乾癬・尋常性乾癬について

乾癬とは

乾癬とは盛り上がった皮膚に銀白色の鱗屑(りんせつ:カサカサとしたフケのようなもの)が発生する皮膚の病です。象の皮膚のようになるため見た目に目立ちやすく、非常に不快な思いをする疾患です。痒みは伴う場合もありますが、通常はあまり起こりません。原因は不明で一度引いても悪化を繰り返しやすく、慢性経過しやすいという特徴があります。

●乾癬の特徴「角化異常」
乾癬では角化異常が起こります。角化とは表皮の下にある細胞が表層へと移行していく中で、徐々に細胞が死んで角質層という体の表面の膜を作り出す過程を指します。通常であれば角化には4週間かかると言われています。しかし乾癬ではこの角化が4~5日程度で起こってしまいます。その結果、角質層は下からせり上がってくる表皮細胞によって厚くなり、ガサガサと乾燥した厚い鱗屑が生じるようになります。

この角化の亢進は、その原因が未だにわかっていません。西洋医学的な治療としては、ワセリンなどの軟膏で保湿し、炎症に対してはステロイドの外用薬で対応する、そして重症例ではシクロスポリンなどの免疫抑制薬を使用するといった対応になります。また光線療法といって、患部に紫外線を照射し乾癬を消失させる治療もあります。これらの治療は一時的に症状を緩和させることができますが、根治に至らせる治療ではありません。うまく組み合わせながら何とかしのいでいくというのが、治療の基本方針になります。

漢方治療と乾癬

乾癬はこういった西洋医学的な治療でコントロールが上手くいかない場合に、漢方治療を求めて来局される方が多い疾患です。炎症を体の中から、かつ副作用を起こすことなく改善していくという意味では、漢方治療の優先順位が高い疾患だと言えます。皮膚病治療で一般的に言えることですが、漢方薬を併用すると西洋薬が効きやすくなり、その分西洋薬を使用しなくても良い状態へと速やかに向かいやすくなる傾向があります。また中にはほとんど症状が再発しないという状態にまで向かう方もいらっしゃいます。最も重要なことは、その方の状態にあった漢方薬を選択する必要があるという点です。同じ乾癬という病でも誰一人として同じ状態の方はいらっしゃいません。漢方薬はその見極めが出来なければ効かないという仕組みになっています。

※乾癬性関節炎
乾癬を患う方の5~40%に慢性の関節炎が生じることがあります。この関節炎も漢方薬によってコントロールすることが可能で、漢方では関節リウマチ治療の手法と近似しています。こちらをご参照ください。→関節リウマチ

使用されやすい漢方処方

①消風散(しょうふうさん)
②荊防敗毒散(けいぼうはいどくさん)
③黄連解毒湯(おうれんげどくとう)
④治頭瘡一方(ちずそういっぽう)
⑤竜胆瀉肝湯(りゅうたんしゃかんとう)
⑥通導散(つうどうさん)
⑦芎帰調血飲第一加減(きゅうきちょうけついんだいいちかげん)
※薬局製剤以外の処方も含む

①消風散(外科正宗)

 湿疹治療の代表方剤。「風湿」と呼ばれる皮膚病に適応し、本来は水疱やビランなどの湿潤傾向が強く、痒みの強い皮膚炎に用いられる。また「瘡疥(そうかい)」といって厚い痂皮を生じて木の皮のようにぽろぽろと剥がれ落ちる乾燥性の強い皮膚炎に適応する。つまり湿性が強く、滲出液が外にあふれ、それが熱によって乾き、表皮に乾燥状を呈するという状態に用いる。基本処方の一つであり、炎症の程度によって清熱剤を加える必要がある。
消風散:「構成」
石膏(せっこう):知母(ちも):荊芥(けいがい):蝉退(せんたい):防風(ぼうふう):木通(もくつう):苦参(くじん):蒼朮(そうじゅつ):胡麻(ごま):牛蒡子(ごぼうし):当帰(とうき):地黄(じおう):甘草(かんぞう):

②荊防敗毒散(万病回春)

 おでき治療の代表方剤であるが、同時に湿疹に対しても有効。膿疱を形成しやすく、ぽつぽつとした発疹を生じる皮膚炎に適応する。炎症初期の病巣を消散させる目的で用いる。乾癬においては膿疱性乾癬に用いる場がある。鱗屑を厚く形成したり、炎症が強い場合には単独では効果が弱い。他剤との合方や加減を検討するべきである。
荊防敗毒散:「構成」
柴胡(さいこ):前胡(ぜんこ):川芎(せんきゅう):防風(ぼうふう):荊芥(けいがい):連翹(れんぎょう):羌活(きょうかつ):独活(どくかつ):茯苓(ぶくりょう):桔梗(ききょう):甘草(かんぞう):薄荷(はっか):枳殻(きこく):金銀花(きんぎんか):

③黄連解毒湯(肘後備急方)

