湿疹・皮膚炎について

湿疹・皮膚炎とは

湿疹や皮膚炎という言葉は非常に広い意味で使われます。その定義をちゃんと言えば「皮膚上層の炎症を指し、痒みを伴い点状の発疹から丘疹・水疱・膿疱・痂皮・鱗屑など多様な皮膚状態(掻痒・点状状態・多様性)を引き起こす病気の総称」ということになります。こう説明されてもピンとこないと思います。私もピンときません。そこでここではより簡単に、皮膚の最も外側にある表皮を中心として炎症を起こす病と、定義したいと思います。

皮膚は外側から表皮→真皮→皮下組織→筋層へと重なる構造を持っています。湿疹では表皮に細胞間浮腫により形成された表皮内小水疱が多発します(海綿状態)。簡単に言えば、表皮が炎症を起こして腫れ、水が溜まっている状態です。

●湿疹の原因(外因と内因)
そもそも皮膚は外と接する部分ですので、外部から人体を守るという非常に重要な役割を持っています。したがって表皮に炎症を生じる湿疹は、人体の最外部において外敵が侵入するのを防いで戦っている状態であるともいえます。防壁を強めるために表皮に浮腫を起こして、外敵をせき止めているのです。何らかの物に触ってアレルギー反応が起こる接触性皮膚炎などはその代表です。

一方で表皮の機能が弱まってしまうと、外敵の侵入が容易になり、皮膚が常に闘いにさらされやすくなります。アトピー性皮膚炎や脂漏性湿疹などは、こういった身体側の要素が大きく絡んで発症します。このように湿疹は外的な要素と内的な状態との2つのバランスによって発症する疾患です。これは皮膚病全般に言えることでもあります。東洋医学でも「外因(がいいん)」・「内因(ないいん)」という言葉でこれらを分けます。ただし病の原因は外因・内因が単独で生じているということはまれで、通常は両者がともに関与して病を発生させます。したがってこれらを完璧に区別するということを漢方治療ではあまりしません。むしろ治療上重要な考え方は「標治(ひょうち)」と「本治(ほんち)」です。

●湿疹の治療方法(標治と本治)
「標治」とは「現在生じている症状を治すこと」を指します。皮膚病で言えば、皮膚に生じている炎症・腫れ・痒みなどををまず抑えるという治療です。一方「本治」とは「病の本質を治すこと」を指します。皮膚に症状を生じやすい体質自体を改善していく治療です。この「標治」と「本治」とは厳密に区別して治療しなければならないことが多く、皮膚病では特にそれを感じます。外的な要素がきっかけとなって発症した皮膚症状を先ずは「標治」で抑える。そしてその後「本治」をもって内的要素を改善し、皮膚を強くする。こういう治療が漢方では良く行われます。

「治病求本(病を治するには、かならず本を求む)」といって、漢方では「本治」を重視します。西洋医学では「本治」に食い込むことが難しいため、漢方では特に「本治」が求められます。しかし「標治」をないがしろにして「本治」を重視するということではありません。むしろ「標治」をしっかりと行えるかどうかが、漢方家の腕を決定するといっても過言ではありません。両方を行う技術を持った上で、どちらを用いたら良いかを的確に判断するというのが正しい漢方治療だと思います。

そこで、ここでは湿疹に頻用される基本処方を「標治法」と「本治法」とにわけて解説したいと思います。湿疹治療は身体最外部に生じる皮膚病であるが故に、皮膚病全般治療の基本でもあります。やや専門的な内容にはなりますが、漢方薬がある理にもとづいて使われているということを理解していただければ幸いです。

●湿疹の分類
ちなみに湿疹・皮膚炎は通常以下のような5つの病に分類されることが一般的です。
・接触性皮膚炎
(特定の物資に直接触れることで起こる皮膚炎)
・アトピー性皮膚炎
(免疫が関与する皮膚炎で表皮のバリア機能の低下が介在する)
・脂漏性皮膚炎
(顔面や頭皮など皮脂腺の密度の高い部分に起こる皮膚炎)
・ビダール苔癬
(皮膚を掻き続けることによって皮膚が肥厚した状態の皮膚炎)
・尋常性湿疹
(尋常とは普通のという意味。上記以外の湿疹を指す。)

