胆石症などによって起こります。

●急性膵炎
急性膵炎では腹痛、それも心下部から左右季肋部にかけての痛みが起こります。軽い鈍痛からじっとしていられないほどの激痛まで痛みの程度は様々です。時に背部や肩への放散痛がみられます。そのため背中の痛みだと思って整形外科にかかり、実際には膵炎だったということもあります。その他に悪心・嘔吐・腹部膨満感ないしは重圧感・食欲不振などが起こります。

急性膵炎は重症の場合、膵臓の炎症が他臓器に広がり多臓器不全を起こすことがあります。こうなると命に関わりますので、病院にて全身管理を行う必要があります。

●慢性膵炎
膵臓の炎症が長期間繰り返し起こり、膵臓の破壊がもとに戻らない状態になったものを慢性膵炎といいます。膵臓は糖代謝に関わるインスリンやグルカゴンを分泌します。そのため慢性膵炎では膵臓の不可逆的な破壊のために血糖値のコントロールが難しくなり、糖尿病を併発することがあります。また急性膵炎と同じように多くの場合で上腹部痛が起こり、背中の痛みを伴います。急性膵炎では激痛が多いのに対して、慢性膵炎では鈍痛が主となる傾向があります。

膵炎と漢方

急性膵炎はちゃんとした治療と養生とができれば根治することが可能な疾患です。そのため慢性化する前にしっかりと治療していくことが大切です。また慢性膵炎ではこれ以上の悪化を防ぎ、腹痛などの症状を起こすことなくコントロールしていくことが重要です。漢方でも的確に薬方を選択できれば西洋医学的な治療で完治やコントロールが難しい場合でも十分に改善へと向かわせることができます。

●隠れ膵炎
さらに明らかに膵炎の症状が出ているのに、血液検査や画像診断では膵炎と特定できず治療が進まずお困りになる場合もあります。そのような場合では漢方治療を強くお勧めします。症状の消失を目指すとともに、検査に現れない内臓の不調を改善させることが可能です。

ただし漢方薬での膵炎治療にはコツがあります。特に「痃癖(げんぺき)」と呼ばれる東洋医学固有の病態を理解しているかどうかがカギになります。治療に経験の深い漢方の専門家にご相談いただくことが重要です。

参考コラム

まずは「膵炎」に対する漢方治療を解説するにあたって、参考にしていただきたいコラムをご紹介いたします。以下の内容は当薬局にて実際に経験させて頂いたことを根拠にしております。本項の解説と合わせてお読み頂くと、漢方治療がさらにイメージしやすくなると思います。

コラム|隠れ膵炎 ~背中の痛みが肩に及ぶ 内臓からくる背中の痛みについて~

背中の痛みが肩に及ぶ、そういえばみぞおちの調子も悪い、そんな方の中には膵臓機能の失調に原因を持つ方がいらっしゃいます。しかし病院の検査では明らかになりにくく、どこに行っても完治することができない、そういう方々が漢方治療によって改善することが実際に多いのです。このコラムではそれを実例をもって示すとともに、隠れ膵炎の治療要点を解説しております。

□隠れ膵炎 ~背中の痛みが肩に及ぶ 内臓からくる背中の痛みについて~

使用されやすい漢方処方

①四逆散(しぎゃくさん)
②延年半夏湯(えんねんはんげとう)
③左金丸(さきんがん)
④柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう)
⑤半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)
⑥柴芍六君子湯(さいしゃくりっくんしとう)
※薬局製剤以外の処方も含む

①四逆散(傷寒論)

 いわゆる柴胡剤の中でも肝鬱(かんうつ)という緊張状態を緩和させるための基本処方。多様な疾患に応用されるが、膵炎においては呉茱萸や牡蛎、茯苓や鼈甲といった生薬を加えて用いられることが一般的である。肝鬱の定義は治療者によって異なる場合が多い。そういう意味で四逆散の使い方は非常に奥が深い。柴胡桂枝湯や大柴胡湯も四逆散の類方である。それぞれの特徴を見極めて膵炎に応用される。
四逆散:「構成」
柴胡(さいこ):芍薬(しゃくやく):甘草(かんぞう):枳実(きじつ)

②延年半夏湯(勿誤薬室方函)

 「痃癖(げんぺき)」の主方。「痃癖」とは腹内にかたまりを触れて急迫的な腹痛・肩背への放散痛を呈する病を指す。また「痃癖」は膵炎との関与が深いと考えられている。臨床的にも痃癖に対応する処方が膵炎に効果を発揮することが多い。延年半夏湯はある処方をもとに組み立てられており、その処方の運用に長ければ自ずと延年半夏湯の運用がつかめる。効果を出すためにはコツがいる処方でもある。
延年半夏湯:「構成」
柴胡(さいこ):半夏(はんげ):桔梗(ききょう):鼈甲(べっこう):檳榔子(びんろうじ):生姜(しょうきょう):人参(にんじん):枳実(きじつ):呉茱萸(ごしゅゆ):

③左金丸(勿誤薬室方函)

 朱丹渓の創方にて急迫的な左脇痛に用いる方剤。その実は膵炎急性期の左脇腹の激痛に対して使用されていたと考えられる。現代では西洋医学的な処置を優先すべき段階であるが、消化管の炎症に伴う腹痛において示唆するところの多い処方である。
左金丸:「構成」
黄連(おうれん):呉茱萸(ごしゅゆ):