 清熱薬として有名な本方は、各種皮膚病の強い炎症状態に広く応用される。十味敗毒湯や荊防敗毒散は炎症を抑える効果が弱いため、本方と合方されることが多い。血管拡張性の炎症、つまり患部の赤味や充血が強い炎症に適応する。乾癬においては石膏を加えなければならない場合もある。
黄連解毒湯:「構成」
黄連(おうれん):黄芩(おうごん):黄柏(おうばく):山梔子(さんしし):

④治頭瘡一方(勿誤薬室方函)

 別名「大芎黄湯」。本来は頭部に生じた瘡(化膿)を治すという薬方であるが、面部などの人体上部に生じる皮膚の炎症にも用いる。乾癬は頭皮に生じた場合に治療が難しく、本方のような強力な解毒剤をもって炎症を抑えなければならない場合がある。
治頭瘡一方:「構成」
忍冬(にんどう):連翹(れんぎょう):荊芥(けいがい):防風(ぼうふう):川芎(せんきゅう):紅花(こうか):蒼朮(そうじゅつ):大黄(だいおう):甘草(かんぞう):

⑤竜胆瀉肝湯(薛氏医案)(漢方一貫堂医学)

 粘稠で色が濃く、臭気の激しい分泌物を生じる炎症を「湿熱」と称する。『薛氏医案』の竜胆瀉肝湯は湿熱治療の代表方剤で、本来は泌尿器・生殖器などの感染性炎症に用いる場の多い処方。陰部湿疹や蕁麻疹・帯状疱疹などの皮膚疾患にも応用される。一貫堂の竜胆瀉肝湯は薛氏医案の方剤を改良したもので、解毒証体質と言われる炎症を生じやすい体質治療に用いられる方剤。やはり湿熱性の炎症に用いる。乾癬は「湿熱」の病態を持つ者が多い。これらの処方を運用する場がある。
竜胆瀉肝湯(薛氏医案):「構成」
竜胆(りゅうたん):山梔子(さんしし):黄芩(おうごん):木通(もくつう):沢瀉(たくしゃ):車前子(しゃぜんし):)当帰(とうき):地黄(じおう):甘草(かんぞう)

竜胆瀉肝湯(漢方一貫堂医学):「構成」
竜胆(りゅうたん):山梔子(さんしし):黄芩(おうごん):木通(もくつう):沢瀉(たくしゃ):車前子(しゃぜんし):)当帰(とうき):地黄(じおう):甘草(かんぞう):芍薬(しゃくやく):川芎(せんきゅう):黄連(おうれん):黄柏(おうばく):連翹(れんぎょう):薄荷(はっか):防風(ぼうふう):

⑥通導散(万病回春)

 もと「折傷(せっしょう)」つまり骨折や打撲、内臓損傷などの治療薬として作られた方剤。「瘀血(おけつ)」と呼ばれる血液循環障害に広く用いられるようになった。乾癬における角質の肥厚を瘀血と捉えて、通導散のような駆瘀血剤を用いて治療する場合がある。単方または他剤と合方して用いる。
通導散:「構成」
当帰(とうき):枳殻(きこく):厚朴(こうぼく):陳皮(ちんぴ):木通(もくつう):紅花(こうか):蘇木(そぼく):甘草(かんぞう):大黄(だいおう):芒硝(ぼうしょう):

⑦芎帰調血飲第一加減(漢方一貫堂医学)

 「瘀血(おけつ)」に適応する駆瘀血剤の一種。温性の薬能を持ち、冷えの傾向を持つものに用いられる場合が多い。芎帰調血飲は産後の不調を改善する方剤で、この方剤はさらに駆瘀血薬を加えたもの。本来は骨盤内の血行循環を改善する薬能を持つが、より広く皮膚病にも用いられる。乾癬にて炎症弱く、皮膚の赤味が少ないが鱗屑がいつまでも消えないという状態に良い。
芎帰調血飲第一加減:「構成」
当帰(とうき):川芎(せんきゅう):地黄(じおう):白朮(びゃくじゅつ):茯苓(ぶくりょう):陳皮(ちんぴ):烏薬(うやく):香附子(こうぶし):牡丹皮(ぼたんぴ):益母草(やくもそう):延胡索(えんごさく):芍薬(しゃくやく):桃仁(とうにん):紅花(こうか):桂皮(けいひ):牛膝(ごしつ):枳殻(きこく):木香(もっこう):大棗(たいそう):乾姜(かんきょう):甘草(かんぞう):

臨床の実際

漢方による乾癬治療とそのポイント

乾癬において皮膚角化の異常亢進はこの病の最も際立った特徴だと言えます。健康な皮膚に比べて10倍以上の速さで表皮が生まれ変わるこの現象は、原因が未だに分かっていません。しかし皮膚の炎症を土台として角化異常が起こっているのは確かで、炎症を抑えると鱗屑形成の勢いがおさまってくる傾向があります。

したがって乾癬では炎症を鎮火させる治療を行います。通常、乾癬の炎症はステロイドの軟膏や、重症例では免疫抑制薬(シクロスポリン)などの強力な炎症止めを使わなければなりません。それでも治癒しないという方もいらっしゃいます。漢方薬は併用することによってこれらの薬の効き目を発揮させやすくする傾向があります。またこれらの薬を使用しなくても、漢方薬のみで炎症をコントロールできる方もいらっしゃいます。