さらにこれらに含まれながらも、独特の状態を表す皮膚炎を以下のように呼ぶことがあります。

・貨幣状湿疹
(コインのような円形状の形態を生じる皮膚炎の総称)
・自家感作性皮膚炎
(一部に皮膚炎が出来た後、他の部分に丘疹ができるもの)
・皮脂欠乏性湿疹/乾皮症
(皮脂欠乏し角質が乾燥してはがれてしまっている皮膚炎)
・手足皮膚炎
(手足に生じる皮膚炎の総称。異汗性湿疹・主婦湿疹など)
・うっ滞性皮膚炎
(静脈の流れが悪くなることによって生じる皮膚炎)

このうちアトピー性皮膚炎脂漏性皮膚炎手足皮膚炎は別項で説明しております。ご参照ください。

使用されやすい漢方処方

1、標治法

湿疹は皮膚面に時間経過にしたがって多様な状態を作り出す疾患です。患部は時間経過にしたがって見た目が以下のように変化していきます。

「紅班(こうはん)」毛細血管の拡張などにより皮膚表面が赤くなる。この段階では押せば赤味は消える。
「丘疹(きゅうしん)」皮膚が隆起する。
「水疱(すいほう)」表皮中または表皮下に液体(血清やたんぱく質(フェブリン)白血球など)が溜まる。みずぶくれ。
「膿疱(のうほう)」黄白色の膿汁を内容とする水疱。多くは菌の感染でおこりその内容は菌を食べる過程で崩壊した白血球など。
「湿潤(しつじゅん)」水疱や膿疱が破れた状態。ビラン。
「結痂(けっか)」やぶれて出てきた滲出液が固まったもの。痂皮。
「落屑(らくせつ)」痂皮が皮膚の新陳代謝によって剥がれた状態。

湿疹は以上のような状態を時間経過とともに進行させていきます。そして時にこの循環を繰り返し慢性化していくと「苔癬化(たいせんか)」といって皮膚が硬くなり厚みを持つようになります。

●漢方による湿疹の捉え方
西洋医学的に湿疹患部の変化を説明すればこのようになりますが、ここであえて患部の変化をイメージとして捉えてみます。例えば以下のようなイメージです。
〇まず皮膚中に風が巻き上がって火を生じ(紅班)、
〇火が熱をもってせり出してくる(丘疹)。
〇地の湿気がのぼって雲になるように水が上にせり出し(水疱)、
〇熱が強まれば水が燻蒸されて濃くなる(膿疱)。
〇水があふれてこぼれ(湿潤)、
〇こぼれた水が熱に焼かれて固まり、乾燥して剥げる(結痂・落屑)。

古人は湿疹を観察したときに、おそらくこのような発想を持ったのではないでしょうか。そしてその発想をもとに治療法を組み立てるならば、こう考えたはずです。すなわち、
〇熱を巻き上げる風を散らし(去風薬)
〇火熱を冷まして沈める(清熱薬・瀉火薬)
〇せりだす水をさばき(利湿薬)
〇熱に焼かれたあとを潤す(潤燥)
こうやって導きだされた湿疹の基本処方が「消風散」です。

消風散(外科正宗)

湿疹・標治法の代表方剤。去風・清熱・利湿・潤燥という、湿疹治療に必要な薬能を兼ね備える名方です。全体にバランス良く配合されている処方ではありますが、湿疹は人によって状態が様々です。したがって効果を発揮するためには合方や加減が必須で、単剤にて著効する湿疹はむしろ少ないと思います。
消風散は本来、「風湿」といって水疱やビランなどの湿潤傾向が強く、痒みの強い状態に用いられる処方です。滲出液が多くせり出すため患部が浅く広がる傾向があり、浅田宗伯はそれを雲片斑点などと表現しています。また「瘡疥(そうかい)」といって厚い痂皮を生じて木の皮のようにぽろぽろと剥がれ落ちる乾燥性の強い皮膚炎に適応する処方でもあります。つまり湿性が強く、滲出液が外にあふれ、それが熱によって乾き、表皮に乾燥状を呈するという病態を本質的な適応とします。この状態を基本においた上で以下のような加減をおこないます。

●化膿性炎症を伴う場合
消風散は膿疱を強く生じ浸出液が黄色となるような化膿性炎症に対しては、単独ではあまり対応できません。黄連解毒湯などの清熱解毒薬を合わせる必要があります。膿痂疹(のうかしん:感染によって表皮内で化膿を起こしたもの)などがこれに当たります。それでもダメなら荊防敗毒散などの敗毒剤に変方します。