④柴胡桂枝乾姜湯(傷寒論)

 腹部炎症が長引いて身体が痩せて枯燥し、寝汗・微熱などを呈する者。急迫的な腹痛というよりは鈍痛が断続的に続き、炎症が長引くことで全身的な消耗状態に陥っているものに適合する。この方剤を慢性病に応用する場合、適応となる方には一種独特の体質がある。慢性膵炎に応用する。芍薬・鼈甲・呉茱萸・茯苓などを加えて用いられていた。
柴胡桂枝乾姜湯:「構成」
柴胡(さいこ):黄芩(おうごん):甘草(かんぞう):桂枝(けいし):乾姜(かんきょう):括呂根(かろこん):牡蛎(ぼれい):

⑤半夏瀉心湯(傷寒論)

 胃炎や胃酸過多症に用いられる処方であるが、酒毒を解する薬能を持つことから慢性膵炎に応用される場がある。胃がもたれて痛み、口臭・便臭がきつく下痢する者に良い。瀉心湯は「心を瀉す」の文字通り精神を落ち着ける作用がある。アルコール依存や過剰な食欲を落ち着けるのにも良い。眠りが深くなる。
半夏瀉心湯:「構成」
半夏(はんげ):乾姜(かんきょう):黄芩(おうごん): 竹節人参(にんじん):大棗(たいそう):甘草(かんぞう):黄連(おおれん):

⑥柴芍六君子湯(勿誤薬室方函)

 慢性膵炎にて用いられる場が多い。胃腸虚弱にて平素より少食なものに広く応用される。浅田宗伯は「四逆散の証にして胃虚を兼ぬる者」と適応を示し「脾気病は腹筋拘急して痛み、また胸脇へ引付くる形ある故に柴芍と伍するなり」と提示している。このことから膵炎の慢性期に応用する。小建中湯類との鑑別を要する。
柴芍六君子湯:「構成」
人参(にんじん):甘草(かんぞう):茯苓(ぶくりょう):白朮(びゃくじゅつ):大棗(たいそう):生姜(しょうきょう):甘草(かんぞう):半夏(はんげ):陳皮(ちんぴ):柴胡(さいこ):芍薬(しゃくやく):

臨床の実際

膵炎と漢方治療

急性膵炎の初期は西洋医学的治療が優先されます。急性期では経口による薬剤投与は望ましくないため、絶食・絶飯のほか輸液その他非経口的な治療が行われます。従って漢方治療は発病後2~7日を経て、経口的に食事がとれる時期以降に開始します。

一方慢性膵炎の場合は継続的に消化機能を調えるとともに、糖尿病の管理をしていく必要があります。血糖値のコントロールを必要とし、さらに色々な病を併発してくる可能性がありますので、やはり西洋医学的な管理が必要です。

●漢方治療を考慮するべきケース:隠れ膵炎など
膵炎において漢方治療が有意義なのは、膵炎の急性期を経たあと腹痛発作が断続的に継続して根治できていない場合や、慢性膵炎にて西洋医学的な治療のみでは症状がコントロールしきれていない場合です。

また膵炎と思われる症状があっても、血液検査や画像診断では膵炎と特定されず治療が進んでいかない場合もあります。基本的に膵臓の病は発見が難しい傾向があります。慢性的に継続する膵炎は各種検査にて発見しにくい病であり、異常があっても正常と診断されてしまう場合があります。

これらの場合には漢方治療が非常に有効です。西洋医学的治療により改善が見られなくても、あきらめることなく試してみるべきです。慢性膵炎は代償期つまり膵臓の機能が維持できている時期から、石灰化や繊維化が進み膵臓の機能不全が起こる非代償期へと移行していきます。できることならば代償期の間に治療を始めるべきです。

漢方治療は症状の消失と、再発の予防をはかります。1週間ほどの服用で症状が落ち着いてくる傾向があります。ちゃんと症状が緩和されていると実感できる処方を継続的に服用したり、膵臓自体の障害を是正し得る処方へと切り替えることにより、膵炎の完治や悪化予防を目指します。

●食事の節制と漢方薬
膵炎の改善にはアルコールや油ものなどの食事の節制が非常に重要で、これらが十分に節制されていないと再発を繰り返します。ただし食事を十分に節制していても、再発を繰り返すかたもいらっしゃいます。このような場合にも漢方治療が有効です。西洋薬との併用も問題なく、むしろ併用することで西洋医学的治療が順調に進みやすくなります。

●「痃癖(げんぺき)」と膵炎
東洋医学に「痃癖(げんぺき)」と呼ばれる疾患があります。これはかなり古くから論じられている病で、腹の痛みを生じる病です。膵炎や胆石症など複数の病が包括されていたのではないかとされています。その中でも特に膵炎との関連が深いと指摘されていて、それは臨床的にみても正しいという実感があります。

先述のように膵臓は隠れた臓器でその機能や姿を検査上正確に診断しにくく、そのために膵炎自体の障害が放置されてしまうことがあります。「痃癖」という病態とそれに伴う症状、またそれに対応する処方群は、膵炎の早期発見と予防そして正確な治療とを実現する可能性を示唆しています。

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