●一般的な乾癬治療
消風散や荊防敗毒散を用いることが多いと思います。消風散は「瘡疥(そうかい)」といって患部から滲出液を染み出させ、それが炎症の熱で乾燥して厚い痂皮を生じ、木の皮のようにぽろぽろと剥がれ落ちるような皮膚病に適応します。一方で荊防敗毒散は化膿性炎症を抑える効能に優れています。したがって手足に膿疱を生じる乾癬である「掌蹠膿疱症」や、膿の詰まった大小の膿疱が患部に散在する「膿疱性乾癬」に特に用いられやすい傾向があります。これらの方剤は炎症を抑える効能がそれほど強くありません。そのため患部の赤味が強くて充血が甚だしく、鱗屑が厚く黄色味を帯びてボロボロとはがれ、はがれた後またすぐに厚い鱗屑を生じるというような炎症の強い乾癬に対しては、黄連解毒湯などの清熱剤を合方する必要があります。

また乾癬の炎症を鎮める場合に特にポイントとなる清熱薬は「石膏」です。山田業廣という名医はその著書『椿庭経方弁』において石膏の薬能を「発表・清熱・滋潤」と要約しています。すなわち皮膚が腫れて盛りあがり、表面が熱されたフライパンのように焼かれて乾燥し、粉を吹いたようになるといった「腫れ・熱・乾燥」という状態に適応します。この状態は多くの乾癬の皮膚面と合致しています。

●乾癬と「温病」
消風散や荊防敗毒散は皮膚病において一般的に常用される方剤です。しかし乾癬ではこのような常道を用いても炎症が鎮まらないケースを散見します。また経験上、乾癬の炎症は深く、しつこい印象があります。消風散や荊防敗毒散の加減を約1か月服用しても効果が無い場合は、治療の見立てを変更する必要があると思います。

現代において原因不明の炎症を起こす皮膚病は、「温病(うんびょう)」という病態の範疇に帰結してくる傾向があります。「温病」とは継続した熱によって身体の陰分(水分)を灼焼しつづけるという病です。難治性の乾癬やアトピー性皮膚炎は「温病」中の「湿熱(暑温・伏暑・湿温)」の範疇に属したものが非常に多く、皮膚病の常套手段を用いて効果の無い炎症が、この手法を用いることで改善するということが多々あります。特に乾癬ではこの傾向が強く、アトピー性皮膚炎に比べて深いところに熱がこもり、それがべったりと張り付いている印象です。

「温病」は中国の清代に呉鞠通という人物によってその治療方法が確立されました。呉鞠通は自著『温病条弁』において「湿熱」治療を体系化して提示しています。日本においては、この書の研究があまり行われてきませんでした。今までは竜胆瀉肝湯という処方が湿熱治療には頻用されており、確かにこの処方によって改善していく乾癬もあります。しかし本国では湿熱治療を一つの体系として捉えてこなかったため、竜胆瀉肝湯などの数少ない方剤の中でのみ治療を行ってきました。現在、「湿熱」という病態は皮膚疾患を中心に増加傾向にあります。『温病条弁』の研究はこれからの時代に非常に重要な意義を持つものだと思います。

●乾癬と「瘀血」
また乾癬において良くみられるものの一つに、それほど炎症もなく、充血や赤味も薄く、ただ薄くカサカサとした表面がいつまでも消えずに残っているという状態があります。この場合炎症が弱いため免疫抑制薬や強いステロイドの軟膏などを積極的に用いる場ではなく、主にワセリンなどの外用薬で保湿を行うという治療にとどまります。しかしいくら保湿しても象の肌のように乾燥した見た目は改善されないという方が多くいらっしゃいます。

このような鱗屑が完全に治りきらない状態を「瘀血(おけつ)」と捉えて治療することがあります。「瘀血」とは一種の血行障害です。本来は傷口にできた瘢痕(はんこん)などを「瘀血」と捉え、駆瘀血剤を用いて治療してきた歴史があります。その治療方法を応用することで、乾癬にて残存する鱗屑が消えていくことが確かにあります。芎帰調血飲第一加減を用います。また炎症が強い状況で起こる角化は、たくさんの鱗屑を形成して皮膚が厚くなります。この状態の「瘀血」には通導散の加減が用いられます。また清熱薬と駆瘀血剤を合わせて用いるということもしばしば行われます。例えば温清飲合通導散という形です。

●乾癬と食養生
乾癬の原因は未だに不明ですが、症状が悪化すると「湿熱」を形成することから考えれば、油ものや酒といった湿熱を助長する食事は症状を悪化させるはずです。実際にこういったものの暴飲暴食によって乾癬は増悪します。したがって改善には食事の不摂生を見直すことが不可欠になってきます。食事の欧米化が進み、ポテトチップスやハンバーガーなど、油をふんだんに含んだものをいつでも手にとって食べることができるようになりました。こういった現代における食生活と、乾癬のような原因不明の炎症性疾患が続々と出現していきている現状とが、まったくの無関係だと断ずることは決して出来ないと思います。

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