●炎症が甚だしい場合
炎症が甚だしく、発赤・熱感が強くて局所の充血によって患部が濃い赤色を呈する場合は、黄連解毒湯などの黄連剤を合わせます。
また炎症が甚だしく、そのために患部の浮腫が激しく湿潤が強いというような「滲出性炎症傾向」が強い場合には利湿を強めます。越婢加朮湯を合わせることが多いと思います。ただしそれでも炎症が治まらないという場合に越婢加朮湯を増量するべきではありません。「風湿」は炎症が甚だしければ「湿熱」に移行します。「湿熱」の解除には「温病」の手法を用いる必要があります。「温病」では強力な湿熱に対して、麻黄のような熱を助長させる発陽薬は決して用いません。越婢加朮湯を増量すると麻黄の分量が増え、炎症を悪化させる恐れがあります。
また炎症が激しく浮腫や湿潤が強く、さらに皮膚面の「乾燥状」が強い場合には石膏を増量します。この時、痂皮が厚く落屑が多く、見た目の乾燥状が甚だしい場合であっても、四物湯などの滋潤薬を配合することは多くの場合で誤りです。滋潤を行うと滲出傾向が悪化することもあります。熱のために乾燥しているのであって、陰血が不足しているために乾燥しているのではありません。したがって必要なのは滋潤ではなく清熱です。石膏を重く用います。昔は今よりも栄養状態が悪く、普段から皮膚乾燥している方が多くいました。消風散は清熱の過剰による凝血を予防する意味で当帰や地黄などの滋潤薬を配合していたのです。
消風散は「風湿」といって、湿潤型つまり滲出性炎症傾向の皮膚病に用いる方剤です。炎症が強まると湿潤や痂皮落屑などの乾燥状が強くります。これは「風湿」から熱が高まって「湿熱」へと移行したことによります。したがって麻黄剤を増量すると炎症を悪化させる場合があるし、滋潤薬を増量すると湿を悪化させることがあります。消風散の加減・合方をもって対応しきれない場合は、「湿熱」の方剤を用いるべきです。「温病」の理論を知っておく必要があります。

荊防敗毒散(万病回春)十味敗毒湯(外科正宗)

湿疹に対する方剤としては消風散より有名かもしれません。特に十味敗毒湯は保険薬としても皮膚疾患に頻用される処方です。ただし十味敗毒湯のみで改善する湿疹はかなりの軽症に属します。皮膚病に対してちゃんと効かせるには分量・合方を的確に調節し、かつその適応病態を正確に把握しておかなければなりません。
荊防敗毒散は本来「癰疽(ようそ)」の治療剤です。「癰疽」とはオデキ(皮膚膿瘍)のことを指します。つまり細菌による皮膚感染による化膿性炎症を治療することを主とするわけです。十味敗毒湯は後の時代になって荊防敗毒散をよりシンプルな形へと変化させた方剤です。したがってその適応病態はほとんど同一と考えて良いと思います。
皮膚の化膿は表皮・真皮問わず起り、表在性毛包炎・深在性毛包炎・癤(せつ)・瘍(よう)と深まるにつれて化膿傾向も強くなります。浅い場合は化膿をほとんど現わさない場合もあります。病巣の浅い深いを問わず、どちらにしてもこれらの処方が適応します。患部の炎症が広がる前に病巣を消散させる方剤です。
これらの処方は皮膚の消炎作用を持った薬物で構成されていますので、化膿を伴わない湿疹・皮膚炎にも用いることができます。ただしこれらを湿疹に応用する場合、滲出液の多少を見極める必要があります。荊防敗毒散や十味敗毒湯には利湿の薬能があまりありません。(※独活・羌活は利湿というより止痛の意味が強い)したがって滲出性炎症傾向の強い湿疹にはあまり効果を発揮しません。膿とは隆起した水の粘稠度が高まり、濃い液体となって凝縮したものであると考えます。したがってもともと利湿の薬能はそれほど必要としない上で立方されているのです。丘疹が広がらずに小さく、水疱よりも膿疱を形成しやすく、ぽつぽつとした発疹を生じる皮膚炎に適応する方剤です。滲出性傾向の少ない湿疹、そういう意味では乾燥性の湿疹に応用されるわけです。

●炎症が強い場合
紅班の赤味・充血の程度が強い場合は黄連解毒湯を合方します。荊防敗毒散や十味敗毒湯は清熱作用が弱く、したがって多くの場合で清熱を強めなければ効きません。

注)各種炎症と適応薬物
炎症は始め血管が充血して紅班を生じ、炎症が強まると血管が拡張することで熱感や発赤が強まります。このような血管拡張性の充血によって炎症が強まる場合には、黄連解毒湯が用いられます。
また炎症によって血管透過性が高まり血管の中から液体成分が浸出すると患部に浮腫を起こします。これを滲出性炎症といい、こういう時には石膏を使います。この時炎症が強いと浮腫の上の皮膚は熱に焼かれてカサカサとした乾燥状を呈します。石膏は滲出性炎症を鎮めるとともに、表皮の乾燥状を潤す薬物でもあります。したがって湿疹にて炎症が強く乾燥性の痂皮・落屑を伴う場合には石膏を重く用います。
更に血管内から染み出す液体成分に白血球が混ざってくると化膿性の炎症になります。こうなったら清熱解毒の薬能が必要で、金銀花や連翹などが使われます。黄連解毒湯の「毒」は膿のことを指します。したがって黄連解毒湯は充血性炎症のみならず、化膿性炎症にも用いられる方剤です。
日光皮膚炎や火傷(やけど)のような充血性・浮腫性の皮膚炎であれば黄連解毒湯加石膏(または合越婢加朮湯)が適応しますし、膿疱を生じる化膿性炎症にて充血・表皮の乾燥状が強い場合には、荊防敗毒散や十味敗毒湯に黄連解毒湯加石膏を組み合わせるわけです。また石膏は炎症によって凝結した膿を軟化させる薬能もあるため、硬い充実した膿に対しても用います。反対に柔らかく、すぐに自潰するような膿に対しては薏苡仁を用います。

注)「発表(はっぴょう)」について
消風散と荊防敗毒散はどちらにしても「発表剤」に属しています。「発表」とは人体が皮膚表面から病毒を外に出そうとしている勢いを利用して、それをスムーズに促すことで病巣の早期終息を促す治療方法を指します。したがって湿疹の中でも皮膚面が勢い良く変化しているような状態に適合します。湿疹が長引いたり、自然治癒力が弱い方では、外に病毒を出そうとする勢いが減弱して、皮膚面があまり変化しなくなってきます。「発表」はあくまで人体の病治反応に同調することで薬能を発揮しますので、そのような場合では「発表」はあまり効きません。湿疹の標治法には発表の他にも「清法」や「下法」・「和法」などがあり、状況に応じてこれらの手法を選択していく必要があります。

2、本治法

皮膚病の原因は常に外的な側面と内的な側面との両者によって成り立っています。内的な側面がそれほど強くない場合には、標治をもって対応することで症状は治まり、またそれを継続することによって皮膚病が起こりにくい状態へと向かうこともあります。しかし内的な側面が強く関与している場合には、標治の後に本治を行う必要があります。また内的側面の関与が甚だしい場合には、いくら標治を行っても皮膚の炎症が治まらず、むしろ本治を行うことで初めて皮膚症状が改善することがあります。つまり本治の手法を理解しておくことは、皮膚症状の再発を防ぐだけでなく、皮膚症状そのものを改善する時にも必要になります。

本治は身体の内的状態を是正する治療です。すなわち東洋医学的に内面におこる多くの病態が関与してくる可能性があります。ただし臨床的には2つの病態に帰結してくる傾向があります。中医学でいうところの「陰虚」と呼ばれる病態を持つ方、そして「脾胃(消化吸収機能)」の失調を持つ方です。

陰虚

食欲が旺盛で胃腸にも問題ないが、食べてもなかなか太らない。痩せて肌が浅黒く乾燥しやすい。風邪をひくと扁桃腺が腫れやすく、蓄膿症や中耳炎を起こしやすい。こういった方は中医学的にいう「陰虚」の体質に属します。東洋医学では人間は火と水とで構成されていると考えます。このうち水が不足し相対的に火が強まり、身体に炎症(特に化膿性炎症)が生じやすい状態を呈したものを中医学では「陰虚」と呼びます。

●陰虚に対する本治剤
この陰虚の傾向がある方は、皮膚に炎症を起こしやすい体質を持っています。したがって本治としてこれを是正していくと、皮膚病を起こしにくい状態へと向かっていきます。
多くの適応方剤がありますが、日本では一貫堂という流派が好んで用いていた荊芥連翹湯という処方が良く使われます。陰血を補う四物湯と熱を去る黄連解毒湯とを合わせた温清飲という処方がもとになった処方です。ただし黄連解毒湯は強い清熱剤で、熱を奪うと同時に陰血も消耗させます。したがってより陰虚傾向がより強い者は六味地黄丸や百合固金湯・養陰清肺湯といった補陰薬を使う必要があります。
近年、明らかな陰虚体質者は減ってきました。昔は衛生環境が今より悪く、栄養状態も今ほど良くなかったため、陰を消耗させる機会が多く、補う量が少なかったためだと思います。したがって時代の移り変わりとともに、このあたりの処方運用も再考されなければいけません。現代ではむしろ次にのべる脾胃の失調に帰結していく方を散見します。
ちなみに、人は体質によらずとも年齢とともに「陰」を不足させていきます。若い頃に比べれば、誰でも肌の潤いがなくなり乾燥しやすくなります。そういった皮膚乾燥のために皮膚炎を生じた場合には当帰飲子という方剤が良く使われます。老人性皮膚掻痒症(皮脂欠乏性湿疹・乾皮症)にしばしば著効します。ただし当帰飲子はあくまで乾燥のために痒いという方に用いる方剤で、炎症にて熱が強く起こっているケースでは効きません。中医学では「陰虚」には必ず熱が伴うとされています。したがって当帰飲子の適応病態は「陰虚」ではなく「血虚生風」といって区別されています。

脾胃の失調

東洋医学では古くから皮膚と脾胃(消化器)とが密接に関係していると考えられてきました。小腸部における腸内細菌叢は免疫系に深く関与しています。また消化器は飲食物を自分の体にとって害のない形に変化させる(代謝)という重要な役割を持っています。消化器の機能が失調すると身体の免疫系が乱れ、さらに代謝が失調すれば、好ましくない物質が身体に入り込んできます。こういった影響が皮膚を病へと向かわせるわけです。
臨床的にも胃腸の機能を正すと皮膚症状が改善するということがしばしば見られます。消風散や荊防敗毒散でいくら標治を行っても改善しない皮膚の炎症が、胃腸の薬で治るということもあります。皮膚病を治療する上での選択肢の一つとして、必ず持っておかなければならない手法だと思います。補中益気湯や六君子湯、小建中湯などがその代表方剤です。

●脾胃の虚に対しる本治剤
補中益気湯は体力を回復させる補剤として有名で、免疫力を高めるという意味で頻用されます。補中の「中」とは胃腸のことを指し、胃気を益(ま)すことで気力を下から上へ引き上げるというのが本来の目的です。「衛気(えき)」といって皮膚に張り巡らされた防衛機能を高める薬能から、皮膚疾患にも応用されます。山本巌先生はアトピー性皮膚炎に頻用していたようです。
六君子湯は補中益気湯に似た生薬構成を持ち、脾胃の虚に用いる代表方剤です。六君子湯にて胃部不快感が消え食欲が増し元気が出てくると、繰り返していた湿疹が起こらなくなるというような改善の仕方をします。補中益気湯は疲労倦怠感を主としますが、六君子湯は食欲不振のある方やもとより少食で胃もたれしやすいというような方を主とします。
小建中湯は中医学的には「中焦虚寒(ちゅうしょうきょかん)」「脾虚肝乗(ひきょかんじょう)」と呼ばれる腹の冷えや消化管の自律神経の乱れに用いられる処方です。胃腸を温め緊張を去り、血行を促すことで消化管機能を是正します。この処方が適応する方は、皮膚が乾燥しやすい傾向があります。また皮膚が敏感で、湿疹や蕁麻疹などが体調の波によって出たり治まったりするという傾向もあります。この方剤によって胃腸機能が安定すると、全身状態もまた安定し、皮膚病が改善しやすくなります。この処方の本質は「血痺虚労(けっぴきょろう)」という病態に属します。この病の流れに則しているかどうかが重要で、本治といって無鉄砲に服用すると悪化させることがあるため注意が必要です。
これらの処方には清熱薬が配合されていません。したがって炎症がひどいような時にこれらの処方を使用すると、炎症がむしろ悪化することがあります。一方で炎症が酷い状態であっても、これらの処方でないと収まらない皮膚炎というのも実際にあります。経験の豊富な専門家に弁別してもらう必要があります。
この他にも、多くの胃腸薬が皮膚疾患の本治として使用されます。柴胡桂枝湯や大柴胡湯、半夏瀉心湯や参苓白朮散など、脾胃がどのように失調しているかを正確に見極めた上で薬方を選択し本治を行います。湿疹治療の標治と本治とを述べてきましたが、これらは皮膚病全般につながることでもあります。漢方薬を服用する際は、今自分がどのような治療をしているのかをしっかりと把握することが大切だと思います。

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